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過去から未来に繋ぐために

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3章 サートゥルヌス重力源生命体


 時間乱動現象は、時間と空間を狂わす。
 消えては生まれる虹色の泡は、契約者たちを惑わせた。サイクラノーシュに接近したはずが、いつの間にかサイクラノーシュとは離れた場所に『遡行』していたり、ブラックナイトを破壊したと思ったらすぐさまブラックナイトが復活したりと、滅茶苦茶な時空が展開されていた。
「これでは接近できない……!」
 サートゥルヌス重力源生命体と接触・対話すべくサイクラノーシュに接近していた者たちも、移動が困難な状況に陥っていた。サイクラノーシュに取り付いたと思った瞬間、時間が逆転し、『元いた位置(=ガーディアンヴァルキリー内部)』に戻されてしまうのだ。
 混沌と化した戦場では、サイズの小ささが有利に働いた。【SSサイズ猫耳イコン】を着用する佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)はサイズSSという身軽さを活かして数多の虹色の泡をかいくぐり、サイクラノーシュに接近した。
「直接お話するのは初めましてですね。私は、佐々布牡丹と言います」
 サイクラノーシュの足下に接近し、サートゥルヌス重力源生命体に語りかけた牡丹の意識が過去に引き戻された。


■再現された過去■


 ――【蠱毒計画〜プロジェクト・アローン〜】の思い出が蘇った。
 EJ社・内部。警備室に迫り来る部隊を仲間と共に撃退した牡丹が呟く。
「正直……既に改造された子供へ血清を与えても、効果があるのでしょうか」
 既に事態は自分たちの手を離れ、手遅れになっているのではないだろうか。不安を覚える牡丹を、仲間が励ました。
「大丈夫ですぅ。子供たちは、きっと治りますぅ!」
 自信満々に言うパートナーを見て、牡丹も僅かな希望を信じてみようと思った。
 牡丹はもう一人の仲間に近づき、言った。
「あの……。それ、私に任せてもらえないでしょうか」
 警備室のコンピュータをもの凄い勢いで解析するその人物は、牡丹に解読を託した。
「そうね。やってもらおうかしら」
 ――そして、牡丹は厳重に保護されていたファイルの解読に成功した。


■現在■


 技術屋としての血が騒いだ【蠱毒計画】。あの事件から……どれほど自分は成長しただろうか。
 牡丹はSSサイズ猫耳イコン越しにサイクラノーシュを見上げ、はっきりとした声で告げた。
「率直に言わせて頂きますが、私はあなた達『重力源生命体』とはどの様な存在なのか、とても興味が湧いています。ですので、もしあなた方が良ければ、私達と共に暮らしていきませんか?」
 反応は無い。上空ではイコンや空賊団らがブラックナイトと戦闘を繰り広げている。サイクラノーシュ自体も牡丹に興味を示しておらず、放置を決めていた。
「私たちは確かに機甲石を持っていないので機甲虫(サイクラノーシュ)と比べたら見劣りしてしまうかもしれませんが、機晶姫に取り付くことができるのならば、同じ機晶石を動力源にしていて、エネルギー量は機晶姫の何倍もあるイコンにも取り付く事は可能なのではないでしょうか?
 少しずつでもお互いの事を知り、理解し合って良い関係での共存生活を私たちを一緒に築いていけないでしょうか?
 そして、可能ならばサイクラノーシュさんを止める手助けをしては頂けないでしょうか?」
 誰も応える者がいない中、牡丹は必死に自分の考えを告げる。
「私の考え違いかもしれませんが、サイクラノーシュさんは人に対してわずかな希望をまだ持っているんだと思うんです。
 本当に人に対して絶望しているのなら、各都市を狙い撃つより、抵抗勢力である私たちを真っ先に滅ぼした方が効率は良いはず、でもそれをしなかったのは、無意識なのかもしれませんが、どこかに『自分を止めて欲しい』と言う感情があるのかもしれません……。
 人として、生き物として、サイクラノーシュさんとちゃんと向かい合ってお話をする為に、どうかお願いします!」
 牡丹の精一杯の呼びかけに応じるかのように、サイクラノーシュを構成する装甲の隙間から黒いエネルギーが漏れ出した。
 宇宙の暗黒を思わせる漆黒のエネルギーは全長2メートルほどの【翼持つ蛇】として形を成し、牡丹に語りかける。
『……君の話は理解できた。だが、私はまだ帰還する訳にはいかない……』