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【2024初夏】声を聞かせて

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【2024初夏】声を聞かせて
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12.初めての結婚スピーチ

ダイソウ トウ(だいそう・とう)〜!」

 ある日ある時ある場所で。
 ダイソウトのところに、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が右手をふりふり走ってきた。

「美羽ではないか。どうしたのだ」

 ダイソウを探して方々走り回ったのだろう、美羽はようやく見つけた彼の前で両手を膝に息を整える。
 美羽はダイソウを見上げて少しだけ文句をつけるように言った。

「やっと見つけたよー。こんなとこで何してるの」
「うむ。ぶらぶらしていた」
「ええー! そんなヒマあるならニルヴァーナでちゃんと戦いなさいよ」
「来月には戻れるはずだ」

 美羽はそんなことより、ときりりと表情を引き締めてダイソウを見る。

「ダイソウトウ、実はですね。大事なお話があるのですっ」

 美羽らしからぬ畏まった言葉づかい。
 ボケではなく本当に大事な話なのだろうと、さすがのダイソウも気づいて彼女の話を促した。
 美羽は敬礼でもしそうな勢いで、

「実はですね……蒼空学園のアイドル美羽ちゃんこと、小鳥遊美羽、この度! け……けっ……けっ……」

 美羽はきりっと引き締めた眉と口元を最終的にはデレッデレに緩ませ、

「結婚することになりましたぁ〜〜。えへへへへへへへへへへへ……」

 と今にもよだれが出そうになりながら、どうにか結婚報告をダイソウに言い切った。
 そんな美羽の顔に、さすがのダイソウも無表情のまま半歩後ずさりし、

「そうか、美羽もいよいよ結婚か。めでたいではないか」
「うんうん、ありがとう! それでね」

 と、美羽は何故かスカートの中から綺麗な封書の束を出してダイソウに差し出した。

「これっ! 結婚式の招待状。ダークサイズのみんなのぶん!」

 なんと美羽は、自分の結婚式にダークサイズ幹部を招待したいというのだ。
 想像するだに式場でダークサイズは浮くのではないかと思うが、そんなことはお構いなし。

「新郎はコハクなの! 彼もダークサイズにお世話になってるし、みんなに来てほしいなぁって」
「ほう、そうなのか。では出席せぬわけにはいくまい」
「ほんと? ありがとう! でね、ダイソウトウにはもう一つお願いがあって」
「ふむ、ご祝儀は10万円くらい用意するぞ」
「違うよ! 新婦がご祝儀の催促っておかしいでしょ! 具体的な金額言わないでよ! あ、あのね……」

 美羽は気恥ずかしさがあるのか、ダイソウに耳打ち。

「なに、私に結婚式のスピーチを?」
「う、うん……だめ、かな……?」

 美羽は両手を前で絡ませてもじもじしている。
 しかしそこはスピーチ好きのダイソウである。二つ返事で、

「よかろう」
「やったあー!」
「しかし美羽よ」
「なに?」
「私は数々の演説をしてきたが、結婚式のスピーチはしたことがない」
「え、そうなんだ? いがーい。じゃあ練習しなきゃだね」
「うむ。なので、これから私がスピーチをする。お前はそれを聞いて修正箇所を指摘するのだ」
「何で私が聞かなきゃいけないのー!?」
「それが新婦の勤めであろう」
「そんな勤めなんかないよ! 本番で感動できないじゃん!」

 などとやりあうものの、結局美羽はダイソウのスピーチの練習に付き合わされる羽目になってしまった。
 美羽はげんなりしながらベンチに座り、

「じゃあ原稿できたら教えて」
「できた」
「早―!」

 ダイソウは美羽の前に立ち、咳払いを一つし、原稿を読み始める。

「『本日は、仏滅ということでお日柄もよく』」
「待ったー!」

 いきなり美羽がストップをかける。

「お日柄がいいのは大安でしょ! 私仏滅に結婚しないよ」
「そうか。『大安の善き日。コハク・ソーロッドくん、小鳥遊美羽さん、結婚おめでとうございます』」
「ダイソウトウにくんとかさんで呼ばれるのはむず痒いね。敬語だし」

 と言う美羽もちょっと嬉しそうな顔をしている。
 ダイソウは頷き、

「祝いの席だからちゃんとせねばと思ってな。『堅苦しいのは抜きにして、いつものように呼ぶがよいかな』」
「うんうん、その方がダイソウトウらしいね」
「『コハク、そしてお米太郎』」
「待ったあー!」

 美羽が立ち上がって、どこから取り出したのかハリセンでダイソウの頭をはたく。

「呼んだことないでしょ! お米太郎なんて! お米太郎って何!?」
「お米のように小粒の人と言う意味だ」
「そんな風に思われてたのがショックだよ! やめてよ」
「そうか。『私が新郎新婦に出会ったのは、今日が初めてではありません』」
「そりゃそうだよ。友人代表なんだから」
「『はじめは、私とお前たちは、敵同士だったね』」
「あーうん、まぁ今も敵といえば敵だけど」
「『それからいろいろあって、共に戦い続ける中、倒れた私にそっと手を差し伸べてくれたこと』」
「そんなこともあったかなー。えへへ」
「『私がトイレで紙がないことに気付いたとき、そっと手を差し伸べてくれたこと』」
「待てー! トイレで手を差し伸べるって、私の手で拭いたってこと!? そんなエピソードないよ!」
「『これから二人は、人生のパン工場として、手に手を取り合って暮らしてゆくでしょう』」
「パートナー! パしか合ってない! わざと間違えてるでしょ」
「『そこで作った米粉パンは、お米太郎と名付けるでしょう』」
「お米太郎そこで出てくるの!? 子供にお米太郎なんて名付けないよ」
「『結婚は一切の文化の始まりであり、頂上でもある。これはゲーテの言葉です』」
「わ、そういうのステキ♪」
「『結婚とは、配偶関係の締結である。これは、ウィキペディアの言葉です』」
「それつまり辞書に書いてる言葉でしょ!」
「『私は、ダークサイズの大総統、ダイソウトウです』」
「遅いよ! 自己紹介は最初にして!」
「『最後になりましたが、コハク、美羽、お米太郎』」
「お米太郎はいないってば!」
「『お前たちが幸せな、なんかそういう、いい感じのアレになれることを、あのう、うん、そういう感じです』」
「何で最後の締めがあやふやなのよ! いい加減にしろ!」
『どうもありがとうございました』

 そう言って、美羽が手の甲でダイソウの肩を叩き、二人そろっておじぎをした。
 ダイソウは顔を上げて美羽に原稿を見せ、

「というコントを考えてみたぞ」
「頼んだのはコントじゃなあーーーーーーいっ!!」

 美羽がダイソウに力いっぱいドロップキックを放ち、その盛大なツッコミでダイソウは空の向こうへ消えていったのであった。




担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございました!
こちらのシナリオの、13、14ページは大熊 誠一郎GMが担当しております。

皆様の初夏の一時の姿を、ほのぼの楽しませていただきました。ありがとうございます。
ボイスシナリオの方も同時に公開されております。
是非そちらも聞いてくださいませ!