リアクション
■ 聖像工学会夏季レポート ■
イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は、コンピュータ内のデータを整理していて、ふと見つけたファイルに手を止めた。
「コルニクス……」
イーリャは、イコン第三世代機開発チームの一員として、その研究に力を注いだが、第三世代機の開発が本格化する以前に、構想として存在していた機体があった。
『ストーク』採用の結果、それは設計図の中で終わった、いわば概念機であるが、本格的に開発されていれば、主力のイコンとなったに違いない、と、イーリャは思っている。
「BMインターフェース負担の軽減を念頭に設計したんだっけ……。
結局、第三世代機には、ツインリアクター案が通っちゃったけど」
久しぶりに、機体名『コルニクス』の設計図を開いて見ながら、イーリャは開発当時の記憶を辿った。
イコンとパイロットを同調させるBMインターフェースは、当時、まだ扱いの難しいシステムだった。
それまでにも、『フィーニクス』を超能力者用に改良する計画を手がけたイーリャは、更にそれを進化させて新型の機体を設計したのだ。
『ストーク』の前に出したこのプランは、しかし最終的に破算になった。
無論、それはそれで、イーリャは、案が通った第三世代機『ストーク』の開発にも携わっているが、やはりこの機体にも愛着があり、名残惜しい。
「ああ、一度だけ、動いたことがあったっけ……夢の中で、だけど」
その夢の中で、カラスの名を持つ黒い機体、コルニクスは、チートな能力を満載した化け物のようなイコンになっていた。
一体、誰の希望が反映されて、あんなことになったのやら、と、イーリャは肩を竦めて、ファイルを閉じる。
「おやすみ。
いつか……チャンスが来たら、作ってみせるわ」
自分の手で、イコンを作り出す。
その夢を諦めず、いつか実現させる日の為に、イーリャは今日も研鑽する。