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バカが並んでやってきた

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第16章


 レン・オズワルドとブレイズ・ブラスが融合した黒と紅のヒーローが宙を舞う。
 その中で、ブレイズはレンの魂に刻まれた過去を垣間見ていた。

 レン・オズワルドはかつて刑事であった。

 パラミタと地球が交流をもってまだ間もない頃。地球の一部ではパラミタ排斥運動が起こされていた。
 今でこそパラミタと地球は比較的自由に移動できるが、当時はパラミタの出現は地球に大きな混乱をもたらしたのである。

 その混乱の中、レンはある事件を手がける。

 一部の地球人が暴走し、パラミタとの交流を推進する一派を襲撃する。それと同時にパラミタに親地球派であったパラミタ人を殺害しようとしたのである。
 その事件を止めるためレンは犯人グループと交戦する。

 その主犯格の男はレンの親友であり、同僚の刑事であった。
 法を守るべき刑事とてひとりの人間、様々な主義主張はあって当然。しかし、その表現を犯罪行為で行うことは許されることではない。

 結果として、パラミタ人とパラミタとの交流を望むグループを守るため、レンは親友を射殺してしまう。
 望んだ結果ではない。しかし、レンにもまた市民と法を守るという主義がある。

 それは時として『正義』という名で語られるだろうが、その正義は長い間、彼を苦しめ続けることになる。


『……そんなことが』

 融合した二人の精神は混ざり合い、深く交われば交わるほど、隠したい過去もさらけ出すことになってしまう。

『――ああ。俺はそのあと刑事を辞め、パラミタに渡った』

 その後、しばらくは荒れていたレンだが、いくつかの冒険や事件を通じて知り合った仲間や、助けていくことになる人々との交流でまた少しずつ自分を取り戻していった。

『いいかブレイズ。闘いとは、拳をただ叩きつけることではない。
 強さとは、負けないことばかりではない。
 勝利とは――敵を倒すことではないんだ』
『――分ったっすよ先輩!!
 俺は正義とか悪にはもうこだわらねぇ――ただ、守らなければいけないものを守る!!
 もう、迷いはねぇ!!』

 その返事を満足気に受け止めたレンは、ブレイズを促した。
 巨大な冬将軍に向けて、身体のサイズは小さいひとりのヒーローは、しかし果敢に戦いを挑む。

『行くぞブレイズ――人々を守り、そして救う。その為の戦いをする。
 そうして一人でも救えるならば、俺は……俺達は何度でも戦える!!』


                    ☆


「ほう……そんなことが」
 巨大な姿になった冬将軍――極大冬将軍をやや遠くから見上げて、フューチャーXは呟いた。

「ええ、レンとブレイズが融合した今、レンの過去――その迷いや決断。そしてそれらを乗り越えた強さを、感じ取れていることでしょう」
 レンのパートナー、アリス・ハーディング(ありす・はーでぃんぐ)は語りかけた。
 灼熱夏将軍との戦いの最中、ふたつの『覇邪の紋章』を融合させたフューチャーXだが、その力を持って自らも参戦しようとした時、現れたアリスに止められたのである。
「やれやれ……儂はよっぽど無茶すると思われているのかね――わざわざビビィの無事を伝えつつ、儂を止めに来るとは」

 フューチャーXはため息をついた。
 正直、久しぶりに現れた敵との戦いに楽しみを感じ始めていただけに、落胆は大きい。

「……年甲斐のない無茶も、年寄りの冷や水というもの」
 冷ややかなアリスの声に、フューチャーXもまた冷静さを取り戻していた。
「まぁ、しょうがねぇか。儂やこの紋章に何かあったら、この街で起こっている『融合』の現象に影響がでるかも知れねぇからな」

「――そういうこと。しばし観戦……皆の戦いを見守るとしましょう」

 そのアリスの呟きに、フューチャーXは応じる。

「ああ……そうさせてもらうか……こりゃ、本気で引退考えなきゃならねぇかもな」
 という苦笑いと共に。


                    ☆


『たあぁっ!!』

 フェイミィ・オルトリンデと融合したリネン・ロスヴァイセは灼熱夏将軍との戦いを続けていた。
 一時的にセラフィックフォースの力を得たリネンは、敵の炎をもものともせずに剣を振るう。

 そこに、新たに参戦した二人がいた。
 相田 なぶら(あいだ・なぶら)木之本 瑠璃(きのもと・るり)である。

 強大な敵の出現に、瑠璃は不謹慎ながらも興奮を隠し切れない。

「なぶら殿!! なんだか吾輩ワクワクしてしまっているのだ!! あの熱い炎!! これは熱いバトルが出来そうなのだぞ!!」
 放っておくと一瞬で敵に突撃してしまいそうな瑠璃を抑えて、なぶらは呟く。
「ああ、そりゃあ熱いよ。だってあれ炎の塊じゃないか。さて、ああなると直接攻撃も効果が薄いだろうし……どうするか」

 何らかの作戦を練ろうとするなぶらに、瑠璃は瞳を輝かせて語った。

「何を言っているのだ、そんな小細工は無用なのだ――あれを見るのだ!!」
 瑠璃が指差した先には、融合して灼熱夏将軍と戦うリネンの姿がある。
「あれは……セラフィックフォース……? いやちょっと違うか、でもどうやって発動してるんだ?」
 なぶらの疑問に、瑠璃が素早く応えた。

「よく見るのだなぶら殿、さっき二人の姿がひとつになるのが見えた……きっとあれは二人の正義に燃える心が共鳴してひとつになった姿なのだ!!
 そのついでに本来は発揮できない超すごい力が発動しているに違いないのだ!!」
「……何その超理論」
 軽い眩暈を覚えるなぶらだが、この場においては瑠璃が正しい。もちろん、フューチャーXの持つ『覇邪の紋章』の影響で『融合』という現象が起こっていることは知らない瑠璃だが、その直観力で自体を把握してしまったのだろう。

「さあ!!」
 とすれば彼女が次にとるべき行動は決まっていた。
「……え?」
 まだ事態を把握できていないなぶらは、瑠璃に差し出された手をぽかんと眺める。
「何をしているのだ、我らも行くのだ!!
 今こそ! 熱く燃える正義の心が!! 我らを導いてくれるのだ!!!」
 瑠璃の瞳に熱く燃え盛る炎がきっちりと宿ってしまっている。もはやこうなってしまうと聞く耳など持たないことを、なぶらは熟知していた。
「いやその……もう理屈でどうこうじゃないのも分るけど……もうちょっと落ち着いて……」

 と、その瑠璃の手に触れた瞬間。

『――え?』
 二人は融合していた。
『やったのだ、やはり我輩となぶら殿はベストパートナーなのだ!』
 唖然とするなぶらに、歓喜する瑠璃。

『……本当に融合しちゃったよ、不思議なこともあるもんだ……まぁ、パワーアップしたみたいだし、別にいいか……』
 今ひとつ煮え切らないなぶらに対して、瑠璃のボルテージはとっくにメーターを振り切っている。
『行くぞなぶら殿!! 今こそ吾輩達の正義がひとつになって熱く燃え上がるのだぁっ!!』

 融合した二人は瑠璃の誘導によって、灼熱夏将軍とリネン達の戦いに割り込む形で参戦する。


『正義の超勇者――ルブラ誕生!!』


「――名前がダサいわねぇ」
 思いのほか冷静に、灼熱夏将軍は切り返した。
『うん、俺もいまひとつだと思うよ、瑠璃』
 なぶらも敵である灼熱夏将軍に同調した。
『むう……頭文字を取るのが伝統かと思ったのだが……するとナリ? それともナブリ?』

『どれも変ねぇ』
 頭を抱える瑠璃に、親切なリネンの合いの手が冴える。

『ええいっ、やっぱりルブラでいいのだ!!』
 開き直った瑠璃――もといルブラは灼熱夏将軍と対峙する。
 その中で、なぶらは瑠璃に助言した。

『いいか……どうも解せないことに、身体の主導権は瑠璃にあるようだ。状況は滅茶苦茶だが、戦いは真剣に行くぞ。
 せっかく俺達の能力を融合させることができたんだから、ここは丁寧に攻めていこう。
 俺の防御力なら多少の攻撃を受けても耐えられるし、瑠璃の速度があれば敵の攻撃に合わせて確実に攻撃を当てられる。
 しばらく俺の魔法攻撃で様子を見ながら、瑠璃の速度を活かしたカウンターが最良の策……』

 という作戦会議の間に、瑠璃は灼熱夏将軍に突撃していた。

『って、もう突っ込んでるしっ!!?』
『なぶら殿、まどろっこしいのだ!! せっかくなぶら殿の肉壁能力があって多少の攻撃も平気なら、ここはガンガン行こうぜなのだっ!!』
 作戦も何もなく突っ込んでいく瑠璃。
「ちっ、舐めんじゃないよっ!!」
 そこに、灼熱夏将軍の容赦ない攻撃が加えられた。無数の火炎弾が降り注ぎ、突進する瑠璃たちを襲う。

『――くっ!!』
 その火炎弾の中を突進する瑠璃。確かになぶらの能力で突進を続けることはできるが、ダメージがないわけではない。
 いくら融合により肉体能力の強化が得られたからといって、あまりにも無謀な戦い方であった。
『瑠璃!!』
 勢い任せな戦法を取る瑠璃を諌めようとするなぶら。しかし、融合した二人の中でなぶらに返した瑠璃の返答は、意外にも真剣なものだった。
『言いたいことは分るのだ、なぶら殿。しかし、あれを見るのだ』
『――あれは……』
 見ると、先に融合していたリネンとフェイミィの姿にい異変がある。
 発動したセラフィックフォースの効果が薄れているのだろう。6枚の翼の効果が薄れつつあるのが分った。
『時間がないのだ、なぶら殿。多少の傷を負ってでも、ここは勝負を仕掛ける時なのだっ!!』

『――分った』

 融合していなかったとしても、なぶらは瑠璃の言葉に頷いただろう。
 共に戦う仲間を守りたいと願う瑠璃の心はいつだって真っ直ぐで、その心に反する行動を取ったことは一度だってなかった。
 だからこそなぶらも、口では文句を言いながらもいつも瑠璃に付き合って来たのである。


『うわあああぁぁぁっ!!!』


 気合を入れて、瑠璃となぶらは灼熱夏将軍に向かって突進した。
「何ぃっ!?」
 その無謀とも言える突進に面食らいつつも迎撃の態勢を取る灼熱夏将軍。
 再び火炎弾の雨を降らせつつ、その合間を縫ってくる瑠璃を、強大な炎の剣で振り払おうとする。

 しかし。

『――させるもんですかっ!!』
 その攻撃は融合したリネンとフェイミィによって防がれた。
 瑠璃となぶらに気を取られた瞬間、必殺技『コークスクリュー・ピアース』を放ったのである。

「本当は二人で放つんだけど……あなたにはこれで充分ね。終わりよ!!」

 空中で回転しながら強烈な突進と共に手にした剣で敵を貫き通す必殺技に、炎の塊と化した灼熱夏将軍もさすがにひるんだ。

「ちいいいぃっっっ!!!」

 そして、融合した瑠璃となぶらにとって、リネンが作ってくれた一瞬の隙があれば充分だった。

『喰らえ、必殺の――』
 懐に入り込んだ瑠璃となぶらが叫ぶ。
『ルブラスペシャル!!』
『なぶら殿、それはダサいのだ――双龍咢!!!』

 灼熱夏将軍の炎に焼かれることも構わずに接近した瑠璃となぶらの両腕が、敵の中心――いうなれば『核』とも言うべき部分を捉えた。


「ぎゃあああぁぁぁっっっ!!!」


 右手から瑠璃の『自在』の闘気、左手からなぶらの『歴戦の魔術』を同時に放つ必殺拳が灼熱夏将軍の核を砕く。
「やった……のだ……」
 敵を倒したことで融合が解け、その場に立ち尽くす瑠璃となぶら。
「助かったよ、ありがとう」
 同様に融合が解けたリネンとフェイミィに礼を言うなぶら。
「いいえ……こちらこそ」
 長時間の戦いに疲労の色も濃いリネンだが、そう返した表情は明るい。
「やれやれ……辛うじて勝てたけど、もうこんな無茶は……」
 瑠璃に苦言を呈しようとしたなぶらだが、ススのついた顔に満面の笑みを浮かべる瑠璃を見ていたら、何も言えなくなってしまった。

「……本当に、やれやれだよ」


「やったのだ、なぶら殿!! 吾輩達の正義の必殺技で大勝利なのだぞっ!!!」