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黄金色の散歩道

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黄金色の散歩道
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平和の園〜鮮やかな秋の道〜

 そのレスト・フレグアムの館の敷地内に、ユリアナ・シャバノフの墓はある――。
 村に到着をしてすぐ、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、パートナーのヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)マユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)、それからマユの幼馴染のライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)を連れて、館を訪ねた。
「転ばないようにな」
 そして許可を得て、ユリアナの墓参りに向かったのだった。
「うん、気を付けるね」
「はい、気を付けます」
 小さなマユとライナを気にしながら、呼雪は皆を館の人に教えてもらったユリアナの墓へと連れて行く。
 彼女の墓は、ただ一つだけ、その場に在った。
 綺麗に掃除されていて、周りには色とりどりの花が咲いている。
 墓の近くで呼雪とヘルが立ち止まり、マユとライナに目を向けた。
 花束を持った2人がユリアナの墓へと近づく。
「こんにちは……ひさしぶり、です」
「こんにちは」
 マユとライナは花を手向けて、じっと墓を見つめる。
「ユリアナさんが、死んじゃったって聞いて……びっくりしました」
 少し前に呼雪から、ユリアナは大切な人の為に最後まで想いを貫いて戦ったと聞いていた。
 ユリアナの凛とした姿を思い浮かべ、マユの目に涙が浮かぶ。
「やっぱり、ユリアナさんは……強くて、すてきな人だったんだって思いました」
 彼女が亡くなった経緯について、詳しくは聞いていないけれど。
 戦いの中で、強く勇ましく果てたのだろうと、マユは感じ取っていた。
「ユリアナさんは、とっても強い気持ちを持ってるのがわかる目をしてました。
 ぼくも、自分の想いを貫ける人になりたいです」
 涙を落とすことなくそう言って、マユは墓に頭を下げて祈りをささげた。
 ライナも一緒に目を閉じて祈りをささげる。
(ユリアナの魂はここにはないけれど、想いはずっと残る)
 2人の後方で、呼雪は自分の胸に手を当てる。
(覚えている者がいる限り……)
 自分の胸に刻まれた傷跡。
 ここに、ユリアナの想いの欠片が残っている。
 ヘルも墓を見ながら、ユリアナを思い出す。
「ユリアナちゃん、どうしてるかな。
 もしかしたら、もう何処かに生まれ変わってるかも知れないね」
「そしたら、私たちの方が、おねーさん、おにーさんだね」
 ライナが言い、顔を上げたマユがうん、と頷く。

 墓参りを終えた後。
 集合時間までの間、4人は村を散策することにした。
「まえに遊んだ子たち、いるかな?」
「お花畑にいったら、だれかいるんじゃないかな」
 マユとライナが先を歩き、呼雪とヘルが並んで後に続いていた。
 以前訪れた時と、村は殆ど変らなかった。
 ただ、季節が違うため、咲いている花々や、木々の葉の色が違う。
 そう、村の色が鮮やかな秋の色に変わっていた。
「この村もすっかり秋の色だな……」
 黄金色の並木を見ながら、呼雪が呟いた。
「燃え盛るような季節を過ぎて実りを残し、後は枯れていく。
 ……なんだか自分と重なる」
「呼雪……どうしたの、急に」
 心配そうな目を、ヘルが呼雪に向けた。
「でも俺は……それでも満ち足りている」
 呼雪はヘルにごく軽い、微笑みを向けた。
 自らの願いは叶えられた。
 契約者達の悲しみを背負ったあの子を、救う事が出来た。
 ……と。
「ヘル、ありがとう。
 お前がいてくれたから、俺はそこまで辿り着けた。
 役割を全うする事が出来た」
「呼雪……」
 対照的に、ヘルは強い不安を感じて、真剣な顔で呼雪を見つめる。
「俺の役目は、終わった」
 呼雪はヘルを見ながら、少し前のことを思い浮かべる。
「光渦巻く世界で理解したんだ。
 俺はあの子に祈りを届ける為に、生まれてきたんだって」
 そう言う呼雪の表情は満ち足りていて……そして、儚げで消えてしまいそうにも見えた。
「ずっと、世界の悲しみや寂しさを感じながら生きてきた。
 何度も死んで、生まれ変わって、それでも魂に刻み込まれた一番大切なものを守りながら」
 ふっと息をついて、呼雪は景色へと視線を戻した。
「これから、世界の時間と俺の時間はもっとずれていくと思う。
 そこにお前を縛っておきたくない」
「なんでそんな事言うの? 嫌だよ、そんなの自由なんかじゃない。
 僕は僕の好きで呼雪の傍にいるんだから」
 途端、ヘルが呼雪の両手を、痛みを感じるほど強く握りしめた。
 2人は、互いの存在を強く感じあう。
 昔はお気に入りを失くしたって代わりを探せば良いと思っていた。
 でも……呼雪の代わりは何処にもいない。
「もし呼雪がずっと眠ったままになっちゃっても、一緒にいる。
 十年でも、百年でも、ずっとずっと……待つよ」
 ヘルの想いに、呼雪の心が言葉にはならない感情に包まれていく。
「幸せ者だな、俺は」
 そっと手を握り返すと、大切な人の顔に笑顔が浮かんだ。
「なら僕も嬉しい」

「……その前に、ガラス工房行ってみようか? 夜になるとしまっちゃうから」
 パンフレットを見ながら、マユがライナに言った。
「ガラス工房で何するの?」
「こうげいたいけんだって。押し花ガラス細工がお勧めだそうです。お土産にもいいかなぁ」
「うん、割れないように気を付けて持って帰ろうね!」
「……あれ?」
 ガラス工房に向かおうとしたマユは、呼雪達がいないことに気付いた。
「先に来すぎちゃったみたい……呼んでくるね」
 そして……。
「あっ」
 マユは手を取り合って、見つめ合っている2人の姿を見てしまった。
(ど、どうしよう……)
「……あっ」
 呼雪を引き寄せようとしていたヘルがマユの視線に気づいた。
「ごめーん、つい話しこんじゃって。今行くよー」
 そして、呼雪を気遣いながら、マユ達の方へ歩き出す。
「……こいびとさんなんだね!」
「えっ!」
 背後からのライナの言葉に、マユはびくっと震えた。
「良いふんいきのとこ、じゃましちゃったかな? 明日の自由時間は2人でどっかいこっかー」
「う、うん」
 ライナの言葉にどきどきマユは頷く。
「いいな、いいな、私も恋人ほしーなー」
「えっ。まだ早いよ……」
「そんなことないよ、私、来年中学生になるんだよ! カッコイイ彼氏つくって、ちゅーとかしてみたいなっ」
「そ、そっか……ライナちゃん、中学生になるんだね。で、でもちゅーとかって……」
 お休みのキスとかじゃないよねと思い、マユは赤くなった。
「マユちゃん、あとでこっそり練習してみよっか」
「え、ええーっ?」
 びっくりして、マユは思わず飛び退いた。
「どうしたの?」
 近づいてきたヘルが不思議そうに言った。
「ライナちゃん、そういうのはよくないよ、だめだよ」
「はあーい。ちょっと言ってみただけだよ。私マユちゃんのこと、好きだし」
「ん? 告白?」
 ヘルがライナに尋ねる。
「うん、大好きなの! シャンバラのお友だちも、ここの子たちも。
 連れてきてくれて、ありがとうございますっ!」
 ライナはヘルと呼雪に頭を下げたあと。
「それじゃ行こう、マユちゃん!」
「ラ、ライナちゃん……!」
 マユの手を引っ張ってガラス工房の方へ飛んでいく。
「……最近の女の子はませてるね」
 そんなヘルの言葉に、呼雪はくすっと笑みを漏らして。
 鮮やかな秋の道を、小さなハーフフェアリーの2人の背を見ながら、呼雪はヘルと再び歩き出す。