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そんな、一日。~九月某日~

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そんな、一日。~九月某日~
そんな、一日。~九月某日~ そんな、一日。~九月某日~

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6


 守ってもらいたくなんか、ない。
 守ってもらうばかりの人間じゃあなくて、隣に立てる人間になりたかったから。
「テディ! 後ろ任せた!」
 皆川 陽(みなかわ・よう)は、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)へと声を張り上げた。すぐにテディの「おう!」という声が返ってくる。
 テディが後ろで群がる雑魚たちを散らしている間に、陽は集中力を高めていった。魔力の流れが、わかる。見つけたそれを、取り込んで、練り込んで、手にした杖の先から焔の塊として迸らせた。 親玉らしき一番身体の大きな魔物を倒すと、後ろの方にいた魔物も蜘蛛の子を散らすように逃げていった。とはいえ、放っておいてまたこんな事になったら元も子もないので、きっちり見つけて潰さなければいけないけれど。
 ふう、と息を吐くと、肩をぽん、と叩かれた。
「お疲れっ」
 振り向くと、多少汗をかいたテディが明るい笑みを浮かべていた。何をまぁ、こんなに笑っているのかと、陽は言葉を返すのを忘れてテディをまじまじと見る。
「陽の魔法強いね! かっこいい! 僕、見惚れちゃった!」
「見惚れてただって?」
「うん!」
「戦闘中に余所見するとか、初心者じゃないんだから。やめてよね」
「……あ。ごめん」
「そんなことで怪我とかされたらたまったもんじゃないよ」
 つん、と言い放った言葉に、しょんぼりとしていたテディがぱっと顔を上げた。
「それって、心配したってこと?」
「…………」
 肯定するのはあまりにも恥ずかしかったので、無言で返した。否定はしてない。この事実だけで、テディは勝手に肯定と取るだろう。
 案の定、にこにこと笑顔でいるテディと共に、戦いの地を去る。
 あとはちょっとした戦いだけだ。今日の依頼も、問題なく終われるだろう。


 『魔物が出て困っている』、という今回の依頼を受けたのは、別段理由があってのことではなかった。
 当面暮らしていけるだけのお金はあったし、戦闘狂でもない。強いて言えば、誰かの役に立てればいいと思った。それだけだ。
 テディも誘ったら、来ると言うから一緒に来て。
 それで今回改めて思ったことは、やっぱりテディと陽の身体能力は全然違うということだ。
 陽が頑張ってやっと出来ることを、テディは事も無げにこなしてしまう。
 これを前は悔しいと思ったし、羨ましいとも妬ましいとも思った。でも今は違う。
 陽は、魔法を使う方が向いている。
 テディは、身体を動かす方が向いている。
 そんな風に、向き不向きだよね、と思えるようになった。お互いに持っていないものを持っていて、だから、お互い補い合うのが一番いいと。
 フォローが欲しい時には、先程のように素直に頼めるようにもなった。守る、と言われるのは嫌だったのに、こんなに簡単に頼めるのは不思議でもある。まあ、これも心境の変化なのだろう。あるいは、フォローが欲しいと思うまで何も言われないのがいいのかもしれない。なんだか、信頼して任せてもらえているようで。
 勿論、ただ一方的にフォローをされるだけではない。
 魔法しか効果のないような敵や、魔法でしか解除できない鍵や罠が出てきたときは陽が頑張る。
 どんな時でもサポートに回れるよう、攻撃魔法も回復魔法も頑張って覚えた。短い期間で系統の違う魔法を覚えるのは骨だったけれど、横で戦えるようになりたいと思ったら頑張ることができた。
 キミの役に立ちたいんだ。
 この言葉を、陽は、まだ言えていない。
 伝えないと伝わらない、というのはよくわかっているけれど、なんだか言うのが気恥ずかしくなってしまって。
 だけど、いつか、言えたらいいと、恥ずかしながら心から思う。
「……なあ」
「ん?」
 雑魚掃討に向かう途中、陽はテディに声をかけた。
「この仕事が終わって、うちに帰ったらさ。ボクの部屋で、ご飯でも食べていったら?」
「陽の部屋?」
 テディはきょとんと陽の言葉を繰り返し、それから「もしかして……」と呟いた。もしかして、の後に言葉は続かず、陽に言って欲しいかのようにわくわくとした目でこちらを見ている。
「……そーだよ、ボクの部屋ったら、あれだよ。あれ、あの部屋。前、入りたがってただろ」
 言うなりテディの顔はぱぁっと明るくなり、そのまま陽に抱きついてこんばかりだったので、陽はさっと一歩避けた。テディは気にする素振りもなく、
「本当に! いいの!?」
 と嬉しそうに陽に問う。
「言っとくけど、超散らかってるからね!」
「いいよ! なんなら僕片付け手伝うし!」
「死ぬほど散らかってるから手伝うにしても大変だよ!」
「大変ってことはそれだけ掃除に時間がかかるんだよね! なら陽と一緒にいられる時間が増えるね!」
「どういう前向き脳だよ!」
「それは陽が一番よく知ってるでしょ?」
「まあね……」
 何を言っても喜びそうなので、「びっくりしすぎて倒れても知らないからね」と言い捨てて終わりにした。これに対してもテディは、「倒れたら陽に看病してもらうんだ」と既に熱に浮かされたようなことを言っていたので聞き流す。
 落ち着かなくて視線をうろつかせると、茜色から群青色に変わり行く空が見えた。仕事を終えて帰る頃には、何時になることやら。
「ねえねえ、泊まってもいい?」
 同じようなことを考えていたのかあるいは煩悩からか、テディが言った。不思議なことに不快感は一切なく、考える前に陽は「いいけど」と答えていた。
「ボクの部屋、布団二つ置けないよ。一つ分しか場所ないんだから」
 何せ、足の踏み場がないのだ。もう一つ置く余裕なんてない。
 だからオマエが寝るスペースを作るためまずは片付けだぞ、と言おうとした瞬間、
「じゃあ一緒に寝よう!」
 と言われたので、不覚にもうろたえてしまった。
「ばっ……かじゃないの。狭いでしょ」
「陽となら狭くても平気!」
「ボクは嫌だよ!」
「嫌なの?」
「い、……もう、勝手にしろよ」
 言い切れなくて、顔をふいっと背けた。
 よくよく考えたら、夜遅くまで仕事を頑張って、帰ってきて、それから片付けなんて大変だ。
 だから今日はそのまま寝るだけだ。
 そう言い聞かせるように、陽は頭の中で呟いた。