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魂の研究者と幻惑の死神2~DRUG WARS~

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魂の研究者と幻惑の死神2~DRUG WARS~

リアクション

 
 エピローグ

「あれ、どうしたんですか? エリシアさん」
「特に用は無いのですけれど……ちょっと近くまで来たので寄ってみたのですわ。忙しそうですわね、陽菜」

 始めに到着したのは、タイムマシンに記録として残っていた――調査に赴いた時の未来世界だった。そこでは、設計図とレシピのコピー、薬のサンプルをスムーズに学者に渡す事が出来た。電話を掛け、あの時にアポを取った美咲の名前を出すと、学者はすぐに面会してくれたのだ。エリシアとも一度会っているだけに、話は通りやすかった。
 長寿種達の『処分』が中止されたその世界は、解決策がまだ不透明のままだからか以前来た時よりも暗く、ぎすぎすした感じがした。だが、通りには機晶姫達の姿も見え、安堵の空気が流れていたのも確かだった。
『ありがとう。この薬が広まれば、国も徐々に元に戻っていくだろう。後は私達に任せてくれ』
 学者は以前に会った時よりも疲れているようだった。自分達の説が間違っていた、と発表した以上、国民からの非難は相当なものだったのだろう。否――きっと彼は、現在進行形でその非難に晒されているのだ。
 しかし、この世界には妙な変化も起こっていた。少し調べた所、ドラゴンの数が以前よりも多くなっているのだ。ムッチーの襲撃事件が歴史から消えているわけではない。だが、確かに増えている。
 ――この時間軸は、私達の居た2024年とはもう繋がっていない筈ですけど……何か、影響し合っているのでしょうか?
 首を傾げながら、フィアレフトはそう言っていた。どんな小さな事にしろ、変化が出ているのは良いことなのだろう。それは、この時代のピノが気に病まなくていい世界になるという可能性を持っているのだから。
 そして、もしその『影響』が過去からだけでなく、平行世界の変化からも出てくるとしたら――希望は、更に大きくなる。
 次に移動したのは、『イディアとブリュケの住んでいた未来』だ。この世界では、誰も学者と面識が無い。エリシアは自分が得意としている根回しなどを使って学者と面会出来るように手配し、事情とここまでの経緯を説明して治療薬を渡した。学者は渋面をしていたが、『処分』が失敗に終わる事は薄々感じていたのだろう。長い交渉の末、彼も薬を受け取ってくれた。こちらでも実験を行い、効果があるようなら実用化させるということだった。効果があることは過去で確認済であり、この未来でも薬は少しずつ広がっていくだろうことは想像出来る。
 ――伝言を預かってるし、家にも行ってみたいし……一旦別行動にしよう。エリシアさんも、会いたい人がいるって言ってただろ?
 面会を終えた後、ブリュケの提案で一度別れ、エリシアはこうして陽菜に会いに来た。以前に様子を見た時と違う未来でも陽菜はやはりカゲノ鉄道会社で働いていた。外で作業をしている所を捕まえて、ありふれた、何でもない雑談をする。自分が過去から来たと伝える気は、エリシアには無かった。

「……という感じで、今日も走り回ってます。でも、毎日充実していて楽しいですよ」
「こんな世界でも、あなたは幸せそうですわね。前向きというか……」
「はい! 前向きなのが私の取柄ですからね!」
 そう言う陽菜の笑顔に曇りは無く、エリシアの顔にも自然と笑みが生まれる。彼女は何れ子供を持ち、きっとますます幸せになっていくのだろう。
 それを、信じることが出来たから。

              ⇔

「遊びに行くって言ってたね。過去に戻ったら、隼人さんに伝えに行かないと」
「そうだな。次は、その婚姻届か」
「うん、婚姻届……未来の優斗さんに渡してって」
 フィアレフトとブリュケは、未来の自分達の子供に伝言してくれ、と隼人に頼まれていた。伝言内容は「よければ遊びに来いよ」というもので、彼の父も早く孫の顔が見たいと言っていたから、なのだそうだ。
『タイムマシンで行き来ができるなら、そういうのもアリかなってことで宜しくな』
 と、隼人は言っていた。
 伝言を伝え、フィアレフトは彼の子供に『過去に行く時は自分の工房に来るように』とも言っておいた。工房には、彼女の作った時間軸を可視化する機械の予備が置いてある。それを使えば、無事に2024年に着けるだろう。
「あれ、2人共……過去から戻って来たんですか?」
 優斗を訪ねると、玄関に出てきた彼はまずそう言った。
「はい。それで、過去の優斗さんから預かってきたものがあるんです。これを、渡してくれって」
「これは……婚姻届? ! 僕の名前が書いてあるじゃないですか!」
「そうなんです。これを、未来で処分して欲しいそうです」
「処分? あー……」
 詳しい事を話す前に(といってもフィアレフトにもよく分かっていないのだが)、優斗は全てを理解したようだった。同情を禁じえない、という顔で婚姻届を受け取る。そこで、家の奥からテレサとミアがやってきた。
「優斗さん? あ、イディアさん達……。! その紙は!」
「優斗お兄ちゃん? あ、イディアちゃん達……。! その紙は!」
 テレサ達は優斗が持っている婚姻届を見た途端、目を三角にした。彼の前にはフィアレフトが。そしてその手には婚姻届。テレサ達が考えた事は、同じだった。
「優斗さん、イディアさんにプロポーズしたんですか!? 私達にはまだなのに……!」
「優斗お兄ちゃん、イディアちゃんにプロポーズしたの!? 僕達にはまだなのに……!」
「え!? ち、違いますよ!! これは、過去からイディアさんが持ってきたもので、決して僕が結婚を申し込んだとかそういうのでは……」
「申し込んだんですね!? 今、白状しましたね、優斗さん、ちょっとこっちに来てください!」
「申し込んだんだね!? お兄ちゃん、ちょっとこっちに来て!」
「え、あ、あの……う、うわあああああああー…………」
 テレサとミアに腕を掴まれた優斗は、家の奥へと引き摺られて行った。3人と入れ替わりに、2人の女性が玄関の方に出てくる。2人は優斗達を目を丸くして見てから、驚いているフィアレフトとイディアに声を掛けた。
「……優斗さん、どうしたんだろ……あ、イディア、帰ってきたのね」
「お帰りなさい、ブリュケ。何か手掛かりは掴めたの?」
「え……」
「な、なんで……」

              ◇◇◇◇◇◇

 時代変わって、2024年。
「フィーちゃん達はもう、未来に行った頃かしら」
「そうですね……何事も無ければ、着いていると思いますよ」
「何事も無ければって……それ何のフラグだよ……」
 ――場所は御神楽邸。陽太と環菜、ノーンと舞花の4人と、ファーシー達はお茶とお菓子を囲んでいた。アクアとラスの会話に、陽太はまあまあ、と笑顔で言い添える。
「大丈夫ですよ。何度も未来とここを行き来しているタイムマシンですから。良い知らせを持って戻ってきますよ」
「うん。薬、ちゃんと学者さんが受け取ってくれるといいね。それで、皆の病気も早く良くなって……たくさん子供が出来て、たくさん、笑顔が戻るといいな」
 そう言うピノには、あまり元気が無かった。未来に纏わる今回の事での色々が、実際に見た未来世界の光景や自分の行動、ブリュケに言われた事などがまだ心に残っているのだろう。それはもしかしたらいつまでも心に残るもので、完全に晴れる日は来ないのかもしれない。
「元気出して! ムッチーちゃんも悪いことしなくなったし、薬もちゃんと作れたし、未来も楽しい世界になるよ!」
 お菓子を食べながら、ノーンがいつもよりも力を込めてピノを励ます。それを聞いて、ピノは「そうだよね……」と呟いた。そしてもう一度、今度は明るく「そうだよね!」と皆に言う。舞花がそうですよ、と頷いた。
「だから、落ち着いて報告を待ちましょう。ですよね、環菜様」
「そうよ。私達だって薬作りに協力したんだから、うまくいってくれないと困るわ。だから心配することないわよ、ピノちゃん」
「薬を飲んだのは俺ですけど……あ、そういえば環菜、あの日は随分と挙動不審でしたよね。薬を飲んでないのに何かと戦っているような……」
 陽太の台詞に、環菜は「!」と背筋を伸ばした。彼女の反応に、何事かと集まった皆の視線が集まる。
「な、何でもないわよ。ただ私も、怠けたい時がないわけじゃないって……そういうことね」
 要領を得ない答えに、ファーシー達はそれぞれ意味が分からない、という顔をしている。焦りを覚えつつ、話題を変えようと環菜は言った。
「え、エリシアは陽菜に会いたいって行ってたわよね。会えたのかしら……」
 呼び鈴が鳴ったのは、その時だった。玄関に出た陽太は、3人の男女を連れて戻ってくる。
「環菜、未来での出来事をひとまず報告に来ましたわ」
「あ! ママ達もここに居たんですね。聞いてください! ピノさんも! 実は……」
「俺達、本当に俺達の世界に戻ったんだよな……?」
「何度も確認したんだから間違いないよ! あそこは、私達の時間軸だよ!」
 珍しく興奮した様子で、少女は青年に言葉を返す。そして、3人は未来で何があったのかの報告を始めた。




                                                『魂の研究者と幻惑の死神』――ALL END――

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

リアクションの公開が大変遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
こちらのリアクションで、「魂の研究者と幻惑の死神」は完結となります。全3回、皆様、お付き合い本当にありがとうございました。
タイトルの意味を今更説明いたしますと、「魂の研究者」はブリュケ、「幻惑の死神」はLINを現しています。ブリュケ君も本編では大して魂を研究していませんし、LINさんも旦那にしか幻惑していないのですが……一応、そういうことになっております。

私のリアクションは残り1本、四季の彩り・ファイナルとなります。こちら、年内公開を目指して執筆していきますので、申し訳ありませんがもう少々お待ちいただけますと幸いです。すみません……(あ、無茶だという声がどこかから聞こえる……頑張ります……)

裏話に関しては全てのリアクション公開後にマスターページで、
個別コメントに関しては、来年1月中に更新させていただきます。

それでは、改めましてこれまでご参加ありがとうございました!

※1/7 個別コメントを更新いたしました。