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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

リアクション

 
 
 イルミンスール大図書館。

 陣取った席の、椅子の両側に山のように本を積み上げて調べものをしていたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、ふう、と本から目を離して一息ついた。
「見つからないもんだね〜。それとも、ボクのレベルより深いところにあるのかなあ」
「少し休憩するか、それとも今日はもう休むか? ならば食事を作るが」
「うん……」
 パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)の言葉に生返事をしながら、カレンは本の山を見る。
「”ヴァルキリー”、”伝承”、”光”……うーん、キーワードが間違ってるのかなぁ」

「一体、そんなに深刻な顔をして何を調べておるのじゃ?」

 声を掛けられ、振り向いた2人は驚いて背筋を正した。そこにいたのはイルミンスール校長のパートナーで、幼い外見ながら齢5,000歳の大魔女、アーデルハイト・ワルプルギスがちょこんと立っている。
「アーデルハイト様っ?」
「たまたま昨日から見かけていてな。お前達、昨日もいたじゃろう。そんなに難しい調べものか?」
 アーデルハイトは、興味津々な様子で訊ねてきた。
「えっと、実はセレスタインてところから避難して来た子を保護しましてぇ、その子の持ってる光珠というのが気になって……」
「セレスタイン? それは地名のセレスタインか? 『隔たれし島』の?」
 首を傾げて訊ねたアーデルハイトに、
「えっ!?」
と2人は驚く。
「何か知ってるのっ!?」
「知っているというか、まあ……そうじゃな。その島はかつてシャンバラの一部だったらしいが、分かたれて島となったという話を子供の頃に聞いたことがある」
「聖地を大陸から切り離すような何があったのだ?」
「そんなこと、どの本にも全然載ってないんだもん〜」
 カレンががっくりと弱音を吐くと、
「書物には記されない歴史というのもあるからのう。私も詳しくは知らんが……聖地というのは何じゃ?」
「セレスタインは聖地ではないのか?」
 問われたことを意外に思ってジュレールが訊き返せば、少し考えて、アーデルハイトは成程なと呟いた。
「解り易く言ってしまえばそうじゃな。
生きている世界には、地脈というか、目に見えない力の流れというものがある。例えば人間の血液のようにじゃ。そして人間の体で言うツボのように、パワースポットが存在するんじゃよ。聖地、というよりは、力場、という表現の方がより近いじゃろうな。セレスタインは、その力場のひとつであったと聞いているぞ」
 さすが説教好きと言われるだけはあるのか、ウンチクを垂れる時のアーデルハイトは心なしか生き生きとしているように見える。
「力場……」
「小さな力場なら各地に点在していようが、”聖地”という別名まで付くほどのものはそうはあるまい。
 ……が、実はイルミンスールにもあるようじゃな」
「そうなんですか!?」
「場所までは知らんがのう。森の奥にひっそりと、ヴァルキリーの守りの一族の住む集落があるという、まあ伝説じゃな」




「――こんなところか」
 集まった情報を書きまとめ、クルードは、ペンを置くと内容を見直した。

 謎の4人組の内、『ツチ』と呼ばれる一人はヒラニプラ南部にいて聖地の魔境化をしようとしている。
 『ヒ』と呼ばれる少年は、イルミンスールに向かう予定。
 どうもあの4人は、分かれて行動しているらしいが、残り2人の行く先については不明。

 というのが、謎の4人組の動向について得た情報だった。
「正直、これだけか、という感じだが」
「仕方ないよ、結局あいつら来なかったから、直接会えなかったもんね」
 焔の不満に、アリシアが苦笑する。
「『ヒ』とやらがイルミンスールに向かうということは、あそこも聖地があるということか……。コハク、奴等について知っていることは他に何かないか?」
 コハクは困った顔をしたが、それでも懸命に思い出そうとする。殆どすぐに逃げ出してしまったとはいえ、彼等を見ているのは自分だけなのだ。
「あとの2人は、男の人と女の人で……男の方は、大きな剣を持ってた。女の方は、長い、鎌、を……」
「鎌?」
「柄がものすごく長くて、刃が、三日月みたいな形をしてた。……でも、どういう風に戦うのかは……」
「武器攻撃タイプではある、ということですね」
 恭司が頷く。
「……ちなみに、あんたはどうしたいんだ? コハク」
 静麻が訊ねた。
「えっ……」
「アズライアさんがどちらかにいればいいですけど、解らないですもんね」
 戸惑うコハクに、レイナが困ったように微笑む。
「どうやら、空京に居るのが一番安全らしいが」
「僕は…………」
 コハクの脳裏に、存在を最も強烈に憶えている、『ヒ』の姿が思い出される。彼を追いかけた先に、アズライアはいるだろうか。


「思うのだけど、その光珠、もっと見つからないようにできないのかしら。こう、服の内側とかに」
 そうすれば簡単に奪ったりできないでしょう? と言う、緋桜 翠葉(ひおう・すいは)に、ゆる族のパートナー、海凪 黒羽(うみなぎ・くろは)が、いや、と言った。
「俺みたいならまだしも、光珠は球体だし、コハクの体型で、服の内側、とか、逆に盛り上がってしまって目立つんじゃないですか?」
 それもそうね……と、考え込む。
「普通に腰に括り付けたらいいじゃない。しっかり結べば、結構奪ったりできないものだよ?」
 クロード・ライリッシュ(くろーど・らいりっしゅ)がのんびりした口調で言ってやると、
「そうそ、基本が大事」
と、戒羅樹 永久(かいらぎ・とわ)も、うんうんと頷く。それもそうね、と適当な布を用意して光珠を入れ、口を縛ってコハクの帯に、しっかりと結び付けた。
「それとこれ」
 翠葉は虹色のバンダナを取りだす。
「きれいでしょ。わたくし達もしてるのよ。これはね、仲間って印」
「仲間……」
「あなたもどう? コハク。あなたもわたくし達の仲間ですもの」
 ふふ、と笑いかけると、コハクは戸惑いつつも頷く。 翠葉はコハクの腕にバンダナを巻きつけた。
「うん、似合いますよ」
 黒崎 匡(くろさき・きょう)が頷く。
「これで、何処にいても、コハクさんは僕達の仲間です」 仲間、と、コハクは小声で呟いた。
「ところで」
 ひそ、と、匡のパートナーであるレイユウ・ガラント(れいゆう・がらんと)が、匡に耳打ちした。
「何か俺、コハクにスルーされてるというか無視されてるというか、そんな気がするんだけど気のせいか?」
「安心していいですよ」
 匡は、純白のドレスを纏った身長2メートルを越える大男に、清々しい笑みを見せる。
「彼はあなたに怯えているだけです」
「ああっやっぱり――!」