リアクション
○ ○ ○ ○ 建物の隙間から射し込む光が、オレンジ色に変わっていき。 人々が家路を急ぎ始める頃。 街を歩き回っていたロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)は、柱に寄りかかると深く息をついた。 毎日こうして街を歩き、探し回ってはいるけれど、それらしい人物はいまだ発見できていない。 「……わたくしの執念はまだまだ健在ですわよ!」 身体はくたくたに疲れ果てていても、その執念は変わらず。 ロザリィヌは1人、怪盗舞士を探し回り続けていた。 怪盗が写った動画も、声も何度も何度も繰り返し聞き、ロザリィヌの脳裏に鮮明に刻まれている。 「怪盗が白昼堂々覆面をつけて出歩いているとは思えませんし……でも、髪の色などを染めている可能性がありますのよね」 変えられないのは体格だろうか。 この時間、まだ薄着をしている人が多い。 飛びまわる怪盗の動き、長身でやや細めの体格。 何度も思い浮かべながら、ロザリィヌは道行く人々を見回して、それらしい人物を探す。 ロザリィヌも怪盗がただの盗人ではないと察している。 ただの万年筆など、怪盗が盗むはずはないから……。 「しかしながら! 例えどのような理由があろうとも……我が校の女の子の心を奪って不幸にさせるのは……わたくしの敵ですわ! 正義の義賊なんて語らせませんっ!」 そう意気込んで、再び歩きだそうと身を起こしたロザリィヌ、だが……。 目の前に在る、1つの姿に呆然として立ち尽くした。 「『美しき乙女の涙』、『悲恋の姫の淡夢』、『麗しき乙女』、『賢しき美女の導』、『激昂の戦姫』か……。何れも盗まれた物は大したものではないらしい」 笠岡 凛(かさおか・りん)からのメールを見て、桐生 円(きりゅう・まどか)が呟いた。 「言葉に意味があるのかしら〜」 お茶を飲みながら、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は微笑む。 ラリヴルトン家に集まり、レッザを交えた話し合いが頻繁に行なわれていた。 あと少し。 何かが分かりそうな、そんな感覚を誰もが覚えていた。 「美しい、悲恋、麗しい、賢い、激昂、そして嘆き……?」 アルメリア・ソプラゼ(あるめりあ・そぷらぜ)が書き記したノートの言葉を見ながら、ティアレア・アルトワーズ(てぃあれあ・あるとわーず)は考え込む。 「思い出して下さい」 橘 舞(たちばな・まい)は腕を組んで考え込む、レッザに純粋な目を向ける。 「美しき、悲恋の、麗しき、賢しき、激昂の――嘆き、の……」 ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)の呟きに、皆がハッと顔を上げた。 「まさか……っ」 真っ先にアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)が立ち上がり、部屋を飛び出していく。 集まっていた百合園生、そしてレッザもその後を追う――。 ○ ○ ○ ○ 「アルフレートさんが調べてくださったことの中で、気になる点が一点ございました」 集まった情報を纏めて、桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)は校長室を訪れ、ラズィーヤ・ヴァイシャリーに報告をしていく。 「シャンデリアの破壊や、侵入方法は全て怪盗の「風」を操る能力で行なわれたと思います。怪盗がラリヴルトン家の屋敷から脱出する際、『外に逃げたぞ、捕まえろ!』とどこからか声が発せられたそうなのですが、その声が発せられた時、まだ怪盗は屋敷内にいたものと思われます。声を発した人物だ誰であるかは判明しておりません」 「ご本人の声かもしれませんわね。その程度の能力、あってもおかしくなさそうですし」 「はい。団員のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)達の調査結果でも、同様のケースで怪盗の逃走を許した被害者もいるようです。何れも共犯者の影は感じられなかったようです」 鈴子が報告していく中、校長である静香はただおろおろ見守っているだけで、意見を述べられずにいた。 鈴子はアユナ・リルミナルのことについても、ラズィーヤと校長にのみ、報告をする。 「早河綾には団員が交代で付き添っています。近いうちに自宅に戻ることになりそうです」 「その件ですが」 ラズィーヤがティーカップをカタンと置く。 「執行部、副部長の神楽崎優子さんを、しばらく謹慎処分といたします」 「えっ!?」 驚いたのは静香であり、鈴子は動きを止めてただ静かにラズィーヤを真直ぐに見る。 「……形式的なものですわ。団員以外には修学旅行の下見に行っているとでもお伝えになってください。ただ、今回の作戦のことでお父様に少し怒られてしまいましたの」 ラズィーヤはいつものように、にっこりと笑みを浮かべた。 「対外的にそういうことにさせて下さいませ」 「はい……申し訳ありませんでした」 鈴子は目を伏せて、頭を下げた。 「あっ、秘密の場所載っちゃってる」 掲示板の前を通りかかった女の子達が騒ぎ出す。 「新しく出来たお店のレポートなんかも載ってるね。新聞部の記事じゃないようだし、誰が書いたんだろ?」 掲示板には、百合園の生徒の中で流行っている事柄や、話題の怪盗舞士についての噂、百合園の隠れスポット――警備が手薄な場所について、書かれた記事と絵が貼られていた。 時折少女達が立ち止まり、その記事を興味深く眺めていく――。 ……数日後。 記事を書いた人物、パラ実のカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)は、秋の連休に入ったため一旦自分の根城に戻っていた。 パラ実生が多く集まるその地で、カリンは気になる噂を耳にする。 「ハロウィンに百合園で集会だとよ」 「丁度いい、うちの学校ぶっこわれてるしな。攻め入って校舎1つもらっちまうおうぜ。礼拝堂がいいんじゃね?」 「ヒャッハー、そりゃいいぜ。てめぇらパラ実生に声かけとけよ!」 ―第ニ回 完― ●主な登場NPC 桜井 静香(さくらい・しずか) ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー) 桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ) 神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ) 早河 綾(はやかわ・あや) アユナ・リルミナル/妄想少女 レイル・ヴァイシャリー/ラズィーヤの実弟 レッザ・ラリヴルトン/ラリヴルトン家長男 怪盗舞士グライエール(かいとうまいしぐらいえーる) 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
ご参加ありがとうございました。 |
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