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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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龍とウナギ


 荒野のあるところに、旅人の休憩所としての小屋があった。もともとは休憩所だが、今はパラ実生の溜まり場であるが。
 そこに今、ミツエ一行が逗留していた。
 部屋の真ん中のテーブルを占領する六人組。隅っこでは縄で縛られ、猿轡を噛まされたパラ実生が三人、柱に括りつけられている。
 ライトブレードの手入れをしながら伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)がぼやく。
「この俺が1万Gぽっちかよ。ちっと少ねぇんじゃねぇの?」
「まあまあ、私など1Gも懸けられておらんぞ」
 ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)の慰めも効果はない。
 隅っこのパラ実生が「もがーっ、ふがーっ」と何か訴えているが、二人とも無視した。
「ところでお縁さん。離れにお風呂がありましたよ。旅の垢を落としてはどうです? それくらいの時間はありますよ」
 胸のあたりの詰め物の具合を確かめていた支倉 遥(はせくら・はるか)が、荷袋の中身を整理していたこげ茶色の髪の女に何かを期待するように声をかけた。
 お縁さんと呼ばれた彼女は、袋をあさる手を止めると「む」と小さく声を上げて遥を見やる。
「助さんに格さんにミツ右衛門、そしてお縁……この配役、入浴シーンじゃな?」
「ふふふ。あ、どうですか? この胸の具合は。実際より少し増量してみました。やはり追いかけるほうもDとかEのサイズの人のほうが楽しいかと思いまして。どうです、格さん」
「……私にその辺の意見を求められても」
「じゃあ俺が確かめて」
「わーい、お風呂〜♪ みんなで行こー!」
 ミツ右衛門こと遥の胸パットに手を伸ばす助さんこと正宗を突き飛ばし、サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)がお縁こと御厨 縁(みくりや・えにし)の手を引いた。
 ちなみにサラスはうっかりのポジションだ。
 賑やかな一行に風車のポジションであるシャチ・エクス・マシーナ(しゃち・えくすましーな)が柱のほうに目を向けて言った。
「あの人達、あのままでいいの? 偽物め縄をほどけって、さっきからうるさいんだけど」
 猿轡のせいでそうは聞こえないが、彼らの言いたいことなど容易に想像がつく。
 遥はにっこりして言った。
「そのうち仲間が来るでしょうから、放っておけばいいのですよ鯱。……ちょっ、サラス、ここで脱ぐんじゃありません!」
 脱衣所は離れの風呂場にありますから、と遥が叫ぶも時遅し。
 うっかりサラス、いやサラスはすがすがしいほどに上着を脱ぎ捨て、魅力的な体をさらした。
 水戸●門においてお色気担当はくの一である。それをうっかり担当が奪ってしまったのだ。これはうっかりではすまない。
「は、遥のためならと覚悟を決めたというに……」
 お縁が泣き崩れた時、ドアがバーンと開かれた。
「ミツエがいるってのはここかァ!」
「賞金だァ! ヒャッハー!」
 賞金稼ぎが数人乗り込んできた。
 が、ドアに一番近いところにいたのはうっかりサラスだった。
 賞金稼ぎ達の頭から大金は消え、サラスの豊満な胸に支配されてしまった。
「サラス、丸見えよ!」
 一瞬後に風車の鯱が脱ぎ捨てられた上着をサラスへ放り、鼻の下を伸ばしている賞金稼ぎ達へは風車のついた手裏剣を飛ばした。
 それで我に返ったのか、彼らは殺気立った目つきでミツ右衛門一行を見回した。
 そしてその目はミツエになりすました遥──ミツ右衛門に留まる。
「お前がミツエか……情報通りだぜ。ちょっとおっぱいがでかいが、まあそれもお楽しみってやつだな」
 欲に目の眩んだ男が下品に笑う。
 と、そこにミツ右衛門を下卑た視線から隠すように格さんが立ちふさがった。
 そして高らかに言う。
「無礼者! この伝国璽が目に入らぬか!」
 ズバーン、と伝国璽のレプリカを見せ付ける格さん。装飾は龍ではなくウナギだが、そこは気迫で何とかなるだろうと、とにかく睨みつけた。
 後ろで助さんが「俺の出番は!?」と騒いでいるが無視だ。
 格さんは今度はミツ衛門が賞金稼ぎからよく見える位置に移動して続ける。
「こちらのお方をどなたと心得る! 恐れ多くも乙王朝の開祖、横山ミツエ陛下にあらせられるぞ! 頭が高い、控えおろう!」
 助さんのセリフまで奪ってしまう始末だったが、もはや誰も気にしていない。
 椅子の上に立ち、ふんぞり返って見下ろしているミツ右衛門をただ見上げるだけだった。
 勢いに飲まれたのか、慌てて平伏する賞金稼ぎ達。
「お前達がカネに目が眩み、乱暴を働くのは世が乱れているからだということ、よくわかっています。これ以上堕ちたくなければ、乙王朝の再興に力を貸しなさい。必ず報いましょう」
 報いるのは本物のミツエだが、そんなことは知ったことではないとばかりに宣言するミツ右衛門。
 謎の威光に賞金稼ぎ達はすっかり毒気を抜かれてしまっていた。
「わかりました。心を入れ替えて王朝に尽くします。……おい、イリヤ分校へ急ぐぞ!」
 バタバタと出て行く彼らを、ミツ右衛門は高笑いしながら見送ったのだった。
 ちなみに柱に括りつけられている三人はというと、こちらもこちらで恐れおののいていた。
 こうして『ツァンダの【さすらい同人誌バイヤー】ミツ右衛門』一行の旅は続く……。

 こんな感じで始まった世直しのようなそうでもないような旅だが、確かに賞金稼ぎは減り、ミツエの情報が混乱するという効果をもたらしたのだった。

卍卍卍


「おい、お前! その携帯ストラップ、ちょっと見せてみろ」
「あっ。何すんのよ!」
「いいから見せろっ」
「触んなボケ!」
「ギャッ。機関銃はやめろー!」

 こんなやり取りがあちこちの検問所で繰り広げられていた。
 というのも、どこで生産されたのか伝国璽のレプリカが大量にばらまかれたからだ。中には龍の代わりにウナギが細工されているものもある。
 ミツエを捕まえるのに躍起になっている賞金稼ぎには迷惑極まりないことだった。
 情報では、ほてやみつえが横山ミツエではないかということだが、怪しいと睨んだ一行は本当にほてやみつえとそのファンのツアーだったようで、こちらもまた紛らわしい。
 それにミツ右衛門みたいなのもいるのだ。
 そのミツ右衛門もイリヤ分校を目指しているらしく、一行を追う賞金稼ぎもいる。もっとも、Dカップのミツエやら長身で肌の色や髪の色が違うミツエやら身長はそれっぽいが髪が短いミツエやら、変装のつもりなのか何なのかわからない一行なのだが、怪しいことには変わりない。

「似たようなことを考える人がいましたか。それは好都合ですね。ミツ右衛門殿という方も……」
 ミツエの情報が混乱するのは諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)にとっては狙った通りのことだった。さらに謎のミツ右衛門が加わることで、ますます情報が交錯していく。
 ミツエの身も守られるだろう、と諸葛亮はわずかに目を細める。
 突然、彼の思考を破る声が響いた。
「……やっぱり優斗さんは、私達に内緒でミツエさんに会おうとしてるんじゃ……!」
 もう何度も聞いたテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)のセリフに、諸葛亮はそっとため息をつく。
 下手に突付いて攻撃の矛先を向けられたくはないので、何も言わない。
「浮気をする時の男の人って、後ろめたくて周りの視線を気にするっていうから……優斗お兄ちゃんも僕達の追跡を警戒してるのかもしれない……。でも、それよりも」
「ええ、優斗さんが危ない目にあっていないか心配でなりません」
「テレサお姉ちゃん、絶対に見つけようねっ」
「はい。優斗さんもミツエさんも見つけて、そして……優斗さんに私達を置いていった理由を聞きましょう」
 ふだんは優斗をめぐるライバルのような関係のテレサとミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)だが、今日は結託していた。それだけ優斗が心配なのだろう。
 彼が発見された時は大変だろうと思い、それでもとばっちりは避けたいので中立を貫くつもりでいる諸葛亮だった。