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リアクション
第2章 繋がる思い
「私、影龍と触れたい……会って、ちゃんと話したい」
「危険すぎます! 闇の深さに受け手が耐えられなければ何が起こるのかは判らないのですよ」
闇の中、きっぱりと言い切った芦原 郁乃(あはら・いくの)は、パートナーである秋月 桃花(あきづき・とうか)に即座に反対された。
いつもは何だかんだ言っても同意してくれる桃花。
だがそんな桃花がこんなに強固に反対するのは……郁乃を心配しているからに他ならない。
それが分かって、それでも郁乃は引く事が出来なかった。
「わかった。みんなは待ってて、わた……」
言いつつ、身を翻そうとしたその肩に手がおかれた。
「焦りは何も生まないぜ 白のキャプテン」
振り向くと、先日対戦した赤チームのゴールキーパーがいた。
「風森巽さん……でしたっけ?」
朧な記憶を手繰ると、その人物……風森 巽(かぜもり・たつみ)はコクリと頷いた。
「放して下さい、わたしはどうしても影龍と話がしたいのです」
「焦るな! 先ずは、この闇を祓ってからだ」
巽は郁乃の肩をポンと叩き手を放した。
「少し待ってな 道を作ってやるからさ」
そう、言い残して。
「何としても闇を祓う……影龍を救う為にも」
「肩に力入り過ぎだって。別にいつもとかわんねぇだろ?」
気負う巽に向けられたフゥ・バイェン(ふぅ・ばいぇん)の声は、対照的に気楽だった。
「やる事が決まってんだ。後はさっさと行動しちまえばいい話じゃねぇか? どこを探しゃいいかわかんねぇ、迷子のペット探しの方が面倒くせぇよ」
世界の危機に際してあまりに不謹慎とも思える言い草に、巽の肩から余分な力が抜けた。
「ほれ、いつも通りにマスク被って、ちゃっちゃっと解決してきな」
投げ渡されたマスクを受け取った巽は、闇の中、その瞳にいつもの光を取り戻していた。
「バーカ、全然怖くなんてないっての! このオレが闇にビビるわけが無いだろ!」
渋井 誠治(しぶい・せいじ)が言った直後、闇がうぞぞぞと蠢き。
「ヒイイイッ……!?」
誠治の口から悲鳴が上がった。
「……誠治」
「ち、違う、今のはアレだ、馬の鳴き真似をしただけだ! ホントだよ!」
ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)はそっと溜め息をもらした。
誠治の本心……本当は闇が怖くてたまらない事など、お見通しだった。
と同時に分かる。
それでも、誠治が決して悲観したり絶望したりしていない事。
それは多分、一人じゃないから。
「来週彼女とデートの約束してんだ! こんなところでくたばるわけにはいかねぇんだよ!」
ありふれた、しかし掛け替えのない日常に思いを馳せる。
蒼空学園に入学して友達が沢山出来て、笑い合ったり馬鹿やって遊んだり時には喧嘩したり、そんな有り触れた日々は何て……幸せなのだろう。
「そういう気持ちは確かに大事かもしれないな」
伝える為にも……もらす橘 恭司(たちばな・きょうじ)に、誠治は「だろう?!」と意気込んだ。
「購買で焼きそばパンを巡って争ってさ、学校帰りに立ち寄るラーメン屋もすごく美味いんだぜ」
「分かります。私にとってもパラミタでの日々は掛け替えのないものですから」
誠治の周囲に漂い始める、淡い光。
本郷 翔(ほんごう・かける)は目を細めつつ、会話に加わった。
「私は、父祖から続く執事となるにも、この大陸で実力を持った方の執事になりたいと思って、この大陸にきました」
とはいえ実際には、権力を持った者よりも危なっかしい者を補佐してあげる方が性に合うような気がしているのだが。
「でも、それを実現するためには、闇を打ち祓い世界を救わなければだめなんです。闇の力を弱めるべく頑張りましょう」
「ま、俺も、一応光の天使だし、助力はするよ」
同意するのは翔のパートナーであるソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)だった。
軽い口調だが、眼差しはさすがに真剣だ。
「思いは皆、同じだな……では、やろう」
恭司にそして、皆それぞれ頷いた。
今を、未来を、守る為に。
「こんなことをやっても意味がないかもしれませんけど……」
柔らかく微笑みながら翔が用意したのは、常備しているティーセットだった。
光術で光を照らしつつ、ティータイムでお茶を出す……闇に向けて。
「執事としての私にとっては、こういった接待が一番ですから」
この大陸に来てから、翔は色々な人物に会った。
その出会いの中で学んだ事がある。
それは、礼儀作法を尽くせば、妥協しないまでも、表情を和らげるなどして貰える、という事だ。
「翔が闇を礼儀で迎えるなら、俺は誘惑で迎えようか」
翔らしいな、と口元を緩め、ソールは深い闇へとその手を差し伸べた。
「俺と良い世界に行かないか? 至高の快楽を味あわせてやるぜ」
闇が闇のままでいなくてもいいように……光へと安息へと、翔の元へとエスコートするように。
「たいしたものだな」
それを見、恭司は呆れ半分、感心半分でもらした。
この大地で得た事を、自分のスタイルを貫こうとする姿は清々しい。
そしてそれが的外れでない証拠に……闇の動きが、止まっていた。
貪欲に全てを呑みこんでいた闇が、戸惑い震えるように。
「よし、ここは一気に畳み掛けないとな……といっても、俺もそう大した事が出来るわけじゃないけどな」
自分の膝が微かに震えている事、誠治は気付いていて。
だけど、逃げ出したくなる気が起こらないのはきっと、一人じゃないから。
翔や恭司、聞こえた彼方や白花の声。
そして、ヒルデガルト。
「それとヒルデ……こんな頼りない自分と契約してくれて、いつも助けてくれて、ありがとな」
常に一緒にいて、本当の姉のようなヒルデガルト。
改めて感謝を口にするのは少しだけ、照れくさくて。
それでも今、この時に言っておきたかった一言だった。
「顔、緩んでるわよ。気を抜き過ぎないでね」
ヒルデガルトは誠治に迫ろうとした闇へと一発撃ち込んでから、気付かれないようにそっと、忍び笑いをもらした。
思い出す、誠治と契約してからの日々。
ツァンダの街の片隅に埋もれていた自分を起こしてくれた事。
自分の知らない世界を……学園での平和な日々を、教えてくれた事。
「本当は……本当に、感謝しているのよ」
若さと情熱にあふれた誠治、その身体を取り巻くキラキラした光に目を細め、ヒルデガルトは胸中でだけそっと、呟いた。
「状況はイマイチ分からないけど……」
闇に閉ざされた空間を見回し、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は小首を傾げた。
サラリ、と揺れた金色の髪が頬を掠める。
その感覚……自分が感じる、という事実。
そして、何より感じるのだ、直ぐ近くに。
「あ〜、えっと何ですっけ? 心に光を、っスか?」
「何はともあれ、基本は平静を保つ事だな」
アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)とキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)、パートナー達の存在を。
「あら?、一人足りない?」
「……んなわけないだろ、バカ女」
舌打ちしつつ答えるは、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)。
アストライトは、かつて兵器として生み出された。
故に壊したいという気持ちは内側にある、それはどうしようもなく。
その衝動は周囲の闇に煽られ、今にも外側へと溢れだしそうで。
(「でも、わりィな。こんな俺でも、壊したくないモンが出来ちまったんだ」)
だから、耐える。
その一線を越えはしないと。
聞こえた彼方の『声』。
同じクイーンヴァンガードの仲間も頑張って戦っている。
自分も負けるわけにはいかないのだ。
「……元気そうで何よりだわ」
苦笑を浮かべ……そんな自分に今度こそ純粋な笑みを浮かべてから、リカインは皆を、皆がいると思われる空間を見回した。
「正直、光をもって闇を祓うってピンと来ないけど……私達は私達のやり方で、闇を打ち払いましょうか」
「って、具体的には?」
「皆で組手……相手を変えながらのね」
「それってつまり、師匠や先パイ達の胸を借りられるって事で……賛成、賛成、大賛成っス!」
「ま、バカ女らしくていいんじゃね? で、そっちは?」
「……こちらも大丈夫だ」
向けられ、キューは頭を振った。
記憶から零れおちた、過去。
かつて力を求めるあまり暴走した事があるキューは、無意識ながら慎重になっていた。
もう二度と闇に、破壊衝動に呑まれまいと、己を律して。
けれど、伝わってくるリカインの思いと、単純に喜んでいるらしきアレックスの気持ちに。
キューは心を決めた。
「じゃあ、いくわね」
声と共にリカインは無造作とも思える所作でもって拳を突き出した。
キューに受け止められ、少し距離を取る。
打ちこまれた荒いけど元気いっぱいなアレックスの攻撃を受け、同時に踏み込み仕掛ける。
位置を相手を変えながらの、攻防。
互いが見えないのに、どこか舞踏を舞っているかのようにピタリとハマる不思議な感覚。
見えないからこそ、研ぎ澄まされていく感覚の中。
リカインは思う。
「私がなりたい、もの」
光でも闇でもない、聖でも邪でもない、正義でも悪でもない……そんな『もの』。
それはとてつもなく漫然であるもの。
けれどリカインはそうでありたいと、そんなものになりたいと、願うから。
「影龍、あなたの衝動だって私は否定しない。それが重すぎるなら、私達の拳と思いで昇華してあげるわ」
打ち合わせた拳とが火花を散らし……仄かな光を放った。
「この学園はいくつかあるうちの拠点の一つに過ぎない。ここがなくなったとしても世界中にまだ研究史料のバックアップもある」
イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)はうそぶき、だが、と不敵に笑んだ。
「ここにいる人々が一人でも欠けるというのは、とても許せたものではない」
「私はイーオンに従います」
「同感だがな。ふむ、私は離れていた方がよさそうだな」
パートナーであるセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)もフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)も、そんなイーオンを咎める事はない。
「……では、行こう。俺達は俺達なりのやり方で」
これまでのパラミタでの思い出、知り合った数多くの友人、パートナー達との平穏な日々。
噛みしめるよう、思い返すそれら。
イーオンの胸に湧き上がるのは、正しき怒りだった。
「散れ……!」
その思いに突き動かされるように、イーオンは闇を討った。
「……」
セルウィーはイーオンの指示に従いながら、どこか不思議な感慨を覚えていた。
自分に正のエネルギーが生み出せるのか、正直懐疑的ではある。
だが、イーオンと過ごした日々を思うと、こうしてイーオンの近くにいると、感じる温かな気持ち。
確かに感じる、それら。
その温かさを胸に、セルウィーは闇を払った。
「私は闇と関わりが深いのでな」
フィーネはそんなイーオン達と距離を取りながらも、見守っていた。
「闇全てが悪いわけではないが……確かに暴走しておるようだな」
こちらはこちらで、闇を鎮めようと尽力しながら。
「けりが付くってときに居合わせられたのは幸運ね。ハッピーエンドにしてから帰るとしましょうか」
アリシア・ミスティフォッグ(ありしあ・みすてぃふぉっぐ)は、「とは言っても、私ができることなんてあんまりないのよねぇ……」などと呟きながら、周囲の闇を睥睨した。
「私に出来ることなんて、ほんの少し。ほんの少し、闇を払う手伝いをすることだけ。影龍のココロを救うのも、影龍を浄化するのも、それに相応しい連中がやるでしょ」
後はそいつらに任せておけばいい、そう思う。
だからアリシアがやるのは、闇を払う事。
「私は、闇に飲まれるなんて御免なの。まだ魔術を極めてないし美味しい物も食べ足りないし行きたいところもたくさんあるし……」
そう……足りないと、まだまだ足りないと素直に思う。
思って、口を開く。
「だから、私は私の望みとして言うわ。……お呼びでない闇は散りて消えなさい」
力ある言葉。
アリシアの言葉に、周囲の闇が四散する。
「……それに、パラミタでの暮しは楽しいから。騒がしいけど、あんた達といると安心するしねぇ」
それをさしたる感慨もなく見つめてから、アリシアは振り返った。
「そうでしょ、律、クルーエル、ネフラ」
小鳥遊 律(たかなし・りつ)・クルーエル・ウォルシンガム(くるーえる・うぉるしんがむ)・ネクロノミコン 断章の詠(ねくろのみこん・ふらぐめんと)、闇の中に浮かび上がる、パートナー達の姿を認め、アリシアは笑った。
闇に咲く大輪の花を思わせる、華やかな笑顔。
「私は結構、この世界が気に入ってるわ。滅んでしまったら勿体無いわ」
「律はアリシア様のお傍に居るのが望みです」
律はいつものように淡々と……でありながらどこか高揚しているように、誇らしげに見える。
「自分はお館様に仕える事に不満は無いでありますよ」
「ワタシが選んだマスターだ。不満があるはずないだろう? 剣バカがたまに五月蝿いが、問題ないさ」
「だから誰が剣バカっすか!?」
クルーエルとネクロノミコンのやり取りは、こんな時でさえ笑いを誘う。
或いは、こんな時だからこそ、余計に。
確信し、アリシアの笑みは深くなる。
「魔書の力は役に立ちそうに無いがね。ワタシの心はこの闇に抗おう」
そんなアリシアに気付き、ネクロノミコンはツンと澄まして。
「それじゃ、元気良く行くでありますよ〜!」
クルーエルはあくまで元気よく。
「参りましょう、アリシア様。何処までも」
そして、律はその口調にいつもより僅かに熱を帯びさせて。
主人のゴーサインを待つ。
「さ、ダンスパーティの始まりよ。周りの紳士淑女の皆様も一曲どうかしら? Light my fire【ハートに火をつけて】、ね」
アリシアは軽やかにステップを踏むように、闇へと踏み出す。
頼もしいパートナー達と共に。
闇を払う、その為だけに。
「ははっ、みんな逞しいよな」
それらに、その言葉に行動達に、誠治の口から思わず笑い声がもれた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
きっと……いや、絶対に!
その思いのままに、誠治は声を上げる。
「全て終わったら、皆でラーメン食べに行こうぜ!」
「あら、それって奢りかしら?」
「そうね……それなら考えてあげてもいいわね」
アリシアのリカインの。
「この時期だとあれだな、塩とかつけ麺とか……カワイイ店員さんがいてくれれば尚良し!」
「ラーメンですと、サッパリしたお茶が合いますね」
ソールと、ソールをポカリとてやった翔の。
あちこちから答えがあった。
繋がっている……みんな。
「羨ましいなら寄って来ればいい」
それを見やり、恭司は漆黒の虚空、その向こうへと声を投げた。
「一緒になってバカやりたいなら、声を掛けようとすればいい。ここに居る連中は幸い、そういった人を見捨てないし手を伸ばせば必ず誰かが掴んでくれる……故に、絶望するのは早すぎるとは思わんかね?」
影龍は未だ闇に沈んだままだ。
「では祓うとしよう、このひたすら面倒臭く鬱陶しい闇を」
だが、恭司は感じていた。
アリシアの陣の巽の皆の力。
深く落とされた闇のベールが、徐々に取り払われているのを。
そして。
「蒼い空からやって来て、心の希望(ひかり)を護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
巽……否!、仮面ツァンダーソークー1が舞い降りる。
「光は闇の左手、闇は光の右手……二つは一つ……さながらあわせし双手の如く」
ツァンダーソークー1は憎しみや怒り、負の感情を否定はしない。
「だけど、繋いだ絆が、果せなかった約束が、誰かの笑顔が、悩み苦しみ手にした結果が、ソレを乗り越える力になると信じている!」
全身全霊を込めて、力を集め高める。
「影龍! 貴公の闇は貴公が祓え! 貴公の願いは貴公が叶えろ! 我らが出来るのはその手助けだけだ!」
作るべきは、道。
影龍の心に蒼空を取り戻す為、夜を切り拓く流星の如く、この想いを届ける為の。
「この学び舎に集いし者の心の輝きはこんな闇に飲み込まれやしない……」
打ち合わせた拳に宿る力……光。
「蒼い空へとやって来て……」
脳裏に浮かぶ、たくさんの顔。
「愛する者を護る者……」
りっかや陸斗の。
「過去から目を逸らぬ者……」
夜魅や白花の。
「花を愛する心優しき心強き者……」
雛子の。
「明日へと想いを繋ぐ者! 仮面ツァンダーソークー1!」
皆の思いを胸に、ツァンダーソークー1は拳を打ち出し。
「雲間から光が差すように、明日を信じるこの想いよ、祈りよ、願いよ……届け、光条の如く!」
眩い光が、ほとばしった。
「最初はホントに、只の成り行きで契約して、パラミタへ立ったんだよな」
同じタイミング。
シニカルに笑んだ七枷 陣(ななかせ・じん)は、アリシアやイーオンや翔達、それにリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)と仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)とジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)……パートナー達の顔を順に見やった。
未だ、闇は色濃く、影龍も世界も覆い隠してしまっている、けれど。
それでも陣には皆の顔がハッキリと見えた。
「面倒臭いと思った事なんて、数えるだけでキリが無かったよな」
だがしかし、依頼をこなす内に友達が1人増え、2人増え……新たなパートナーと契約したりもした。
とても辛い事があったりもした。
それでも。
「なんつーか結果論に過ぎないけど……ここは、いつの間にかオレにとってかけがえのない居場所になってたんだ」
そして今、陣達の帰るべき場所が壊されようとしてる。
「それは許しちゃ行けない……許される筈がない」
だから、陣は、陣達は、自分達の居場所を護る為、影龍を救ってくれる者達の道を切り開く為に、この闇を祓わねばならないのだ。
その為に陣は覚悟を決めた。
「持てる全ての力を以て、闇をぶっ倒す!」
「その覚悟、潔し!」
受け止め、ジュディは承認する。
「我はここへ来てまだ日が浅いが……この学園が滅ぶのは不本意じゃ。溢れ出る闇よ、お主らは要らぬ……去るが良い」
ジュディの本体……神曲の書【ジュデッカ】は、ナラカから生まれた闇寄りの書。
「我が光を祈るのは端から見れば滑稽じゃろうが……我が住みたいと思った、この場所の為に祈らせて貰うかの!」
高らかに謳い、ジュディは禁じられた言葉の詠唱に入った。
「我が魔力を磁楠にくれてやる。無理にでも馴染ませよ磁楠、フフフ」
壱乃禁忌(いちのタブー)・Caina
弐乃禁忌(にのタブー)・Antenora
惨乃禁忌(さんのタブー)・Ptolomea
終乃禁忌(ついのタブー)・Judecca
詠唱の完成と共に、魔力を思いを磁楠と陣に託し、ジュディは闇の向こうへとそっと語りかけた。
「……影龍よ、お主を救おうとする輩はおるぞ、受け入れてやるが良い」
「ジュディの奴も無茶を言う。……まぁ、無理にでも馴染ませなければならん状況だがね」
受け取った魔力の奔流。
磁楠は文字通り無理やり身体に馴染ませながら、ふと思い出す。
(「そういえば、私がこの大地を再び踏みしめた時にあったのは……鏖殺寺院への憎悪のみだったな」)
チャンスだと思ったのだ。
二度と……在りし日の悲劇を起こさせてなるものかと。
「だが過去を繰り返させない様にする事よりも、新たな未来を紡ぐ事が一番大切なのだと、陣が……この世界の未熟な私が諭してくれたのだ」
だから、応えなければならなかった。
「私にそれが出来ると言うのならば、遍く全てを以て私は応えてやる! 蒼空学園を、滅ぼさせたりなどしない!」
魔力を従え、磁楠は吼えた。
「やだよ、ボク達の居場所が無くなるなんてやだよ!」
そんな仲間達を、リーズは涙を堪えつつ見つめていた。
見つめる事しか、出来なかった。
陣が誠治が皆が必死に戦っているというのに。
祈る事しか、出来なかった。
「奇跡は、限りなくあり得ないからこそ奇跡なんだ。都合良く行く筈はない……分かってる、分かってるよ! でも……ボクにはコレしかない、コレしか出来ない……っ」
けれど、リーズは知らない。
それもまた、力……光なのだと。
知らぬまま、或いは知らぬからこそ、ただひたすらに―――祈る。
「―――陣くん達に、伝えて……っ! 何にもないボクだけど……ボクの力を……皆にっ!」
ジュディからの魔力とリーズの祈りと。
それらを陣は身体全体で魂の全てで感じていた。
だから……応えねば、ならなかった。
「唸れ、業火よ! 轟け、雷鳴よ! 穿て、凍牙よ!」
陣は叫ぶ。
自分の全ての力を吐き出しながら。
「侵せ、暗黒よ! そして指し示せ……光明よ!」
そこに間髪いれず、磁楠が力を解放し。
「「セット!クウィンタプルパゥア!」」
声は寸分違わず、同時だった。
そして。
「「爆ぜろ!」
前方、闇が爆散した。
陣のツァンダーソークー1の恭司のアリシアの皆の……思いを決意を受け、闇は吹き飛ばされたのだった。
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