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リアクション
【×2―2・行動】
「あ、出てきましたぁ」
静香がまたどこかへ歩みを進める一方で、その後をつける人間がいた。
それはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)、シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)の四人。
メイベル達は静香を尾行しており、肝心な彼女にだけは気づかれていなかったが、ほとんどの人間からはなにやってるんだとわずかに不審な視線を向けられている。
「さぁ追いかけましょうかぁ」
「ああ、でも僕おなかすいちゃったよ」
「セシリア、お昼食べたばかりでしょ……あれ? フィリッパとシャーロットは?」
メイベルが振り返ると、そこにはセシリアひとりしかおらず。どこにいったのかと目を動かせば、
「今日の音楽の授業は、いつもより長くやっているみたいよ」
「そうなんですか。大変ですわね」
フィリッパは占い館の中で紫と話しており、
「さあ。あなたもどうぞよっていってください」
「いえ、私は構いませんから。本当に」
シャーロットはリオンに呼び込みを受けていた。
メイベルはわずかに溜め息をつきながら、ふたりを引っ張って尾行を再開しなおした。
足早に追いついてみれば、静香はアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)と話し込んでいた。
「うぃーっす、静香校長。えらく元気がねぇなぁ。なにかお悩みごとか? たとえば繰り返す日常についてとか」
「ど、どうしてそれを? 亜美か誰かから、僕の悪夢の話を聞いたりしたの?」
「悪夢? そうか? 俺ぁ今おめーさんはとてつもない幸運と奇跡の中に居ると思うぜ」
「幸運、だって?」
「だってラズィーヤ殿の死はまだ『確定』ではないんだぜ? 助けれるまで何度でもやり直す事が出来るんだ。まあ、おめーさんにその気があれば、の話だけど」
「それは、そうかもしれないけど」
「だから一つだけ気をつけてほしい。たとえループを抜ける方法を見つけたとしても、ラズィーヤ殿を助けれるまでは解除しない事。じゃないとラズィーヤ殿の死が確定になっちまうからな」
「…………ラズィーヤさんの死……」
「もしくはラズィーヤ殿の死を回避する事が抜け出す道なのかもしれんけどなっ」
「……どうするのが正解なのか、僕にもまだわからないけれど。ラズィーヤさんは、助けるよ。きっと」
「そうかい。そりゃよかった」
とアキラは返しつつも、静香の表情がどうにも曇ったままなのを察し。
本当にラズィーヤを助ける気があるんだろうかという疑問を抱かずにはいられなかった。
「そ、それより話を戻すけど。どうしてこの繰り返しのことを?」
「ん? まあ俺は、今日の新聞が昨日と同じ新聞だって気づいてさ。テレビも同じのやってるしで、どういうことか気になって」
「それで?」
「あー、それで……まあフラフラとな」
まさか、前日の行動がリセットさせるのをいいことに、不法侵入をして禁断の女の園を探検していたなどとはさすがに話せないアキラだったが。話さずとも静香は大体理解したようだった。
「まあ、ループについて調査してくれるなら今回だけは大目に見るから。あまり人に見られないようにね」
「おお。さすが校長、話がわかるぜ。安心しな、誰がいつどのへんを通るかは把握済みだからな」
「やれやれ、これ以上の騒ぎはごめんだからね」
静香は釘をさして、去っていった。
アキラとしては一緒に行動して捜査してもよかったのだが。今の静香はどうも余裕がないようだから、無理に誘うことはせずこれまでと同じく一人で探検を続けることにした。
そんなふたりの話を、アリアは偶然聴いていた。
食事を終えた後、
(えーっと。百合園の花壇めぐりは午前中に済ませたし、このあとは授業の見学かな)
とスケジュールについて考えながら通りかかったのだったが。
「ループの原因は、ラズィーヤさんにあるっていうこと?」
さきほどの内容からアリアはどうするべきかを思案していく。
言うまでもないことだが、彼女も前回までの記憶に気がついているひとりで。
(困ったな、帰れない……けどループ中は講義欠席にもならないから、ま、いっか)
という楽観的な考えのもと、学内を見学しながら情報の収集に努めていたが、まさかこんなに早く手がかりが見つかるとは予想外だった。
「確証はなさそうだったけど。静香校長の様子からして、なんらかの鍵を握ってるのは確実みたいね」
呟きながら、静香を追うかラズィーヤを探すかしようかと一瞬悩んだが。どうせ夕方に職員室に行くのだからと、今はスケジュール通り授業を見学することにした。
しかし。
その選択がラズィーヤの運命を左右するとは、このときのアリアは予想だにしなかった。
アキラと静香が別れ、メイベルが尾行を継続させているのと同時期。
不審な人物が校長室の前を通りかかっていた。
それは伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)。彼女はオルガナート・グリューエント(おるがなーと・ぐりゅーえんと)を魔鎧として纏い、屍食教 典儀(ししょくきょう・てんぎ)と雷獣 鵺(らいじゅう・ぬえ)と共に隠れ身で姿を隠しながら移動しており、明らかに不審だった。
「なんだか今日が面白いことになっているようですね。良い暇つぶしができそうです」
「どうやら私たち以外にもループに気づいてる人はいるみたいね」
「だが我の見聞きしたところ、原因については誰も彼も全くわかっていないのだよ」
「ならループのカギが誰かに見つかって止められる前に、ワタシ達で見つけちゃおうよ」
鵺の言葉に誰も否定することなく、彼女達は明らかにこの状況を楽しんでいた。
「それにしてもこうしてあてもなく探すのも面倒ですね。ループの手がかりは本当に何もわかっていないんですか?」
「そういえば、静香やラズィーヤが関係してるかもって話してる人はいたよ! それから、夕方の校長室がどうとかも」
「となるとふたりに会うか、校長室に行くかしてみたほうが良さそうだな」
藤乃に鵺が答え、オルガナートが同意する。
「ならば丁度校長室の前だ、入ってみようじゃないか。待っていればふたりもやってくるであろうし」
「でも鍵がかかってますね。オルガナート、お願い」
「わかったわ」
そう言うとオルガナートは一旦人間の姿になり、ピッキングを使って開錠後はまた鎧になって藤乃の身体に戻った。
「やけにあっさりと開いたな。我らが言うのもなんだが、警備体制は大丈夫なのであろうか」
「まあ、盗まれて困るようなモノはもっと大事なとこに保管してるんじゃない?」
入ってみると、中は当たり前だが誰もいないようだった。
それから取り立てて悪びれることもなく、四人は校長室をあれこれ探っていく。
校長の机の下や鏡台の裏までくまなく調べていくが、たいしたものはなにもないようで。
しだいに飽きてきた典儀は壁に『ループを解く鍵は、校長の背中にある』とかいう偽の手がかりを描き始め。それに影響されて鵺も、棚の上にあった置時計を上下逆にしてみたりしてみたりしていた。
「これといって、目を惹くものは見当たりませんね。ここではないんでしょうか?」
「次のループからは、もっと早く行動したほうがいいかもね」
「いつの間にかもう既に四時をまわってるしな……」
「あ、ちょっと待って。誰か来るよ!」
扉近くにある棚を調べていた鵺は、何者かの足音を聞き逃さずにいて。
四人は素早く机の下へと身を潜めた。
「なんだろ。もしかして、鍵を握る人物の登場かな」
「しっ、静かに!」
その何者かは、校長室の前で足を止め。
そして――
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