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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


(・VS小隊長)


(こちらの武装は充実してきたが……相手は未だに機関銃のままだ)
 星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)は訝しむ。
 こちらは装備を充実させることで集団戦を優位に運んでいる。しかし、一対一の単機戦となれば、相手に及ばない。
 単機での戦力差が埋まらない原因は、武装ではないのだ。
「あとは何だろうな? お前は……ん?」
 TACネームは、本来パイロットの相性として用いられる。あくまで機体としての名称はイーグリット。そのことに気付く。
「俺達のTACネームをお前にもやるよ。今日からお前も、そして俺達三人で【アイビス】だ」
 チャーリー4、【アイビス】が戦闘態勢に入る。
(智宏さん、チャーリー1の砲撃後、前に出ます)
 時禰 凜(ときね・りん)が精神感応で伝える。
 チャーリー小隊の狙いは、敵の指揮官機であるシュバルツ・フリーゲだ。精鋭である彼らを倒し、戦況を有利に進める。
 アルファ小隊、ブラボー小隊は一般機を引き受けるために動く。
「まずは先手必勝!」
 葛葉 杏(くずのは・あん)橘 早苗(たちばな・さなえ)が駆るチャーリー1、【ポーラスター】がビームキャノンの照準を敵部隊に合わせ、発射。
 両腕にマウントされた砲口から発射された二本の光条は、一つに収束し、戦場を貫く。
「まだまだ!」
 さらに、両肩のミサイルポッドを一斉射出。
 それを合図に、イーグリット三機が敵機の群れに飛び込んでいく。
 それだけではない。実質的に、これが天御柱学院側の状況開始の合図ともなったのだ。
「敵小隊の連携を崩さなければいけませんね」
 チャーリー3、シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が搭乗する【コキュートス】が射撃体勢に入る。
 まずは、指揮官機がの自由を奪うために、牽制だ。
(ミネシア、行きますよ)
 アサルトライフルのトリガーを引き、弾幕を張る。
 その間に、シュメッターリング狙いの別の小隊が攻めに転じていく。
「まだ敵の数が多いですぅ」
 【ポーラスター】の早苗がレーダーで敵を確認し、射線を維持したまま距離をとる。
「大丈夫よ、周りの機体は味方が対応してくれてる。問題は、こちらの様子を窺っている指揮官機達よ」
 今回、敵は前衛にシュメッターリング、後衛にシュバルツ・フリーゲで、後衛一に対し、前衛四といった編成になっているようだ。
 最終的な防衛ラインは、実力者が守るということだろう。
 だが、その前衛を集中攻撃する小隊がこちらにいる以上は、敵指揮官機が沈黙を保ち続けるわけがない。
「前に出てきたか」
 藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)のチャーリー2、【ケルベロス】が一機のシュバルツ・フリーゲが出てきたことを察知する。
(だけど、自分にとって有利な間合いは保ってます。厄介ですね)
 サイファスがレーダーを見て告げる。
(了解、ならばこっちもマークしてやる)
 その間合いを保ったまま、アサルトライフルで敵機を狙う。
 敵もそれを回避する。
(前よりもわずかに回避が遅い?)
 裄人は、それに気付いた。すぐに無線を通じてそれを知らせる。
 プラント戦では、急上昇、急下降などの動作をもって、こちらの弾幕や射撃を防いでいた。
 だが、今回は急な動きはほとんどせず、こちらのアサルトライフルの弾も、機関銃で相殺するという方法をとっている。
「この位置なら、いけそうだ」
 【アイビス】が指揮官機に銃口を向ける。
 タイミングは、他の二機と同時だ。
 三つの射線の中に、ちょうど指揮官機がいた。
『チャーリー1から各機へ。エネルギーチャージ完了。発射するわ』
 イーグリット三機がシュバルツ・フリーゲの動きを制限している間に、【ポーラスター】が砲撃体勢を整える。
「指揮官機だろうとこれが直撃すればぁ!」
 トリガーを引き、敵機を狙う。
 避けようとすれば、三機のイーグリットが適宜射撃を行える位置にいる。
 だが、敵はビームキャノンを回避するという行動に出た。
「さすが指揮官機、反応が早い」
 感心したように早苗が呟く。
 ただ、避けたことによってイーグリットとの間合いがずれる。
(今です!)
 【コキュートス】がビーム式のアサルトライフルを放つ。
 同時に、【ケルベロス】と【アイビス】もビームアサルトライフルで指揮官機を狙う。
 これは、さしもの指揮官機でも回避出来ない。
 被弾。
 しかし、敵は機関銃だけは守り抜き、さらに急旋回しながらの機関銃乱射でこちらのビームの威力を落としていた。
「耐え抜きましたか……!」
 【コキュートス】の機内で、シフが声を漏らした。
  だがこれがチャンスと、速度を最大にし急上昇。他の二機も、その動きに合わせてポジションを確保する。
 太陽を背にしたところで、急降下。
 そのまま射撃を行う。 
(アサルトライフルのエネルギー、切れそうだよ!)
 そのため、ビームアサルトライフルを破棄する。
 最大速度の維持したまま、それを指揮官機に投げつけた。それを敵機は避け、すぐに機関銃で応戦しようとする。
 だが、間合いが近過ぎた。
 【コキュートス】はビームサーベルを抜き、一閃する。もし、万全な状態ならこの攻撃も避けられただろう。
 だが、回避が完全に間に合わず、敵機は両脚を【コキュートス】に斬り落とされた。
「まだ、墜ちないか」
 回避行動をとった瞬間に、【ケルベロス】が実弾式のアサルトライフルに持ち替え、敵機を撃つ。
 被弾しながらも、機体の弱点部分にだけは決して攻撃が当たらないように機体を駆り、敵機は一旦離脱する。
「逃がさない!」
 【ケルベロス】はそれでも、マークし続けようとする。
『イーグリット各機へ。一時、離脱よ!』
 【ポーラスター】の合図により、速度を上げて敵部隊から距離を取る。
 直後、要塞からの大型砲台が光を放った。
「照射時間が、長い!?」
 約十秒間、光は消えなかった。
 イーグリットの機動力でなければ、ビームに追いつかれ、光に飲み込まれていただろう。
「あれが、要塞の主砲みたいですね」
 シフはそれを目視した。
 他にも、ビーム式の砲台が複数あるが、その中でもひと際巨大な砲口が要塞の最上部から空を見上げている。
 どうやら三百六十度、しかも水面も狙えるようになっているらしく、あれがある限りは、地上部隊が要塞に侵入するのは絶望的だろう。
 しかし、それを破壊しようにも、敵機の妨害が入るだろう。
 コームラントで砲撃するのも、まだ難しい。
 どうやらエネルギーの充填に時間がかかるのが救いだ。今のうちに、少しでも敵の戦力を削いでおきたい。
『別の指揮官機が来るわ!』
 【ポーラスター】がそれを確認する。
 すぐさまミサイルを放ち、応戦。さらに、機関銃で弾幕を張る。
 敵はフレアを撒きながら飛んでおり、ミサイルは直撃はしなかった。
(よし、集中だ)
 智宏がセルフモニタリングで呼吸を整える。
 ミサイルの発射にあわせて、敵機に当たるようにフレアを放出する。が、ミサイルの誘導は間に合わない。
 それまでは弾幕援護を中心に、他イーグリット二機を支援していたが、ここからは彼ら【アイビス】も敵を墜とすための攻撃に切り換える。
「アイビス、共に引鉄を引いてくれ」
 ビームの出力をそれまでよりも高め、一発敵に撃ち込む。
 しかし、敵はその軌道を機関銃でそらし、そのままチャーリー小隊との距離を維持する。
 三機が別方向に散ろうとすれば、そのうちの一機に接近し、空中を舞うように飛行する。しかも、下手に撃てば味方機に当たるような位置取りでだ。
(イメージしないと……人が空を飛ぶように)
 凛は移動の際、レビテートで宙に浮いている状態をイメージする。そして、そして、操縦桿を握る。
(応えて、アイビス!)
 【アイビス】は敵の機関銃を回避しながら、機関銃にアサルトライフルで応戦する。だが、何発かはイーグリットの肩部をかすめた。
 距離を保ちつつ、智宏が敵機に通信を入れた。
『あんたの部隊には、学生はいるのか?』
 コックピットのパイロットの顔を見ることは出来ない。もしかしたら、敵にもまた学院の生徒のような者達がいるのかもしれない。
『元、ならいるわ』
 どうやらこの指揮官は女性らしい。しかも、声の感じからすれば若干の幼さを残しているようにも感じる。
『だけど、学校というものを知らずに育った人の方が多い。だから、私達は自分で考えて生きなければいけなかった』
 敵機が旋回し、機関銃を放つ。
『世界は弱い者に厳しい。私の目にはそんな世界しか映っていなかった。だけど、少しでもそんな世界を変えたいと思った』
 【アイビス】の射線にギリギリ入らない位置を維持している。
『そして今、この空にいる!』
 すれ違いざまに、敵機は振り返り、イーグリットの腕部を狙う。
『あんたは色々覚悟出来てるんだな……』
 敵の動きには一切の迷いがなかった。
 彼女達もまた、自らの信念を持って戦っているのだろう。
(だが、俺達だって負けられない。頼むぞ、凛、アイビス)
 他の二機も、目の前の指揮官機を狙って攻撃を行っている。だが、当たらない。
 いや、当たってはいる。だが、かする程度だ。
 機関銃とアサルトライフル、二つの銃口が向かい合い、そして火を噴いた。
「く、まともに食らったな……」
 【アイビス】がまともに被弾し、アサルトライフルも失う。ダメージは深刻だ。
「せめて、戦線から離脱したところで着地しなければ」
 海岸線を見据え、離脱する。
「この一発に、かける!」
 【ケルベロス】が指揮官機に向けて、実弾式アサルトライフルを撃ち込む。
 敵機は被弾するが、怯まない。
「く……っ!」
 敵の機関銃からの銃撃を【ケルベロス】も受ける。
(読みが外れた……一度引きますよ)
 敵の機関銃の射程から離れる。
「速い! ですが、この距離ならば」
 【コキュートス】が実弾式のアサルトライフルを放つ。だが、それらは敵の機関銃の弾幕にことごとく阻まれる。
(こっちも弾切れだよ。ってもう来てる!?)
 即座に攻撃担当のミネシアがアサルトライフルで敵機を殴りつけようとする。が、指揮官機も、機関銃を握っていない方のマニピュレーターで拳を作り――受け止めた。
 元々の用途ではないために、指揮官機の左腕は衝撃で大破した。
「これなら、どうですか!?」
 今度は【コキュートス】が機体を捻り、蹴りのような形で敵機を跳ね飛ばす。脚部にダメージを負うが、これで腕一本と脚一本だ。
「今度こそ、外さない!」
 二機が交戦している間に、【ポーラスター】がビームキャノンのチャージを終え、発射する。
 しかし、敵機は即座に急加速し、それを避けようとする。
「逃がしませんよ」
 機動力を生かし、【コキュートス】は敵機より高度を上げ、垂直に落下した。
 敵の機関銃の弾を浴びながらも、最高速度で敵機に体当たりを仕掛ける。激突し、押した先をちょうどビームが通り――指揮官機に直撃した。
 敵の機体は大破したが、【コキュートス】もボロボロだ。
『こちらチャーリー3。少々無茶しました。脱出します』
 完全に制御を失う前に、前線を離脱し、機体から脱出する。
 その際に、自分が撃破した機体のパイロットと思しき姿を見た。どうやら、直撃する直前に脱出したらしい。
(あの人が……?)
 褐色肌の少女二人とも、まだ十代だろう。
 学院の生徒と同じくらいの歳でありながら、指揮官機を駆り単機で一小隊を苦しめたことに、ただ驚愕した。