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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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ヒクーロへ発つ飛空艇
 
 軍港では、ヒクーロへ向かう武装飛空艇の準備が整った。一刻も早く、ヒクーロへ。龍騎士が近づいているのだ。一部隊で太刀打ちできる相手ではない。
 飛空艇の甲板に立ち、出発を待つロンデハイネ中佐。その傍らには、【ノイエ・シュテルン】隊長のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)中尉がいる。
「中佐。そろそろ艦の司令室に戻られては。出立まで、このクレーメックがしっかりと見ておりますので」
 コンロンの風は冷たい。
「ふふ、何を言っておる。クレーメック中尉よ何か、心配しすぎではあるまいか? わしをそこまで気遣う必要はないぞ?」
「はっ」
 今は、第四師団旗も艦の上部にその威を示すように立っている。この前、空の魔物との戦闘で折れたのだが……。
「……」
 クレーメックは、隊員のゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)に空路の引き続き確保を任せ、自らはノイエの精鋭200を連れ、ヒクーロ国境の救援を指揮するロンデハイネに従うこととした。それというのも……
 まだ治まらぬ、胸騒ぎ、である。それがロンデハイネの身に関わる事なのか、それとも、教導団本校とクィクモとの間の補給ルートに関わる事なのか、判然としないのであった。
「ヒクーロ行きには、クィクモ本営の【ノイエ・シュテルン】隊300名のうち200名を帯同、残り100名と小型飛空艦1隻をゴットリープ。君に預ける。雲海の補給ルートの哨戒と警備にあたってくれ」
「はっ」
 信頼し得る部下のゴットリープにも、理由を打ち明けることはできなかった……。パートナーである島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)らには感づかれているのだが……
「風が、強いな」
 ばたばたと、揺れる旗。
「は……」
「風や空の魔物如きで、無論、沈む船ではない」
「だと、良いのですが……」クレーメックは珍しくぼんやりと答えた。
「だと良いか。まったくであるのう。ふふ」
「言え、無論。あり得ぬことです。……。
 まだ、到着しない者は誰か。【獅子】の新兵という城 紅月は何をしている!」
 「はぁ! 今、来たようです」と下から応えるノイエの兵らに混じって、ゴシック服に日本刀を差した美男子が「ごめんなさい、遅れましたー」飛空艇に乗り込んでくる。
「むう。獅子は未だ、規律を甘く見すぎている。軍隊として、なっていない。こういう細々した心配事がきっと、胸騒ぎなぞを……」
「まあ、クレーメックよ。何と言うても第四師団であるからなぁ。そういうことなら、騎狼部隊も龍雷連隊も?」
「しかし、ロンデハイネ中佐」
「いやすまぬ。しかし、貴官らノイエ・シュテルンが第四師団の主力となってから随分、軍隊らしくなったではないかな。貴官らが主力として参戦したおかげで軍隊らしい戦いができた戦も多い。その一方で、枠にはまらぬ戦いぶりをする者のおかげで得た勝利もある」
「奇策ならば、私らとて得意であります。それもまた計算や規則に則ったもの。これからは、無策な戦いで生じるような犠牲は減らすべきです。確実な勝利を……」
「ははは。クレーメック部隊長には敵わぬのう」
「いえ、……」
 クレーメックはそう言いつつ、では私に生じたこの胸騒ぎとは何か。考える。胸騒ぎがするからという理由で部隊を動かすなど、地球の軍隊では考えられないことだが、パラミタでは地球の常識や科学では計りかねない超自然的な出来事が実際に起きる以上、一概に否定することもできないだろう、か。『地球にも、昔から、第六感や予知能力と呼ばれるものが存在するとされてきたし、科学的な見地からの考察もさかんに行われていたと聞く。パラミタと接触を経た今では、研究もかなり進んでいるのではないだろうか?』……これからのノイエ・シュテルンの在り方はどうあるべきか。私の軍略がどこまで通じるものか、試してゆきたいし無論いかなる事態にも臨機応変に対処してゆきたいものだ。うむ……パラミタにおける軍隊とは、か。
「あの……」
 何やら難しい話でも? こんなところで軍議でも? と問いたげな表情で【鋼鉄の獅子】の城 紅月それに医療チームを率いる土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)らの姿が、甲板にあった。
「準備できたのか」
「ええ、はい。その、何かお取り込み中のようであったので……」
「ご、ごめんなさい。医療品の準備に手間取りまして、その……」
「ウム」ロンデハイネは頷く。「引き続き、空の旅と行こうぞ。よろしく頼む」
 クレーメックは厳しい目をしたが、「出立だ!」兵らに告げた。
 


 
 飛空艇の出立を、クィクモにいる多くの者が見守った。
 そんな中に、空路、さきの城や雲雀らと同じく第二陣としてクィクモに到着し、飛空艇を下りた鬼院 尋人(きいん・ひろと)の姿がある。
「オレは……オレ個人で、動く。今までは自分に必死だったかもしれないし、それに、誰かを追わなければ……か。確かにそうだったかもしれない。だけど今はこの歴史の波の中で、オレがもがくことで少しでも流れがいいふうになれば」
 クィクモの雑踏へ入り込んでいく尋人。呀 雷號(が・らいごう)は常にそうあるように、西条 霧神(さいじょう・きりがみ)も今は何も言わずに、そんな彼を見守るよう後ろに付いていく。
 尋人が歩いていく、雑踏の中から大きな影が来る。
「……」雷號はぴくっとわずかに反応し、しかしすれ違ってまっすぐに行く尋人に続く。「あの男……」霧神にも同じく感じられたようだ。二メートル近い巨漢、重厚な鎧を身に纏い、それに、「邪悪だ」。聖騎士たる尋人も、気付いたようだ。男はすぐに、路地裏に消えていってしまった。
「あのような輩……コンロンで何を?」
「教導団の本営があり、警備も厚いクィクモ。滅多なことはできますまい」
「あいつは、教導団じゃない。オレたちとは全く正反対の目的で動く者かもしれない……オレはオレのやり方で、そうはならないように導くさ」