薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

リアクション公開中!

第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

リアクション

 
更にここは、エルジェタ密林
 
 魔乳がふたつ行く。魔乳? マリーではない。それからねこいっぴき。
 魔乳がふたつとねこいっぴきが行く。と、言えば……
 さきのシクニカでの戦闘に一人、姿の見えなかった桐生組の者がいたことに読者の皆様はお気づきになられたであろうか。
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)だ。
 一人、いやぶちぬこを一匹連れて一人と一匹、たっぷりとおりぷー(オリヴィア)分をアリスキッスで補充し向かった先はエルジェタ密林であった。
 その役目は、密林から敵軍の後方に移動して、背後を襲うこと。
「戦を前にして気が散るのは、凄く面倒じゃろうな、にひひ」
 しかし、密林に入った途端、獰猛な魔物に数多く出くわし、なかなか進むのも容易ならぬことであった。
「ぷるぷる。こわいにゃ、おりぷー」
「わ、妾はおりぷーでない! 妾だってコワイのじゃ、しっかりせんかにゃ、このぶちぬこや」
「いやにゃ。ぜったいいやにゃ。なりゅきーもうおれ、これいじょうすすめないにゃ。ごめんにゃさきいってにゃ。ぼくのこと、ぼくがしんでもきっとわすれないでにゃ? さよなら。ぷるぷるぷるぷる」
「ちょ、ちょっと何座りこんでるにゃ。ヘンな芝居しないでにゃ。あれ……ン?」
 何かいる。がさがさ。
「こわいにゃー。なりゅき、おまえおとりになれにゃ! おれそのあいだにげるにゃ」
「な、何をゆう。ちょ、ちょっとぶちぬこが見てくるのじゃっ ほ、ほら、その二、三歩行った茂みの向こうにゃ!」
「うわーんいやにゃー」
 ぶちぬこは、ナリュキに言われた通りに泣きながら茂みの向こうを覗いてみた。
「あっ。うわーーーん」
 ぶちぬこは、どこかにいなくなってしまった。
「な、何っ。何があるというのじゃ」
 ナリュキは勇気を出して覗いてみる。
「はっ。何故じゃ!!」
 教導団。そこには、教導団の部隊が陣を張って休んでいる。
 本営からエルジェタ密林に派遣された、大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)二等兵ほか名無し二等兵ら一個小隊程の部隊であった。二等兵といえ、丈二らが気合を入れて魔物が近づけないよう見張っている。
「は、はあ? 指揮官なしの二等兵だけ部隊とは? どういうことじゃ」
 どうやら、休憩が終わり、更に密林の奥へ分け行っていくらしい。
「さあ、行くでであります!」丈二が叫ぶ。
「そうであります!」
「教導団のため、であります!」
 この部隊は、丈二の提案で結成された。
 ユーレミカからのマリーの援軍要請。クレア中尉がそれに応え、兵を編成していたとき、名乗りを上げた一兵卒がいた。それが丈二であった。そのままだったら彼はユーレミカへの援軍に加えられたのだが、彼はマリーを助けたいのではなく、ある案があるとして切り出した。彼が行くというのは、ユーレミカではなくその東、エリュシオンとの国境に接するエルジェタ密林。クレア中尉はやってみる価値があるとし、「どうしても避けられない場合を除き、勝手に戦闘を始めたら昇進どころか降格かも」と注意はした上で50の兵と共に向かわせた。
 密林にシャンバラの軍隊がいる、と気づかせることで、敵の注意と戦力を密林に裂かせる。壊滅せずに密林に居続けることで、この目的は遂行される。教導団の基礎訓練で、サバイバルの基本は履修済みの彼らは実地訓練としてこれに臨み、思いの他の成果を上げた。
 丈二たちは密林をかなり奥まで進み、帝国軍の基地にピンポンダッシュ並の、つまり実害度外視の超小規模テロを実行(それが限度であったのだが)。
「次はあっちの基地であります」「ピンポンの役は、丈二であります」「い、行くでありますよ」「いけにゃ」
 無差別な小規模テロは、密林にかなりの数の教導団部隊が潜んでいる……という警戒を抱かせ、シクニカに向かう予定だった龍騎士団援軍の半分を、密林の帝国側の警備に回させることになった。このとき、エリュシオン軍港もまた、教導団海軍による被害を受けていたということもある。
 エリュシオン側の領地にまで教導団が入り込んでいる。このことは、コンロンに進出していた帝国龍騎士団に後方危機の不安を植えつけることに成功した。
 コンロンを容易く抑えられる、と当初考えていた帝国側に徐々に揺らぎが走り始めていた。
 
 
「丈二?」
 丈二のパートナーのヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が言う。
「そういえば、伝説の木……世界樹の下で告白すると両思いのハッピーエンドになるんだったかしら?
 いつか、そっちの方にも行ってみたいなぁ?」
「……ち」「……ちぃっ」他の二等兵らが恨めしそうに見る。
「ハ、ハッピーエンド、でありますか。こ、この戦いが無事に終わったら、ちょっとだけ命令違反かもしれませんが、すぐそこの世界樹に寄っていくというのも、い、いいかもしれませんであります!」