波羅蜜多実業高等学校

リアクション

第四章　洛外の戦い１

　幕府・葦原軍は、第四竜騎士団と瑞穂軍の扶桑の都への侵攻を阻止するため、都の洛外で敵を迎え討とうとしていた。
　風祭　優斗（かざまつり・ゆうと）は以前提案していた戦略に加え、伏兵を置くことを提案していた。
「主力遠征軍とは別に、別動隊を組織したいと思います。街道沿いの山林に回り込み兵を伏せておき、作戦開始の刻を待ちます。敵軍が撤退しようとしたら、退路を塞ぎ敵軍を包囲するのです」
　優斗は、遊撃隊はすでに配置済みであるという。
　諸葛亮　孔明（しょかつりょう・こうめい）が、地図を指して言う。
「瑞穂藩領内にいる藩兵の動向も気になります。もし、扶桑侵攻軍へ増援へ向かう動きが出た際には、幕府・葦原軍本隊と遊撃隊にいち早く連絡しなければ」
　孔明はまた、瑞穂の輸出入について関心があるとも言った。
「瑞穂藩はエリュシオン帝国との交易で発展しているそうですが、帝国とのつながりを断つ上で興味深いですね。帝国ではなく、シャンバラ……例えばツァンダなどの交易を行うことができれば、帝国からの強過ぎる影響力を払拭できるのではないですか」
　瑞穂藩が交易で得た利益は大きいが、長年による結びつきを断ち切るのは容易ではない。
　瑞穂の帝国からの輸入品の中にユグドラシル信仰もあったのだ。
　内政を並行して行うのは重要だが、現在幕府と交戦中においては政治的な瑞穂都の間に足がかりをつける方が先でありやや早計である。
「斬り込み役なら俺に任せておけ。敵が強ければ尚更だ」
　沖田　総司（おきた・そうじ）が隊を率いて出陣する。
　彼は「死番は慣れている」と言って、先陣に立つことをも恐れなかった。
「優斗等と共に扶桑の防衛に参加したいところだが、私が先陣を切るのは、鬼城家の鬼の存在を隠し続ける幕府にとって都合が悪いらしい。くだらん理由だが、弟や甥、姪のことを思えば仕方がないことか……」
　鬼城の　灯姫（きじょうの・あかりひめ）は一人マホロバ城へ残った。
　城の防衛隊とともに陣をはる。
　密書では、優斗たちの動向を知った。
「敵は……守るものがない。攻め上ることしか考えすに済むのだから、いかようにも動ける。もしものときに備えて、私はここへ残ろう。そして、警戒を解くことのないよう老中たちを見張っておかねば。兵の訓練もな」
　マホロバ城でも都の戦況が気がかりである。
　都を、扶桑を守りきれなくては、国としての機能だけでなく、その象徴も失ってしまうのだから。

「瑞穂がマホロバの主（あるじ）としてふさわしいか、俺の肌に合うか。確かめにきた」
　葦原明倫館加賀　北斗（かが・ほくと）はマホロバじん神守　真紅郎（かみもり・しんくろう）に付き添い、蒼の審問官　正識（あおのしんもんかん・せしる）に面会を願い出た。
　大事な話があるという。
「キミは軍師志願者か？」
　正識は出陣前であったが、僅かな時間を作り、二人に会った。
「そうだ、オレの策はこうだ。まず、瑞穂軍が幕府軍の足止めをする。その間、龍騎士団は機動力を活かして迂回。扶桑の都を直接叩く。占領してしまえば、こちらのものだろう。この作戦は『マホロバ幕府も葦原藩も民を守らない』というレッテルを貼らせることだ。また、主力の野戦では、ワザと退いてみせる。調子にのって追撃したところを撃破すれば良い」
「キミは葦原の人間のようだが、なぜ瑞穂に味方する？」
「俺はマホロバの傭兵ですよ、瑞穂藩主殿」
　真紅郎はにやりと笑った。。
「今のマホロバ幕府には国家百年の計を語れる人物はいない。俺が仕えたいと思うに足る人物を求めてここに来た」
「そこまで言うのなら、さぞ自分の腕に自信があるんだろうな。それに相応しい武勲を上げれば認めてやろう。それが……帝国式の流儀でもあるしな」
　正識は二人に兵を与え、指揮を取り出陣するように命じた。
　七龍騎士は冷徹な表情を浮かべる。
「果たして上手くいくかな？ 扶桑の噴花が起ころうとしているときに……せめて私が扶桑に辿りつくまで、時間稼ぎになってくれればいい」
　そう言うと、正識は龍と共に扶桑の都へと飛んだ。