リアクション
トゥーレでイコン整備が行われている頃、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はシスター・エルザの元へやってきた。 * * * 「失礼します」 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、エルザとコリマへの面会に臨んだ。彼女よりも先に腰を下ろしていた二人の校長を前に気圧されそうになるが、はっきりと視線を合わせる。 「あなたも座りなさいな」 エルザに促され、祥子も席に着く。そして、その申し出を口にした。 「協定は結ばれました。そこで、これまでの戦乱で戦死した人々の慰霊祭を行いたいのです。ですが、そのためにはお二人の協力が必要です」 シャンバラ政府に働きかけるには、校長クラスの権限がなければ難しい。また、地球側の「教会」に至っては、エルザ校長が頼りだ。 「何があるにせよ、あったにせよ節目は必要です。そして誰かに全責任を押し付けて素知らぬ顔というのは不愉快ですので。それに、人間誰しも死ねば仏です……あぁ、こういう時は自分が日本人だと実感しますね」 (確かに、この一年の戦乱で多くの犠牲が出た。何もないままでは、彼らも浮かばれぬだろう) シャーマンであるコリマとしては、共感できるものもあるようだ。 「そうね。イコンで戦った者達に至っては、死体さえ見つからないことも珍しくはない。この海に眠る者達を弔ってあげないとね」 やはり「教会」としても、それをしなければと考えているらしい。 祥子自身、枢機卿を説得することも力づくで止めることも出来ず、「友人」を失った。彼が本当に何を考えていたのかまでは分からない。それでも、ちゃんと話せる相手ではあったし、強い信念を持ってもいた。 だからだろう、マヌエル枢機卿に全てを押し付けるような、教会の態度が気に食わないのは。たとえ交渉や駆け引きのために、そうする必要があったのだとしても。 「言いだしっぺの責任はもちろん果たします。けど、できれば教会主導でと思います」 教会の権威を取り戻したいと願った敬虔な枢機卿のためにも。 「傷つき倒れた人々と、百五十年後に再会できることを願って」 最後に決めるのは、それぞれのトップに立つ者達だ。それでも、実現して欲しい。 「ヴァチカンには、あたしの方から取り合っておくわ。おそらく、大丈夫なはずよ」 (シャンバラ政府も、戦いが終わったことを民に示す義務がある。私から言っておこう) 二人とも、仲介してくれるようだ。 「でも、全ては今度の戦いが終わってからよ。この世界がリセットされたら、それも叶わなくなってしまう」 それは分かっている。 ただ、ここで約束を取り付けておきたかったのだ。 |
||