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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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オベリスク

 
 
「そういえば、メイちゃんたちがその姿になったのって、霧のおかげだよな。なんだか、いろいろとストゥ伯爵が関わっている気がするんだが、メイちゃんたちはストゥ伯爵に作られたのかい?」
「うーんと、名前は知らないよ。でも、なんだかいろいろあったみたい。ほんとは、最近までずっとオベリスクで眠ってたから、そのへんはほとんど思い出せないの。でもね、誰かがオベリスクに入ってこようとして、その後動けるようになったのは確かなんだけれど……」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)に、メイちゃんがそう答えた。
 いずれにしろ、何か事故的なことが起こって、オベリスクの中に例の霧が入り込んだのは間違いなさそうだ。ただ、それほどの量でなかったために、最初メイちゃんたちは武器の姿で現れたのかもしれない。
「それで、けんちゃんって誰なの? オベリスクの中には四人分のカプセルがあったみたいですけれど、メイちゃんたちはもともと四人でしたの?」
 『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)が、メイちゃんたちに訊ねた。
「そうだよ。けんちゃんとあの子のマスターが、遺跡と一緒に眠りについたの。それで、入れなくなっちゃったから、私たちはここで遺跡を封印していたんだよ」
 んーっとちょっと考えてから、メイちゃんが代表して答えた。
「まるで人柱だな。そこまでして封印しなくちゃならなかっただなんて、いったい、あの遺跡はどれだけ危険なんだ?」
 そこまでする必要がどこにあるのだろうかと源 鉄心(みなもと・てっしん)が言った。
「魔法はだめなの。あれって、魔法をどんどん吸収しちゃうんだもん。だから、茨ドームで先に吸収しちゃって、オベリスクまで魔力を移してからお外に出してたんだよ」
「その遺跡も茨ドームも、魔法の吸収装置だったんですね。だとしたら、遺跡の近くでは魔法は使えないのかな」
 魔法使いとしては、それは攻撃方法の大半を封じられることになるのでつらいなと言う顔をソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)がした。
「いや、ただ魔法を封じるだけなら、ここまで大きな仕掛けを作ることはないじゃないか。というか、魔力を溜めないための封印に思えるんだが……。うーん、何かに似ているんだがなあ」
 緋桜ケイが腕を組んで考え込んだ。
「何か、似たようなアイテムとかありましたっけ?」
 傷ついたレガートの治療を続けているティー・ティー(てぃー・てぃー)と、緋桜ケイたちとこれからのことを相談している源鉄心たちとの間をいったりきたりしていたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、そんな物あったかなあと言う顔で言った。
「アイテム……、星拳だ。スター・ブレーカーが似たような能力を持っていたじゃないか。魔法を吸収したり、放出したり」
「だとすれば、そのような仕組みを作ったのもうなずけるかもしれぬな」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、厳しい面持ちで言った。
 星拳スター・ブレーカーは、現在は星拳エレメント・ブレーカーと星拳ジュエル・ブレーカーに分かれてしまっているが、性能はほぼ維持したままだ。魔法属性に属するエネルギーか魔法物質、純粋な光や熱エネルギーを吸収して、再び放出する。一見すると魔法に対しては無敵のようにも見えるが、吸収できる範囲と総量という物に制限がある。使用者がその蓄積量に耐えられなければ自滅してしまうのだ。以前、海賊の光条砲の直撃を受けとめたときに、あと少しでココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)とアルディミアク・ミトゥナは自滅するところだった。もし限界を超えていたらというのは考えたくないことだが、それが精神力でより大きな力に耐えようとする人間ではなく、純粋な機械か何かだとしたら、いったいどうなってしまうのだろうか。結果は、恐ろしく機械的に現れるのではないだろうか。
「もしかして、あの遺跡って、巨大な爆弾みたいな物なのか?」
「うーん、よく分からないけど、似てるかも」
 緋桜ケイの質問に、メイちゃんが答える。
「でもね、でもね、あれが一杯になるのは大変なんだって。だから、動かしちゃいけないんだよ」
「そうそう。あそこから飛んでっちゃったら大変なんだよね」
「ねー」
 何かを思い出したかのように、メイちゃんとコンちゃんランちゃんが顔を見合わせて声を揃えた。
「なあんだ。それなら安心よね。遺跡が動くわけないもの」
 イコナ・ユア・クックブックがほっと胸をなで下ろす。
「いや、マ・メール・ロアみたいなのだったらどうするんだ。パラミタの遺跡って、結構理不尽に自分で歩き出しそうだぞ」
 安心はできないと、源鉄心が釘を刺した。
「でも、そんな凄い量の魔法がある場所なんて……あっ!」
 言いかけて、『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が気づいた。
「そう。世界樹がある。あのストゥ伯爵も言っていたではないか、限界を超えるエネルギーを蓄積する方法など限られておると。限られた方法であるというのならば、これしかあるまい。シャンバラで最大の魔法の発生源にその遺跡が近づいたとしたらどうなる? 無秩序に吸収圧縮した魔法エネルギーが、維持できなくなって一気に開放されたら……」
「うーんとね、シャンバラ大荒野がもう一つできちゃうかも」
「冗談じゃねえぜ!!」
 突然雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が大声をあげたので、メイちゃんたちがびっくりして肩をすくめた。
「もう、ベアったら、メッです」
 ソア・ウェンボリスが、軽く雪国ベアを叱る。
「ああ、ごめんな。俺様も驚いちまったんでな。お前たちも、もの凄く長い間苦労してたんだなあ。よしよし」
 すぐに謝ると、雪国ベアがメイちゃんたちの頭をなでなでした。
「さあ、好きなだけ御挨拶をしてもいいぞ」
 やにわに両手で『地底迷宮』ミファと『空中庭園』ソラの頭をがっしとつかむと、雪国ベアがメイちゃんたちの前に差し出した。きゃあきゃあと二人が悲鳴をあげる。いいかげんにしなさいと、ソア・ウェンボリスがポカリと雪国ベアを軽く叩いた。必要以上に痛がって見せて、雪国ベアが『空中庭園』ソラたちを開放する。
「もう、ろくなことしないんですから。二人は早くイコンをイルミンスールに運んでください。私たちは先に遺跡にむかいますから」
「うん」
 ソア・ウェンボリスに言われて、『地底迷宮』ミファと『空中庭園』ソラは半壊したイコンにそれぞれ乗り込んでいった。アルマイン・マギウスアルマイン・マギウスの二機で肩を組む形で、なんとか移動が可能という状態だ。
「私はレガートさんの様子を見てるから、後から行くね」
 ティー・ティーはレガートが飛べるようになったら追いかけるというので、ひとまずオベリスクに残すことになった。回復は順調なので、しばらくしたら追いつけるかもしれない。
「一緒に行きましょう。まだ間にあいますよ。ううん、間に合わせて見せます」
 ソア・ウェンボリスが言うと、メイちゃんたちもこくんとうなずいた。オベリスクは壊れてしまったが、まだ茨ドームは無事かも知れないというわずかな希望もある。
 忘れ物があるからと、ちょっとオベリスクへ戻ったランちゃんを待ってから一行は、ビームが焼いた跡を辿って遺跡へと出発した。
「むこうから、誰かやってくるぜ」
 同じようにして道を辿ってくる者たちを見つけて、雪国ベアが指さした。
「おーい、大丈夫か。この跡はいったい何なんだ?」
 明らかに火事とは違う焼け跡を辿ってきたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、緋桜ケイたちに訊ねた。
 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)と一緒に、残り火を消したり、石化して燃えないようにした木々を元に戻したりして進んできたのだ。
「あなたたち、あのオベリスクの方からやってきたノカ?」
 アリス・ドロワーズが、源鉄心たちの背後に見えるオベリスクを指して聞いた。
 とりあえず話がかみ合わないと困るということで、オベリスクでの戦闘と茨ドームが焼け落ちて遺跡が現れたことなどの情報を交換する。
「まずいな。急ごう」
 源鉄心が、皆を急かした。
「その前に。その魔石ってのは、解除できないのか? 中の人に話を聞ければ一番じゃないか。いちおう、石化なら解除できるぜ」
 アキラ・セイルーンが、メイちゃんたちが首から提げているマスターたちの入った魔石のペンダントを指して言った。
「封印は石化とは微妙に違うからな。石を肉にでは解除できまい。そんなことをせずとも封印の魔石を割ればいいだけのことなのだが、この魔石は特別製らしく、今のところ割ることができないのだ」
 それは無理だろうと、悠久ノカナタがアキラ・セイルーンに言った。
「なら仕方ない。遺跡の所に行けば人が集まっているから、誰か何かいい方法を知ってるかもしれないな」
 ここで封印を解除することを諦めると、一行は再び遺跡を目指した。
 レーザーの跡を辿って少し進んだところで、今度は瓜生コウと出会う。
「遺跡がそんな危険な物だったのか。早くみんなに知らせないと。こっちだ」
 事情を聞いた瓜生コウが、急いで遺跡へと一行を案内していった。
 ベースに辿り着くと、武神牙竜と情報交換して、ほぼ隊長と名乗る人物の目的を特定する。
「おそらく、その隊長というのはオプシディアンの仲間であろう。一連の事件の背後には、奴らが見え隠れしていたからな。目的はおそらく世界樹の破壊と、それに続くシャンバラの国としての崩壊であろうな」
 悠久ノカナタが決めつけた。
 世界樹を失えば、シャンバラは国としての条件の一つを失い、国土も荒れ果ててしまうだろう。現在よい関係を築きつつある周辺各国とも、外交の基本を失うことになる。
「なんとしても阻止しないと。遺跡の中の人たちに連絡して。それから、傭兵に加わっている人たちにもこの真実を伝えて目を覚まさせるのよ」
 武神雅が、すぐに情報を広めるように各位に通達した。
 
    ★    ★    ★
 
「お帰りなさい、コウ。ドンナーシュラークは落ち着いておりましてよ」
 戻ってきた瓜生コウに、ベイバロン・バビロニア(べいばろん・ばびろにあ)が告げた。
「なんだか大事になってきた。ドンナーシュラークも、いつでも戦えるようにしておいてくれ」
「それなら、いつでも大丈夫ですよ」
 ベイバロン・バビロニアが請け合った。