リアクション
【5】幕下りる
一ヶ月後。
平穏の戻った空京中華街を、万勇拳一番弟子八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)は歩いていた。
そう言えば、黒楼館との戦いに姿を見せなかった彼女だが、何も遊んでいたわけではない。
町外れにある映画館の暗い階段を上がって中に入った。
ちょうど映画は上映中、まだ始まったばかりで、冒頭のシーンが流れているところだ。
『さぁさぁ皆様、お立ち会い。これから始まりましたる物語の舞台は……』
優子はふと知ってる顔を見つけ、その隣りに座った。
「何してんの、お前。最近、顔出さないと思ったら映画鑑賞かよ」
「うるせぇな。こっちはこっちで色々あんだYO!」
バンフーは前の座席に足を放って答えた。
「……お、始まる。オイ、よく聴いとけよ。俺様の渾身のラップが決まったオープニングテーマだ」
HEY YO!
オイラの名前はM.C.バンフー 今から始まるすげぇカンフー
コンロンから空京 公園飛び越え 中華街を抜けてここに参上
We are 万勇拳
アイツは始めた自分探し 燃える瞳は龍の如し 行き着いた先はこんな話
見つかったもんが何かは知らねぇ 三つシナリオ読み返して自分で確かめな
さぁ始まるぜ 準備はいいか
「……ビタイチ、ラップが進歩してねぇじゃねぇか。折角、仕事振ってやったのに糞みたいな仕事しやがって」
「ち、ちくしょう!」
バンフーはドレッドヘアーを掻きむしった。
下手の横好きと世間では言うけれども、まだ彼の溢れる情熱に才能のほうが追い付いていないようである。
「……ところで、この映画、お前が企画したんだってな。ただのJKじゃねぇとは思ってたが、どんな手使ったんだ?」
「ああ、空京テレビに万勇拳のバトルを撮ったテープを持ってったんだよ」
「Fu! MOCHIKOMIか!」
「撮影には協力するから、金は全部そっち持ちで。原作料は売上の1割で構わないよっつって……まぁゴネられたけど」
「そりゃFuckin TVだな」
「ほんとだよ。黒楼館に尻尾振ってたイモの分際で、今さらまっとうな商売なんざ遅ぇつーの」
優子はメンソール煙草に火を点けた。
「んで、あんたらマスコミが成すべきことを成さなかったことを、これで手打ちにしてやるって指導してやったわけよ」
「……ははぁ、で、コイツが出来たって寸法か」
バンフーは納得した。
「でもよ。にしても、なんかこの映画……。お前じゃなくて、マナミンとか言う奴の出番が多くねぇか?」
「そらメインにしてっからね。愛美の奴、仕事の幅広げたいって言ってたから……、まぁ姉弟子としてはさ」
とその時、赤バックにタイトルが映し出された。
『燃えよマナミン!』
その後、黒楼館館主ジャブラ・ポーは国軍によって逮捕された。
国家転覆罪を始め、百を超える余罪が発覚し、軍刑務所に収監されたとのことだ。
随分抵抗したようだが、軍刑務所の警備は厳重、彼の絶大な力を持ってしても脱走することはまず不可能だろう。
それに伴い、黒楼館も瓦解し、門弟の一部は刑務所に。一部は空京を去り、また一部は悪人商会にへ流れたと言う。
ところで、同じく軍刑務所に送られたはずの五大人カラクル・シーカーだが、今、全国に指名手配されている。
護送中に何者かの襲撃があり、行方不明となってしまったのだ。
襲撃者の正体は誰も見てない。黒楼館の仲間だったのか、それともまた別の勢力だったのか……。
とは言え、探し物は意外とすぐ近くにあったりするのが世の常。
「……何のつもりだ、貴様。私の逃亡を手助けして、何を企んでいる……!」
「企むだなんて人聞きの悪い。ほんの親切心からですよ」
藤原優梨子は微笑んだ。
「ただ、ちょっとお聞きしたいことが……、龍脈風水について詳しい話を教えてくださいませんか?」
空京駅前の喫茶店で、よく似た女性を見かけたとの噂もあったが、真偽のほどは不明である。
「刑務所で性癖を矯正してやろうと思ったのに残念です……」
護送の手配を行った
戦部小次郎は、彼女が再び逮捕される日を心待ちにしている。
それから、五大人ラフレシアンは警察に自首した。
弟子の
茅野菫や友人の
緋山政敏に止められたが、それでも罪を償いたいと自首した。
「ちゃんとやり直したいだよ。出てこれるかわからんけんど、出てきた時はよろしくな」
「ああ、たまにゃ面会に行くよ。元気でな」
「薫気功は師匠に代わって菫が守って行くから心配しないで」
五大人M.C.バンフーは万勇拳門下となったものの、ほとぼりが冷めるまで、地下に潜るとのこと。
なにせ警察署乗っ取りの実行犯だ。やらかした事がヤバすぎるため、しばらくお天道様の下は歩けそうにない。
時々、場末のライブハウスでラップを磨く姿が目撃されるが、どうも上達はしていないとのことである。
そして、五大人カソは
コハク・ソーロッドの口利きがあって、万勇拳の一員となった。
経理と広報の担当となって、万勇拳のレッスンDVDや特製グッズを公園の前で売っている。
「なんでワタシがこんな糞みたいな仕事をしなきゃならないアル……!」
ブツブツ文句を言いながら、いつか復権する日を夢見ているようだ。
とまぁジャブラと五大人の顛末はこんな感じだが、我々は何かひとつ、大事なことを忘れてはいないだろうか。
カソ、ラフレシアン、M.C.バンフー、カラクル・シーカー、五大人なのに四人しかいない。
さて、残る一人はと言うと……。
黒楼館道場。
あれから封鎖され、KEEP OUTのテープが張り巡らされた道場の跡地に一人の男が訪ねてきた。
その眼光は鋭く獅子の如し、前に立つ者に死の予感を与える闘気を纏う、サソリのように冷徹な殺人機械だ。
彼こそ黒楼館五大人最後の一人にして、五大人最強の男
『九連宝燈拳』の達人
チョンボ。
その技を見たものは必ず死ぬ、よってどんな技なのか誰も知らない。それが幻の暗殺拳、九連宝燈拳なのだ。
自他共に認める実力者なのだが、
尋常じゃなく時間にルーズと言う社会人として最低の悪癖の持ち主でもある。
「皆、どこだ……?」
荒廃した道場に、ひゅうと風が吹きすさぶ。
そして、万勇拳は今日も空京中華街公園で修行に励んでいる。
前とちょっと違うのは、たくさんの仲間がいること。優子の映画のおかけで、入門希望者がグッと増えたそうだ。
それと警察署を救った功績が表彰されたのも大きい。署長直々に公園での営業許可も貰えたのだ。
ミャオ老師も無事退院して、愛美に激を飛ばしたり、新人の指導に毎日楽しそう。
「こら、愛美。イケメンが通ったからって余所見をするでない。そんなことでは上達せんぞ」
「だってぇ、もしかしたら運命の人かもしれないし……」
「一番弟子が修行もせんで遊んでばかりなのじゃから、お前にはしっかりしてもらわんと示しがつかぬのじゃ」
「真面目にやってるよー」
そんな様子をマリエルはベンチでニコニコ見ている。
天上天下天地無双。疾風迅雷にして驚天動地の必殺拳。
はるか遠方コンロンは天宝陵に知る人ぞ知る奥義を修めし拳技『万勇拳(ばんゆうけん)』あり。
寂しき時流の最中、一時はその系譜途絶えかけるも、はるか彼方、シャンバラの地に万勇の志見つけたり。
伝説は尚も続く。
劇終
マスターの梅村象山です。
本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございます。
カンフーキャンペーンと言うこころみでしたが、楽しんで頂けたのなら、マスターとしてとても嬉しいです。
実は元々、この小谷愛美のドラゴンシリーズは、キャラクエ内で完結させるつもりだったものです。
以前からちょくちょく、カンフー風タイトルのマナミンキャラクエを出してましたが、
途中から、マナミンがクラスチェンジしても面白いかも、カンフー活劇って結構盛り上がるかも、と構想が膨らみ、
更に『燃えよドラゴン』や『プロジェクトA』等の映画を観て、超個人的なカンフーブームが到来した事もあって、
シリーズシナリオと言うかたちで、展開することになりました。
さて、登場人物についてですが、ミャオ老師は最初、人間のおじいさんにする予定でした。
なのですが、おじいさんに皆さんが興味持ってくれるのかな……と考えたところ、ちょっと厳しいかも……。
と、一抹の不安がよぎったので、愛着の枠存在にしようとした結果、今の猫先生になった次第です。
まぁでも劇中で猫っぽい感じあったか、と言うと大してなかったりするんですけどね(笑
ちなみに老師の名前は香港映画のある女優さんの名前から頂いています。
初めてこの女優さんの名前を知った時は、こんなにも猫丸出しな名前があるのか、とビックリしました。
それとPLさんの中には気付かれている人もいらっしゃいましたが、
実は流派『万勇拳』は、以前担当させて頂いたナラカエクスプレスシリーズとちょっとした関係があるんです。
ナラカに登場した奈落人ハヌマーンも、老師も同じ『壊人拳』と言う必殺技を使うんですね。
武芸の聖地、天宝陵を拓いた『拳祖』とはつまり、数千年前にナラカに落ちたハヌマーンのことです。
ただ、ハヌマーンのほうは未完成、老師のほうは完成形と言う設定になっています。
ハヌマーンの没後数千年の間に、万勇拳が生まれ、遺された技を完成させた……と言う流れがあるわけですね。
それから黒楼館側のNPCについて。
実は最初、ジャブラ・ポーはパンダの獣人にする予定でした。だってカンフーと言えばパンダですから。
けれど、せっかく色んなキャラが出るからなるべく種族を被らせたくないなってことで、
ゆる族に変更。
↓
ゆる族なら光学迷彩使えるしカメレオンとかいいかも。
↓
魔獣の動きをコピーして使う象形拳とかカメレオンっぽくていいな。
と言う経緯があって、カメレオン型ゆる族の象形拳の達人となったわけです。
なので、このジャブラ・ポーという名前はパンダ設定の時の名残なんですね。
カンフーなパンダの名前と、そのカンフーなパンダに声を当てた俳優をご存知ならピンと来るんではないでしょうか。
そして五大人ですが、カソは賑やかし役で作ったNPCです。
と言うのも、マリエルが敵側になると、敵がジャブラ+五大人+マリエルとなってしまって、多過ぎるな、と。
なので非戦闘員の賑やかし、とりわけ覇王マリエルの凄さをアピールする存在として配置しました。
ラフレシアンは最初の敵として作ったNPCなので、性格も能力もマイルドな仕上がりになっています。
第一回から登場するNPCなので関係性次第では仲間になる余地を残してありましたが、
上手くその辺りを活用してくださるアクションもあって、ラフレシアンは奇麗に活躍出来たNPCだと思います。
カラクル・シーカーはなんかわたしが当初思い描いてた方向から大分路線が変更したNPCです(笑
その辺りの事は前回のマスコメに書きましたが、こんなにも変なNPCになるとは思ってませんでした。
本当はおっきな電気屋とかで家電バトルみたいな、まぁまぁ正統派なアクションシーンも考えてたんですけどね。
ともあれ、このクリエイティブRPGと言うシステムの面白さが一番出たNPCだったんじゃないでしょうか。
それから、M.C.バンフーですね。
これはよくある、梅村の中で今流行ってるものをシナリオにフィードバックしてしまった典型です。
と言っても、別にHip-Hopにハマってるわけでなく、サイタマノラッパーと言う映画の影響で誕生したものです。
ちょうど映画の3が始まる時期だったので、つい。
Hip-Hop自体は未だによくわからないです。
梅村がHip-Hopにハマるまで、バンフーのラップスキルも上達することはないでしょうね、きっと。
最後に、ええと、ラストシーンでちょっと出て来たチョンボ。
黒楼館ではジャブラに次ぐ実力者なのだけど、時間にルーズ過ぎて常に戦いに間に合わないNPCです。
今後出てくる事はなさそうですが、もし、出て来たとしてもまた間に合わないと思います(笑
次回シナリオガイドの公開日はまだ未定ですが、事前にマスターページで告知出来たらいいな、と思ってます。