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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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「皆さん、遅くなりました! 只今到着です!!」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)を始め、沢渡 真言(さわたり・まこと)終夏高峰 結和(たかみね・ゆうわ)土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)とパートナーたち、『サークル炎塊』を手に入れた者たちが下層部、『炎龍レンファス』を間近に臨む場所に到着する。

「グワアアアァァァ!!」

 瞬間、レンファスが一際激しい咆哮を上げ、全方位に炎を放ち始める。
「この反応……やはりこの『サークル炎塊』は炎龍に通ずる物……炎龍の一部であると見ていいでしょう」
 結和と共に『サークル炎塊』を運んでいたシュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が、自身が解析した推測を口にする。そして真言、サラマンディア・ヴォルテール(さらまんでぃあ・う゛ぉるてーる)が望んでいた『サークル炎塊をレンファスに返してあげたい』という策が、この事態を解決する一番の策ではないかという結論に至る。
「……皆さん、セラはこのサークル炎塊をレンファスの元へ返すことが、レンファスを鎮める唯一の方法ではないかと思います。
 今からそのための準備を行いたいと思うのですが、協力してもらえますでしょうか」
 セラの言葉に、元々そのつもりだった真言とサラマンディア、そして他の者たちも反対意見を出すことなく、協力を約束する。
「ではまず、皆さんのサークル炎塊をこちらへ」
 受け取った3つと合わせ、4つのサークル炎塊を漂わせたセラが何かを呟けば、くるくると回りながら徐々に4つの炎塊が近付いていき、やがて1つに重なり合う。
「後はこの炎塊に、『想い』を込めてください。強く念じれば念じるほど、レンファスに想いは届くはずです。
 結和ちゃん、これはあなたが持っていてください」
「え、えええ!? わ、私がですか!?」
 突然の大役を任された結和が、ひどく慌てた声を発する。――でも、ここまで来てしまった以上、迷ってなんかいられない。
(それに……私も、もしレンファスさんが苦しんでいるなら……助けてあげたい)
 拳を握り、力を込め、結和が表情を引き締めて告げる。
「……分かりました。その役目、私にやらせてください」
「ありがとうございます。炎塊の維持はセラが……いえ、この魔導書【セラエノ断章】が全力で行い確立させます。
 結和ちゃんはただ一途に、『炎龍レンファス』へのメッセージを思い続けて下さい。
 周りは気にせず、心を落ち着け、ただ一途に」
「周りは気にせず、心を落ち着け、ただ一途に……分かりました」
 かざした両手の上に、人の頭くらいの大きさになったサークル炎塊が据えられる。結和は目を瞑り、頭にイメージを思い描く。
 ――自分たちの思いが、魔力が、サークル炎塊を通じてレンファスさんに通じることを。

(私は……私たちは、レンファスさん、あなたをただ傷つけようというつもりはありません。
 ただ、イルミンスールを、イナテミスを……そしてあなたを、救いたくて、護ろうとしているんです。

(私はただ、あなたと触れ合いたい。お話をしたい。あなたのことを知りたい。
 そうしてお友達になって、できることなら大切だと思える……仲間に、なりたいんです)

(あなたが正に今、何かに苦しめられているのなら……私たちもお力になります。
 だからどうか、少しで良い、力を鎮めてください。きっと、あなたを縛る物を解き放ちますっ)


「サークル炎塊の利用法が決まったようですね!
 では桜華さん、エメリヤンさん、私達は皆さんを護る盾となりましょうか!」
 背後で行われたやり取りを見届け、ルイがエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)深澄 桜華(みすみ・おうか)に呼びかける。
「まったく、わし、なんでこんなに頑張っているのじゃろうな。ただ冷たく美味しい酒が飲みたいだけなのにのぅ……。
 まぁ、時には「頑張る」というのも悪くは無いか。では、本気で行くかね! あ、ルイ、帰ったら美味い酒を奢ってもらうつもりじゃから、忘れるなよ?」
「…………」(火傷って痕になりやすいんでしょ? 結和も、無茶ばっかりしないで欲しいよねっ。
 ……僕が護るんだって、信頼してくれてるのかもしれないけど。それにもちろん絶対護るんだけど!)
 愚痴が飛んできたり無言だったりしつつも、二人共ルイの言葉に応えるように戦闘の準備を完了させる。
「護る闘いこそ身体を鍛え続けた意味があるというものです!
 無傷で済むなど決して思いません! むしろ傷は大切な人達を護った証として誇ります!」
 誇り高く告げたルイへ、その覚悟を試すが如くレンファスが炎を浴びせる。
「ぬうううぅぅぅん!!」
 眼前に迫る炎へ一歩も退かず、ルイは構えから渾身の一撃を振るって炎をかき消す。拳も肉体も炎に焼かれるが、覚悟を決めた心は決して燃え尽きない。
「気力・体力十分! 最初から最後まで、全力でGO!」
 立ちはだかるルイへ、今度は無数の溶岩が降り注ぐ。あまりの数にルイ一人では対処しきれなかったが、そこはエメリヤンと桜華の存在がある。まずエメリヤンが重力に働きかけ、飛んで来た溶岩が後方の結和たちに行かないよう地面に落とす。落とされてもなお動く液体状の溶岩や、重力の影響を免れたものに対しては、宙を駆けるようにエメリヤンが飛び上がりながら、冷気を纏った武器で切り刻んで灰にしてしまう。桜華も同様に、冷気を纏った刀で溶岩を一度、二度と斬り、細かく裁断してしまう。


「サークル炎塊の使い道、決まったよ! 今届けるから、それまで大人しくしてほしいかな!」
 終夏が炎龍レンファスに呼びかけるも、声は全く届いていない様子で、攻撃を繰り返す。
「話を聞いてくれる余地がないぎゃー。誇り高い生き物である龍がこれほど取り乱すのには、それなりの理由があるはずだぎゃー」
 パラサ・パックの言葉に、終夏も不思議に思う点があったことを思い出す。想いが届けば、それも知ることが出来るだろうか。
「となりの、気になるならサークル炎塊に想いを込めてみよう。想いが届けば、私達の疑問に答えてくれると思う」
「それもそうだぎゃー。想いパワーを充填させるだぎゃー」
 二人が頷き、結和の元へ戻る。そこでは先に真言とティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)が、サークル炎塊へ想いを込めていた。
(炎龍レンファス、あなたという存在はこの地に災厄をもたらすためのものとは思っていません。この地に宿る力が形に現れたのでは、私はそう思います。
 そうであるなら、私はあなたと共存できる道を探したいのです。きっとあなたが今こうして現れたのは、いろんな思惑のせいだったとしても、あなたの力が必要だからでしょうから)

「うぅ、お、重いです……。これが、皆さんの想いなんですねっ」
 両手を震わせ、感じる重みに想いの強さというものを実感した結和が、正常になってほしいという願いを込めて最後に癒しの力を込める。
「完成です……後はこれを……そうですね、あの穴へ放り込めばきっと届くでしょう」
 セラが示した先、先に契約者の攻撃で開いた穴が見える。中で滾る溶岩が人で言う所の筋肉や血液と考えるなら、内部に直接注ぎ入れるイメージになるだろう。
「その役目、あたしとサラマンディアに任せてくれないか? 皆の想いが篭ったサークル炎塊、必ずレンファスに送り届ける」
 雲雀とサラマンディアが進み出、運搬役を申し出る。既にサラにはサラマンディアから事の経緯を伝え、「運ぶ時には私の力を少しでも届けられるように手配しよう」という言葉をもらっていた。同じ炎熱の精霊であることから伝えられる力があるのだろう。
「ええ、お願いします。危険が予想されます、くれぐれも注意を」
「お、お願いします……」
 結和からサークル炎塊を受け取ったサラマンディアは、同時にこれまで感じたこともない炎の力の高まりを感じる。サラと会った時に渡されたリングが明滅していた。
「これが精霊長の力か……確かに受け取った。サークル炎塊は、レンファスの命は……必ず、届ける!」
 絶対の決意を秘め、雲雀が操縦する箒にサラマンディアも乗り、レンファスの元へ飛ぶ。飛び上がってすぐ、多くのマグマフィーチャーが進路を塞ぐように立ちはだかるが、契約者やイコン部隊がその都度攻撃を見舞い、マグマフィーチャーを散らしていく。
「可能な限り速度を上げろ、雲雀! で、俺が合図したら降ろせ! 後は俺がこいつをレンファスへ届ける!」
「本当に大丈夫かよ、サラマンディア! お前一人で――」
「俺は炎熱の精霊だぜ? 炎如きで死ぬようなタマしてねぇ。それよりお前の方が心配なんだよ俺は。暑さでヘバる前にとっとと退散しな」
「な――そ、そこまで言うんだったら勝手にしろよな!」
 心配されていることが恥ずかしくて、雲雀はぶっきらぼうな口調で答え、速度を可能な限り上げる。周りの仲間が援護してくれるおかげで、雲雀は他に力を使う必要がなく運転に集中出来た。
「……よし、今だ!」
 合図を受け、雲雀が箒に急ブレーキをかけつつ、サラマンディアを振り落とす勢いで方向転換する。箒から飛び出したサラマンディアは一直線に、穴の方向へ飛んでいく。
「さあ、受け取れレンファス! お前の――命だ!」
 絶対外さないという位置まで近付き、サラマンディアがサークル炎塊を手放す。そして、炎塊が穴に放り込まれた直後――。

「グワアアアァァァ!!」
「う、うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 レンファスが咆哮をあげ、まるで引き寄せられるように、サラマンディアが穴へ吸い込まれる。
「お、おい! サラマンディア! サラマンディア!!」
 雲雀の目の前で、サラマンディアの身体が穴の中へ取り込まれる。それからいくら待っても、サラマンディアが出てくる気配はない。
「……ふざけんなよ! 届けたらちゃんと帰って来いよ! 片道切符なんてあたしは許さないからな!!
 おい! 聞いてんのかよ、おい!」
 雲雀の叫びに、返って来たのはレンファスの咆哮だけだった――。