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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

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●イルミンスール:救護室

「……ん……」
「おぉ、起きたか。気分はどうじゃ?」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が目を覚ますと、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の顔があった。
「……ぐー……」
「寝るでないっ!」
 すぱーん、小気味良い音が炸裂する。
「いってぇ! つうか大ババ様、俺の光条兵器勝手に使うなよー。これ持ち主しか使えない決まりじゃなかったっけ?」
「ふん、私は五千年以上生きとるんじゃ、それくらい出来たって問題なかろ。
 よいか、おまえとヨン、それにピヨはイルミンスール地下で何者かに襲われたのじゃ。覚えとるか?」
「…………ぐーーー…………」
「だから寝るでないっ!!」
 すぱぱーん、再び小気味良い音が二重に炸裂する。
「いいっってぇぇ!! ふ、二つになってる!?」
「私は五千年――以下略じゃ! それだけ元気なら問題ないな、おまえの知ってることを洗いざらい吐いてもらうぞ!」
「あ〜れ〜おたすけ〜」

●イルミンスール:校長室

 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)、それに集まった契約者たちの前にヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)ジャイアントピヨと共に連れて来られたアキラは、イルミンスール地下に入ってから襲われるまでの出来事を話す。
「あなたを襲った相手の特徴とか、顔とかは分かりますかぁ?」
「あーっと、その辺が曖昧なんだよな。うーんうーん……あ、でも似顔絵なら描けるかも!」
 ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)からスケッチブックを渡されたアキラが、しばらく一心不乱にスケッチを続ける。
「できた!」
 視線が集まる中、完成したスケッチを見せる。そこに描かれていたのは『目が3つくらいあって、ツノがはえてて、口が耳まで裂けてて、牙が生えてて、腕が4本くらいあって、いかつい羽が生えてたりする、『どうみてもエリザベートです本当にありがとうございました』(これは文字で書いてあった)』。
「これ、私じゃないですかぁ!」
「あっ、本当だ! 描いてる時からどうも見たことあるなーって思ってたんだよなー。やっぱりオメーが犯人か!」
 ビシッ、と指を差されたエリザベートが不敵に笑い、髪を逆立てながら立ち上がる。
「バレてしまっては仕方ないですねぇ……。って、いつまでこんなことさせるですかぁ!
 私を勝手に化物扱いして、
ぶっころしてやるですぅ!
「ちょ、ノって来たのはそっちだろ、って女の子が野蛮な言葉使っちゃいけません――ギャーーー!!
 た、助けてミーミルぅ!!」


 ――しばらくお待ちください――


「……ふむ、つまり話をまとめると、不審者は少女の姿をしていて、突然腕が根か枝のように変わって絞め落とされた、と」
 行動不能に陥った(今はミーミルに看病されている)アキラに代わり、ヨンとピヨが覚えていることを伝え、アーデルハイトがまとめる。
「不審者はイコンクラスを打ち倒す力を有しておる。イルミンスールが気付かないはずはないが、それに関しては何も言って来なかったのじゃな?」
 アーデルハイトの問いに、エリザベートが首を縦に振る。
「そして不審者の方も、アキラたちを行動不能にさせた後は何もしなかった。イルミンスールに危害を加える存在ではないようじゃ。地下に向かう者たちはその点留意し、事に当たってくれ。夜も深いが、吉報を期待しておるぞ」
 契約者たちが頷き、それぞれ散っていく。
「ではアキラさん、行って来ますね。すみませんミーミルさん、アキラさんをお願いします」
 ピヨの背というか頭に乗り、ヨンが他の契約者と共に地下へ向かう。
「うーんうーん……目が3つくらいあって、ツノがはえてて、口が耳まで裂けてて、牙が生えてて、腕が4本くらいあって、いかつい羽が生えてたりする化け物がぁ……」
 うなされるアキラ、今頃彼は夢の中で自らデザインした化け物に追われていることだろう……。


 契約者をイルミンスール地下へ送り届けたエリザベートが戻って来ると、校長室の様子に一部変化が見られていた。
「お帰り。ちょっと場所、借りてるわよ」
 一旦顔を上げた御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が、また端末へと視線を戻す。時折キーボードを操作する手の動きは、常人のそれを遥かに凌駕していた。
「よくそんなに手を動かせますねぇ。疲れませんかぁ?」
「コツを掴めば、それほどでもないわよ。私の場合、こうしてることで何となく力を取り戻せてるような気がするから、ってのもあるわね」
 手の運動は脳にも刺激を与えることは知られているが、環菜の場合それが失われた力をほんの少しだけ回復させることに繋がっているのかもしれない。
「……出来たわ。地下に行った生徒の情報を集め、捜索済場所を排除しつつ重点捜索ポイントを絞り込む。そこからさらにリアルタイムでの調査・捜索の成果情報を集約し、侵入者の居所を特定する。
 この程度なら、手持ちの機材で十分組めるわね」
 自作したプログラムを走らせ、ふぅ、と環菜が一息つく。
「は〜、私には全然分かりませぇん。どうしてあんな文字の羅列がこんなことになるのか、さっぱりですぅ」
「そんな事言ったら、私には魔法なんてさっぱりよ。どうして言葉を呟くだけで自然現象が生じるのよ、意味不明だわ」
 二人がそれぞれ言葉を発して、互いに顔を見合わせて、ぷっ、と吹き出す。
「分からないことだらけですねぇ」
「いいんじゃない? そんなものよ」
「カンナ、それ年寄り臭いですよぅ?」
「……エリザベートにだけは言われたくないわね。歳と経験を重ねた者の発言よ」
「そういうことにしておくですぅ。はぁ、テレポート使ったらお腹空きましたぁ。なんだかいい匂いがしますぅ!」
 匂いの元へ駆け出すエリザベート、そこではノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がお茶菓子と紅茶を用意し、お茶会の準備を整えていた。
「もう……そういう所は相変わらずね」
 呆れたような物言いでありながらどこか楽しげな様子で、環菜は監視モードをオートに切り替えると、席を立ってお茶会の場へと向かう。

「環菜、とても生き生きとしていますわ。陽太の出番は今日はお預けですわね」
 環菜と陽太の護衛を務めていたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が、機材運びなどの仕事を終えて暇を持て余していた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に話しかける。
「決して口には出しませんが、環菜もエリザベート校長たちの手助けをしたい様子ですし、俺も異存はありません。
 何より、環菜が生き生きと活躍しているのを見るのは、俺も嬉しいですから」
 心の底からそう思っている、そう感じさせる陽太の言葉に、エリシアはフッ、と笑みを浮かべる。
「……であるからこその、イチャイチャっぷり、ですわね」
「? 何か言いましたか?」
「いいえ、何も。さ、陽太もお茶会へ行って来なさいな」
 とん、と背中を押して送り出すエリシアへ、「後で交代しましょう」と告げて、陽太もお茶会の席へ向かう。
「ふふ。相変わらず、ですわね」
 再び口元に笑みを浮かべ、エリシアが護衛の任を全うすべく精神を集中させる。


「先程のアーデルさんの要約、流石でした。やっぱり、こうして精力的に働いているのがアーデルさんらしくて素敵ですね」
「なんじゃ、褒めても何も出んぞ。ま、分からん解らんと続いとったし、少しは汚名返上出来たかの」
 やや自嘲気味に言ったアーデルハイトへ、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)がその発言を否定する意味で言葉を紡ぐ。
「たとえ解っていなくてもそんな素振りは見せず、可能な限り頭を働かせて対処を講じてドーンと構える、それでこそですよ。
 色々とありましたけど、こうしてアーデルさんが戻ってくれているからこそ、イルミンスールに協力してくれる方々が危険な場所にも余裕を持って向かえているんだと思います。
 そのようなことは口にせず、自信を持って下さい!」
 言った後で、ザカコがあっ、と自らの発言を恥じるかのように肩をひそめ、付け加える。
「口幅ったい事を言ってしまいましたね、すみません」
「いいや。私を心から気遣っての発言であることは十分伝わっておる。そのどこか生意気と言えるか。
 ……ありがとう」
 しばらくの間、こそばゆい沈黙の時間が続いた後、ザカコがイルミンスール地下の侵入者について話を振る。
「遭遇した生徒がやられましたが、その気になれば重傷を負わせる事も出来た筈なのにそれをしなかった。特に根の付近に悪さがされた様子もありませんし、イルミンスールが黙っている所を見るに、単純に害を成す存在とも言えませんね」
「そうじゃな。目的が何か、それを知る必要があるじゃろうな」
 ザカコがそうですね、と口にした所で、『煉獄の牢』方面から一つの情報がもたらされる。それに素早く目を通したアーデルハイトが眉をひそめるのを認めたザカコは、何かあったのかと尋ねる。
「魔法薬を運搬しておった者が、同じ契約者に襲われたようじゃ。薬を狙っての犯行じゃろうからすぐにこちらに向かってくることはないじゃろうが、対策を講じねばならんな。
 ザカコ、おまえにも手伝ってもらうぞ」
「はい! 何なりと言ってください、アーデルさん」
 どこか嬉しそうに、ザカコがアーデルハイトのサポートに回る。


「結局の所、余所から来た“誰か”がこの地下にいるってこと?」
 ノーンの問いに、ミーミルがそうですね、と答える。
「精霊、という可能性はありますか?」
「うーん……精霊……じゃないみたい。なんかこう、ぴーん、ってこないから」
 ノーンが口にする、こういう時のノーンの発言は、だいたいハズレがない。侵入者が精霊である可能性はとりあえず無視してよさそうであった。
「案外、お仲間さんかもしれませんねぇ。イルミンスールが黙ってるってことは」
「仲間って……えっと、少女の姿をした世界樹ですか? まさかそんな――」
「それだ! そうだよ、俺世界樹が擬人化したモンだと思ってたんだ――」
 突然ミーミルの膝からガバッ、と起き上がったアキラがそこまで口にした所で、エリザベートが手にしたハリセンで再び膝の上に落とされる。
「あなたはもう黙ってろですぅ」
「だから、俺の光条兵器勝手に使うなっつうの……」
 言い残し、アキラが再び夢の世界へ落ちる。

 ……さて、実際の所侵入者の素性はいかほどだろうか。
 地下に向かった者たちの様子を追っていこう。