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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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●天秤世界:うさみん星

「お姉ちゃんとティナさん、まだなの? 早く地下洞窟さん探検するの!」
「もう少しで来ますからぁ、待っててくださいねぇ」
 今すぐにでも『深峰の迷宮』探検に行きたがる及川 翠(おいかわ・みどり)を、スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)が翠が飛び出してしまわないようになだめる。その頃、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)はというと。

「私達もその、深峰の迷宮の調査に同行してほしい、ですか」
 『うさみん族』の今のリーダー、リンセンがミリアとティナの要望を聞いて思案する。
「その迷宮は多分、かなりの広さがあるはず。私達はこの辺りに詳しくない、だからリンセンさんとテューイさんに来てもらえたら探索もはかどると思うの。他のうさみんさんも来てくれたら、いつでももふもふできるし」
「私からもお願いっ! みんなの事は私達で、危ないことがないように守ってあげるから。……その代わりちょーっとだけ、もふもふさせてくれたら嬉しいな……」
「あんたたち、心の声がだだもれなんだけど、わざとやってない?
 それはともかく、どうする、リンセン? あたしは、協力してもいいかなと思うの。あたし達は今までずっとこうして、地下で静かに暮らしていた。でもそれは元からそうだった訳じゃない、望んでこうしたわけじゃない。あたし達だって外に出て思い切り遊びたいもの。もしこのえっと、なんとかかんとかを調べた先に何かあるんだったら、あたしはそれを見てみたいな。他の子もきっと、知りたいと思うよ。ここから出ることが出来るのかって」
 テューイの言葉に、リンセンが少し考えて、自分の思いを口にする。
「……そう、ですね。私もテューイの言う思いがない、とは言えません。結果として現状を変える術がなかったとしても、そうだと知ることが出来たなら、私達の一つの成果として残ります。
 ミリアさん、ティナさん。私達は私とテューイ以外はあなた方のような特別な力のない者ばかりです。それでも、皆さんの調査に同行することを許してくださいますか?」
 リンセンの言葉に、ミリアとティナは顔を見合わせ、笑顔で答える。
「許すも何も、私達からお願いしたんだもの。
 任せて、二人やうさみんさんの事は私達が守るわ」

 こうして、一行はリンセンとテューイ、他に同行を願い出たうさみん達を連れ、二つある入り口のうちの一つ、地図で言う所の【1a】から中へと入っていく。

●天秤世界:深峰の迷宮【A2c】

「♪〜♪〜♪ どんどん埋まってくの。楽しいの!」
 HCに読み込んであった地図がどんどんマッピングされていくのを、翠が楽しげに見つめていた。地図によると、今自分たちが居る場所は大きく【A】と割り振られ、Aというフロアは16の区画に別れているようであった。
「ここまでは順調ですねぇ。ちょっと順調すぎて怖い感じがしますぅ」
「そうですね……聞けばデュプリケーターを束ねるルピナスという方は用意周到な方であると。私達がこうして探索に出たことも既に知っていて、対応策を用意しているのではないでしょうか」
 リンセンが言った矢先、その言葉に答えるように現れたのは、これまで時折道を塞いでいた粘性の生物のようなものではなく、しっかりと人の姿を取ったデュプリケーターだった。彼らはそれぞれ剣と槍、弓に杖のようなものを持ち、剣使いと槍使いが前衛を、弓使いと杖使いは後衛から前衛を援護するという連携を見せながら一行に迫ってきた。
「みんな、お願いなのっ!」
 彼らに対抗するべく翠は、呼び寄せた従者を前衛に配置し、自身は光の閃刃でデュプリケーターを牽制する。
「リンセンさん、テューイさん、私達の後ろに!」
「分かりました。及ばずながら援護します」
「だんまくだんまくー!」
 ミリアとスノゥも召喚獣を呼び出し、攻撃と守りに用いながら詠唱を終えた魔法を繰り出す。そこにリンセンとテューイの弾幕――リンセンのは鋭い針のような細い弾が様々な角度から飛ぶもの、テューイのはお団子のような弾が弾みながら飛ぶもの――が襲いかかり、後方の援護虚しく剣使いと槍使いは巻き込まれて人の姿を無くし、粘性の液体状になる。
「この状態でもまだ生きてるのよね。止めをさしてあげるわ!」
 ティナの生み出したうねる炎がそれらを包み込み、跡形もなく焼き尽くす。弓使いと杖使いは戦況の不利を悟ったのか、戦線を離脱していた。
「勝利なの!」
「……気をつけてください、嫌な音を感じます。これは――」
 リンセンが皆に警告を発しようとした矢先、地面や壁、天井から次々と粘性の液体が染みだし、それは瞬く間に人の姿を取る。どうやらここはデュプリケーターの棲みかと表現すべきフロアであるようだった。
「ど、どうするの? こんなたくさんのデュプリケーター、相手出来ないよっ」
「マズイわね……逃げたいところだけど逃がしてくれそうにないわね」
 リンセンとテューイを守るように四方に布陣した翠たちを、ジリジリとデュプリケーターが包囲していく――

 直後、別の方角から放たれた魔力の奔流が、デュプリケーターを押し流していく。

「魔法少女に不可能はないっ!
 さあ、今すぐ流されたくなかったらここから出ていって!」

 魔法少女コスチュームの秋月 葵(あきづき・あおい)が射撃援護を行う中、前衛に躍り出た赤羽 美央(あかばね・みお)カヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)がそれぞれ槍と氷の剣でデュプリケーターを無力化していく。
「今のうちに皆さんは退いてください! ここは私達が引き受けます!」
「あ、ありがとう!
 みんな、行くわよ!」
 ミリアが礼を言い、一行はこの部屋を離脱する。後を追おうとしたデュプリケーターは葵の魔力砲撃に沈黙させられ、そして美央とカヤノがデュプリケーターの注目を一手に引き受ける。
「私、ちょっとカッコ良かったですかね?」
「なかなか決まってたと思うわよ。……ところで、ここからどうするの?」
「私に任せてください、カヤノさん。修行帰りの成果を、見せてあげます」
 カヤノに微笑み、美央が槍を構えて進み出る。迎撃しようと槍使いが応戦しかけたのを受け止め、弾き返す。
「素敵なパーティですね。前衛後衛きちんと分かれていて、見習いたいくらいです……ただ!」
 ビシッ、と美央が槍使いを指して言う。
「そこの槍使いさん! 持ち方がなってませんよ!
 だめです、それじゃ力が入りません!  もっと脇を締める!」
 突然そんなことを言われ、デュプリケーターは戸惑っているようにも見えた。
「んっと……口で説明しても分かりにくいですよね。じゃあこの剣使いさんでお手本です」
 言いながら、剣を振るってきた剣使いの攻撃を受け止め、弾いた美央が槍使いのお手本となるべく、槍を繰り出す。
「えっとですね、攻撃はこんな感じで……こうです!」
 美央の槍をもろに喰らった剣使いが、大きく吹き飛ばされ壁に激突する。
「どうですか、分かりましたか? ……あ、剣使いさんごめんなさい、大丈夫ですか?」
 美央が尋ねるも、既に剣使いは虫の息だった。
「……では、そろそろ本番いきましょう。カヤノさん、簡単な氷の防壁みたいなの、私の前にお願い出来ますか? 5秒くらい耐えられたらいいですから」
「分かったわ……って、いるの? ミオ、普通に攻撃受け止めてたじゃない」
「そこは気分の問題ですよっ。……さあいいでしょう、いつでもかかって来なさい」
 美央の言葉に、デュプリケーターが槍を繰り出す。美央の教えあってか槍は氷の壁を貫くが、その先に美央の姿はない。
「ここで……こうします!」
 美央の槍が地面を穿ち、生じた亀裂は槍使いの足元を襲う。
「地面を裂いて相手の構えさえ崩せば、こっちのモノです。
 そして、さっき命名した、雪だるま流槍術……ハッ!」
 舞い散る氷の破片を背負って、美央の槍が槍使いを襲う。体勢を崩された槍使いは対応できずに直撃を食らい、大きく後方に転がって沈黙する。
「……えっと、槍使いさんは生まれ変わったら精進するように!」
 槍をドン、とついて美央が高らかに言ってのける――。

「……うーん。どうすればいいんでしょうね、これ。放っときたいですけど、放っといたら絶対良くないですよね……」
 粘液状になったデュプリケーターを前に、美央が困った顔をする。美央の信条には不殺があり、それはデュプリケーターであっても変わらない。が、ここで放置して他の契約者やうさみん族に危害を加えられても困る。
「おーい、でろでろ、答えなさい! どうなんですか?」
 つつきながら美央が尋ねる、当然デュプリケーターは答えない。
「カヤノちゃん、何かいい案ないかな?」
「あたしに聞かれてもね……そうだ! これを使って穴を塞いじゃわない? デュプリケーターはここの穴から出てきたみたいだし、塞いどけば出てこなくなるわよ」
「おぉ、それはいい案ですね。早速やってしまいましょう。葵さんも手伝ってもらえますか」
「分かったよ〜♪」

 そうして、美央と葵、カヤノはデュプリケーターを使ってデュプリケーターの出現ポイントを塞ぐ。
 美央と葵が穴にデュプリケーターを入れ、カヤノが冷気を浴びせて凍らせることで、栓となって穴を塞ぐ。
「うわぁ、べとべとで気持ち悪い〜」
「決していい心地ではありませんね。葵さん、動き出すかもしれませんから十分気をつけてください」
「は〜い」

 こうして、デュプリケーターの出現ポイントの1つは潰されたのだった。