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リアクション
ブルニスの水量 残り45%
ファナティック、ファナティックの部下との戦いが激化していく中、もう一つの重要な懸案があった。
水中深くにある『幻惑の秘玉』。そこにあると言われる、『大切な力』。
飛空艇の重要な力と言われているこの力を発見すること。
決して軽視できないこの『大切な力』の発見・確保に乗り出したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
「そろそろ『幻惑の秘玉』だと思うけど」
小言を一つセレンが漏らす。その言葉は泡沫となって水中へ消える。
「巨大な生物が守護しているというのなら、見つけるのは難しくないでしょう」
セレアナの言葉通りだった。彼女らの前に現れた、クジラのような巨大生物。
その額には堅牢かつ傷だらけの一角がついていた。そしてその眼は、嫌に紅い。
「……そりゃ怒るわよね」
「さて、正面から二人でぶち当たって無事ですむ相手ではなさそうだけど、どうするの?」
セレアナの問いに、セレンは少し考える。
「ほう、我と一緒の考えのやつがいたかぁ。ルニ公はいねぇみてぇだが」
影のように現れたのはテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)に憑依しているマーツェカ・ヴェーツ(まーつぇか・う゛ぇーつ)。
その後ろからレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とミア・マハ(みあ・まは)も近づいてくる。
「あらら? ボクたちの他にも『大切な力』を探しにきてる人がいたんだ」
「ふむ。しかしあのクジラのようなの、怒っていそうじゃのう」
三人に話しかけるレキとミア。
「計五人ね。……なら、できるかもしれない」
セレンはずっと考えていた。守護をしている生物を殺さず、『大切な力』を手に入れる方法を。
しかし、二人では人数不足だった。けれど五人なら。
「私は歌う。私の攻撃は、歌よ」
「……歌ってどうなるってんだ? あいつの鼓膜でも破壊するってのか?」
セレンの唐突な言葉に不可思議そうな顔をしながらマーツェカが尋ねる。
「歌で、静める。そういうことかしら?」
「そう。そのためには歌を歌う人、歌う者を守る人、後は失敗したときの保険として隠密に行動して『大切な力』を発見、確保する人が必要だと思ってた」
セレンの考えに、誰も何も言わない。しばらくして、レキが口を開いた。
「うん、素敵な考えだね! それじゃボクとミアはを保険として隠密行動を担当するよ!」
「いざとなれば、歌い手を守る側に回ろう」
レキとミアが笑ってそう言う。
「なら、俺はあのデカブツの相手だ。歌なんざ、ガラじゃないからなぁ」
マーツェカが武器を構える。
「私も最初は、守護してる彼と踊りましょう。後で合流するわ」
「なら私は歌を。できるだけ、気持ちを乗せて歌うわ」
セレアナも薄く微笑んで、セレンが凛とした面構えで巨大生物をみやる。
「それじゃ先に行くね! ミア、行こう!」
「あまり大きな声を出すでない」
レキとミアが巨大生物を大きく迂回するように行動を開始。
「それじゃ即興のコンビだが、よろしく頼むぜ」
「ええ。お互い、愛想つかされないようにしなきゃね」
「ははっ、ちげーねぇ!」
軽快なやりとりを終えたマーツェカとセレアナが巨大生物の前へと躍り出る。
二人を視認した巨大生物は大きく口を開き、咆哮した。水中に激しい振動が暴れまわる。
「ぐぅ!? 咆えただけでこれかよ!」
「いつまでも咆えられていたら、セレンの歌が届かないわね」
セレアナが言った途端に咆哮がピタっと止まる。そして水が、巨大生物へと引き込まれていく。
「まさか……俺たちを口の中へ招待するつもりか!」
「これは、まずいわね。でも、セレンの方は集中してもう何をされても動じない」
三人だけではない。水流の変化により、先行していたレキとミアもうまく進行することできなくなっていた。
「か、体がもってかれる……!」
「この、ままでは、数分足らずで全滅、じゃのう」
戦闘開始から僅か数分、全員に訪れた平等な危機。
それを打破するべくマーツェカとセレアナが覚悟を決める。
「そんなに俺たちがくいてぇーってんなら……いいぜ、向ってやるよ!」
「はあ、伸るか反るかの賭け事はたまにでいいのだけれど」
セレアナとマーツェカが抵抗をやめ、巨大生物の口へと吸われていく。
瞬く間に距離は縮まり、二人はこのまま口の中へ入る、その瞬間。二人がお互いの身を思い切り弾き飛ばす。
二人の身は巨大生物の側面へと投げ飛ばされ、そのまま流れに身を任せて愛武器を体表へと走らせる。
「加減するから勘弁してくれよなぁ!」
「少しだけ、我慢してね」
二人から攻撃を受けた巨大生物はたまらず、吸い込みを止める。
突然の攻撃に身を捩り暴れようとする。が、それはレキによって打ち止められる。
「ごめんね。ちょっとだけ大人しくしててね」
【水龍の手裏剣】を尾ひれに命中させる。すると、命中した箇所が凍った。
尾ひれをうまく動かせない巨大生物の動きは成す術もなく止まる。
そして。
♪――――――――――――――♪
歌声が水中に響き渡る。空気中よりも早く、巨大生物の鼓膜を振るわせる。
セレンが歌う『幸せの歌』が巨大生物へと染み渡っていく。
(私たちは、敵じゃない。『大切な力』を、奪いにきたのでもない)
セレンの心中が歌を伝って巨大生物へと。
そしてセレアナも歌に加わる。二人の奏でる旋律は、優しく、暖かだった。
(ごめんね。我侭ばかり、本当に、ごめんね)
自分たちや天上人たちの行いのせいで、迷惑を被っていることに対して深い謝罪を。
その優しくも慈悲深い思いは、巨大生物へと届く。
『……ふむ。人魚とは違った、いい声じゃ』
「しゃ、しゃ、喋った!? クジラが喋った!?」
レキが思わず驚きの声をあげる。
『いやはや、よき歌じゃったよ。我が名は、ガーディ。お若いの、感謝するぞえ』
「ううん、人魚たちの歌と比べればお粗末なものでしょう?」
セレンが苦笑いをしながら頭をかく。しかし、ガーディはそう思っていなかった。
『荒削りだが、ほっとするような歌声じゃったよ。そう卑下するな』
「そうね。粗雑なセレンからしたら上出来だったと思うわ」
「粗雑って、まあ、そうなんだけどさ」
ガーディとセレアナに褒められて顔をほころばせるセレン。
一段落したところでレキがガーディに話しかける。
「ねぇ。『大切な力』のことなんだけど、私たちにはその力が必要で、だからその……」
『使いたいということか。よいじゃろう。わしはただこの辺を寝床にしてただけじゃし』
「……守護してたんじゃねぇのかよ?」
寝床発言にすかさずマーツェカが突っ込む。
『この辺は寝心地が良いからのう。近づくものには威嚇をしておったが、守護まではしておらんよ』
「……なんてオチだ。だが、寝心地がいいのもその『大切な力』のおかげかもしれないぜ?」
『そうならばちと残念じゃが、そこは歌のお礼ということでよいじゃろう。それよりもちぃと悪さをしてる奴等のところへ案内頼めるか?』
ガーディの急な申し出にセレンが答える。
「構わないけど、何かするの?」
『なあに。ちょいとお灸を据えにいくだけじゃよ、ハッハッハ!』
「何と言うか、食えないじじぃみたいな奴だな」
「奇遇ね。私もそう思っていたところよ」
五人はガーディの背に捕まり、ファナティックがいる場所へと引き返した。
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