薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【真相に至る深層】第一話 過去からの呼び声

リアクション公開中!

【真相に至る深層】第一話 過去からの呼び声

リアクション



6:呼び声に、目を覚ますもの



 契約者達が遺跡の調査を開始してから、数時間が経過した。

 情報の集約と整理の為に、定時連絡に合わせて一旦帰還した全員が、地図の前へと集合する。
 情報を求めてか、単に付き合いが良いのか、随分遠巻きではあるが、ハデスの姿もそこにある。ソレを認めて、ツライッツが立体プロジェクターを起動させ、理王の映像データや、方々から集められたデータを下に構築された3Dマップを映し出した。詳細な資料は各々の手元へ端末など媒介を使って共有しつつ「それでは、簡単に説明します」とツライッツは口を開いた。

「まず、判明した遺跡の立地についてですが、土壌の調査、発見された紋章や文献から、この都市が龍の背中の上へ作られた都市である、と推測されます。何故そんな場所に作られたかについてはまだ判りませんが……皆さんの過去の記憶の報告から、現状、この街を包んでいる空気の膜は、龍の力によるものではないかと思われます。ちなみに、この空気の層は都市の復元と共に徐々に広がっていますので、塔が完全に復活した際、その高さまで広がるものと予想されます。
 尚、かつみさんが見つけた資料から興味深い文献も見つかりました。
『――幾星霜の果てども 還り行くのは御許のみ 再の逢瀬を契とし 共に還らん――』
 これはクローディスさんとディミトリアスさんの意見ですが、巫女が自身の転生を龍へと約束した歌であり、共に還る、というのは大地の流れへ還ろう、という風にも捉えられることから、一種の心中めいた契約を交わしたことを示しているのではないか、ということです。

 次に都市の構造ですが、円形状の都市は四方へ伸びる大通りを区の中心として、東西南北の四つの区に分かれています。北に黄族、東に紅族、西に蒼族と分かれ、最後のひとつは一族の区切りがなく、貴族の従者の住まいや、貧民街のような場所であったようです。
 東西二つの区画の最外端には紅の塔、蒼の塔と呼ばれた塔があり、現在は殆どが復元を遂げているようで、両共起動状態にあることが確認されていますが、その使用法についてはまだ不明です。
 大通りを含め、街全体に通る石畳の道に刻まれていた紋様は、この二つの塔と中央の神殿を繋ぎ、都市全体へと何らかの力を伝わらせて、生活等の用途に使われていたようです。現在も僅かながらその力の流れが確認されています。
 神殿の方は、その内部構造や魔法陣等の性質から、巨大な増幅装置として作られたのではないかと推測されます。当時の記録から考えると、龍を慰める巫女の歌が、その対象でしょう。
 尚、シリウスさんの調べで、神殿最上階には魔法陣に干渉するもうひとつの起点が存在したことが確認できました。恐らく、用途ごとに使い分けられていたのではないかと思いますが、具体的にどんな用途かはまだはっきりしていません。

 都市全体では、何らかの戦闘が行われた形跡が発見されました。規模はそれなりに大きかったようですが、事前に撮影した実際の崩壊の状態から、都市の壊滅は一瞬だったと見られるため、天災等による可能性が高く、直接的な原因ではないと思われます。関連性については、現在まだ判明していません」

 そこでひとつ息を切ったツライッツに、コンナンドと呼ばれた男性がガシャガシャと床に武器らしき者を並べた。北都たちが見つけたそれらを、回収してきたらしい。
「此方も一通り調査してみましたが、当時の戦士職の方々の使っていた武器のようです。かつてディミトリアスさんたちの一族を滅ぼした物と似た紋章がありますが、関連性は今のところ確認できません。
 現在その殆どが復元を完了しており、例の石畳の紋様の力が、この武器へ干渉しているようです。ただ、持ち主を選ぶのか、持つことは出来ても扱える方は限られるようですね」
 どうやら見つかった石盤や、塔の稼動などについても同様に、それを扱える人間は限られているらしい。そう説明して、ツライッツは「半魚人たちについてですが」と続けた。

「半魚人たちは、生殖能力の無い個体のようで、当時この遺跡を闊歩していた者達がそのまま復活した、と考えた方が良さそうです。ちなみに回収された武器も確認しましたが、リナリエッタさんのサイコメトリ等の調査の結果、こちらに並んだ武器と同じく当時のもので、新しく生産されたもではないことが判っています。 彼らは生命の形はしていますが、自然発生的な現象に近い存在、或いは「何かしらの邪悪な存在」に作られた眷族……と考えた方が近いかもしれません。 それを裏付ける情報として、鉄心さんたちによって、彼らに「主」が存在しているということを確認出来ています。ただそれがどんな存在なのかまでは、特定できていません」

 そこまでの説明で「じゃあ」と何人かが難しい顔をした。
「ディミトリアスに接触してる「何か」はその主ってことか?」
 その問いには、ツライッツは首を振った。
「今の情報では、結論を出すのは難しいですね」
 現時点でその「主」がどんな存在かは判っていない。それに、と天音も首を捻った。
「今まで見てきた夢が、この状況に無関係でないのなら……“龍”である可能性も高いからね」
 判っているのは、その存在は封じられているということ、そしてその「復活」が龍脈の破壊に繋がるということだけだ。半魚人の主が都市を破壊するからそうなるのか、或いは龍脈そのものともいえる龍の復活が、結果そうなるのかもはっきりしない。
「どちらが封じられているにせよ……「現在の私たち」にとって危険なのは間違い無さそうですわね」
 鈴が難しい顔で言った。少なくとも過去の全ての住人を滅ぼし都市を破壊した存在が封じられているのは確実だ。そして「龍」そして半魚人たちの「主」がどちらか、あるいは両方が関係していることも間違いない。三人の長達の内の、誰の思惑が勝り、そして結果的に何が起こって都市は壊滅したのか、そして何故今になって遺跡は動き出したのか――その答えが過去にある、と契約者達はおぼろげながら確信があった。
「兎も角、もう少しキーワードを集めてからでないと……」
 結論は出ませんね、と小次郎がそう言いかけた、その時だ。

「……ディミトリアス?」

 強張ったクローディスの声が、一同を振り返らせた。
「なんだ、あの光……」
 その視線の先では、氷の壁の向こうで黒い光がディミトリアスの腕に絡みついているのが見えた。魔力の結界が効いているのだろう、それは纏わりつくばかりでしかなかったが、不意にその腕がクローディスに向かってゆっくりと伸び、二人を隔てる氷をなぞりなりながら開かれたディミトリアスの口から漏れたのは、幾つもの音が混じった不思議な声色をしていた。
『何故……裏切った?』
 その言葉に、皆が目を瞬かせる間にも、ディミトリアス――の口を借りた「何か」は『いや……今はそれはいい』とゆるりと首を振って続ける。
『……お前は……願った筈だ。お前が……助けたいと』
「……何を言っている」
 その声に、びくりとクローディスが肩を強張らせたが、伸びるディミトリアスの指が自身の作った筈の氷の結界に、ミシリと音がするほどに食い込んだ。
「ディミトリアスさん!」
 歌菜が呼ぶ声に一瞬反応を示したディミトリアスが、一瞬向けたその左目が淡く光を放っている。呼び声に応えようとしたのか、歌菜、とその口が動いたが、音にはならなかった。その指先が震え、滲む汗と苦悶の表情がディミトリアス自身の抵抗を示している。だが、その負担もお構い無しといった様子で、声はクローディスに向かって囁きかけた。
『差し出せ……それが、お前の見つけた器なのだろう』
 何を、と言いかけたクローディスの口が、音にならずにぱくぱくと動く。そして、ついて出たのは彼女自身も思いも寄らない言葉だった。
「…………あの子は、助かるのか?」
 何人かが、その声にぎょっと顔色を変える。夢の中で聞いた声――アジエスタと呼ばれた女性の声だ。
「助かるのなら……私は……」
 震える声がそう紡ぎかけたのを、クローディスがぐっと唇を噛み締めて封じると、ドンッと氷の壁へと体を離した。だが、何事かを言うとしたその声は、高く上がった金属音に紛れて掻き消えた。
「……おいおい、冗談は……よしておくれよ」
 苦りきった氏無の声は、いつに無く切迫し、抜き放った刀がガチガチと押されて揺れる。
「ちょっと、大尉! 何のつもり!?」
 ニキータが思わず声を上げる。
 その視線の先では、いつの間に降りてきていたのか、表情を失ったスカーレッドの大鎌が、氏無に振り下ろされていたのだった―――。



第二話 過去からの螺旋 へ続く……


担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

ご参加された皆さま、大変お疲れ様でした
ガイドの段階からかなり、普段とは雰囲気の違う内容となりました
現代側の判定についてはいつも通りなのですが
過去側については本当に予想外の状況や人間関係が誕生しており
この先がとても楽しみですが、同じだけ楽しみに思えてもらえましたら幸いです

さて、今回のリアクションでは、現代での調査とは別に
作成いただきましたキャラクター様の立ち位置などについてを開示しております
※キャラクターさまによっては、過去キャラクターの方が重点的に描写されており
現代側の描写が少なめになってしまっている方もいらっしゃるかと思いますが
アクション内容の比重にもよりますので、ご了承いただければ幸いです

ディバイスによって直接送られたもの(三人の長の記録)以外の過去は
そのシーンに登場していた過去キャラクターのみしか知ることが出来ません
もし知ったことにする場合は、教えてくれたキャラクターとその状況を次回アクション時にご記載をお願いします
また、参加されました全員にキャラクターごとの能力や設定等をお送りさせていただいております
次回の参考としてご利用いただけましたら幸いです

そして、過去キャラクターのイラストについてですが
今回のシナリオでは過去名での称号も発行されない、匿名シナリオとなっております
(とは言え、アクション次第で誰がどなたのNPCかが判ってしまう場合も有りますが)
過去名や設定開示等は自由ですので、イラスト等の発注につきましてはご自由にしていただいて結構です
が、先日の九道マスターによるサンサーラシリーズとは異なり、過去キャライラストに関する企画は今の所ございませんので、申し訳ありませんがご了承くださいませ

(尚、ご許可いただいた方の過去イラストについては、マスターページで開示できればとは思いますが、逆凪の画力都合上、ご期待に添える可能性が限りなく低いとだけ、ご理解くださいませ)

それでは、状況がまたひとつ動き始めましたところで
次回は過去と現在の両方をその手で動かしていただきたいと存じます
最後まで、どうぞよろしくお付き合いをお願いいたします