リアクション
第四章 そして、振出しに戻る
「……おい、本当に砲撃なかったぞ」
砲台を通り過ぎた事を確認した恭也が呟く。
「成功したって事か……んじゃウヅ・キを下ろすぞっと」
唯斗がそう言うと、マルティナと二人で縛られたウヅ・キから縄を解く。
「大丈夫……じゃないですよね」
「本当、トラウマにでもならなきゃいいけど」
マルティナとフレイアが下ろされて尚すんごい顔で放心状態のウヅ・キを見て言った。
「一安心、と言いたいが余り楽観視できんなこの状況は……」
モリ・ヤが小さく呟く。確かに脱出は出来たものの全員ではなくまだ囚われの者がいる状況だ。おまけに脱走を図っている為、彼らの立場は極めて悪い。
「……これからどうするんだ?」
「彼らを見捨てるわけにもいきません」
桂輔とアルマが言うが、モリ・ヤは難しい表情になる。
彼自身も未だ囚われている者達を見捨てる事は出来ないと思っているが、手段もこれからどうするべきかもわからなかった。
「――弐ノ島へ行ってくれるか?」
悩むモリ・ヤにそう言ったのは、ナオシの部下である乗組員の一人であった。
「弐ノ島へ? 何故だ?」
「もしかしたら、だけど手を貸してくれるかもしれない心当たりが居る」
そう言った乗組員に、別の乗組員が「まさかあの人の事を言っているのか!?」と驚いた表情になる。
「……構わん。今の状況では何の手立てもないからな、藁にも縋りたいところだ。所で、心当たりとは一体誰だ?」
モリ・ヤの言葉に少し言い淀んでから、やがて乗組員は口を開いた。
「ナオシの兄貴の身内――妹が居るはずなんだ」
* * *
――一方、参ノ島。
「……うわ、こらひどい」
床にまるでボロ雑巾の様に転がされているナオシを見て、リ・クスが呟く。
「気を失っているだけだ。全く、強情にも何も吐きやしない」
吐き捨てる様にメ・イが浴びた血を布で拭っていた。
メ・イはナオシに、脱走した者達の居場所や目的などを聞いていた。その身体に直接、暴力と言う形で。
だが口を堅く閉ざした結果がこれである。相当悲惨な目に遭ったようだ。命はあるようだが、半死半生という言葉がぴったりなようだ。気を失っているのか、ピクリとも体を動かさない。
ちなみに他の者達は牢へと逆戻りである。
「後で治療するよう言っとかんとなぁ……ほっといたらこら死ぬで」
「それよりも何の用だ?」
「ああ、ミツ・ハ様に連絡しといたで」
「……どうだった?」
「ものっそい怒ってた。帰り次第うちらしごかれる」
リ・クスの言葉に、少しメ・イが表情を曇らせる。
「けど……なんや知らんけど途中で通信切れてしもたんや」
「切れた? 一体何が?」
「さあ、あの人のことやから死ぬことは無いやろうけど……おかげで、この男のこと聞きそびれてもうたわ」
そう言ってリ・クスがちらりと虫の息のナオシを見る。前髪からチラリと天津罪の証である刺青が見えた。
「……どっかで見た気がするんよね、コイツ」
リ・クスが首を傾げる。だが何処で見たのかを思い出せず、むず痒そうに顔を顰める。
「それで、脱走者をどうするかは聞いたのか?」
「あー……それも言っとらんかったわ……どーしたもんかなー……」
少し悩む素振りを見せ、リ・クスは口を開く。
「……また脱走されてもかなわんし、監獄島送りが妥当ちゃう?」
その言葉に肯定する様にメ・イも頷く。
「ならば牢の奴らと一緒にあそこへ送り込んでおくよう命じておいてくれ」
そう言ってメ・イは歩き出した。
「ちょ、アンタは何するつもりや?」
「決まっているだろう、ウヅ・キを探しに行く。あの娘、今頃何処か部屋の片隅で体を震わせて泣いているかもしれないではないか! それはそれで見たい、でなくそんな目に遭わせるわけにはいかん! 助けに行かねば!」
「……あー、アンタあの娘、特にお気に入りやったっけなぁ……ってちょっと待ちぃな! ウチも行くから!」
まるで走る如くスピードで歩くメ・イの後をリ・クスが慌てて追いかけて行った。
* * *
誰もいなくなった部屋で、ナオシがゴロリと体を転がして天を仰ぐ。
「……あの野郎、本当容赦ねぇ」
体中の痛みに小さく呟く。
「しかしまぁ……監獄島、か……『また』あそこに戻るハメになるとはなぁ……」
そう一人呟くと、自嘲気味に笑う。
「あぁ、本当についてねぇなぁ……運が向いてきたと思ったんだがなぁバカヤロウ……これからどうなるかなんて俺にもわからねぇぞ」
くくく、と笑うとナオシは一つ溜息を吐いた。
「さて……この状況、どう仕切り直す?」
そう呟いたナオシの眼は、死んでいなかった。
<続>
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。裏シナリオ担当の高久高久です。
この度はリアクションが遅くなり大変申し訳ありませんでした。毎度毎度ご迷惑をおかけします……
今回の内容は如何だったでしょうか。少しでも楽しんで頂けたのであれば幸いです。
さて、結果に関してですが、今回は失敗の部類となります。
というのも脱出することを目指すよりも、ネタに走り過ぎた物が多く普通に考えて逃げられる状況では無くなってしまったからです。
ネタは確かにあってもいいと思いますが、目的や状況、立場をしっかりと把握しましょう。大半がネタだと流石にシナリオが成り立ちません。
担当が担当なので「ああ、ネタに走れってことか」とお思いになるのも非常によく解るのですが。
次回ですが、少し軌道修正をする必要があるので遅れるかもしれません。
また寺岡志乃GMの本編と同時期に出す予定ではあるので、よろしければまたお付き合いください。
それでは次回、監獄島を舞台としたシナリオでお会いしましょう。
……これ次回以降本当にどうなるんやろか