リアクション
◆ 墓地に着いたコタ達一行は、箒を持って佇む女と白衣の女という奇妙な二人組みに遭遇した。何か話し合っているようだが、声が小さすぎてわからない。 「何してるっスか、こんなところで」 訝しげなコタの声に、妹尾 静音(せのお・しずね)とフィリス・豊原(ふぃりす・とよはら)は大げさなほどに驚いた。 ますます怪しい、とコタよりも周りの者達が疑いの目で二人を見る。 静音は箒を振り回しながら慌てて答える。 「ちょ、ちょっと。そんな目で見ないで。あたし、少し羽目を外しすぎて、学院にゆる族の墓地の清掃をするように言われてしまいました」 なるほど。百合園女学院の制服を着ている。 「わたくしが、その見張りですわ」 続いたフィリスは白衣。理系教師か保険医かと思われるが、証拠はない。 いよいよ怪しさが増すが、コタはそれを受け入れた。 「この広さっスから掃除はありがたいけど、今はちょっと危険な状況っス。帰った方がいいっス」 心配されてしまった静音とフィリスは顔を見合わせると曖昧に微笑む。 「何だか、凄いことになってるみたいね」 静音は次々と南北の入口から入っていった人達のことをコタに話した。 その人数はコタが思っていた以上だった。 「みんな無事かしら」 クラリッサが心配する。 「相談なんだけどよ」 と、レン・オズワルド(れん・おずわるど)がコタを呼ぶ。 「中でくたばってるかもしれない連中を助けてやっちゃくれねえか? その代わりってわけでもないが、俺達は変わらずおまえ達を守る。絶対に裏切ったりはしない」 「……しょうがないっスね。墓場で死なれて化けて出られても迷惑っスから」 軽い口調の憎まれ口に苦笑して、レンは歩き出したコタに続いた。 南側でも北側でもない。中途半端な方角の隅のほう。 墓守だけが知っている入口だな、とレンは見当をつけた。 ほとんど陽の当たりそうにない、じめじめしたところだった。 その中でも最も質素な墓石の前に立った時、何の前触れもなくコタがくず折れた。貧血でも起こしたかのように。 すぐにクラリッサが駆け寄り、呼びかける。 「落ち着いて、大丈夫だから。誰もあなたを恨んでないから、安心して……コタ」 「違う……コタは……」 呻くようにコタが言葉を漏らした時、 「ここが本当の入口でしたか」 嫌味な声と共に再度、八坂が現れた。手強そうな傭兵も引き連れて。その中には、ラペル・チェンバロッテとクルクス・ナインレッドもいた。 やっぱり来たか、という呟きと共にレンはエンシャントワンドを構える。他にくっついてきた者達もそれぞれ戦闘態勢をとった。 しかし、今度は八坂もそうとうな人数を揃えてきていて、今の時点でこちらは数で負けていた。もっとも、数が全てではないが。 八坂は一歩前に出て、手を差し出す。 「さあ、秘宝の鍵を渡してもらおうか」 「状況を見て言えよ。すんなり渡すと思うのか?」 いまだうずくまったままのコタに代わり、レンが応じた。 八坂がわざとらしいくらいの大きな声で笑う。 「おかしいとは思わなかったのかね? 今まで固く封じられていたものが突然露わになったことに。南北の入口を開けたのは我々『ダークサン』だよ。そして、その情報をもたらしたのは、その墓守の死んだパートナーさ。我々の仲間だ。……かわいそうに、その墓守はパートナーを失ったショックで苦しんでいるではないか。秘宝のことなど忘れて、過去から解放される方が幸せだと思わないのかね?」 「勝手なこと言ってんじゃないわよ!」 重くなった空気を祓うように叫んだのは静音だ。彼女は箒で八坂を指し、怒りをぶつける。 「ここに来ればイイ男に出会えるかもと思ったけど、とんだ下衆がいたもんだわ!」 とても個人的な怒りだった。 八坂は思い切り顔をしかめて舌打ちする。 これが戦闘の合図となった。 いつもは自分の武器で応戦するコタが戦えない状態なので、レンとフィリスが守るように立ち、静音は仕込み竹箒の柄を抜き、真っ直ぐ八坂に斬り込んでいった。 「みんな、本当にオタカラってのが好きなんですねぇ」 押され気味だったクラリッサの相手の脳天を、剣の腹で叩いて気絶させながらぼやくティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)。 「あの、ありがとう」 「いえいえ、いいんですよ」 「なごんでんなよ、ガキ共ォ!」 一瞬のほんわかした空気をぶち壊す無粋な声。 しかし、それはすぐにスヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)の火術に沈められた。 「ティティには、指一本触れさせませんよ!」 得意気に笑うスヴェンの言葉は、きっと男には届いていないだろう。 それからティエリーティアとスヴェンは倒された傭兵達が再び襲い掛かって来ないよう、片っ端からロープでぐるぐる巻きにしていった。 それでも押されいるか、と思われたが。 「待たせたな、やっと追いついたぜ!」 ここに来る途中途中であった数々の襲撃で敵を食い止め、コタ達を逃がしてくれた久途 侘助達だった。 いろいろと傷を負っているものの、みんな元気そうだ。 クラリッサが侘助を呼んで、預かったままだったデリンジャーを返した。もうこのような人質を取るような行為は必要ない。 形勢は逆転し、傭兵達の士気が一気に下がった時、 「さあ、これまでよ!」 静音の刃が八坂の首に当てられていた。 いつの間にか戦闘の場から抜け出してゆったりと見物を決め込んでいたラペルは、八坂がお縄になったのを見届けると、クルクスを従えて墓地から去っていった。 |
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