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リアクション
北の森
世界樹の北の森は、うっそうと茂った木々が極相をなしており、昼なお暗い道のりは、通るものを不安へといざなった。
「今回はロザリアス、あなたの腕試しだからね」
メニエス・レイン(めにえす・れいん)は、歩きながらパートナーのロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)につぶやいた。
ロザリアスも、元よりそのつもりでメニエスについてきた。
「想うとか待つとか、あまり興味ないのよね」
このふたりにとって、ルズやキアリのことは、ついでくらいに考えているようだ。
歩きながら、鳥丘 ヨル(とりおか・よる)は考えていた。果たしてルズは本当にキアリを追うのか?
心ここにあらずな感じなルズには、別になにかひっかかるものがあるのではなかろうか。
「ねえルズ、そういえば、ときどき何か声が聞こえるとか言ってたよね? だとしたら頭の具合がヤバ・・・・・・じゃなくて、ちゃんと解決した方がいいと思うんだ。よかったら、何がそんなに気になっているのか聞かせてくれないかな?」
「はい、ヨルさん。実は、このところ、あっちの方角になにか自分を待っているものがあるような気がするんです」
「そっちって、もしかして『誓いの湖』がある方角じゃないかな? あそこには、魔女がひとりで住んでいるって話だし。名前は・・・・・・確か、ミリルっていったかな。もしかしたら、ルズを待っているのは、その魔女さんなんじゃない?」
「・・・・・・」
「どこに行くにしろ、ボクはルズについて行くよ」
ふたりの会話を聞くともなしに聞いていたリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、黙っている。
『キアリは一体どういう思惑でこんなことをしでかしたのだろうか?』
道中そんなことを考えており、リュース自身は寡黙を貫いていた。
そこに、エル・ウィンド(える・うぃんど)が一足遅れて駆けつけた。
「みんなが北の森に出かけたっていうから追いかけてきたよ。さあルズ、急いで追いかけてキアリちゃんと合流しよう」
「エル・ウィンドさん、ありがとうございます」
しかし、エル・ウィンドの思惑は、どうも少し違うところにあるようだ。
『ルズの事情はわかった。これはもう、ボクがキアリちゃんと親密になるしかないな! アクセサリーを欲しがっていたから、彼女に似合う指輪を買ってきたし』
「エル・ウィンドさん、どうかしましたか?」
「いやいや、なんでもないよ、ルズ。先を急ごうか!」
さて、電波 夕希(でむぱ・ゆうき)は、キアリ探索メンバーの一行には加わらず、ひとりで北の森に出かけていた。
キアリを助けようというより、単に面白そうな予感がしたからというのがやってきた理由。
やがて、森の奥に着くと、何かを探し回っているキアリを発見!
しかし、電波 夕希は、彼女に声をかけることもなく、手近な木に登ってしまった。
『ゴブリンが出たりしないですかね〜』
キアリを見守りつつ、そんなことを考えていた夕希だった。
こちらは、再度キアリ探索の一行。
彼らが森の奥まで足を踏み込むと「キャーッ!」という若い女の悲鳴が耳をつんざいた。
「くそっ、ゴブリンめ」
伊那 武士(いな・たけし)は、キアリにからんでいるゴブリンを見つけると、目にもとまらぬスピードでモンスターどもに向かっていった。
そして、武士の攻撃は、たちまち数匹のモンスターをしとめた。
次に、仕込み竹箒で斬りかかって行ったのは、ロザリアス・レミーナ。
ロザリアスの戦法は、もっぱらヒットアンドアウェイだ。
しかし、彼女は生粋の戦士ではなく、ただのメイドさんである。
パートナーのメニエス・レインを守る、いい姿を見せたいという気持ちで頑張っていたものの、ゴブリンに囲まれ、手足を噛み付かれてしまった。
「ロザ、大丈夫? それっ、ヒール!」
「メニエス、ありがとう」
「いーえ、今回はロザの腕試しだもん。ゴブリンはすべてに任せたからね!」
あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)も、逃げるキアリを追いすがっていたゴブリンを後ろからバッサリ、みごとな退治っぷりだ。
ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)は、戦っているパートナーに向かって叫んだ。
「ターラ、危ない! てやっ」
ターラ・ラプティスを襲っていたゴブリンが、ジェイクの体当たりでどさっと倒れる。
ジェイクは身体を張って、パートナーを怪我から守ったのだ。
敵味方入り乱れての激しい戦闘に、キアリはパニックに陥っていた。
これをみた七尾 蒼也は、キアリに戦闘のコツを教える。
「冷静な判断が大事だ。落ち着いてよく周りを見るんだ」
このアドバイスが効いた。
落ち着きさえすれば、頭の弱いゴブリンなど敵ではない。
キアリは、ゴブリンたちの攻撃を軽やかにかわしつつ、七尾 蒼也と一緒にゴブリンの退治を楽しんでいる風だった。
しかし、キアリの技量は所詮付け焼刃程度。
ディフェンスシフトを使っていたエル・ウィンドは、キアリとゴブリンの間に割って入った。
「キアリちゃんの玉の肌を傷つけさせる訳にはいかないからな。攻撃はボクがかばうぜ!」
こういうと、エル・ウィンドは盾を上手に使い、ゴブリンの攻撃を弾きながらキアリを守っていた。
愛川 みちる(あいかわ・みちる)も、キアリに加勢して、共に戦っている。
高潮 津波(たかしお・つなみ)とナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)も、キアリの護衛に専念すべく、彼女の前後を固めながらゴブリンたちの動きを注視していた。
ハルバードを手にした水神 樹(みなかみ・いつき)と、魔法使いのカディス・ダイシング(かでぃす・だいしんぐ)も、薄暗い森で懸命に戦っていた。
「一人で森に向かった少女と聞いては、助けに行かなくちゃね。カディス、私の背中、あなたに預けるわ!」
剣と攻撃魔法、ふたりの息のあった連係プレーで、ゴブリン勢は押し返されたに見えた。
が、カディスの様子がおかしい。
「ゲホッ、ゴホッ。う・・・・・・魔法が唱えられない」
カディスは、持病が発症し、咳き込んでしまったようだ。
「カディス、大丈夫? 魔法はいいから後ろに下がってて」
「う・・・・・・これぐらいのことで病院送りにはなりませんよ」
そういいつつ、体調を落ち着けるため、カディスはひとまず後退した。
戦いの真っ只中に、長いランスを構えて突進してくる男がいる。
パートナーの支倉 遥(はせくら・はるか)とベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)から”殿”と呼ばれている伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)は、なんとランスを地面に突き刺し、棒高跳びの要領で高々と飛び上がったのだ。
そして、敵のど真ん中に着地。あとはランスを横薙ぎに振い、ゴブリンたちに切り込んでいった。
「フッ! ジェット・ス〇リーム・アタック!! ・・・・・・決まったな」
「殿、微妙にその発言は色々とグレーですよ」
「じゃぁ、二文字伏せるぜ!」
「いや、そういう問題でもなく・・・・・・」
このコンビではいつも、殿がボケ担当で、ベアトリクスがツッコミ担当と役割は決まっている。
そんな彼らは、戦闘でも息が合っているようだ。
伊達 藤次郎正宗は前衛、ベアトリクス・シュヴァルツバルトは後衛、そして支倉 遥は中衛を担う。
殿が敵に突っ込んでいけば、支倉 遥は敵を牽制して支援。
そしてベアトリクスは後ろから匕首の投擲、ヒール、火術を使い分ける。
見事な三位一体のチームワークだった。
華やかな雰囲気でチェインスマイトを繰り出しているのは、源内侍 美雪子(みなもとないし・みゆきこ)だ。
「おらおらぁ〜! 邪魔だぞ〜。 この源内侍にたてつきたかったらトロルの一匹でも連れて来いっての!」
しかし、パートナーのマルシャリン・ヴェルテンベルク(まるしゃりん・べるてんべるく)は、傍観している。
「美雪子。わたくし、なるべく戦闘はしませんわよ?」
「ヴェルテンベルク、なんでだ」
「・・・・・・マニキュアが剥がれますわ」
「はぁ? マニキュアなんかまた後で塗ればいいじゃないか。マニキュアなんか気にしないでいいだろ」
「ああ、もう、この子どうしてこんなに女としてダメなのかしら! そのくせいつもスッピンのわりにつやつやしてるし! ・・・・・・若さに奢る子って本当に、ホンッとうに憎たらしい!」
マルシャリン・ヴェルテンベルクはそういうと、分本気で美雪子の頬をつねった。
どうやらこのふたりにとっては、単にキアリの一行につきあっただけで、説得とか面倒なことは考えていないようだ。
そもそも、源内侍 美雪子は「前回別の事件であたしの指揮に入ってもらった奴がキアリに付き合うというから」という理由で連れられてやってきただけだし。
マルシャリン・ヴェルテンベルクのほうも同じく、今回の件については、アドバイスなど考えていない。
「愛や青春の悩みって本当に懐かしいものですわ・・・・・・」
と、年配者のごとく達観している。
さきほど、木の上から高みの見物と決め込んでいた電波 夕希だが、ここへきてようやく降りてきた。
「ゴブリンとの手合わせ、面白いことになりそうですね。ま、面倒ですが、私の身体能力を活かせますからね」
そういう電波は、キアリを取り囲んでいるゴブリンを陽動して、自分の方に向かわせた。そう、彼女自身が囮となって、キアリをサポートをしているのだ。
レオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)とルイ・フリード、そしてクレア・シュルツ(くれあ・しゅるつ)は、電波 夕希をフォローし、彼女を追いかけてくるゴブリンに立ち向かう。
彼らの活躍によって、ようやくゴブリンたちは退散し、あたりに静寂が戻った。
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