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ゆきやこんこんはいきんぐ

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ゆきやこんこんはいきんぐ

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○12月18日
きのうの夜はずっと吹雪がやみませんでした。ものすごい音と寒さでほとんど寝られませんでした。今日もずっと吹雪かな。
―――――――――
 早朝、降り止まぬ吹雪の中、シャンバラ教導団の生徒の士官、下士官クラスで会議が行われ、吹雪がやむまで中隊はこの場でビバークする事や、突風に弱いテントをたたみ、雪壕(かまくら)を作ることなどが決定された。
 
 それぞれ班に分かれ、猛烈な吹雪の中かまくら作りがはじめられた。最優先で作られたのは中隊の中心に作られたもっとも巨大なかまくら、通称『病院』だ。その設計は清泉 北都(いずみ・ほくと)の発案で、岩陰などの遮蔽物の陰など、雪が溜まりやすい場所が選ばれ、入り口は風下に設計された。
 病院内にはシャンバラ教導団衛生科のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)朝霧 垂(あさぎり・しづり)、イルミンスール魔法学校の生徒で医師の卵でもある本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が医療スタッフとして患者の治療にあたることになった。
「変熊仮面に帆風が凍傷……と。悪化せぬうちに処置せねばな」
 と、クレアがカルテを書いていると、
「どいてどいて―! 救急だよーっ!」
 垂のパートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が、白銀の毛並みのイタチの獣人、色即 是空(しきそく・ぜくう)にまたがり、荒れる吹雪を光学兵器の大傘ではじき飛ばしながらソリを引いて病院へ駆け込んでくる。
「今度はどうしたんだ? ヤケドか? シモヤケか?」
 白衣の垂がまたかよという顔でライゼに訊ねる。
「かまくらが潰れて埋まっちゃったんだって!」
 ソリの中にはぐったりとした生徒がひとり倒れている。
「なんだって?」
 涼介があわててかけよって脈と呼吸を観る。が、やがて、「ふう、窒息はしてないみたいだ」と、安堵してため息をつく。
「ベッドに移すからあなたも手伝ってくれ」
 と、クレアが涼介に言う。ふたりで簡易ベッドのとなりまでソリを移動させ、クレアは患者の頭の側に回り込み、ふたりで一気に持ち上げ、ベッドに移す。
「クハッ……」
 患者がうめく。
「これは肋骨かなにか折れているのであろうな」
「それにしても、このまんまじゃベッドが足りないぜ?」
「そのときは教導団的解決法があるのだよ」
「解決法?」
「歩けない重傷者は将校が責任を持って射殺する」
クレアの代わりに答えたのは垂だった。
「射殺って……おまえら正気か?」
「正気で戦争ができるか? もっとも、教導団だけの訓練ならともかく、他校生を巻き込んでのこの杜撰すぎる計画、狂っていると笑われても仕方ないのかもしれないがな」
 クレアは吐き捨てるようにいった。
「俺たちだって死にに来てるわけじゃない。どんな作戦でも生還が原則だ。だから今回の雪中行軍は既に失敗してるんだ」
 垂はさらに何か言いかけた。だが、それを飲み込み、
「でも、俺たち軍人は与えられた条件で最善を尽くす。それがシャンバラ教導団だ」
 垂は涼介を貫くように見つめた。

 桐生 ひな(きりゅう・ひな)カーマル・クロスフィールド(かーまる・くろすふぃーるど)、それにニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は、猛吹雪の中、雪玉をゴロゴロと転がして成長させながら斜面を登っていた。
「あの〜、皆さん? これくらいでやめておきませんか? 猛吹雪の中でちょっとブラックジョークが過ぎませんか?」
 と、不安そうに口出ししたのはニコのパートナーの守護天使、ユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)だ。
「雪山と言えばゆきだまごろごろどか〜んがおやくそくなのですっ。これこそアルピニストの浪漫なのですっ」
 3本おさげの青髪少女、ひなは全然意に介してない様子だ。 
「だよね! 楽しい楽しいっ。どうせだから氷玉にしちゃえ〜っ」
 ニコは呪文で雪玉を凍結させる。
 殺傷力が格段に上がる。
「これならレイちゃんも死ぬほど驚くね!」
 カーマルが1メートルはあろうかという氷玉をみて叫ぶ。
「驚いたのと同時に死んじゃうかもしれないですねっ」  
 ほんわかととんでもないことをひなが答える。
 雪玉はさらに大きくなっていく。
 もはや取り返しの効かない状況へ向けて。
 
 そのころ。ふもとではイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が、とある相手を待っていた。
「レイ遅いなぁ……用事があるから先に行っててって、もうずいぶん経つぜ」
「そろそろ避難しないと雪玉がぶっ飛んでくる頃でありますっ」
 青ざめたチューリップ(本来はつややかなピンク色)のゆる族、トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)が側でふるえている。寒いのもあるが、こんな状況で雪玉でもくらったら凍結した花びらがバラバラに砕けかねない。
 とそこへ、中隊の隊員何人かがぞろぞろやってきて、
「よし、ここでちょっと休憩しようぜ」
 と言い出したのだ。
 マズい。とってもマズい。
 ここはひなたちが設定した巨大雪玉直撃コースだ。
 無関係の生徒たちを巻き込むわけにはいかない。
「あの……すまねえ、そこ、どいてくれるか?」
「なんだオマエ?」
 険悪な空気が流れる。
 違うんだ。私がしたかったことはこういう事じゃないんだ……。
「トゥルペ! 弾幕援護!」
「イエッサー!」
 トゥルペが四方八方に機銃弾を撃ちまくる。
 たちまち生徒たちは逃げていく。
「ふう、これで一段落かな」
 もちろん、問題はなにも解決していない。

 身長を超えるくらいにまでなった雪玉を、ひな、カーマル、ニコ、それにユーノの4人がかりで何とかずるずるともちあげていた。
「そろそろ辛くなってきたな。いくぞ? さん、にー、いち……」
 ゼロのかけ声と同時に4人全員が雪玉から手を放し全力でダッシュする。
 横に逃げればいいものをなぜかまっすぐ真下に。
 雪玉は帰り道も成長しぐんぐんと膨らんでいく。
「ひいっ!」
「へうっ!」
 加速していく雪玉に次々と彼女らは飲み込まれていく……。
「あはっ!」
「げふっ!」

「レイのやつ、まだ来ないぜ。どうするよ? トゥルペ」
「ワタシは帰りたいでアリマス……」
 と、そんなふたりの耳に、地鳴りのような音が。
 山頂を振り返るとすぐ目の前まで巨大な、それはそれは巨大な雪玉が目前に迫っていた。
「あ……」
「わ……」 
 雪玉はそのまま転がっていった。
 そして、『病院』に突き刺さって止まった。

「また6人救急だよーっ。今度は直接来たみたい」
 半壊したかまくらの中でライゼがそう言うと、
「……だ、誰か私に拳銃をくれ。責任を持って射殺してやる」
 と、クレアは答えた。
―――――――――
今日はかまくらを作りました。しもやけができたけど、病院に行ったら忙しくてそれどころじゃないって断られちゃった。