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八森博士とダンゴムシの見た夢

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八森博士とダンゴムシの見た夢

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6.追われるダンゴ

 ツァンダから少し離れたところにダンゴムシがいるのを屋代かげゆ(やしろ・かげゆ)は発見した。すぐに小型飛空艇の速度を落とし、携帯電話を取り出す。
「ダンゴムシ発見にゃ!」

 自分たちが探していた東部からはずいぶんと離れていた。
「まあ、自然に還すにはちょうど良いか」
 と、支倉遥(はせくら・はるか)は言う。空飛ぶ箒に乗り、ダンゴムシの様子を眺めながら、御厨縁(みくりや・えにし)がかげゆへ問う。
「もう一匹はどこじゃ?」
「それが、森の中で死んでたんだぜ。きっと、他の奴らにやられたんだな!」
 と、どこかうきうきした様子のかげゆ。
 地上待機の仲間たちがダンゴムシへ近づくのを確認し、遥たちは動きだした。

「ダンゴムシよ、こっちだ!」
 伊達藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)がダンゴムシの前へ出て、注意を引きつける。
「やれるものなら、やってみろってんだ!」
「殿! どうか無茶はなさらず!」
 と、伊達藤五郎成実(だて・とうごろうしげざね)が声をかけるが、藤次郎正宗はすでに走り出していた。
 ダンゴムシも追いかけてくるが、怖い様子はなかった。それどころか、
「殿ぉっ!!」
 ダンゴムシは藤次郎正宗を捕まえると、仰向けになった。そして足を器用に使って彼をくるくると転がして遊び始める。
「お? おお?」
「い、今助けにっ……!」
 藤五郎成実は柄へ手を伸ばしたが、ダンゴムシの様子があまりにも楽しそうで思い止まってしまう。
「スプレーショット!」
 サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)がダンゴムシを狙撃すると、藤次郎正宗はやっと解放された。
 相手が遊びじゃないと分かったダンゴムシは、すぐに触覚で周囲を探り始める。
 万有コナン(ばんゆう・こなん)がダンゴムシの後方へ立ち、硬いと思われる殻へダガーを投げつける。
「逃げるなら今のうちだぜ!」
 それを合図にシャチ・エクス・マシーナ(しゃち・えくすましーな)が上空から火術を放ち、遥が星輝銃をぶっ放す。
 ダンゴムシはすぐさま街に背を向けた。重い体を引きずって歩きだす。
「逃がすものか!」
 と、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が雷術で追い打ちをかける。
「ベアトリクス! あくまでも自然に還すのが目的だ!」
「分かってる!」
 遥に注意され、ベアトリクスはダンゴムシから距離をとった。
 ダンゴムシは敵意をむき出しにして頭上を仰ぐ。
「ほらほら、もっと逃げるにゃー!」
 と、かげゆがハンドガンの引き金を引くと、サラスとシャチが支援するように攻撃をした。
 痛みに悶えながら、ダンゴムシがついに攻撃態勢に入る。
「ダンゴムシさーん、こっちですよぉ」
 縁の後ろに乗ったラウラ・モルゲンシュテルン(らうら・もるげんしゅてるん)が呼びかけた。ぐぐっと地面を踏み締めたダンゴムシが回転する。
「ついに来た……!」
 シャチはサラスを拾い、先ほどよりも高く飛んだ。
「その調子だよ!」
 と、サラスが空から三度目の銃撃をし、ダンゴムシを外へと追い詰めていく。

「ぉー、意外と速度あるなぁ」
 ダンゴムシの背後にいたコナンは、置いてけぼりにされていた。元々、ダンゴムシ云々には大して興味がなかった彼だ。
「ま、後はどうにかなるだろ。みんな、待ってー!」
 と、コナンはとりあえず追いかけるふりをして、事が終るのを待つことにした。

「兄者! いつまで続けるのじゃ?」
 縁の問いに遥はまた星輝銃を構えながら返す。
「街から遠く離れるまでだ」
 振り返ると、ツァンダの街がまだ見えていた。
「意外ときついね」
 シャチがダンゴムシを交わしながら言う。
「でも、これもみんなの為……!」
 地上へ降りたサラスがダンゴムシの後を追う。
 ツァンダからは着実に離れていた。
「あのダンゴムシ、止まらないぞ。もういいんじゃないのか?」
 と、ふいにベアトリクスが遥へ顔を向ける。
「かげゆも、そろそろ疲れたにゃー」
 一番先を走っていたかげゆだが、その分へばるのが早かった。
「ダンゴムシさんも、だいぶボロボロになってるし」
 と、ラウラも言う。
 遥は決断した。
「そうだな。引き上げよう」
 と、その場に止まる。
 ダンゴムシは遥たちの攻撃がやんだことにも気付かず、変わらぬ速度で転がっていった。
「ふう、ようやく終わりじゃな」
「街に侵入してなくて良かったね」
 と、ラウラは縁へにっこり微笑んだ。
 しかし遥だけは、遠ざかっていくダンゴムシを見つめていた。
「どうしたの?」
 気づいたシャチが尋ねると、遥は首を振る。
「いや、何でもない」
 またツァンダへ戻ってくるかもしれない、と遥は思っていた。しかし、特に口にすることでもないだろう。
「帰ってご飯にゃ!」
 くるりと方向転換したかげゆに倣い、一同はツァンダへと身体を向けた。