リアクション
今日のこと
叶月は扉へ手をかけようとして躊躇った。伸ばした手を握りしめ、扉へ背を向ける。
「おや、そこにいるのは叶月ではないかな」
今日もまた同好会の活動をしようとやってきた里也に声を掛けられ、叶月はその場から逃げ出してしまう。
「……ふむ、素直じゃない奴め」
里也は構わずに部室の扉を開けた。
「叶月」
声を掛けられてびくっとする。
振り返ると、そこにいたのはあの日何度も自分を殴ってくれた守護天使。
「エルザルド……」
無視して帰ればいいのに、叶月は何故か足を動かせなかった。
「すっかり元に戻ったようだね」
「……ああ、まぁな」
と、視線を逸らす。
「ヤチェルちゃんには謝ったのか?」
「……」
エルザルドはいつものように笑みを浮かべた。そして叶月の肩に手を回し、校舎へと促す。
歩きながら、叶月は言った。
「迷惑、掛けたよな」
「さあ、どうかな」
あの時、自分はどうして彼女を思い出せなかったのか。泣き出しそうな顔で、いつかみたいに寂しげな目をして、こちらを見ていたのに。
「なぁ、叶月。どうして、薬を飲まなくてはならなかったんだい?」
叶月は俯く。
「……昔から、苦手なんだ。飛ぶのとか、魔法とか。それを克服しようと思って――」
するとエルザルドが優しく否定した。
「それは違うね。苦手なことは克服するべきだけど、叶月は叶月の方法で彼女を守ればいい」
――そうだろう?
「……」
努力しても報われないなら、方法を変えればいい。
どうしようもないことだとしても、変えることのできない事実でも、自分が変わることはできるから。
部室ではソールが正悟の論文に目を通していた。
「ネコ耳はネコ尻尾とセットなんだよ! 同時に着けるからこそ、その威力は発揮されるんだ」
と、熱く語る正悟の横で、ヤチェルはネコ耳ネコ尻尾をつけた雲雀を観察している。
「うーん、確かに可愛いわね」
雲雀は恥ずかしさに耐えながら、誰かが助けに入ってくれるのを待つばかりだ。
「ショートカットにネコ耳とは、なかなか良いものだな」
と、里也も雲雀を見てにやにやしている。翔だけがただ一人、餌食にされずに済んで安心していた。
がらっと扉が開き、エルザルドが叶月を連れて入って来る。ヤチェルたちは一様に目を丸くした。
そしてヤチェルはにっこりと微笑む。
「カナ君、おはよう」
今度は叶月が驚いた。
エルザルドが何も言わずにその背を軽く押し、叶月は静かに彼女の元へ歩み寄る。ただ静かに彼らを見守る一同。
「その……ごめんな」
するとヤチェルの表情が歪んだ。泣き笑いの顔を隠すように俯き、叶月の袖を掴む。
「心配、したんだからね……もう黙って変なこと、しないでよ」
もたれるように叶月の胸へ頭を埋める。
少し躊躇しながらも、叶月はその小さな体を抱きしめた。ぽんぽんと軽く頭を撫でてやれば、ぎゅっと抱きしめてくる。
三十秒もしないうちにヤチェルは顔を上げた。何事もなかったかのように叶月へ微笑むと、タイミング良くルカルカがやってくる。
「ヤチェルん、今日はお菓子持ってきたよー」
ヤチェルはすぐにルカルカの方へ向かって行った。
「ルカちゃん! 何のお菓子?」
「チョコバーよ。みんなで食べようと思って」
と、ルカルカは手にした袋からチョコバーを取り出す。そして一人ひとりへ渡して回り、ルカルカは叶月の元へ来ると笑った。
「仲直りしたのね。おめでとう」
と、チョコバーを叶月へ手渡す。「おう」と、叶月はそれを受け取った。
「可愛いじゃないか、ネコ耳」
エルザルドの声で雲雀ははっとする。「こ、これは松田殿が……!」
動くたびに揺れるネコ尻尾を捕まえて、エルザルドはさらに雲雀をからかった。
「尻尾まであるなんて、本格的だね」
「だからっ、違うって言ってんだろ!」
そして部室に訪れる騒々しい客にヤチェルが呆れた顔を向けた。
「今日こそロングの良さを語りつくす! 覚悟しろ!」
「また来たの? ヒーローのくせに暇なんだから」
と、牙竜の前へ立つ。
「空間恐怖症の絵師にとって髪の長さは重要なんだぞ! それを救うのはロングだけだ!」
「何よ、それ。ショートなんて簡単に描けて時間短縮だわ」
そう言って楽しそうにいつもの論争を始める二人。
叶月はいつも自分が座っている席へ座ると、チョコバーを食べ始めた。
お疲れ様でした。
長かったですね、ええ、長かったですとも。
現在の最長記録でございます。あ、参加人数も最大記録だからか。
今回は本当にありがとうございました。お気に召していただけると幸いです。
バグリ草のように脳に刺激が行く毒なんて危険だと思います。実際にあったら、絶対に後遺症なるって。
毒草認定されて、簡単には手に入れられないはずだよ。だって危ないもん!
さて、店員トレルについてですが、人気があったらまた出ます。
人気がなかったら今回でお別れでしょうか。まあ、よく分からない子ですしね。
それでは、次回またお会いしましょう。
ありがとうございました。
ブログ「マイノリティア」にて、いろいろ呟いてます。