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ロック鳥の卵を奪取せよ!!

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ロック鳥の卵を奪取せよ!!

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第一章 アトラスの傷跡


「みんな。ロック鳥の卵を頼んだですぅ! もしも卵を持って帰って来なかったら、承知しないですぅ!」
「これ! こういうときは、気をつけろの一言があるもんじゃろう!」
 集まった生徒達を前に、イルミンスール魔法学校校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)とパートナーのアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が、いつもどおりの言い争いをはじめる。
 ちなみに二人は、さっきもホットケーキにはバターかはちみつかで喧嘩していたばかりだ。
「ふふふ、お二人ともお腹を空かせて待っていてくださいねぇ」
 カフェテリア『宿り樹に果実』の看板娘ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)が二人に優しく微笑む。
「ミリア、くれぐれも無茶はしちゃだめですぅ。困ったときは、皆に任せるですぅ!」
「はい。みなさん、頼もしい人たちばかりだから安心ですよぉ」
 今回、ミリアの依頼には五十人以上の生徒とパートナーたちが集まってくれた。インミスールだけではく様々な学校から来てくれているようだった。
 その内、五条 武(ごじょう・たける)をはじめとした生徒たちは――
「いや、卵もいいけど肉も食いてぇな!」
 と言い出し、ロック鳥を狩ってやると騒いでいる。
 なので集まった生徒達は、ロック鳥を狩る『肉部隊』と――
「卵料理の本気をお見せしましょう」
 と息巻く本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)達の『卵部隊』の二つにわかれることにしたらしい。どちらもやる気に満ち溢れて頼もしい限りだ。
 そして――家庭科室にも何人かの生徒が集まっている。
 彼らは校舎に残り、ロック鳥とその卵がすぐにでも料理できるよう、色々と準備を整えておいてくれるようだ。
「アトラスの傷跡付近はとても危険ですぅ。みんな、おいしい料理が食べれなくなったら困るですぅ。ミリアが怪我しないようしっかりと守るですぅ!」
「エリザベートちゃんも、大ババさまと喧嘩しないよう仲良くしててね♪」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)の言葉に、周りから『うんうん』と納得の声があがる。
「それじゃあ、お二人とも行ってきますねぇ」
「絶対に卵は持ち帰るですぅ!」
「気をつけてのぉ!」
 こうして、今から巨大なロック鳥に挑むような雰囲気を感じさせないまま、ミリアと生徒たちは『アトラスの傷跡』を目指してイルミンスール魔法学校を出発した。


「みんな、こっちだよ」
「ミリア、そこら辺は石が多いから躓かないように気をつけるのよぅ?」
 アトラスの傷跡へは、土地勘のある白菊 珂慧(しらぎく・かけい)とパートナーのヴィアス・グラハ・タルカ(う゛ぃあす・ぐらはたるか)が案内してくれる。
 シャンバラ大荒野という険しい道のりにもかかわらず、二人の選ぶ道はどれも的確で、近道をしつつも皆が疲れないように気を配って先頭を歩いてくれた。
「なぁなぁ、ミリアさん! ミリアさんは焼き鳥って作れる?」
 人懐こい笑みを浮かべて日下部 社(くさかべ・やしろ)がミリアに話しかける。もしも彼に尻尾が付いていたら、パタパタと嬉しそうに揺れていたことだろう。
「えぇ? 焼き鳥ですかぁ? 作れますよぉ」
「よっしゃ! ほんならなぁ、俺がロック鳥の肉を狩ることができたら作ってくれへん?」
「いいですよぉ。でも……調理に失敗しても怒らないでくださいねぇ?」
「キレへんキレへん! ミリアさんが作るもんやったら何でも来いや!」
 社が満面の笑みでミリアと話していると――
「ふぅーん。焼き鳥か、それもいいな」
 涼介が周囲の警戒とミリアの護衛のために隣へやって来る。
「お、卵部隊の本郷やな?」
「ん? 私を知っているのか?」
「当たり前や! あんだけデッカイ声で、卵料理の本気を見せちゃるぅ! とか何とか言っとったら、誰でも覚えるわ! あ、そうそう。俺は日下部 社や。よろしくな」
 社が人懐こい笑みで握手を求めると、涼介も快く手を握り返す。
「で、本郷ちゃんは何を作るつもりなんや?」
「私は卵豆腐を作ろうと思っている。焼き鳥とけっこう合うと思うぞ。夏の暑い日に食べるのなんかイイんじゃないか?」
 社は、卵豆腐と焼き鳥の組み合わせを想像したのか、思わず舌なめずりをする。
「みんな、見えたよ!」
「あれがアトラスの傷跡よぅ」
 先頭を歩いてた白菊とヴィアスが指差した先には、巨大な火山――アトラスの傷跡が堂々と君臨していた。
「す、すごく大きな火山ですねぇ!?」
 はじめて見るアトラスの傷跡に、ミリアや数人の生徒達は、思わず感嘆の声を漏らした。
「さぁ、もう少しだから皆頑張るのよぅ」


「ろ、ロック鳥だ!?」
 アトラスの傷跡までもう少しというところで、生徒の一人が上空を仰ぎ見て驚きの声を上げた。
「キャァ!? あ、あれがロック鳥なんですかぁ!?」
 ミリアも上空を見ると、そこには翼を広げた巨大な怪鳥が天に向かって飛び上がっていく姿が見える。
「な、なにがあったんでしょう? ずいぶん怒ってるみたいですねぇ……」
 上空に舞い上がったロック鳥は、ミリアたちには目もくれず――

 グゥウウウウエエエエエエエエ!!

 耳を劈く巨大な咆哮をあげる。
 どうやら、ロック鳥は巣の周りに対して何やら威嚇しているようだった。
「もしかしたら、これはチャンスかもしれないよ!」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)の言葉に、ロック鳥を見ていた全員の視線が集まる。
「今、ロック鳥は上空にいるから、この隙に卵部隊は巣まで一気に近づけると思うんだけど、みんなはどう思う?」
 正吾の提案に皆からは「なるほど……」と納得の声があがる。
「そうと決まれば、ここにベースキャンプを作りましょう。【黒服狩猟団】のみんなさん、出番です」
 具体的な作戦が決まったところで、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)の声に、彼女と正悟を含めた五人の生徒達がテキパキと準備に取り掛かる。
 ――正吾の説明によると【黒服狩猟団】というのは、地球の日本で流行っている狩猟オンラインゲーム好きの集まりらしい。
 たしかに、よく見てみると正吾と浅葱を含めた四人の装備品は、どれもこれもゴテゴテとした装飾品や派手な色に塗り替えられている。どうやら、自分達が狩猟オンラインゲームで使っている装備品に見た目を似せてきたようだ。
 そして――
「ウルトラ上手にできましたぁ〜♪」
 【黒服狩猟団】の久世 沙幸(くぜ・さゆき)が言ったとおり、ものの五分で立派なベースキャンプが出来上がった。
「それじゃあ、ミリアちゃん。ワタシ達はロック鳥の討伐と卵の奪取に行くから、このベースキャンプで待っててね」
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)がそう言うと、ミリアは――
「わかりましたぁ。みなさん、ありがとうございます。くれぐれも、お気をつけてくださいねぇ」
 と頷いた。
「それじゃあ、みんな。ロック鳥討伐と卵の奪取に出発だぜ!」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)の一声には【黒服狩猟団】だけではなく、他の肉部隊と卵部隊のメンバーからも鬨の声があがる。
 こうして、ロック鳥の討伐を目指す肉部隊と、卵の奪取を目指す卵部隊がベースキャンプを後にした。