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グルメなゴブリンを撃退せよ!!

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グルメなゴブリンを撃退せよ!!

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第二章 断頭台のにぎやかな日常


「もう、黙りなさい!」
 ゴブリン&コボルド混成軍団を誘き出すために作られた店舗『断頭台』に李 梅琳(り・めいりん)の大声が響く。
「何を恥ずかしがってるんですか、李少尉。これも作戦のうちですぜ」
 そう言ってミニスカフリフリゴスロリメイド服を持って梅琳に詰め寄っていくのは、橘 カオル(たちばな・かおる)である。
「ばっ、おま、なんでこの私がそんな服を着なきゃいけないのよ!」
「えー、だってほら、ここはお店なんだから、きちんとした服を着てお客様をお出迎えしないと」
 と言うカオルはビシっとギャルソンの格好で決めている。
「確かにここは店よ。けど、それはあくまでゴブリンを釣るためのもので……」
「でも、この間まで売り上げがよくて嬉しそうにしてたじゃん」
「う……」
 ゴブリンを誘き出す手段としてマリエッタとゆかりの二人が指揮を取ってこの店の噂を流していた。梅琳は噂の詳細までは聞いてないのだが、どうもものすごくここの料理がおいしいという噂が流れたようで、おかげで開店してすぐ客が店に入りきらないぐらいやってきたのである。
 おかげで、随分な売り上げを出してしまった。
 まぁ、さすがに噂が出来すぎていたのだろう。その人波も今では随分落ち着いている。噂ほどじゃなかったけど、おいしかったと言っている人もいた。おかげで、奥のコック達は随分と悔しい気持ちになったらしいが、どうでもいいことか。
「忙しい時間はこれからなんだから、ささ、李少尉も早く着替えて着替えて」
「そうですよ、別にカオルはやましい気持ちで言ってるんじゃないですよ」
 とカオルに援軍するのはマリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)である。
「そういうマリーアは私服じゃない!」
「あたしは、だってほら、サクラのお客様ですからね」
 とにこっと笑顔を見せるマリーア。そんな彼女の歯には青海苔がついている。先ほどまで焼きソバでも食べていたのだろうか。
「李少尉。どうしても、どうしてもこの服を着てはいただけないと、そういうことですか」
 いきなり、カオルが至極真面目な表情で言ってくる。
 少し気おされながら、梅琳はああと応えた。
「なら仕方ないなぁ。あっちの服になりますけど」
 とカオルが指差した先には、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)を指差した。
 二人とも、スリットの深いチャイナドレスを着込んでいる。
 真昼間から営業している店舗の店員と考えると、少しばかり刺激が強い格好だ。
「……なんだ、アレは」
「おーい、二人ともー」
 カオルに呼ばれて、二人が梅琳達の集まっているところにやってきた。
「どうしたの?」
 とミスティが尋ねる。
「そのチャイナドレスって、まだあったりする?」
「あったりなかったりしますぅ。どうするんですか、カオルが着るんですぅ?」
 レティシアがカオルを見ながらそんな事を言う。
「いや、どうしても李少尉がこの給仕服を着たくないと言うから、ね」
「給仕服とかオブラートに包んで説明しないで。どう見てもメイド服だから!」
「そうなんですかぁ。でしたら……」
 と、レティシアはじぃっと梅琳を見つめる。
「李少尉には、きっと緑色のが似合いそうですぅ」
「緑色っていうと、玄武の柄のよね」
「そうですぅ、ミスティ。じゃあ、さっそく取りにいってきますぅ」
「ちょっと、ちょっと待って、誰も着るなんて一言も言ってないんだけど!」
「それじゃあ、ちょっと待っててくださいですぅ」
「無視、無視するの、私の発言だけ全部聞スルーなの!」
 なんてわちゃわちゃしているの集団から離れたテーブル。
 そこでは、湯島 茜(ゆしま・あかね)夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)さらに野村 明彦(のむら・あきひこ)の四人が普通に食事をしていた。
 この四人は、いざという時にただの客を逃がしたり戦闘をしたりするサクラ客である。
「それでですね、私が考えてきた方法なんですけど」
 なんて言いながらテーブルにリュウノツメをおいた。
 竜の爪の形をした、激辛香辛料である。
「これを料理に混ぜてゴブリンさん達に食べさせれば、辛くて呪文の詠唱ができなくなっちゃうますよね」
 口から火を吐くほど辛い、といわれているリュウノツメである。
 確かに、精神を集中させる必要ある魔法との相性は最悪に悪いだろう。
「ねぇ、あたし思うんだけど……どうやって食べさせるの?」
「ふぇ?」
 茜の率直な疑問に彩蓮が素っ頓狂な声をあげた。
「えっとさ、ゴブリン達がここでご飯を食べてくなら、呪文が使えない〜ってなると思うよ。でも、普通はここで食べ物を手に入れて持って帰るんじゃないかなぁ?」
「そ、そこは、そうですね。私が大食い勝負を挑めばきっと乗ってくるはずです。私、辛いの全然平気なので、同じ鍋から取り出せば毒が入ってない事も証明できるので、ゴブリンさん達もきっと乗ってくるはずです」
「大食い勝負かぁ……」
 と茜は考えてみる。
 ゴブリンは単純で挑発に乗りやすい。それが食べ物の大食い勝負ならまず間違いなく乗ってくるだろう。
「うん。いけると思うよ」
「ですよね。よかったぁ、なるべくゴブリンさんでも殺さないで穏便に済ませようと思って考えてきたんですよ」
 彩蓮はほっと胸をなでおろした。
「いけると思うんだけど……」
「……何か、あるんですか?」
「ここじゃ無理かもしんない。だってほら」
 と茜がぐるりと店内を見渡してみる。
 普通のお客さんもいるが、そうではなく武器を隠し持ってゴブリンの襲来に備えている人は少なくない。
「たぶん、大食い勝負になる前に、戦闘になっちゃうよ」
「………」
「あわわ、落ち込まないで、きっといい方法があるから。ね。それに、いい作戦だったと思うよ。うん。それに、ほら、まだゴブリン達はきてないんだから、もっといい作戦が思いつくかもしれないじゃん、ね!」
「……そうですね、もっともっと考えてみましょう。茜さんも一緒に考えてくれますか?」
「うん、もちろんだよ!」
 そんな二人の会話をよそに、もそもそと食事をしていたエミリーが突然立ち上がった。
「ど、どうしたのエミリー?」
 突然のことでびっくりする茜。
「ちょっと、厨房へ行ってくるであります」
「どうしたんですか?」
「本物の料理というものを、ここのコックに教えてくるであります」
 呆然とする二人をよそに、エミリーは一人厨房へと乗り込んでいった。