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夏休みの宿題を通じて友達を作ろう

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夏休みの宿題を通じて友達を作ろう

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第二章 絶賛拡大中

 しばらく時間が経ち、勉強と雑談が入り混じって良い雰囲気が出来上がった頃。
 大所帯になった輪が目立ったおかげで、ぼちぼちと新しい生徒が加わっていく。
 師王 アスカ(しおう・あすか)三船 敬一(みふね・けいいち)の二人は、飲み物を買っていたシズルに声をかけ、その戻り際にアスカが同じような生徒ソニア・クローチェ(そにあ・くろーちぇ)トリス・ルナ著 『祓魔式目録』(とりするなちょ・ふつましきもくろく)を見つけ、輪の中へ引き込んだ。
 ソニアとトリスに至っては、宿題中というよりも進行形でスイーツを堪能していたが、何も書かれていない用紙とトリスの表情から、具合がよろしくないと判断し、声をかけたらしい。
「いやぁ〜、ほんと助かりましたよー。私、ここにきてまだ日が浅くてー」
「だなー。こんな可愛い人と一緒に出来て、嬉しいぜ」
 席に着き、一息したところでアスカと敬一はシズルに感謝した。
「二人は知り合いなの?」
「さっき知り合ったばかりですね」
「おう。ちょうど目の前にアスカがいて、もしかして同じような課題やってるんじゃないかって思って」
「そしたら、同じことは同じだったんですけどねぇー。二人ともわからなくて〜、あはは」
「なるほどね。私でよければ力になるよ。レティーシアもいるし」
「お〜? そのレティーシアとはどの人?」
 シズルは身体をねじって、ちょっと離れたところで棗 絃弥(なつめ・げんや)白鳥 翼(しらとり・つばさ)大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)と会話しているレティーシアに目を向けた。
 すると一番にトリスが声を上げ、疑問を投げかけた。
「へぇー。あの人はすでに終わらせているのですか?」
「うん。私のを見てくれてたんだが、いつの間にかこうなったんだ」
「らしいですよ、ソニア。食べてばかりじゃなくて、あなたもちゃんとやりましょう」
「わぁってる、わぁってるよ。これ食べたらやるって」
 ソニアは手を止めず、いまだ食べ続けているも、トリスはスプーンを取り上げ。
「コホンっ、今からですよ」
「……わかった」
 強制的にペンに替えさせ、テーブルに向かわせた。

「いっそのこと、共同発表とかどうだろう?」
「あっそれも面白そうね! だけど、それってアリなのかな?」
「どうでしょう? クラスなどが合えばいいでしょうが……。て、泰輔さんしっかりしてくださいよもう!」
「ああ、しんど……。はよ終わらせて、休みたいわ」
「確かにいい案だと思いますが、少々、厳しいかもしれませんの」
 んー……。
 レティーシアを含む、絃弥、翼、レイチェルが唸りを上げる。大久保は別の意味で呻る。
「もう一人の相方に聞いてみたらどうだ? シズだっけ?」
「ああ、シズルね。う〜ん、あっちはあっちで忙しいですのね……」
「おぉー、シズルちゃんかわええなぁー」
「泰輔さん! そういうことは口にだしてはいけませんよ!」
「あははっ! レイチェルくん、彼女さんみたいだね!」
「仲睦まじくてなによりですの、うふふ」
 レティーシアはシズルのほうへ一度、様子を見ようと振り向く。
 するとシズルもこちらを見ているのに気づく。どうやら、考えていることは同じのようですぐにテーブルをくっつけ、囲んだ。
 だがここで、一つ気になることができた。
「テーブルって、勝手に動かしてもよかったのかしら?」
「う〜ん……、聞いてみようか」
 その時ちょうど、隣を通りかかったティアラクーナ・ルアシア(てぃあらくーな・るあしあ)を追いかけて呼びとめ、事情を話し許可を求めた。
「構いませんよ。ですが、他のお客さんのご迷惑にならないようにしてくださいね」
「はい。それはもちろん、守りますから」
「なら好きに移動させても大丈夫ですよ」
 そう言い残して去ろうとしたが、何かを思い出したらしくその場で足を止めた。
「困ったことがあったら、是非相談してくださいね。少しは力になると思うから」
「ありがとう。その時はまた声かけるね」
「はーい。それじゃあ、頑張ってくださいね」
 かかとを鳴らしながらティアラクーナはカウンターへと戻っていった。
「これで問題はないね。さて、私もやらなければな」
 踵を返して席へ戻ろうとした途端。
「あっ、そこの黒髪のお姉ちゃん!」
「うん? 私のこと?」
「そうそう! お嬢ちゃんのことだぜ」
 佐野 誠一(さの・せいいち)鈴木 周(すずき・しゅう)に声をかけ、いやナンパされた。
「俺、佐野誠一。こいつは鈴木 周っていうんだけど、お姉ちゃんはなんてーの?」
「私はシズル、加能シズルだ。何か用?」
「いやぁー用って程じゃないんだけどさー。今、なにしてんのかなーって?」
「みんなで課題をやっているよ。あなたたちも一緒にする?」
「いや俺はそんなことより――」
「するする! 俺もちょーど一緒に課題やってくれる人探してたんだよねー!」
「そうなの? でも、それにしては、手ぶらみたいだけど?」
「……おい、何勝手に話を持ってってんだよっ! 課題なんてやってないで、学園案内とかデートするほうがよっぽどマシだろ!?」
「俺がここの制服着てるんだから、仕方ないだろ!? それに一緒に勉強ってのほうが真面目なイメージ持たれて絶対、好感触だって!」
 二人はシズルに聞こえないよう、激しい耳打ちをしあっている。
「どうしたの? やるのやらないの?」
 首を傾げ、対応に困ってるシズルの姿を見た本郷 翔(ほんごう・かける)が三人の間に割り込んでくる。
「こらこら! シズル様に何をなさってるか!?」
「あら、本郷さん。久しぶり」
「おひさしゅうございます」
 どうやらこの二人は知り合いらしい。そう悟った誠一と周は。
「そ、そう! 課題を一緒にやるか、やらないかで話しててな!」
「うんうん! 行こうぜ、シズル!」
 無理やり話を戻し、シズルの問いに答えるが。
「シズル様、このような軟派な方をお誘いするのはいかがなものかと思います。課題のことでしたら、私めがお手伝い致します」
「ちょ、お前っ!」
 翔に阻まれ、計画が危うくなってしまう。
「さっ、行きましょう。あちらでレティーシア様もお待ちしているのでしょう?」
「そうだけど……、ちょっと本郷さん?」
 手を引いて、無理に連れて行こうとしたところに――。
「いいじゃないですか。それなら一緒にやりましょう?」
 レティーシアが声をかけた。
「レティーシア……様?」
「途中から様子を見させてもらいましたが、わたくしは構いませんよ?」
「いいの? 本当に?」
 レティーシアが混ざったことにより、シズルと翔は混乱しはじめる。
 その様子に誠一と周もどうしたらいいかわからず、ただ見守っている。
「わかった。レティーシアがそういうなら――きゃぁっ!?」
「あら、意外といい反応♪ 見かけによらず、いい声だすのね」
「な、なんだ、真里亜か。驚かさないでくれよ、もう」
「いいじゃないのよこれぐらい。って、何してんの?」
 背後からシズルに抱きついた真里亜・ドレイク(まりあ・どれいく)がやっと場の空気を察し、声をひそめた。
「ま、まあその……。みんなでやればいいんじゃないかな」
「そうですね……」
「最初からそうすればいいのですわ」
「あれ? よくわからないけど、まとまった?」
「まとまったんだろう、きっと」
 真里亜の登場で一気に冷め、事態が収拾しそうになったところへさらに。
「あのー。さっき色んな人に声をかけてた人だよね?」
「よければ、ワタシたちも一緒にやりたいと思うんだけど、どうかな?」
 レオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)アーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)に声をかけられる。
「構いませんわよ! みんなご一緒にやれば、問題ありませんわ!」
「そうだね。そうしよう」
「……なんかまずかったのかな?」
「さぁ……、ただタイミングが悪かった。ということには間違いないかも……」
 レオナーズとアーミスは苦笑しつつも、前を歩く五人の後をついていった。

 まだまだ絶賛拡大中のカフェテラスの一角。
 さまざな生徒たちが入り乱れ、協力しながら自分の作業を進めていく。
 そんな中――、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)率いる謎の一味が現れた。
「シズル様、シズル様。自由研究にて、お困りとのウワサを聞きやってまいりました。よろしければ、お力になりたいと存じます」
「へ、あ、ああ、そうだね。でも、今のところは問題ないけど」
 その返答に部下と思われる如月 正悟(きさらぎ・しょうご)ゼファー・ラジエル(ぜふぁー・らじえる)が口挟む。
「なんでもいいぞ! 一人より二人、二人より三人っていうじゃないか!」
「そ〜だよぉ〜、そうだよぉ〜。なーんでもおーけいですよー」
「そうは言われてもね……」
「いいじゃない。その子の言うとおりですわ……と、お水なくなっちゃった」
「――!」
 そのセリフに目を光らせた正悟はゼファーに素早く振り返り。
「ゼファー! レティーシア様とシズル様に飲み物を買ってきて!」
「は、は〜い、今買ってきます!」
 言われるがままに買いに走りだした。
「あら? どうしてあのコ、行っちゃったのかしら」
「レティーシア様がお気にすることではありません。それでは、私がお手伝い致しましょう」
「うん。よろしくね」
「……このまま仲良くなれば、いずれのぞき部に勧誘するタイミングが出来るぞ!」
 いつきはそんな企みを胸に秘めながら、シズルの隣に座り、手元を覗きこんだ。
 正悟はレティーシアのほうへ行き、雑談を始める。
 ――のだが。
「うわぁーん、どうしたらいいのー」
「今のは……?」
 と、そこで少し離れた場所からゼフォーの泣き声が聞こえてきた。
「ゼファーのやつ、またか。仕方ないなー、ちょっと行ってくる」
「うむ。わかった」
「???」
「お気になさらず。まぁ、稀にあることですから」
「仲が良さそうでいいですわね」
「本当にね」
 ゼファーをあやし、手を引いて戻ってくる正悟の姿を見て、シズルとレティーシアは感慨深く頷くのであった。

「ふふっ、なかなか面白いわね」
 のぞき部とシズルたちの絡みをみて、口端をつりあげてるのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)であった。
 彼女もまたグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)を連れて、テラスに潜む謎の集団である。
 なぜかカメラを回し、店内を録画している。その姿にシズルとレティーシアは疑問を持ち、何をしているのか訊ねてみることに。
「なんで撮影しているのかしら?」
「私たちは明倫館の生徒。たったいまここで、隠密科の宿題中よ。内容を知りたかったらカフェが閉まる頃にまた声かけてみて?」
 と、意味深な笑顔であしらった。
 カメラのレンズはウェイトレスを捉えている。そのことから、あの二人が彼女の言う隠密科の生徒なのだろう。
 シズルとレティーシアは、とりあえず終わってからじゃないとわからない。
 その結論に達し、席へと戻ることにした。