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リアクション
第4章
その頃の高峰 結和。
「……ここまで、来れば、いい、でしょう……」
先ほどから全力疾走して来たので息も絶え絶えである。
「これはもうダメです、お友達に電話して来てもらいましょう……携帯は……と」
電池切れ。
「きゃー、どこかで充電しないとー! これは困りました……」
はっ、と自分の口を押さえる結和。恐る恐る後ろを振り返ると……
「よお、困ってんのかお嬢ちゃん?」
「あーーー!!!」
脱兎のごとく逃げ出す結和。だが、正義は困った人を見捨てない! 即座に捕まる結和!!
「こんなの正義じゃなーい!!!」
☆
数分後、またも結和に逃げられたブレイズは次なる人助けのネタを探して奔走中である。すでに数々の正義行為によりあちこちから煙が上がり、パトカーと消防車、救急車のサイレンが鳴りっ放しな状況だ。
「ふー、人助けは気持ちがいいなあ!」
本人に悪気がないのがまた腹立たしい。
「待ちなさい!!」
そんなブレイズを呼び止める者がいた。ルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。
「あなたが正義を語って迷惑行為を繰り返している正義マスクとかいう輩ですね!!」
びしっと指差すルイ。
「確かに俺は正義マスクだ。だが迷惑行為なんかしちゃいねえ! 俺がしてるのは人助けだ! 人助けは正しいことだろ!」
対して自らの行ないをさっぱり理解していないブレイズ。ルイはとりあえず説得を試みている。例え無駄かも知れないと分かっていても、まずは会話から始めなければならない。
彼もまた、善良なる正義の人であった。
「いいですか、確かに人助けは正しい……だが、その過程で他人様に迷惑がかかる行為を常識的に正義とは呼べません!」
「何だとおっ!? く……やっぱ、先輩の言ってた通りだったぜ」
「先輩? 何ですかそれは!?」
「さっきヒーローの先輩が現れて俺に言ったんだ! いずれ俺の前に、常識とか真の正義とか人の迷惑などと御託を並べて、俺を惑わすヤツがきっと現れるだろうってな!」
「な、何ですって!?」
「先輩はこうも言った。正義なんて言葉自体は立場の違いで変わってしまうもの、大事なのは人の役に立とうという心だと! 考えるのではなく、感じることが大事だって!! 俺はやるぜ!! ありがとうクロセル先輩!!」
「――!!」
ルイは思わず吹き出しそうになる。その先輩とは間違いなくクロセル・ラインツァートのことだ。先だってブレイズに接触した彼は、あらかじめ他のヒーローや常識人がブレイズを止めに来るであろうことを見越して、それに耳を貸さないように入れ知恵をしていたのだ!!
まさに迷惑千万!!
激しい眩暈を感じるルイだが、ここで退くような彼でもない。
「そうですか……クロセルさんにはまた今度、身体で説教するとして……まず貴方と身体で話をするとしましょうか!!」
「面白ぇ! やるってのか!!」
「ええ……正義マスクを持っているのは、貴方一人ではありまでんのでね!」
懐からブレイズと同じ正義マスクを取りだすルイ。彼もすでに正義マスクを入手していたのだ。
「行きますよ!」
「来い……正義スパーク!!」
マスクを装着してブレイズと交戦を始めるルイだった。
もともと肉体派であるルイがマスクで更に強化されたのだから、その勢いたるや凄まじい。攻撃が当れば吹っ飛んだブレイズが建物や看板にぶつかり、ブレイズが反撃すればこれもまた同様だ。
その傍ら、その破片を正義マスクの力で片付けたり、人々を避難させたりと地味に活躍するヒーローがいた。
その名はノーブルファントム!! 正体は弟からマスクを騙し取った佐々木 八雲である。
「ささ、ここは危ないからこちらへ」
「おー、これは若いの、すまないねえ。今日はそういうマスクをしている人をよく見るよ、流行っとんのかね?」
「……流行ってるんですよ、きっと」
「なかなかしぶといですね!! ……ぐあぁぁっ!?」
ブレイズとひたすら殴り合っていたルイの背中に突然の雷が落ちる。不意打ちだ。
「誰だ!?」
思わぬ助けが入ったブレイズは、突然現れた味方に目を見開いた。ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が回転機晶盾を使って空中から天のいかづちを落としたのだ。
着地した彼女はキリッとブレイズを見上げる。後ろで束ねた乳白金の髪が、風に揺れた。
「私はパラ実判官のガートルード・ハーレック、正義マスク、貴殿を援護する」
元々、パラ実において無法行為こそパラ実の正義であると謳う彼女、その無法正義を体現するブレイズに感銘を受け、彼を支援しようというのだ。
一方、不意打ちで雷を受けたルイはそれどころではない。正義マスクのおかげでダメージはそれほどでもないが、既に怒りは頂点に達している。
「ふ……ふ……ふ……どいつもこいつも……」
お得意のルイ☆スマイルを引きつらせたルイは、二人揃ってぶちのめしてくれるといきり立つが、その足元に一輪の薔薇が刺さり、邪魔が入った。
「今度は誰ですかっ!?」
薔薇の飛んできた方向を見ると、近くの商店の屋上に一つの人影が見えた。
「貴様に名乗る名など、ありはせぬ!!」
銀のロングヘアーを風にたなびかせながら、彼女は続ける。
「じゃが、あえて言うならばローズ……そう、荒野に咲く一輪の薔薇。正義マスク・ローズ!! ……とでも言っておこうかの」
その正体はシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)、羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)のパートナーだ。シニィもまた正義マスクを手に入れた一人である。
ちなみに、まゆりは近くの物陰からこれはネタになるとばかりにブレイズ達を激写中だ。
「……名乗ってるじゃないですか」
ルイのこまめなツッコミも、正義マスク・ローズは全力でスルー!! 屋上から飛び上がると、ルイに向けて必殺の力を込めた薔薇を放つ!!
「ジャスティス・ローズ!!」
「ぬうううぅぅぅっ!?」
正義マスクの力を込めた薔薇はルイの身体に突き刺さり、その体を吹き飛ばした!!
「うわあああぁぁぁ!!!」
自身はスタッとブレイズの前に着地したシニィは、ブレイズを指差して言い放った。
「正義マスクよ! 今お主が追いたてられているのは、正義の心が足りないからじゃ!!」
「何だって!?」
ガーン! とショックを受けるブレイズ。
「もっと正義の心を燃え上がらせるのじゃ! お主に相応しい戦場はあそこじゃ!!」
ブレイズに向けていた指をスライドして、人だかりができている銀行を指差す。
「いいか、今のお主にならば聞こえるはず――悪に蹂躙され嘆き悲しむ、力なき人々の心の声が!! さあ、行くぞ正義マスクよ!!」
と、ブレイズと連れだって銀行に向おうとする。それは無茶苦茶なことになりそうだ、とガートルードも同行しようとした。
が。
「いい加減にしなさーいっ!!!」
吹っ飛ばされたルイが大きくジャンプして三人の前にドシンと着地した。あまりのことに頭に来たのだろう、鬼神力で自らの潜在能力を解放している。今の彼は頭部に牛の角を生やし、4mほどに巨大化した姿である。激しい咆哮を上げて威嚇すると、もはやどちらが正義か分からない状態だ。
「こんなのを人質のいるところに放ったらどうなるか分かるでしょう! いい加減に目を覚ましなさい!!」
だが、その説得に耳を貸すブレイズではない。そんな彼だったらこんな騒ぎにはなっていないのだ。
「うるせえ! 助けを呼んでいるヤツがいるのに黙っていられるか! 俺は行く! 行って強盗をブチのめす!!」
「そうです、人質などお構いなしに犯人をブチのめすその無法こそ正義!!」
「そうとも、どうせ誰かがやらねばならぬのじゃ!!」
「……ここまで言っても」
――その時ついに、ルイの顔から、微笑みが消えた。
「ここまで言っても分からないというのですかーーーっ!!!」
あまりの迫力に先手必勝と再び天のいかづちを落とすガートルード。だが、今のルイはそんなものでは止められない。雷を弾き飛ばし、獣のような咆哮と共に攻撃を繰り出す!
等活地獄!! そして即天去私!!
「ぐあぁぁぁっ!!」
「きゃあぁぁぁっ!!」
「ぬおぉぉぉっ!!」
両手に装備したロケットパンチから繰り出される連続攻撃で蹴散らされるガートルードとシニィ、そしてブレイズ。
「まだまだ、私のお説教はこんなものではありませんよ……!!」
肉体言語による説教モードのルイ。その前に、また一人の男が姿を現した。ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)だ。
「がはははは! てめえらに真のセイギってものを見せてやるぜぇ!!」
身構えるルイ、また新手の正義マスクだろうか。ピンク色のモヒカン頭でツナギを着たゲブーはどう見てもパラ実の生徒。その口調も相まって、まともな人物には見えない。
そもそも、正義マスクを手にした人物が三人もいるこの戦場に単身乗り込んでくるのだから、よほど腕に自信があるのか、それともただのバカか。
「この街じゃあセイギが流行ってるそうじゃねえか! そこの女セイギども! てめえらにセイギ勝負を挑むぜ!」
「!?」
思わず鬼神力を解いて、不思議な顔をするルイ。この場の女性二人はガートルードとシニィ、どちらかと言えば世間に迷惑をかけている側の人間だ。それに勝負を挑むということは、意外と常識人なのだろうか。
「てめえらはセイギってもんが全くわかってねえぜ! セイギといえばおっぱいを揉むものだろうが! こうワキワキとな!!」
……どうやらただのバカだったらしい。あと多分、そのセイギは字が違う。唖然とする一同を前に、誇らしげに続けるバカ。
「俺様がおっぱいに向えばいつもナオンどもはキャーキャー言って喜び叫ぶぜ!! この技でてめえらもコテンパンさぁ!!」
確かにキャーキャー言われるだろうが、それも多分意味が違う。と、心の中で突っ込む一同。正直言って、この場の誰もがゲブーのことを甘く見ていた。
だが、波羅蜜多実業高等学校ゲブー・オブイン、バカはバカでも、ただのバカではない!!
「行くぜぇっ!!」
ふっ、とゲブーの姿が消えた。
「消えた!?」
正確には消えたわけではない、先の先、あまりに素早い動きだったので、その動きについていけなかったのだ。
ぞくりと、本能的な危険を感じてガートルードが後ろを振り向くと、いつの間にか後ろに回りこまれている事に気付く。
「――!?」
もちろんそこにいたのはゲブーだ。その両手は虚空を掴むがごとく、ワキワキと目標物へと向って一直線に迫りつつある。
「いやあぁぁぁ!!!」
女王の剣!!
生理的な危険と嫌悪感に身震いしつつも、目標を定めずにブライトシャムシールを振り回した。辛うじてゲブーを退けるが、護身のために刀を振ったにすぎないので、当りは浅い。
「へっへっへ……そうこなくっちゃなあ……」
まったくこたえた様子のないゲブー。次はどっちを狙おうかとシニィとガートルードを見比べるように視線が動く。見られた方にしてみれば、これ以上嫌な視線もない。
「うおりゃぁぁぁ!!!」
軽やかにジャンプし、次はシニィ――正義マスク・ローズへと向う。だが、シニィはそれを正面から迎え撃つ!
「ふん!」
轟雷閃!!
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
しかし、ゲブーもただ者ではない。轟雷閃を受けながらもじりじりとシニィに向かって行くではないか。
「お……おっぱあああぁぁぁ!!!」
その執念がどこから来るのか、もう誰にも分からない。
一方、ゲブーの出現によって一気に味方を失った状態のブレイズ、だがルイもゲブーとブレイズのどちらを止めていいか分からない。
そこにやって来たのが禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)であった。
「フハハハ! 俺様こそがせいぎの味方!」
「わっ! 何だコイツ!!」
河馬は魔道書である。しかも魔道書の通例に従わず、本体である石本をサイコキネシスで動かして移動するというウルトラCを実行中である。
つまり、ブレイズはふよふよと宙に浮く石本から突然話し掛けられたことになるわけだ。それは驚くだろう。
「まあ気にするな! それよりせいぎの味方だってな! 俺達は同士だぜ!」
「……そ、そうなのか? まあいい、俺はブレイズ、よろしくな」
「お、物分かりがいいねえ。よろしくな!!」
ふと見ると、河馬吸虎がやって来た方を見ると、何故か半裸の男女の姿が目立つ。この街中で追いはぎでも出たのだろうか。
「――ところで、あれは?」
「ん? ああ、あれは正義マスクとやらを探してる最中にせいぎの手伝いをな! ちょっと見かけたカップルの服を剥いで盛り上げてたってワケよ!! これでせいぎし放題さ!!」
――また『せいぎ』違いか!
「こらーっ!!!」
そんな会話を交すブレイズと河馬吸虎の二人に向って、一人の女性が突っ込んでくる。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は巨大な盾――ラスターエスクードを構えたまま突進してきた。そのまま止まるのかと思いきや、まるでブルドーザーで邪魔な瓦礫を排除するような勢いで二人をそのまま跳ね飛ばす!!
「どわぁっ!?」
「ぎゃあっ!!」
あまりの勢いに避け切れず、そのまま吹っ飛ばされるブレイズと河馬吸虎。生身のブレイズはともかく石本の河馬吸虎は大丈夫なのかと思うが、存外ピンピンしていて、リカインに文句を言っている。
「おいコラ、いきなり何しやがる!!」
だが、それで収まる様子はリカインには微塵も感じられない。そのままラスターエスクードを持ち直し、今度は河馬吸虎一人に狙いを絞って大きく振り上げる。
「何しやがる、は……」
「こっちの台詞よーっ!!!」
パワーブレス、ドラゴンアーツの怪力を利用したシールドバッシュである。そのままペチャンコにされて地面と同化する河馬吸虎。
河馬吸虎の悪行を聞きつけて止めに走って来たのであろう、はあはあと肩で息をするリカインだが、やがてギロリとブレイズを睨む。
「……ブレイズって、あなたですか」
「……ああ。俺が正義マスクのブレイズだ。正義のために人助けをしてるってのに、カラんで来るヤツが多くて困ってるのさ。……アンタも俺の正義を邪魔するってのかい?」
「……三回も言った」
「あ?」
リカインはこのところパートナーの河馬吸虎が『せいぎ、せいぎ』とうるさいのですっかりイライラしていた。もう『せいぎ』という単語を聞くのも嫌だ。その単語を連発するような奴が目の前にいたら殴ってやるのに、という気持ちである。
ちなみに、彼女自身も正義マスクをひょんなことから手に入れていたが、正義というガラでもないし、いいからその単語を口にするな、というワケで使っていない。
そして目の前に、正義の体現者を自認する男が一人。
「ふ、ふふふふふ……」
ちゃき、っと盾を構えるリカイン。どうやらやる気らしい。
「ふん、盾だけで俺とやろうってのか」
だが、そこにアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が割って入る。こちらもリカインのパートナーだ。
「やめろ、バカ女」
「……どいてよ、あんたの出る幕じゃない」
「出る幕? それこそ『こっちの台詞』だこのバカ。誰かのせいにして暴れまわって自分はさぞかしいい気分だろうが、振り回される側の身にもなってみろっての」
「何ですって!!」
「違うってのか? 別にこの正義野郎とは何の関係もねえだろうが、八つ当たりはいい加減にするんだな」
「……」
黙ってしまうリカイン。リカインの戦意が失われたことを感じて、ブレイズは手持ち無沙汰だが、アストライトはブレイズをも睨みつける。
「アンタもだぜ、ニーチャン。……まだガキみてえなチャチな正義を振り回すつもりかい?」
「……ああ!?」
「正義なんてなあ、大声で宣伝して歩くもんじゃねえんだよ。それを求める多くの声に支えられて初めて正義になるんだ。ニーチャンも正義の味方になりてえってんなら悪いことは言わねえ、誰かに必要とされるようなことからコツコツ始めるこったな」
「……んだとぉ!?」
だが、その反応は予想通り。アストライトは更に語勢を強めた。
「ふん、図星を指されて怒るのはガキの証拠だぜ」
「てめえーっ!」
殴りかかるブレイズの拳を女王の楯でガードすると、自らの光条兵器、ブレードトンファーを取りだす。
「へえ、やっぱ聞く耳持たねえか。んじゃあ、ちょっくら捕物と行こうかね」
リカインともども庇護者で守りつつ、素早い動きをするアストライトにはなかなか攻撃が当らない。業を煮やしたブレイズは正義スパークを放つ!!
「正義スパーク!!」
「おおっと!!」
紙一重で正義スパークを避けていくアストライト。この調子で正義スパークを連発させて疲労させ、それから捕らえる作戦なのだ。
「せいぜい派手にやってくんな!!」
事態はいよいよ混戦の様相を呈してきた。そこに現れたのは茅野 菫(ちの・すみれ)。
いや、正確にはさっきからいたのだが、誰も気付いていなかったという方が正しい。
正義マスクを入手した菫は、暴力を止める為に正義という名の更なる暴力を行使するのは無意味である、という信念のもとに戦いを止めようと孤軍奮闘していた。
ちなみに、彼女の正義マスクはマフラーのようなデザインをしていて、首に巻けばいいらしい。
「やめてーっ!!」
正義マスクで肉体を強化した菫は、一切の攻撃を行なわずに突進する!
「きゃーっ!!」
当然、攻撃を受けてふっとぶ。端から見れば正義のためと称した戦いに一人の少女が巻き込まれているように見える。超人的な力を行使する戦いに突進しているので、服は破けて、髪は焦げてとボロボロである。
これにより、あらゆる正義の味方達の評判を下げて戦いを止めよう、という遠大な計画だったのだ!!
というわけで先ほどから突進と被害者役を繰り返している彼女だが、大きな誤算があることに気付いた。
「こいつら……誰も人目なんか気にしてないじゃん……」
計画そのものは良かったのだが、ちょっとタイミングが悪かったようだ。がっくりとうなだれる菫。
だが、そこに律儀にも助けが現れた。夢野 久(ゆめの・ひさし)だ。
「嬢ちゃん、大丈夫か!?」
パラ実の生徒でありながら、理不尽な暴力を振るわない久は、いわゆる硬派だ。当然、か弱い少女が戦いに巻き込まれているのを見て放っておくわけには行かない。
「ちくしょう……あいつらやりたい放題しやがって……」
そこに颯爽と現れたのは久のパートナー、ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)。そしてその手に持つのは正義マスク!!
「久、私に任せて……あなたから譲り受けたこのマスク、無駄にはしない!」
「ルルール!」
「あんなのは正義じゃない……私が本当の正義というものを教えてあげる!!」
「……おまえ……」
久は動揺と感動を隠せない。何しろ普段のルルールの素行と言ったら品性下劣放蕩淫行の下品三昧。大抵は久が殴って止めるものの、その行いには頭を悩ませていたところだ。そのルルールが正義を見せようというのだ、これはもう奇跡と言ってもいい。
彼女は、正義マスクを手にしたことにより更生したに違いない!
ざざっと、戦闘を続ける一行の前に立ったルルールは、大声で注目を集めた。
「あなた達!!」
一瞬、ぴたりと戦いの手を止めて注目する一同。
「あなた達の正義は間違ってる! 真の正義とは力じゃない! ……愛よ! 互いに許し、手を取り合う、それこそが愛!!」
む、見かけはハデな女性ですがいい事を言いますね、とルイは注目する。
ひさしぶりにルルールのまともな発言を聞いた久は涙した。
だが。
「そして愛を教えるために私が……あなた達に<ピー>なことをしてあげる!! そして<ドカーン>なことも!! ついには<チュドーン>なことも!!」
<>内の不可解な部分は放送禁止用語であると思っていただければ幸いである。
「て言うか、する!!!」
言い切った!!
「嫌がってもする!!!」
更に押した!!
「行くわよ、これが愛のための正義技!!!」
ぐぐっとタメを作って構えるルルール。まさかの爆弾発言の連続にあっけに取られていた一同だが、何らかの技を発動すると聞いて防御姿勢を取る。
……だが、彼女は愛のためにどんな技を繰り出すというのか?
「ジャスティス触手!!!」
――彼女の愛とはどうやら触手だったらしい。
ルルールの長髪がウネウネとした触手に変形し、数十本の触手となって一同に襲いかかっていく。
「うわぁっ!?」
まさか触手とは誰も思わなかっただろう、反応が遅れたためあっという間に触手に捕らえられてしまった。
表面にボツボツと凹凸のある触手は身体をウネウネとまさぐり、エネルギーを吸い取っていく!!
ガートルードも、シニィも、非戦闘員のはずの菫も、リカインもアストライトも、そしてゲブーも、ブレイズもルイも、ペチャンコになった河馬吸虎に至るまで。
「や、ちょっと……気持ち悪い……やめてぇ……」
「お、おのれ、調子に乗りおって」
「こら、ちょっと! あたし関係ないじゃん!」
「やめなさい! この!!」
「これに何の意味があるんだ!!」
悲鳴は人それぞれであるが、中でもヒートアップしているのがゲブーだ。
「うひょひょひょ! こいつなかなかやるじゃねえか、俺様のセイギ技も喰らいやがれ! 今、必殺のデンジャラスマッサージ!!」
つまりは揉むだけである。触手に何らかの効果があるとも思えない。
「う、おぁ? ひっ! ……ひょ! うぉぉぉ! にょわぁぁぁ!!」
何だか分からない叫びを上げて悶絶するゲブー。パンク姿の男性にみっしりと触手が絡みつくその姿はかなり衝撃的だ。
「さあ、これからあたしの愛の証をたっぷりとまんべんなくぐっちょっぐちょになるまで注いで――」
全員を捕獲してご満悦のルルールである。
が、その後ろで『俺の感動の涙を返せ』とばかりにコンクリートブロックを手に持った久には気付かなかった。
そして、それが彼女の敗因でもあった。
「――え?」
振り向く暇も与えずに後頭部を叩き割るコンクリートブロックの強襲撃!!!
「がっ!!」
第2撃! うつぶせに倒れた後頭部に追い撃ちをかける荒ぶる力によるコンクリートブロックの殴打撃!!!
「ごっ!!」
まだ動くか! マウントポジションから後頭部へのコンクリートブロックによるヒロイックアサルトも真っ青の追打撃!!!
「きっ!」
アンコールにお応えして! 血まみれの後頭部を根こそぎ駆除するほどの勢いで放たれるコンクリートブロックにおける粉砕撃!!!
「――」
ぽい、と真っ赤に染まったコンクリートブロックを捨てた久は、完全に沈黙したルルールの足を取った。そのままずるずると引きずっていく。
「……人の見る夢と書いて、儚い、か……」
一人呟き、道路に赤いスジを残しながら去っていく久。
――その背中には、男の哀愁が漂っていた。
ルルールが意識を失ったことにより正義マスクの効果も消え触手から解放された面々であるが、そのほとんどは触手の効果で戦う力を失っている。
特にかなり無駄な抵抗をしていたゲブーはひくひくと恍惚の表情で気を失うほどだ。
動機はともかく、結果的にはルルールの触手攻撃でかなりの戦力を削いだと言えるであろう。
偉大なるかな、愛の力。
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