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第三弾来ます!



「第三弾来ます!」
 第三弾命中。それでもコームラントの装甲は砕けない。
「杏さん、行けます!」
『そう来るか……面白い!』
 シミュレーターの外、制御端末で演習の行方を眺めながらダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が笑みを浮かべる。
 彼はフレイを通じて天御柱の上層部に許可をとってKAORIの取る戦術に介入する権利を得ていた。
「さて、教官どの、ここで予定していたとおりに戦術を変更しますよ?」
「わかった。だが、この訓練は天御柱学院のコンピューターを使っている。国軍とはいえ、教導団の生徒がアクセスするのは好ましいとはいえない。そのために私がここに居ることを忘れないで欲しい。今回は許可するが、今後は難しいと思え」
「わかっています。とはいえいくらKAORIとはいえ人間ほどの柔軟な戦術の運用はできないでしょう。このままでは生徒に有利なままで演習が終わってしまいますよ。さて、っと」
 彼は《ゴッドスピード》、《両手利き》、《歴戦の立ち回り》、《防衛計画》等を用いてコンピュータに割り込む。
「ちょっとしたサプライズをあげよう。ここで空飛ぶ砲兵大隊から、大砲兵大隊だ」
 そして敵の動きが変わる。敵のミサイル発射装置の砲口が一斉に杏の方を向く。
「アニス、敵の陣形が動いたな……あれがなんだか分かるか?」
 佐野 和輝(さの・かずき)は高高度から戦況を眺めていた。そしてパートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)に問いかける。
「えっと、その……これより説明を、行い、ます……ぁぅ〜」
「あれはな、大砲兵大隊と言って、砲を単一の急所となる地点に集中するものだ。敵が恐怖に捕らわれたり、陣形が崩れると大きな損害を与えられる。また、単に敵の急所をつくときにも使える。この場合は、突出している葛葉 杏の機体に一斉攻撃して落とすためのものだ」
「はうぅ〜、な、なるほど」
 その説明通りに、杏のコームラントめがけて一斉にミサイルが猟犬のごとく襲いかかってくる。
「くっ!」
 杏が呻く。だが、あまりにもミサイルの密度が濃すぎる。
「撃ち落とす! 早苗、大型ビームキャノン発射準備!」
「は、はい! 初射の準備はすでにできています!」
「よし、ファイア!」
 右腕に取り付けられた大型ビームキャノンが発射される。これでミサイルの1/4、10発あまりを落とした。
「よし、次!」
 そして左腕に取り付けられた大型ビームキャノンが発射される。よく勘違いされるが大型ビームキャノンは左右の腕に一門ずつ付いている。普段はそれを両方同時に発射することによって攻撃力を上げるのだが、今回はそれをずらすことによってより数多くのミサイルの破壊を目論んだのだ。
 そしてさらに10発程度のミサイルが破壊される。
「つぎ、アサルトライフル」
「は、はい! 準備よし」
「いっけー!」
 杏はアサルトライフルを発射し接近してきたミサイルの群れを撃ち落とす。
「全弾使いきりました」
 そして10発あまりを落とし残り10発。
「くっ、かわし切れない!」
「きゃああああああ、杏さん!」
 早苗が悲鳴をあげる。
「《鉄の守り》」
 と、そこでミサイルが分裂し百発の子弾をばらまく。
「させまへんでぇ 紫音、いいどすぇ!」
「了解! 発射!」
 横からサイコビームキャノンが発射され、ミサイルの群れを撃ち落とす。
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)の【建御雷】だった。
「杏、一人で頑張り過ぎだぜ。もっと仲間を頼れ。もっと連携して、一緒にがんばろうぜ!」
「……ごめんなさい。そうよね。でも他の学校には負けたくないのよ!」
 うつむきつつも声を張り上げる杏に、紫音はやさしく言う。
「だったら同じ天学生の俺達だけでも頼りなよ。戦争は単騎駆けで状況を変えられるほど甘くはないぜ。そんなのは三国志の時代で終わってるんだ」
「……ありがとう」
 わずかの逡巡のあとに礼を言う。そのためらいの間に何を考えたのかは杏だけが知っている。
「よし、御剣 紫音、【建御雷】、出るぞ!」
シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)、【コキュートス】もいきますよ! ミネシア、フルドライブ!」
「了解! それにしても今回は纏まりがないねえ」
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が子供っぽく素直に感想を述べる。
「ミネシア!」
「ごめーん」
 と、そこに全体の指揮をとる幸祐から通信が入った。
「こちら【飛空巡洋戦艦グナイゼナウ】。天御柱の三機は小隊行動を取るように」
『了解!』
「マスター、補給作業開始します」
「OK。味方機の援護をしつつ補給を開始しろ」
「イエス マイ マスター」
 ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)が幸祐に答える。敵ミサイルをたたき落とすだけでも味方は消耗していたのだ。
「敵のミサイルの取りこぼしはすべて後方に控えている我々で叩き落としたし、これからもそうする。天御柱小隊は敵ミサイルの迎撃を主任務とする」
「わかったわ」
「了解」
「さて、行きましょうか」
 杏と紫音とシフがそれぞれ返事をする。
「ごにゃ〜ぽ☆ ドールが大砲兵大隊の弱点は敵からの集中砲撃だって言ってるよ」
 と、そこに裁からの通信が入る。
「今が出時だね。いあ いあ つぁーる!」
「いあ いあ つぁーる!」
 裁の言葉に合わせてサブパイロットのアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)も召喚の呪文を叫ぶ。
 異世界から召喚された邪神の触手が敵大隊の先端部を襲う。
 同時に杏のコームラントの大型ビームキャノンと紫音とシフのレイヴンTYPE―Eのサイコビームキャノンが敵前方に命中する。
 シュヴァルツ・フリーゲ1機とシュメッターリング3機からなる敵一個小隊が、エネルギーの渦と魔力に飲まれて消滅する。
「くっ、一個小隊がやられたか。流石だな。だがこのままでは終わらんぞ……」
 ダリルは大隊を再び編成すると空飛ぶ砲兵大隊に戻した。そして、移動させてミサイルを撃つ。これを繰り返す。だが、第8波から第14波まではすべて防がれてしまう。
 しかし
「杏さん、ビームキャノン弾切れです」
「紫音、こちらも」
「こっちはまだ一発残ってるけど、そろそろミサイルを防ぐ余裕が無いよ、シフ」
「ごにゃ〜ぽ☆ ビームキャノンは確かリロードできないよね。下に【ラ・ソレイユ・ロワイヤル】がいるから補給するといいよ。王様、準備OK?」
「誰に向かってものを言っておるのかぇ? 朕は太陽王ルイ・デュードネ・ブルボン(るいでゅーどね・ぶるぼん)であるぞ」
「はいはい。じゃ、王様、受け入れお願いします。下から援護するよ。無尽パンチいっけええええええええ!」
「了解! デッキガン一斉発射! 降りてくる味方にあてぬのだぞ? ベアトリス、デッキに行ってヒールの準備をしておれ、パイロットは疲れているからのぅ。イコンの管制も任せたぞぇ? 一度に着艦できるのは1機だけじゃからのう」
「了解です陛下」
 ベアトリス・ド・クレルモン(べあとりす・どくれるもん)が返事をする。ベアトリスは医師である。ひどい物忘れで度々迷子になるため腰にロープを巻いている。
「他のみんなも援護して! 補給の時が一番無防備なんだから」
『了解!』
 裁の言葉にみんなが答える。
「こちら【シュペール・ミラージュ】のフラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)だよ。海上から援護する。アンリ、アサルトライフル発射!」
 フランがパートナーで火器管制システムを引き受けているアンリ・ド・ロレーヌ(あんり・どろれーぬ)に指示を出す。
「了解だよ」
 そして
「こちら【アオドラ】水上から支援します」
 アコーディオンを弾いている兄に代わって通信するサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)。ショルダーキャノンを発射して水上から敵を追い詰める。
 とはいえこれらの武器は大型ビームキャノンやサイコビームキャノンのように一気に敵を巻き込んで殲滅できるたぐいの武器ではない。そのため、1機ずつ倒していくしかなかった。
「千鶴、アサルトライフルで地道に敵を落としましょう!」
 テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)がそう言うと、パートナーの瀬名 千鶴(せな・ちづる)が、
「わかったわ!」
 と答える。
 新入生で不慣れなテレジアのためにパートナーの千鶴は精一杯心を砕く。
「こちら【ツィルニトラ】、精一杯側面援護をする!」
 そうしてアサルトライフルで敵機を迎撃し一定の成果をあげる。
「センサーに感、右、十三度」
 魔鎧のデウス・エクス・マーキナー(でうすえくす・まーきなー)は主人たるテレジアに完全に張り付き、彼女にしか聞こえない声で耳元に囁く。
「了解。千鶴、右、十三度」
「わかった!」
 そして敵を迎撃していく。
「よし、俺も行っておくか!」
 ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)がそう決心する。だが彼の頭にあるのは巨大生物を狩って如何に食料にするかのことばかり。
「とはいえ、スナイパーライフルを使うしかなかろうな」
 レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)の言葉にロアは素直に従い、スナイパーライフルで敵の集団を狙撃する。
 他の武器では射程が短すぎるからだ。

 敵のミサイルが飛んで来ると、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はミサイルをギリギリまで自分に集めてから唐突にワープした。
「グラキエス様、敵ミサイルは集団で爆発した模様です」
 グラキエスに仕える悪魔エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)がそう言う。
 事実、目標を見失ったミサイルは目標地点に集中し相互に爆発し合ったようである。
「おや? グラキエス様、魔力に乱れがあるようです。回復をしておきましょう」
 エルデネストはそう言うとグラキエスの頬に手を近づけた。
「よろしい……回復しているようです」
 エルデネストは満足気に宣言するとさらなるワープの準備をした。