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第二章 体温まるプレゼント

 雅羅達捕獲部隊とは打って変って場所は手芸教室。ここでは現在クリスマスプレゼント用の編み物を作るための教室になっていた。色とりどりの太さ様々な毛糸などが机に転がっていて一種のイルミネーションのようであった。
 そこには白雪 魔姫(しらゆき・まき)とパートナーであるエリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)がほのぼのしながら毛糸を編んでいた。魔姫はエリスフィアに編み物を教えてもらいながら定番のマフラーを編んでいた。
「中々面白いものね。自分の手で形なす物が出来上がっていくのを見るのは」
「初めてなのにお上手ですよ。でも、いいんですか? 呪いのサンタ人形のこと」
「大丈夫。私達の他に捕獲を手伝う人もいたし。それにせっかくクリスマスを楽しませるために事件を解決しようとする捕獲隊の人にも悪いじゃない。なら精一杯楽しまなきゃ」
「……そうですね。なら私はマフラーじゃなくてミトンに挑戦してみようかな」
「他の子たちの分も作らないとね」
 初めてながらもエリスフィアに教わり、初めてとは思えない腕でマフラーを作っていく魔姫。二人は微笑をかわしながら、ゆっくりクリスマス独特の雰囲気をかみ締めつつ編み物を繕うのだった。
 穏やかな空気の二人の近くには藤原 歩美(ふじわら・あゆみ)リスティ・オーディラス(りすてぃ・おーでぃらす)の姿もあった。こちらも負けず劣らず二人で和やかに毛糸でマフラーを作っていた。
「ふふーんふーん、マフラーマフラー編みましょうー」
「歩美さんご機嫌ですねぇ? 何か良いことでもあったんですか?」
「うーうん、そうじゃないよー」
「にしては嬉しそうですけどぉ、そもそも何で急にマフラーなんて? 誰かに贈ったりするのですか?」
 歩美は少し照れながらもリスティにこう言う。
「うん、私が最近憧れてるって言ってた先輩に贈ろうかなって。クリスマスだしね!」
「そうですか、頑張ってくださいです!」
「ありがとうってちゃんと手元見て! 毛糸すごいことになってるから!」
 歩美の忠告虚しく、既にリスティは複雑怪奇に毛糸に絡まっていた。必死に解こうとするリスティだったがわたわたすればするほど毛糸は更に絡まりもう自分ではどうにもできないところまできてしまったので歩美に助けを請うことに。
「歩美さーん、助けてくださいですぅ……」
「もう、しょうがないな……動かないでね、ここをこーしてあーしてっと。はい、こんなもんかな?」
「歩美さんの手、すっごく暖かいです。この暖かさと一緒にマフラーを渡せばきっと大丈夫ですよ!」
「そう? ありがとう、リスティ」
 その後も幾度となく毛糸に絡まるリスティを助けながらもゆっくりとマフラーを作る二人だった。
 そんな和やかムードの四人とは対照的に、今悩んでますという文字が顔に出ているくらい悶々と唸っているのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。彼女はパートナーに内緒でこの手芸教室に参加してサプライズでマフラーを渡そうとしていたのだ。マフラーくらいなら一人でもと意気込んで来たものの予想以上の難しさに唸っている今に至っていた。
「簡単に……編めると思ったのに……ぐぬぬ」
「ねぇねぇそこのあなた。あっちで私達と一緒に編まない? マフラーなら一緒に相談しながら出来ると思うからさ!」
 やってきたのはマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)だった。マーガレットはパートナーであるリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)と共に参加しているが、自分達も初心者なのでもし同じような人がいたら一緒にやろうと思っていたのだ。そこで唸っているシャーレットを見つけて声をかけた、ということだ。
「えっ、でも」
 今回は一人でプレゼントしようと思っていたシャーレットはこの誘いを受けるべきか迷った。だがしかしこのままでは埒も明かないのでその誘いを受けることにした。シャーレットはマーガレットに連れられてリースがいる机まで移動する。
「おーい、一緒にやってくれる人連れてきたよー!」
「あ、うん。初めまして、私リース・エンデルフィアと言います。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「セレンフィリティ・シャーレットよ。よろしくね?」
「ちなみに私はマーガレット・アップルリング。よろしく!」
 三者三様の自己紹介をして早速三人でマフラーを編み始める三人。全員が初めてのため試行錯誤をしながら、相談をしながら、失敗をしながら何とかマフラーを編んでいく。
 その姿を隅っこの方で目立たぬように見ていたシャーレットのパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が快調にマフラーを編んでいた。
「……果たしてマフラーの形になるのか、楽しみね」
 行くところがあるから、とだけ言い残して去っていったシャーレットが気になりついつい尾行して付いてきてしまったセレアナ。手芸教室に入っていくシャーレットを見て事情を把握したセレアナは邪魔にならないように帰ろうとしたが手芸の先生に照れて入れずにいるのね、という勘違いをされ強引に教室に入らされてしまったのだ。幸いシャーレットは気付いていなかったので仕方なく隅っこの方でマフラーを編んでいたのだった。
「まあ、私が二人分編んでおけばいいわよね」
 なるべく目立たぬようを心がけ二着目のマフラー製作に取り掛かろうとしたその時声をかけられるセレアナ。
「あの、すいません。少しお聞きしてもよろしいですか?」
「ん?」
 セレアナが手元から目を離して顔を上げるとリースが立っていた。先ほどまでシャーレットと一緒にいたリースが自分の近くにいてはバレてしまう可能性が高い、とチラっとシャーレットの方を伺うセレアナ。
「ああーすすまなーい! 何でほつれるのよー!」
「まあまあ落ち着いてやりましょう。マフラーは逃げませんから」
 上手くいかないシャーレットをマーガレットが上手くいさめていた。無我夢中といったところだ。
「あのう、私のマフラーおかしくないか見てもらってはだめでしょうか?」
「……いや、構わない。私も初めてだが教えられるところは教えてあげる」
「ありがとうございます! えへへ」
 こうしてリースはセレアナと一緒にマフラーを編むことになった。
 黒板の方では手芸教室で同時開催されていたクリスマス講習(クリスマスの説明からハートを射止めるマフラーの編み方伝授コース)に参加していたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)アリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)の三人が講習を終えいよいよマフラー製作に挑まんとしているところだった。
「くりすますとは非常に楽しきものなのですね。私、感動してしまいました」
「そうかなぁ、私は退屈しかしなかったよ」
「やはり学業の講習ではサンタ殿の武勇は語られないのであろうか。様々な情報を聞きたかったのだが仕方あるまい」
 それぞれ感想を言いながらもマフラーを作り始める二人。アリッサだけはめんどくさいとだけ言ってフレンディスにアドバイスをしていた。ぎこちないながらも着実丁寧に編んでいくフレンディスにアリッサが話しかける。
「その棒をさ、こっちにぶーんって持ってきて毛糸をしゃかしゃかしゃかーってしたらどーんと早くなりそうじゃない?」
「え、えっとー」
 必死に今のアドバイスを試してみようとするフレンディスだったが抽象的すぎるアドバイスに困惑するだけで終わってしまった。
「あまり適当なアトバイスをしてやるな。困惑するであろう」
 その横でレティシアが至極真っ当な意見を言う。が、その手元で編まれているものは独特を通り越して独創的な編み物の数々が陳列していた。これを無表情で創り続ける彼女を見てフレンディスは言う。
「そんなに早く編めるなんてすごいです! 私も頑張ってあの人にプレゼントするマフラーを編んで差し上げないと!」
「いや、あんなのプレゼントされたら誰でも怖がるからやめときなって……」
「あんなのとは失礼な。そこまで言うならお前もやってみるがいい」
「遠慮しとく……」
 兎にも角にも手芸教室は和気藹々とした雰囲気の中でプレゼント作りが進められるのであった。