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リアクション
■温泉に浸かろう!(後編)
――和輝、ラルク、羅儀の共同による簡易仕切りが完成し、それを温泉に渡し終えたようだ。円状になっている湯船の中心からバランス良く三等分に分けられ、一辺は男子湯用と女子湯用を分けるようにして木の仕切りが鎮座している。そして残りの二辺はそれぞれの湯から混浴ゾーンへ移動可能なカーテンの仕切りがついていた。このカーテンはザイルによって下げられている。
この仕切りによって三箇所に分かれた入浴ゾーン。混浴を望まない人たちでもこれなら納得のいく出来だろう。そんなわけで、先ほどから入浴を待っていた人たちや温泉蟹との戦闘ですぐに入れなかった戦闘班も湯船に入ることとなった。
――脱衣所の前。なにやら馬謖とサティナが揉めているようだ。その傍らには伊織の姿も見える。
「……こら、なぜ俺が女湯に入らねばならん」
「え、だっておぬしは幼女であろう? 幼女が男湯に乱入しては他に入ってる者や伊織に迷惑がかかろう。だから、幼女は我と一緒に女湯じゃ」
「“ようじょ”じゃなくて“幼常”だ、ようじょと呼ぶな。きちんと字(あざな)を――って、はーなーせーっ!」
「生前がどんな姿であったとしても、今のおぬしは幼女なんだからこっちじゃ。温泉ということで気分がいいからの、酌くらいはさせてやろうぞ」
馬謖の文句を無視して、サティナは馬謖を脇に抱えると脱衣所へ行こうとする。もう片方の手には超有名銘柄の日本酒を携えている。
「はわわ、あんまり迷惑かけちゃダメですよー……って、どうしたのですか二人とも僕を見て?」
どう見ても女の子にしか見えない伊織を、馬謖とサティナはじっと見遣る。
「……伊織、入る方向間違ってないか?」と、馬謖。
「おぬし、男湯には入れるのか? 少し不安じゃのう」と、サティナ。
そんな心配の視線に伊織は唖然としてしまう。
「はわっ、僕は男の子ですよー。入る方向、間違っていないのですぅ」
伊織が可愛い反論をしているそんな最中、ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は個人用蟹しゃぶセットを抱えたまま脱衣所へ入り、そのまま女湯へと移動していったのだった。
……ちなみに馬謖はこのあと、堂々と裸を見せるサティナのお酒のお酌をやらされるハメになり、ミストは蟹しゃぶを殻ごとバリバリと食べながら温泉を楽しんでいるようであった。
――その一方、男湯では非常警戒態勢を敷いたまま湯船の隅っこに浸かるリアトリスの姿があった。どうやら男性にも裸を見られるのが恥ずかしいからか、ビキニを身に着けて『超感覚』で周囲を警戒しながら入浴中だった。……正直なところ、こんな状態だとゆっくり浸かれているのか心配になるところである。
「はわー、広いのですよー」
と、その時。伊織がとてとてと温泉に入ってきたようだ。続けざまに北都、クナイ、モーベットの三人も姿を現す。
「わ、わわわわわわっ!?」
他人の来訪を察知したリアトリス、は慌てて温泉から出ていってしまう。ザブザブと慌しく脱衣所に向かっていったリアトリスを、伊織や北都たちは不思議そうに目で追うしかできなかった。
「な、なんだったんだろうねぇ……今の」
「北都には関係ありませんよ。さ、入りましょう」
(眼鏡が曇ってて見えなかった……)
北都たちはそれぞれの反応を見せながら、洗い場へと移動する。そして、伊織は何かを見つけたようだ。
「……ほぇ、ビキニ? 混浴の所から流れてきたのですかねー……?」
――その少し後、リアトリスはそのビキニを回収するのに色々と手間取ったとか……。
混浴ゾーンでは瑠夏とシェリーが一緒に温泉に入っていた。混浴でも大丈夫なように、水着を着ている。
温泉蟹との戦闘や運搬で疲れたのだろうか、瑠夏は湯船に浸かったままうとうととうたた寝をしているようだ。シェリーはその姿に小さく微笑む。起こそうと思ったが、少しそのままにしておくことにした。
「ん……みどり……ねーちゃ……すぅ……」
ふらっ……と瑠夏の身体はシェリーに寄りかかり、小さな寝言をポソリと口にする。
(――みどり……瑠夏くんの亡くなったお姉さんの名前、だっけ。たまに今でも私のことをそう呼んじゃう時、あるのよね……)
シェリーに寄りかかったまま、小さな寝息を繰り返す瑠夏。シェリーはそんな無防備な瑠夏を見遣りながら……慈愛のこもった笑みを浮かべる。
「……大丈夫。私が守ってあげるから……だから、瑠夏くんはそのままでいていいんだからね」
「……ん、うぅ?」
どうやら目が覚めたのだろう、瑠夏は目を擦りながら寄りかかってた身体を離していった。
「ごめん……寝てた。シェリー、今……なんか言ってたか?」
寝ぼけまなこのまま瑠夏はシェリーにそう尋ねると、返事の代わりにお湯をバシャッ! っと瑠夏にかけた。
「んあっ!? やったなぁ!」
すぐにお湯を拭うと、瑠夏はお返しとばかりにシェリーにお湯をかけ返す。そしてそのまましばらく、二人は楽しげにお湯をかけ合って遊ぶのであった……。
「いやー、普段のこと忘れて湯に浸かるのはやっぱいいわぁ〜♪」
女湯ゾーンではミネッティが湯船にどっぷりと浸かり、身体の疲れを癒しているところだった。その横ではアーシアも同様に湯船に浸かり、ゆっくりしている。
「写真も撮れたし、今日はきてよかった〜」
パートナー同士、まったりとしたまま温泉を楽しんでいるようだ。その近くでは先ほどの蟹料理全般を食べれる量だけ持ってきて、温泉で戦闘の疲れを癒すセレンフィリティの姿も見受けられる。
「ふふ、極楽極楽〜。蟹も美味しいし、やっぱり運動の後は最高よね」
セレアナもセレンフィリティの隣で共に闘いの疲れを癒している。だが、その姿はどちらかと言えばセレンフィリティにリードされてるように見える。
(これだけ食べたら、しばらくは蟹はいいかな……)
セレンフィリティに勧められ蟹料理を食べる中、内心そう思うセレアナであった。
一方、男子湯。こちらでも温泉に焼き蟹を持ち込み、陽とテディのコンビ、そして静と藍の三井コンビも焼き蟹パーティーを行っているようだ。……ただ、どうも陽と静の距離は微妙に開いているようにも見える。
(この二人、どっちも大人しくてあんまり笑わないタイプなんだよなぁ。もっと笑い合って仲良くなればいいのに。――もちろん、友達の意味で。陽は絶対に渡すつもりはないよ!)
陽と静を見遣りながら、テディはそう考えていた。陽は静と仲良くしたいみたいだが、元来の消極的な性格のせいで話しかけられずにいるようだ。
藍も藍で、テディが陽をきちんと守れていることを羨ましく思っているようである。自分なりに静を守れるようになりたい――そう考えながら、焼き蟹をモグモグと食べていた。
「ほら、二人とも! せっかくの焼き蟹なんだからもっと楽しく食べないと!」
「え、あ、テディ……!?」
「わ、て、テディさん……!?」
陽のことを考えてか、テディは陽と静へ焼き蟹を勧めて接点を作っていく。驚く二人であったが、焼き蟹を食べて「お、美味しいね……」と陽が勇気を出して静に話しかけ、静もそれに小さく頷いた。
ここから二人が馴染んでくれればいいと思ってはいるのだろうが……まだまだ小さな一歩、と言ったところだろうか。
――そんな様子を、洗い場で背中の流しあいをしていた剛太郎と藤右衛門が見ていた。
「……青春、じゃのう」
しみじみと語る藤右衛門。超じいちゃんの言葉に、剛太郎も頷いていた。
「混浴に行けば、わしも青春をまた味わえるかの?」
「……いってみます?」
藤右衛門には刺激が強すぎて、心臓に負担をかけるのでは? と剛太郎は一瞬不安を覚えるも、二人の淡い期待がそれに勝ったようである。そんなわけで、ご先祖様とその子孫は持ち込んでいた冷酒と蟹の刺身を持って混浴ゾーンへと移動した。
「――いない、でありますね」
「……みたいじゃの」
……淡い期待を裏切るかのように、混浴ゾーンには今は誰もいなかった。仕方なく、二人は混浴ゾーンで冷酒を酌み交わしつつ語らうことにした。
剛太郎と藤右衛門の語らいは続く。今回、剛太郎がご先祖様孝行をするべく藤右衛門を誘えたことを嬉しく思い、藤右衛門もまた決して豪華な旅行ではないにせよ、子孫がこうやって自身を労ってくれたことに涙を堪えずにはいられなかった。
「剛太郎、本当……感謝するぞ。良い子孫を持てたものじゃ」
「超じいちゃんこそ、楽しんでもらえてよかったでありますよ」
こうして、先祖と子孫の絆がまた一つ深まっていったのであった……。
――その頃。男子用簡易脱衣所では……。
「……なんていうかその、すごいな」
レリウスとハイラルは、思わず掴みたくなるような柳腰と軍服の下に隠されていた細身ながらの隆盛な筋肉を兼ね備えたグラキエスの身体を見て驚いているようだ。元々、グラキエスは色っぽい部分があるので見惚れてしまうのも無理はないが。
その一方、レリウスの身体は傷だらけである。当の本人は気にしていないようだが……。
(やば、傷隠しの化粧やっとくの忘れてた。……まぁいいか、本人気にしてないみたいだし)
いつもならレリウスの身体の傷を肌化粧で誤魔化しているハイラルだったが、今日はそれを忘れてしまったらしい。だが、本人が気にしていないのと人目がそれほど多くないことから今回は目を瞑ることにしたようだ。
「グラキエス、身体のほうは大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫だ。今日は幾分か調子がいいんだ」
レリウスの言葉に緩やかな笑みで返答するグラキエス。その視線はレリウスとハイラルの筋骨隆々な肉体に向けられており、内心羨ましがっている。
「いやぁ、すげえなぁグラキエスの身体。ほら、レリウスも触ってみろって」
グラキエスの身体を、遠慮なくぺたぺたと触るハイラル。だが次の瞬間、レリウスからの鉄拳制裁がハイラルに直撃し、その場に沈んでしまった。
「別に構わなかったんだが……」
「ああいや、グラキエスの身体に障ると思いまして。さ、いきましょう」
そう言うと、レリウスはハイラルをそのままにしてグラキエスと共に温泉に移動していった。そのハイラルを、傍らで三人の様子を見ていたゴルガイスとロアが担ぎ上げる。
「――うむ、グラキエスが楽しそうで何よりだ。やはり、レリウス殿らと会えたのが僥倖だったな」
「そうですね。――アラバンディット、ヘイル君は私が運んでおくから一緒に休むといい。ずっとエンドのこと心配で気を張って、疲れているでしょう?」
「……そうだな。すまない、そうさせてもらおう」
ロアの気遣いに感謝しつつ、ゴルガイスも二人の後を追うようにして湯船に向かっていく。
(さて、私はエンド用の冷たい飲み物を用意しませんと)
ロアもロアで行動するべく、絶賛沈み中のハイラルを近くに寝そべらせると飲み物を取りにいったのだった。
――そしてちょうどその頃。女湯では……。
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