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テロリスト強襲!? 学園の危機!!

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テロリスト強襲!? 学園の危機!!

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幕間:乱戦・乱闘・マイペース



 占拠された校舎の中を歩く一人の女性の姿がある。
 稲穂の如く綺麗な金色の髪に女性らしい肢体。見る者を虜にするであろう美貌の持ち主だ。彼女の足元には倒れ伏している複数の人影がある。その格好からテロリストの一味であることが窺い知れた。彼らが倒れ伏しているのは彼女、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)の仕業であった。
「まったく邪魔しないでほしいですわね」
 セシルはただ分校の見学をしていただけである。
 もちろんそんな彼女をテロリストが無視するはずもなく、捕らえようと攻撃をしてきたのだが、テロリストたちの予想を超えて彼女の実力は高かった。そしてまた犠牲者が増えようとしていた。
「そこの女。動かないでおとなしく捕まってもらおうか」
 後方から聞こえてくるテロリストの呼び声に彼女は応じない。
 まるで何もなかったかのように見学を続けていた。
「おいっ!」
 業を煮やしたのか、テロリストの一人が彼女の肩に手を置いた。
 一瞬だ。
「失礼ですわね」
 セシルは彼の手首を?むと捻りつつ振り返り、自分の方へ腕を引くと飛び込んできた身体目掛けて膝蹴りをかました。淀みのない流れるような動きである。ゆっくりと床に倒れる仲間の姿を見て、もう一人のテロリストが銃口を彼女へと向ける。
「恨むなよ!」
「それはこちらのセリフですわ」
 撃つと同時、セシルはテロリストの胸元へ飛び込んだ。
 目にも止まらぬ速さである。屈みこんでの急接近だ。テロリストには彼女の姿が消えたように見えていただろう。隙だらけの顎をセシルは手にした扇で打ち上げた。脳震盪を起こしてふらつく彼を無視し、彼女は見学を再開する。
 が、今度は前方からテロリストが二人現れた。
 どうやら騒ぎを聞きつけて集まってきたようだ。
 行く手を遮るように立ち並ぶ彼らにセシルは告げた。
「無礼ですわよ貴方達。見逃してさしあげますから、向こうへ行きなさい」
「こっちも仕事でね。そういうわけにもいかないんだ」
「貴方達の事情なんて知ったことではありませんわ」
 なら仕方がない、と彼らは言うとセシルを包囲するようにじりじりと近寄ってくる。
 前からだけではない。後方からも近づいてくる足音が聞こえていた。
「貴方達に付き合う義理はありませんのに……」
 面倒そうに呟いたその時である。
「ほんならわいが付き合うたるでー!」
 近づいてきていた足音の主がセシルを追い抜くとそのままテロリストに攻撃を仕掛けた。
「あら、遠当てですわね。未熟ですが筋は悪くありませんわ」
 セシルが感想を述べているとさほど間を置かずに、先を行った者を援護するようにテロリストに相対する人影があった。
 先に突撃したのは綿貫 聡美(わたぬき・さとみ)、後から来たのは岡田 以蔵(おかだ・いぞう)だ。
「綿貫先生はまっこと楽しそうに戦おるね」
「あったりまえやろ。たのしゅうて堪んないわ!!」
 突然の乱入者にテロリストは防戦一方である。
「お前らいったいどこから!?」
「喋る暇があんなら手ぇ動かしいっ!」
 笑みを浮かべて戦う綿貫の姿を見て岡田はほぅとため息を吐く。
「素敵じゃ……」
「もっと良いとこ見せたるわ!」
 乱戦はまだ始まったばかりである。

 彼女たちがテロリストと相対する姿を見るのに飽きたのか、セシルはその場を後にして分校見学を続けることにした。
「それにしてもこの校舎は変わった造りをしていますわね」

                                 ■

 セシルたちがテロリストを相手に騒動を起こしていた頃、校舎の反対側でも似たようなことが起きていた。
 巡回をしていたテロリスト二人組に叫びながら特攻を仕掛けた者の姿がそこにあった。アサルト・アーレイ(あさると・あーれい)だ。
「俺はやるぜ! 敵はなるべく引き受ける! これが俺だぁぁぁあああああ!!」
「なんだお前は!?」
「俺は俺だ! お前らを殴るために来た!!」
 叫びつつアサルトはテロリストに殴りかかる。
 しかし実力の差か、その拳がテロリストに当たることはなかった。
「甘いわっ!」
 逆に一発。銃器を鈍器として用いた一撃を腹に当てられた。
「がはっ……」
 思わずその場に膝をついてしまう。
 ただでさえ実力差のある相手、しかも二人に対して一人で挑むのは無理があったのだ。
「活きが良いだけではな。お前を連行させてもらう。悪く思うな……よ?」
 彼らの足元に何かが転がってきた。
 何だろうかと彼らが転がってきたものを手にとって確認してみると、そこにはわたげうさぎの姿があった。
「ぴきゅう!」
「わたげうさぎ? 何でこんなところに。しかも変な鳴き声――」
 そう彼らがいぶかしむが、それよりも気になることがあった。
「なあ、何だかオレ身体の感覚が……」
「俺もだ……これはまさか!?」
 テロリストたちは自身の不調に気づき周囲を警戒した。
 すると廊下の角から一人の男が姿を現した。熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)だ。
「俗に言う、霞扇の術ってヤツだ。しびれ粉だよ」
 熊楠が手にした芭蕉扇を閉じる。
「姑息だな。この程度ではまだ――」
 彼は銃口を熊楠に向けるがその引き金が引かれることはなかった。
 意識が全て足元に向けられたためだ。そこにはさっきまで一匹しかいなかったはずのわたげうさぎの姿が何匹にも増えていた。
 異様な光景である。
「なんだこいつら!? いつのまに……」
 その中の一匹が突如ヒト型に姿を変えた。幼い少女の姿になったのは天禰 ピカ(あまね・ぴか)だ。
「ぴっきゅぴきゅにしてやるのだ!」
 彼女は手にした投石機でわたげうさぎたちをテロリストに向けて次々と打ち出した。
 一見すると子供が遊んでいるようにしか見えないが、彼らからすれば異常事態の連続である。軽いパニックに陥るのも仕方がないと言えた。
「うご、もごう!?」
 顔に張り付いたわたげうさぎを取ろうともがくが、一匹?しても次から次へと増えるため意味がない。
 もう一人の方は諦めたのかその場に倒れこんでいる。ぴくりとも動かない。
「お、バカルトがいきなりピンチね。待ちなさいって言ったのに!」
 苦痛に顔をゆがめているアサルトに声をかけたのはノベル・ライト(のべる・らいと)だ。
 彼女の後ろには蓬栄 智優利(ほうえい・ちうり)黒衣 流水(くろい・なるみ)、そして天禰 薫(あまね・かおる)後藤 又兵衛(ごとう・またべえ)の姿があった。
「アサルト。流水の警護は我がするから良いが、さすがに一人で先走るのはよろしくなかろう。今後はノベルから離れるでないぞ。心労が絶えぬのでな」
 蓬栄の忠告にアサルトが項垂れた。自分でも悪いと思っているらしい。
「無事でよかったねぇ」
 とは天禰の言である。
 他の者も同じ意見であったらしい。一同頷いていた。
「しかし……思ったよりもテロリストの数が少ない。この事件、やはりウラがあるんじゃないか?」
 熊楠の意見に後藤と蓬栄が賛同した。
「俺も熊楠と同じ意見だ。こんな簡単に占拠できたのが信じられん」
「我もだ。敵が本物であればすでに見せしめの一つもあろう」
 後藤の後ろに控えていた黒衣が口を開く。
「どんな事情があろうと人質なんて……」
 思いつめたように話す彼女に後藤が寄り添った。
「もし不安なら傍にいるといい。少しは気がまぎれるだろう」
「……ありがとう」
 後藤が優しく黒衣の頭を撫でる。
「仲良きことは美しきことかなぁ」
「目的も決まったみたいだし、そろそろ行かない?」
 ノベルの声に熊楠が応えた。
「そうだな。とりあえず二手に分かれるか。アサルトとノベルは陽動。俺たちは人助けをしながらテロリスト退治だ」
 それでいいな、という彼の言葉に皆が首肯した。
 彼らが去った後には、わたげうさぎのせいで酸素不足に陥り悶え苦しんでいるテロリストたちの姿があった。