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【ウェブマネー様タイアップ】御藝神社で縁日!

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【ウェブマネー様タイアップ】御藝神社で縁日!

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第2章  おいしいです〜!


 琴音の合図にて開場した境内には、列をなしていた人達が一気に流れ込んできた。 
 受付も御籤売り場も、すぐにキャパを超える。

「それでは、私も担当場所へまいりますか〜♪」
「琴音、遅いえ!
 もう客は来ておるのじゃから、走れ!」
「そ、そんな〜」

 こもたんに置いていかれ、駆け出す琴音。
 だが、案の定こける。

「ふえ〜、またこけちゃいました〜こもたん待ってください〜」
「まったくしょうがないやつじゃ……ほれ、ころばんように急ぐのじゃ」

 こもたんは、あきれ顔でつぶやいた。
 琴音がこけないようにゆっくりと、けれどやっぱり急ぐ2人である。
 屋台前へと到着したときにはすでに、多くの客に囲まれていた。

「お待たせしました〜っ!
 私達の屋台は、ズバリこれです〜!」
「楽しんでいくがよい」

 店を覆っていた布を、琴音とこもたんが思い切り引っ張る。
 看板には、皆々初めて見るであろう『ちくわすくい』の文字があった。 

「なぜちくわ?」
「へぇ、珍しいね〜やろうよやろうよぉ」

 食事系屋台を粗方まわり終え、たどり着いたのは琴音の屋台。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の頭上には、大きなクエスチョンマークが浮かぶ。
 どちらかというと、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の方が興味を持っているようで。

「なんだか知らないけど、面白そうだからいいか」
「ねぇ、いくつとれるか競争しようよ!」
「いいわよ〜あたしが勝ったら、あのお店の焼き芋をおごってね!」
「じゃあ私は、チョコバナナをお願いするかな」
「よ〜し、じゃあ競争はじめっ!」
「ちくわは美味しいですからね〜」

 穴あきオタマを持ち、ちくわをすくっていく。
 最終的に勝ったのは……いつのまにか混ざっていた琴音だった。

「いや、琴音がちくわを好きだっていうのは知ってるけど……ちくわすくい?w」
「なんでちくわ……て、琴音の大好物なのね。
 いや、好物をゲームの道具にするのってどうなのって気はするけど。
 まぁ、本人が気にしていないみたいだし、だったらいいかしら……」
「えーと……金魚やヨーヨーは分かるけど、ちくわすくいってなに??
 やっぱり水のなかにちくわがゴロゴロ入ってるのかしら……て、いうか水じゃなくてお湯だったりして?
 むしろなかにだし汁入ってたりしてっ!
 いや、それじゃオデンだわっ!!
 まぁ、とりあえずやってみれば分かるわね、うんうん。
 ……あ、もしかして意外と普通だったりする?」
「ねー、理沙。
 もしかしてなんかいろいろ考え過ぎてない?」

 白波 理沙(しらなみ・りさ)の1人ボケ&ツッコミに、思わず突っ込む白波 舞(しらなみ・まい)
 あらぬ方向へと進んでいく理沙の思考を止め、修正するのが舞の役割だ。
 とまぁ、そんな自覚など持ち合わせていないだろうが。

「え?
 私も英霊になる前は元々巫女として生活していたのだから面白くないんじゃないかって?
 そんなことはありませんよ。
 私の住んでいた村では神社というものを建てる概念がなかったので……」
「へぇ、全然違うのね」
「だからこういう神社を見にくることは滅多にないのですよね。
 英霊になってからは普通の学生ですし……」
「そっか、来た甲斐があったわね」
「それにそれに、ちくわすくいというのはいままで見たことも聞いたこともないのでとても楽しみです!」

 喋り疲れた理沙の隣に、早乙女 姫乃(さおとめ・ひめの)が腰を下ろした。
 きらきら輝く黒瞳は、冷たいだし汁に浮かぶちくわを映している。

「それはともかく、私はこもたんをもふもふして癒されたいわ♪
 こもたん、もふもふ〜」
「ぁっ、ずるい!
 私ももふもふしたいわっ!」

 先走る舞を追い、理沙も立ち上がった。
 こもたんの身体を触りに触って、存分に癒しを得る。

「うぉぉぉもふもふさせろ〜!!」

 ものすごい勢いで突っ込んでくると、そのままこもたんへとダイブ。
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も、こもたんを愛でたい1人だから。

「レキのもふもふスキーが反応してしまったようですね。
 ま、お参りも済ませてきましたし、いいでしょう」
(満足するまで離れませんので、しばらくはこのままですね……)
「ちゃんとこの神社のやり方に合わせたしな!
 ってことで改めて……やっぱりもふもふは癒しだよね。
 肉球ぷにぷにして、もふもふを思う存分撫でるべし!」
「にくきゅ?!
 あっ、待ってっ!
 詩穂ももっきゅもきゅするんだもん♪」

 追いついたカムイ・マギ(かむい・まぎ)は、眼前の状況に納得の頷きを得た。
 レキの発した単語に、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)も反応する。

「ふむ……」
(僕は愛でるのは嫌いではありませんが、ここはレキに譲りましょう)
「けど、こもたんも疲れていると想うんだよ。
 もいっかいだけ、ふぎゅーってさせてね!」

 ひとつ息を吐いて、内心で微笑むカムイ。
 こもたんの調子にも気を配りながら、もふもふし続けるレキであった。

「琴音さん、ちくわすくいで遊んでもいいですか?」
「えぇ、もちろんです〜」

 一方、あらかた満足した詩穂は、屋台前に戻ってくる。
 だが詩穂の場合、最終目標は遊ぶことではなく。

「ぁの……」
「はい〜?」

 琴音の耳許へまわりこむと、小声で話し始めた。

「詩穂、気になっている女の子がいるのです。
 向こうから髪を梳いたりしてくれるんだけど、相手は詩穂のことどう想っているんだろう。
 女の子同士でもこの恋は上手くいくかな?」
「男とか女とかは、関係ないんじゃないかと思いますよ〜」

 悩み相談の末、恋愛成就のお祈りまで受けた詩穂。
 満足した表情を浮かべて、屋台をあとにする。

「あ、あそこで『ちくわすくい』という催しをやっていますね」
「せっかくだから挑戦してみましょうか?」
(結果はどうあれ、シベレーと一緒に楽しめたらそれでいいですし……)

 入れ替わりにやってきた、シベレー・ウィンチェスター(しべれー・うぃんちぇすたー)
 やはり、そのへんてこなネーミングに誘われた模様だ。
 アクロ・サイフィス(あくろ・さいふぃす)も、そんなシベレーについてくる。

「アクロ様、ありがとうございます。
 結果は気にせずに、アクロ様と楽しくやれれば私としては幸せですから」
「っそ、そうか……」
(さすがシベレーだ。
 僕と同じことを考えているとは……)
「よしっ、じゃあいきますよ〜!」
「僕も挑戦してみましょうか」

 恋人同士は、考えていることも伝わるのだ。

「また、こういう催しに参加できたら……いいですよね」

 終わった頃には、これまで以上に絆も深まったようで。
 どちらともなく腕を組んで、人ごみへと紛れていく。

「古き時代の雰囲気を楽しむのも、これまた一興……こんにちは」
「はいですっ!」
「琴音さん、この『ちくわすくい』というのは、どんな縁起なのでしょうか?」
「えへへ。
 私の好きなちくわさんをたくさん釣っていただけると、お願いごとに対する熱の入りようが違ってくるのですよ〜」
「これ、琴音。
 そんな冗談を言うものではない。娘さんも困っておるではないか」
「ぁ、いえ。
 ただなにか、素晴らしい由緒があると思っていたもので……」
「がっかりさせてすまなんだのう、娘さん」

 そこまできて御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、自分が名乗っていないことに気が付いた。
 父である御神楽 陽太(みかぐら・ようた)にも、最初に名乗ることは口酸っぱく言われているというのに。
 ちなみに陽太は、今日も愛妻と一緒に仕事中である。

「ぁ、これは失礼をいたしました。
 私は御神楽舞花と申します。
 『ちくわすくい』とは初めて出会う催しですので、興味がございまして……」
「そうであったか。
 なんてことはない、琴音の気まぐれじゃよ」
「斬新で面白いでしょ〜!」
「ぇ、えぇ……なんと言いますか……『味のある』屋台ですよね」
「きえあー……ねこがしゃべったー……」

 改めて話し始めるが、そこにはいままでになかった声が混じった。
 いつのまにやら紛れていたのは、吉崎 睦月(よしざき・むつき)である。

「ぁっちょ、睦月っ!?
 ごめんな!
 眼を離した隙に見失っちゃって……」
「なるほど……zz……おまえは……zz……こもたんというんだな。
 へんななまえだ……zz……」
「兄貴も一緒に謝れって!」
「……zz……もふもふ。
 ……いい具合……手入れされてるんだな……ふぁあ」
「はあぁぁ、駄目だこりゃ」

 駆けつけた吉崎 樹(よしざき・いつき)が、睦月を皆と引き剥がした。
 しかしその力は強く、すぐに振り払われてしまうのだが。

「いいですよ〜」
「うむ、気に病むことはなにもされておらぬゆえ」
「よしよし……もふもふ。
 かわいいな……おまえ。
 俺は……黒猫が大好きだったりする……うん」
「そうですか?
 お2人ともお優しい……ありがとうございます」
「できることなら……もちかえりたい。
 ……もふり」

 睦月がこもたんの虜になったところで、樹は琴音の側へとまわりこむ。

「琴音さん、お願いしたいことが……」
「はいっ、なんでしょう!?」
「あの、これ、兄貴には秘密で……」
「私、口は堅いのでだいじょうぶですよ〜♪」
「そうか、じゃあ……実は俺……人間関係で少し……だな。
 兄貴にかんしてなんだが……」
「なんというか……実を言うと、現状が気に入ってるんだ。
 昔と違って、頼りにならなくて俺がいなきゃなにもできない兄貴……ずーっと……このままでいてほしいというか。
 ま、まあ、現状維持というか、それに関するおまじないというか……そんなのを頼みたいんだ、琴音さんに」
「なるほどですね〜」
「……も、もちろんちくわすくいはやっていくぞ!?
 やっぱり、タダでそんなのは厳しいよな!?」
「別に構いませんよ〜」
「ま、でも話のネタにやっていきます!」

 願う平穏は、しかし睦月への劣等感から成されたもの。
 それでも樹には、いまは、これ以上の願いなどありえないから。
 祈祷のあいだ、手を合わせてみる。

「すごーく丸っこくて可愛いっ!
 ほっぺやあごの肉付きがよくて、思わず手で触ったよ〜」
「なにやってるのよ、佳奈子?
 ああっ、そんなにべたべた触ってたら迷惑じゃない?」
「だって、とっても柔らかいんだよ!
 たぷたぷ、たぷたぷ」
「それにしても、本当に柔らかそうね。
 よくわからないけど、無性にバスケットボールがしたくなったわよ」

 一方こもたんはというと、休む間もなく布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)に迫られていた。
 エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)も興味を示し、手を伸ばす。

「ほら、久遠もやわらかくて、たぷたぷしてるよー。
 たぷたぷたぷたぷ」
「さ……触って、いいんだよな?」
「早く早く!」
「う、動くなよ?
 そりゃ!
 うわぁ〜、柔らかい。
 こんな姿、クリスは見せられねぇな……」
「それにしても、これだけ触ったらなにか御利益があるかな?」

 佳奈子に呼ばれたこともあり、そろそろと前へ進む金巳哉 久遠(かなみや・くおん)
 パートナー達のなかでは、実は一番いまこのときをはしゃいでいるかも知れなかった。

「噂のこもたんに会えるって聴いて来たのですが……」

 琴音に、セルマ・アリス(せるま・ありす)がこっそりと話しかける。
 アリス的には、そもそもこもたんとはどんなフォルムなのかというところからが問題だったのだ。

「こもたんは、いまあちらで撫でられている猫ですよ」
「うわぁ、可愛いね〜」 
(けど、撫でたいけど……どうしようどうしよう撫でてもいいのかな?
 肉球ぷにぷにしてもいいのかな?)

 動かした視線の先には、猫……と女性。
 女性はあまり得意でなく、ためらっていた……そのときだった。

「ふむ、そこのわっぱ、観ておらず来ればよいのじゃ」
「ぇえっ、おっ、俺!?」
「自分以外に誰がおる?」
「じゃあ遠慮なく……こ、こもたん……撫でてもいい……かな?」
「構わぬぞ」
「わーい!
 撫で撫で撫で撫で……」

 もらったちくわを食しながら、笑顔を浮かべる琴音。
 朝から晩まで、ちくわすくいとこもたんは人気である。

「金魚すくいじゃなくてちくわすくい?
 面白そうだね」
「うん!」

 ほかの誰もと同じく、やはり不思議な表情を浮かべる桐生 理知(きりゅう・りち)
 北月 智緒(きげつ・ちお)とともに、挑戦を決める。

「琴音ちゃん、アドバイスちょうだい!」
「初めてだからコツを掴むのが難しそうだけど、ポイントは抑えたいよね」
「はい。まず、すくうちくわを1つ決めて、しっかりと動きを見ます。
 そしてそのちくわを、オタマの真ん中に載せるのですよ〜」
「ふむふむ……よしっ、いっぱいすくうぞ!
 ここは記録を目指して挑戦だね。
 いままでの記録は何本かな?」
「琴音ちゃんは何本すくえるのか気になるよね。
 まさか記録持ってるのが琴音ちゃんとか?」
「私はですね〜、最高20本すくいましたよ〜」
「察しのとおり、いまのところ琴音の記録が最高じゃの」
「じゃあそれを超えられるようにがんばるよ!」
「更新できるように、智緒もがんばるねっ!」
「それでは、始めてください〜」

 琴音の合図に、オタマを差し入れる理知と智緒。
 焦らずタイミングを計り、1本ずつ確実に器へ移していく。

「さて、すくったちくわは持ち帰れるのかな?」
「勿論ですよ」
「琴音ちゃん、おススメのちくわ料理を教えてもらえないかなぁ?」
「どんな種類があるのか楽しみね」
「今日のメニューはなんになるかな〜」

 結果、理知が8本と、智緒が10本。
 初めてにしては上出来である。
 かくして今日の夕食は、ちくわの刺身と煮物と炊き込みご飯とエトセトラ。
 まぁとにかく、ちくわ三昧になるようである。

「お祭りの縁日って、ただそこにいくだけでなんか楽しいんだよね〜」

 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)も、縁日の雰囲気を楽しんでいる1人だ。

「ねぇねぇアキラー、あのお店に行きたいヨ〜」
「へんですけどね」

 アキラの頭上からは、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の声が降ってくる。
 ヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)もその屋台を発見したらしいのだが。

「ちくわすくい、か」
「どうぞどうぞ〜」
「では試しに……」
「触ってもいいか?」
「うむ」

 琴音の歓迎を受け、アキラがちくわすくいにチャレンジする。
 そのあいだにヨンは、こもたんの身体をもふもふ。
 2人とも、大満足で立ち上がった。

「琴音さんにお願いを……あの。
 想い人と進展がありますように……なにかいいことがありますように……」
「ワタシは、琴音と同じ巫女服が着てみたいワ」
「じゃーそのみみとしっぽを引っ張らせてくれ」
「わっかりました〜では順番にお願いしましょう〜!
 祈祷が終わったら、みみとしっぽ引っ張ってもいいですよ〜けど。
 痛くないようにお願いしますね〜」

 ヨン、アリス、アキラの順に、願いが叶うようお祈り。
 充実した時間を、3人とも過ごせたようだった。