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徘徊する悪霊達の被害拡大を阻止せよ!

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徘徊する悪霊達の被害拡大を阻止せよ!

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●1章  魔物達の進軍を食い止めろ!



「まただ〜! また化け物達が現れたぞ〜〜っ!」
「この村はもう駄目だ、早く逃げるんだ!」



 村人達の恐怖の叫び声に、鎮守の社にある水晶を見学しにきていた雨宮 湊(あめみや・みなと)は何事かと顔をしかめた。
「大変じゃ、この近くで魔物や亡霊どもが大量発生しておる! どうやらこの村に向かってきているようじゃ!」
 ニーユ・オルファリル(にーゆ・おるふぁりり)の言葉に、湊は何が起こっているかを考える前に走り出す。


「どうするつもりじゃ?」
「考えるまでもないだろ? 人を襲っているなら助けないといけない」
「じゃが、魔物の群れは相当な数じゃ。強力な魔法を使わんと対処出来ん。倒すにしてもなるべく村に被害を出さないように倒さねばいかんぞ」
 ニーユの言葉に湊は何を当然な事を、とばかりに笑った。
 村人は恐怖の表情を顔に張り付けて、湊達の方へ逃げてくる。彼らを庇うようにして、湊は魔法を唱える。


「くらえ、アシッドミスト!」
 酸の霧が追ってくる魔物達を襲う。撃退には至らないが、その霧で魔物達はダメージを受け苦痛と怒りの呻き声を上げた。
「ニーユ、全体攻撃でフォローしろ。とにかく住民の避難を優先しようぜ!」
「なるほどな、無理して撃退せずに逃げてしまうわけじゃな。数を見てもそれが懸命じゃ」
 ニーユは湊の後に続き、子守唄を歌う。魔物達のいくらかはその甘い声に倒れていく。


(しかし尋常ないぞ、この数は。一体何が……)
 住民達を庇いながらチェインスマイトを繰り出す湊は、その圧倒的な数に戦慄を覚えていた。
「湊、あまり深追いはするな、どうやらアレが元凶のようじゃ」
「ああ……そうみたいだな」
 群れの中心に魔物達を引寄せる無数の英霊の姿。その禍々しい気配と数に、2人は言葉どおり深追いはせず、住民達を守りながら後退していった。







 湊達が魔物達と接触した頃と、ほぼ同時。小島に降り立つ一団の姿があった。
 各学校の生徒達にも今回の事件は伝わっているが、やはり一番早く到着したのは明倫館の生徒達だった。
 一刻の猶予もならない事態、人数は決して多くはないが、人が集まるまで待つ余裕はない。


「わわ、大変ですぅ! あんなに敵さんがいっぱいいます! 早く何とかしないと!」
 事前に聞いてはいたものの、あまりの敵の多さにサオリ・ナガオ(さおり・ながお)は驚いた声を上げる。
「味方の戦力を集中して守るのは、少数の兵で多数の敵を防ぐ時の鉄則……だと思いますぅ。特に今はまだ仲間が少ないです。村の入り口に障害物を設け、一度に少数しか通り抜け出来ないようにすれば、個別撃破もできますし、住民を守りやすいと思いますぅ」
「確かにその方法が良さそうでありんすね」
 サオリの提案にハイナは頷く。
「一点だけ開けておけば、敵は必然的にそこから通り抜けようとすると思いますぅ。そうなれば、先ずはわたくしが相手の能力を低下させる射撃を行なった後、クロスファイアを撃ち、一網打尽にさせていただきますぅ」
 既に臨戦態勢に入っているのか、サオリはシャープシューター、ヒロイックアサルト、スナイプの能力で自身の力を最大限に引き出していた。
 緊急を要する上に、他に案もない。皆はさっそくその提案に沿って動く事にする。
「では敵の現在位置と予想できる進行ルート、そして住民の住む場所や避難ルート、重要文化財の場所などを調べ、そこから迎撃、防衛に最適な場所を割り出すとするかのう」
 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)は今の少ない戦力を活かせる配置を考える。それに従い、さっそく魔物達の進軍を止める為に明倫館の生徒達は散開していく。




 入り口の障害物の設置はハイナやサオリが担当する。
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)はルシェイメアと一緒に重要建築物や住民の住居の防衛に回る事に自ら立候補した。


「アキラ、あそこからなら敵は少数でしか攻めてこれん。あの鳥居の前に陣取るのじゃ」
「了解! ったく、吉岡かなんだか知らねーが、死んでからも迷惑かけんじゃねーよコノヤロー!」
 ルシェイメアの言葉に答えながら、アキラは鳥居の近くにガーゴイルとゴーレムを配置する。
「さあ、ここから一匹たりとも通さねぇぜ。かかってきな!」
 時を待たずして、魔物達が近寄ってくる。その魔物を、アキラはゴーレムを壁にして、後方から鬼払いの弓で射る。その正確な射撃に亡霊は倒れていく。
 だが、それも一時的なもので、敵の数量の前にたちまちの内に苦戦に追いやられる。


「ちっ、援軍到着までどれくらいかかるんだよ。この味方の人数じゃ、どうにかするにも限度があるぜ!」
「一度突破されたらこっちの命までも危うい。いざという時は建物を見捨ててでも退散するぞ!」
 ルシェイメアの言葉に苦い顔をするアキラ。
 が、次の瞬間にその表情は驚いたものになり、目を見開く。
「くそっ、しまった遠くから炎を吐きやがった!」
 一匹の魔物が放った火のブレス。それ自体は大した攻撃ではなかったが、木造の建造物に向けられていた為に、たちまちの内に火が回る。燃える建物の中からは子供の泣き声が聞こえる。
「くそ、ここまでか。建造物よりも人の命の方が大切だ、あの子達を助けなきゃ……」
「大丈夫、こっちは私に任せてください!」
 その声の主はヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)
 逃げ遅れた住民の保護や怪我人の治療にあたっていたが、どうやらアキラ達の苦戦を見て援護に駆けつけたようだ。
 ヨンはすぐに消火活動に着手し、中から子供を助け出す。
「さんきゅー、助かったぜ」
「人の命も建造物も気まぐれじゃ守る事は出来ませんよ? どうせ長期戦、後でお食事を振舞ってあげますから頑張ってください」
 わざと怒るような表情を見せた後、ヨンは笑った。
「大丈夫です。貴方はきっと、私に自信を与えてくれる人です。こんな所で諦めるような人じゃないですよ」
 ヨンの言葉に、アキラはぼりぼりと頭をかいた。


 そのアキラ達の死守する住宅群とは別の場所で、人命救助の為に走り回る姿があった。
 スウェル・アルト(すうぇる・あると)だ。
「むぅ……これは、ひどい」
 魔物達に荒らされ、壊されつくされた家。生き残りがいるかどうかさえも疑わしい。
 だが彼女は微かに人の叫び声を聞いた気がした。
「まだ、助けないと、いけないから」
 聞き間違いではない。振り向いた方向には、今正に魔物が逃げ遅れた人間を襲おうとしていた。
 スウェルは思考する間もなく、反射的に疾風突きを繰り出す。
 その剣先は脆弱な魔物を瞬時に消し去った。


「大丈夫?」
 襲われていた人間は、年配の男性だった。腹に傷を負っているようだ。
「俺はもう駄目だ、歩けない……」
「いい大人が、情けないことを、言わないで」
 スウェルは頼もしの薬瓶を男に飲ませる。……歩く為に手を貸している余裕はないからだ。
「なるほど。剣くらいじゃやはり、倒せないか」
 背後に感じる気配の主は、先ほど倒したはずの魔物。いや、それだけではなく更に多くの魔物が人の命を求めて集まってきていた。
「……私はもっと、沢山の、命を救うの。邪魔、しないで」
 彼女は光術を使うための魔力を手に集め始めた。





(このままじゃ、どう考えても援軍が到着するまでもたないな。討伐も避難誘導も間に合ってない。防衛人数は減るし危険は伴うけど、誰かが囮にならなければ)
 思った以上に悪化していく戦況に、東 朱鷺(あずま・とき)は自らが危険な役を買ってでる事にした。
「すいません、総奉行。しばらく不在になります」
「……命だけは落とさないようにするでありんすよ」
 戦況をハイナ自身も把握しているのだろう、止めはしない。
 朱鷺は防衛側から一転、敵の群れの前に身を投げ出す。
「さあ、そんなに誰かに恨みをぶつけたいのなら、こっちに来なさい! 思う存分、私が……」
 敵を挑発する為の言葉だったが、それは途中で消えていく。
(そんな、冗談じゃない……っ!)


 魔物の群れの中から発せられる憎悪の念。
 それは確認しなくとも、吉岡達の恨みの念だという事はすぐにわかった。
(ますます、住民や建造物の近くに寄らせるわけにはいかない。私がなんとかする!)
 自らの身も守らなければいけない。
 朱鷺は向けられた強大な憎悪を受けながらも決して臆することなく、魔物達の惹き付ける為に群れの中に単身で向かっていった。




「確かに耐えるのも限度があるよね。思い切って、弱い魔物だけでも数を減らそうか」
 木賊 練(とくさ・ねり)の言葉にパートーナーである彩里 秘色(あやさと・ひそく)は多少、不機嫌の色を顔に浮かべる。


「だから最初から敵への直接攻撃を進言したんですよ」
「仕方ないよ、ひーさん。荷馬車に酒類を乗せて魔物の群れに突っ込ませ、火炎瓶を投げて一網打尽っていい作戦だと思う。だけどそれをすると木造住宅まで被害が出ちゃうんだよ」
「わかってますよ。それでも最初から魔物へこちらから攻撃を仕掛けていれば、ここまで戦況は悪化しなかったんです」
 秘色は愚痴をこぼしながらも脇の刀を構えた。


「多少地味ですけど、小技で確実に敵の戦力を減らしていきましょうか。本当は鬼神力でも使って英霊ごと倒したいのですが、沢山の敵に隙を見せるのは危険ですしね」
 練も戦闘用イコプラをセットし、攻撃の体勢に入った。
「あたしだって一気に敵を倒したいけどね。だけどそうも言ってらんなくなったし、せめて一匹でも多くの魔物を倒して島を守ろうよ。行くよ」
 練のその言葉が合図だった。
 秘色は侍らしい素早い動きでツインラッシュを繰り出し、魔物に斬り付ける。
 電光石火の一撃はいともたやすく相手を切り裂く。


(戦いながらも囮役として敵を惹きつけた方が効果的だよね)
 練は歴戦の防御術を使い、間合いを保ちながらライトニングブラストを敵に浴びせる。
「みんな、電気の力だと建物に被害は出ないから! 存分に戦って!」
 ライトニングウェポンを仲間達の持つ武器に向ける練。
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)の武器に雷の力が宿る。


「ふむ、中々に刺激的な一時になりそうだ。我は実に興味深い。モミジとサクラ、お主等も存分に楽しむがいい。フレンディス、ゆくぞ!」
 戦いに身を置くことを喜びとするレティシアは、練に続いてニャンルー兄妹を引き連れ魔物の群れに斬り込んでいく。


「……レティシアさん達には悪いですが囮になってもらい、私は影から敵の数を減らそうと思います。その間マスターにはお願いがございます。このままでは、どちらにしても最悪の戦況に近づいていきます。根本の原因を突き止める為、社の調査をお願いできますか?」
 フレンディスの言葉にベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は頷く。
「俺もそう考えていたところだ」
「何か手がかりがあるかもしれませんが術に関しては私はお役に立てませぬ。その間必ず私達は持ちこたえますので、宜しくお願い致します!」
「ああ、なるべく早く片付けて戻ってくるぜ」
 ベルクは一人、飛び立った。


「……さて、ここから先は一歩たりともお通し出来ませぬ。お覚悟を…!」
 深く息を吸い込むと、フレンディスは自らの残像を生み出した。
 そして両手に霜月と影法師をそれぞれ握ると、千里走りの術で相手に近づき、素早い動きで敵を倒す。
「やるではないか、フレンディス! 我も負けてはおれぬ!」
 レティシアも負けじと大剣で薙ぐ。その一振りだけで、雷光が走ると共に一気に弱い敵を倒していく。
「ふむ、この程度では話にならぬな。やはり戦うのならば……」
 彼女の視線は揺れることなく、中心に固まっている吉岡一門達に向けられた。


「やはり戦場は最高だなフレンディス! お主と一緒だと実に飽きぬ! 当初の目的は違えど主と契約して我は満足だぞ」
 嬉々として喜び、突っ込んでいくレティシアは祈るような気持ちだった。
(早く、早く援軍が来ないと彼女だって危ない。もういい加減、かなりの時間が経っているはず。他の学校の人達は一体何をしているんでしょうか……)
 彼女の祈りが届いたのか、それともただの偶然か。

 この悪化していく戦況の中で、正にこのタイミングでようやく他校の生徒達が戦場に続々と集まってきていた。