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打倒! 鷹の目強盗団

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打倒! 鷹の目強盗団

リアクション


●罠にハメろ!
「こちらの絵画は、最近人気のある、新進気鋭の画家による作品です」
「色使いが繊細で、これも素晴らしいですね」
 絵について解説する、スラリと背の高い和装の女性。
 中性的な顔立ちと、少し恥じらうような素振りに色気を感じるその『女性』は、成り行き上仕方なく、とはいえ女装させられた公貴だ。
 その解説に聞き入るのは、上品な白のドレスに身を包むゆかりと、メイド服に身を包むマリエッタだ。
 知的で凛とした雰囲気のゆかりに対し、穏やかで優しげな雰囲気を持つマリエッタ、という二人の組み合わせは、お嬢様とその侍女、という設定そのものといった感じで、何の違和感も感じさせない。
 そして、ゆかりの首元には、大きなダイヤが金の台座で煌めく美しいネックレスがかけられていた。
 強盗団を誘き出すために仲間達が選んだのは、繁華街から少し離れた場所にある、公園の中に建てられた小さな美術館だ。
 富裕な生まれの御息女が興味を持つのには無理がなく、なおかつ一般の人が巻き込まれる危険性が低い場所。
 そう考えた結果、導きだされたのがこの場所だ。
 特別な人が来るからと言えば『貸切』と言う形で封鎖もしやすく、また公園は木立も多く、強盗団を待ち受けるべく待機する追跡班にとっても身を隠しやすい場所。
 いつ襲撃されるのか分からない緊張感が続く。
 ひと通りの絵画を見終わり、3人が出入口から外に出たその時だった。
 (「ん?」)
 彼女たちを警備する護衛として、そのすぐ側に立ち周囲を警戒していた修也は、木立の左手に、一瞬人影のようなものを発見したような気がして、そちらに目を凝らす。
 それと、ほぼ同時だった。
 突如銃声が響き渡り、エアカーが破壊される。
「キャー!!」
(「やっと来たわねっ!」)
 武装した男達が、エアカーを取り囲むように襲いかかる。
(「おーおー、ぎょうさんやって来たな。ま、テキトーに暴れて、やられてやるかな」)
 輝夜は、迫る強盗団を前に、ふと思う。
 簡単に餌に飛びついた強盗団に比べ、義父であるエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)をはじめ、自分の逢いたい相手はなかなか見つからない、奴らほど簡単なら、どれほど楽だろう。
 輝夜は溜息を一つつき、ツェアライセンを構えた。
「生命が惜しけりゃ、大人しくしろっ! 歯向かうなら、容赦しねーぞ!!」
 強盗の一人が、そう言って警備員に扮する修也に向かって剣を振り下ろす。
「危ないっ、修也!」
 ルエラは、とっさに前に飛び出ると、機械である左手でそれを受け止める。
 修也は、すかさず敵を銃撃し、怯んだ敵は少し後方へと退いた。
「馬鹿、オレを庇ってどうするんだ!」
「だって……」
「ルエラ。なんだ、その『明らかにボクは不満です』という顔は」
「それは不満だよ! ……いや、そうしないといけないのは分かっているけど、お嬢様より、修也の方を護衛したいよ……」
 恥ずかしそうに、最後の方はモジモジと口ごもるようにそう告げるルエラ。
「分かっているなら、もっとアッチで戦うんだ。また来るぞ」
 そっけない修也の返事を聞き、ルエラは肩を落とすと、しぶしぶ右手に回る。
(「さすが超鈍感、まったく分かってないんだから……ハァ」)
 一方、メガネが無いせいで、視界がボヤけはっきりと周囲を見渡すことのできない公貴。
 慣れない服を着せられているせいもあり、びくついていたところを突然手を握られた。
「ヘヘッ、色っぽいネーさん、大人しく俺達に付いてくる……?!」
「ヒッ、さ、触るなっ!」
 身に染み付いた護身術で、思わず相手を投げ飛ばす公貴。
 それを見た他の強盗が、殺気立ち銃を構えた。
「この女ぁ、痛い目見せてやるぜ!!」
 敵が引き金を引くより早く、その身体をショットガンで撃ちぬく信嘉。
「森下さん、助かったよ」
「素敵なお嬢さん、似合ってるじゃないか?」
「からかわないでくれ」
 恥ずかしそうな公貴の姿を前に、信嘉はくくっと笑う。
「なぁ、そろそろ、引き下がる頃か?」
「そうですね」
 小声で、ヒソヒソゆかりと相談した修也は、新手が飛び込むように剣を振るってきたところで、わざとらしく倒れる。
 敵は、勝ち誇った笑みを浮かべ、トドメを刺すように剣を大きく振り上げる。
「待ってください! これを差し上げますから、その方を殺さないで!!」
 ゆかりが叫んだ。
「これが狙いなのでしょう? 我が家に伝わる貴重な品です。差し上げますから、これ以上酷いことをしないで!」
 そう叫ぶと、一団の中から、一人の男が彼女の前に進み出た。
 この作戦のリーダー、と言ったところか。
「初めからそうすりゃいいんだよ。おっと、それはゆっくり、こっちに持ってきて貰おうかぁ?」
「分かりました」
 ゆかりが前に踏み出そうとすると、傍らにいたマリエッタが、すかさず止めた。
「これは、あたしが」
 ゆかりからネックレスを受け取り、マリエッタはリーダーらしき男のところに歩み寄る。
「これを」
「……へへっ、お頭に言われたネックレスに間違いねぇ。これは貰っていくぜ。ついでに、お前もな!」
「?! しまった、うぐっ!」
 突然強引に腕を引かれ、倒れかけたマリエッタは、強盗に捕まり羽交い締めにされる。
「マリエッタ!」
「全員動くなよ、動いたらこの女をぶっ殺す!! ……野郎ども、引き上げだ!」
 人質を盾に、強盗団は散り散りに逃走を開始する。
「動き出しましたね」
 ロレンツォは、傍らのアリアンナにそう声をかける。
「……強盗は、バラバラに逃げようとしてるわね」
 アリアンナは、強盗に気付かれない場所からその動きを確認しながらそう答える。
「私達の任務は重要です。アジトが分からなければ、皆さん次の行動を起こせませんし、万が一バレてしまったのでは、全てが台無しになってしまいます。慎重に行きましょう」
「責任重大ね。じゃあ、私たちは、あの徒歩で逃げようとしている男達を追いかけようよ」
 一方、
「マリーが……!」
 覚悟していたとはいえ、自分の身代わりとなり連れ去られたマリエッタの身を案じるゆかり。
 動揺する気持ちを抑えこみ、なんとか平静さを保とうとする。
 強盗を追いかけようとしたゆかりを、呼び止めたのは沙夢だった。
「待って! ここは私達に任せて。お嬢様として、強盗はあなたの顔を知っているわ。あなたがマリエッタさんを追えば危険だし、強盗が不審に思うかもしれない。だから、ここは我慢して欲しいの」
「みんなで追いかけて、絶対に連れ帰るから、ここで待ってて。絶対、お役に立つよ」
 弥狐も、大きな瞳で彼女を見つめ、そうお願いする。
「そうね、……マリーの事、お願いするわ。」
 ゆかりの返事を聞くと、二人は頷き走りだす。

 その頃、上空で待機していた恭也は、背中の翼を羽ばたかせながら不敵な笑みを口元に浮かべる。
「あいつ等、全然警戒してねぇよ」
 光学迷彩により身を隠している彼は、急いでその場から走り去ろうとするエアカーに狙いを定めた。
 リーダーらしき男が乗ったエアカーは、巧みに小道を曲がりながら、郊外の方へと向かっているようだ。
 多少高度を落とし、恭也は車の中の様子を伺う。
「マリエッタと、輝夜の奴も捕まってるのか……おっと!」
 建物を回避し、再び上空へ舞い上がる恭也。
 地上では、斥候とのやり取りをする和輝が、素早い敵の対応を掴むため奮戦していた。
「さて、どう狩りだすか……」
 敵は、間違いなく郊外へと向かっている。
 ある程度の敵の施設を発見した時点で、人質にされた仲間を先に助けるべきだろう。
 彼は、アニスたちに指示を出す。
「斥候からの情報が入ったら、エアカーを止めて人質を助けだしてくれ。柊もエアカーを追っているようだ、連携してくれ」
 やがて、逃げる強盗達の方向が、一箇所に集まり始める。
 バラバラに逃走していた彼らだが、どうやら郊外に建つ廃墟に向かっているようだ。
 そこは、もう数十年も前から閉鎖された工場の跡地だ。
 高い塀に囲まれ、中の様子を伺うことも出来ないその場所は、強盗団にとって格好の隠れ家に違いない。
「……やっぱり、あの中に入りましたね。エアカーの方は、まだ街を迂回しながら移動中だそうです」
「盗品を持っているものね、やっぱり追手を警戒しているのかしら? 人質に隠れ家の正確な場所を知られたくないっていう理由もあるのかも。ともかく、他の皆に連絡するわ」
 ロレンツォとアリアンナの二人は、そう言って携帯を手にする。
「アニス、エアカーを止めてくれ! 拠点の場所は掴んだ。人質を奪い返してくれ」
「りょ〜かいっ! にひひ〜、じゃ、いくよ〜。稲妻ど〜んっ!!」
 アニスの呼び寄せた稲妻が、逃走車を直撃する。
 突然の閃光と衝撃に驚いた強盗達は、運転手と助手席に座った男が慌てて車を停めると中から飛び出してきた。
 スノーは、素早く踏み込み幻槍モノケロスをくるりと回し円を描くと、上段から敵に向かい一気に振り下ろす。
「ぐあっ!」
「うおっ!」
 男達は、悲鳴を上げたい背を崩す。
 上空にいた恭也も、仲間達が動いたのを確認すると、敵に向かって複合銃『バヨネット』を発砲した。
「どうなってるんだ?!」
 車内に残ったリーダー格の男がそう喚いた。
 動揺しているせいか、それまで突きつけていた銃口が、頭から離れる。
「人質として、大人しくしているのもここまでです」
 マリエッタは、サイキックを使い銃を敵の頭に打ち付ける。
「いってぇ! 貴様?!……ぎゃぁああ!!」
 敵の銃口が、再びマリエッタを狙おうとしたその時、敵の背中をバッサリと斬リつけるものがいた。
「ん〜、ワザと負けて気絶したフリすんのもしんどいね」
 小悪魔のような笑顔でそう言ったのは、わざとらしく負けてみせた輝夜だった。
 外では、盗賊の攻撃をゆらりとかわし、その背後に回ったリモンが、その首にワイヤーを回し絞め落とす。
「ふむ、君には新薬開発のため働いてもらおう。なに、命の心配はしなくていい。ただ、性格が『アレ』になるかもしれんがな」
 クククと、リモンは冷たい笑みを浮かべた。
「ひいぃ!! なんなんだ? 俺達は、ハメられたのか?!」
 倒されていく仲間を前に、何が起きているのか少しは事態を飲み込んだようだ。
 一目散に、横の細い路地に入ると、必死になって駆け出す。
 しかし、
「残念だが、逃げ道は無いぞ?」
 軍用バイクで現れたのは、信嘉だ。
 彼はさっそうとバイクから下りると、ショットガンで、逃げる敵の両足を撃ちぬいた。
「ま、待ってくれ! 殺さないでくれ。ネックレスもちゃんとある。もう勘弁してくれ〜」
 強盗は、情けない声を上げそう懇願する。
 仲間たちは、強盗をひとまず縛り上げ確保する。

 拐われかけたマリエッタ達が、無事救出された頃、ロレンツォ・アリアンナ・沙夢の3人は、同じ場所に集まっていた。
「バラバラに追いかけて、皆がここに来たということは、やはりあの工場跡地がアジト、ということですね」
「ここからは距離があるけど……何か、殺気のような、不穏なものを感じるわね」
 ロレンツォの言葉に、沙夢もそう話す。
 そこへ、もう少し近くまで、様子を伺いに行っていた弥狐が戻ってきた。
「間違いないよ、殺気立った男の人が出入りしてるし、沢山、人が居るみたい。思っていたより、すごく広い場所だよ」
「ともかく、一刻も早くみんなに知らせるわね」
 アリアンナは、そう言って携帯を取り出した。