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魔法の森のミニミニ大冒険

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第3章 多勢に無勢




「あーもう! これじゃいつまでたってもキリがないですう〜〜〜〜〜〜〜!」

そう叫んだのは、イルミンスール魔法学校校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)である。

屈強な鋼鉄の鎧に身を固めた兵隊たちが、エリザベートとそのパートナーたちをとり囲み、次々を襲い掛かる蟻の大軍から身を守っている。召喚魔法によって呼び出された不滅兵団だ。
だが、蟻の数が多すぎて逃げ道を拓くまでには至っていない。

「わめくでない! そもそもおまえが花の蜜など頭から被ってしまうからこんなことになるんじゃろう! このままだと私らまとめて巣穴に連れてゆかれて、幼虫のエサにされてしまうわ!」

そう叫んだのはパートナーのアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)だった。ファイアーストームで起こした火炎を身にまとい、エリザベートと共に近寄る蟻を追い払っている。

「そ、それは蝶々みたいに花の蜜がいっぱい飲めるかどうかちょっとお茶目心を出しただけですぅ!」
「それで花の中によじ登って足を滑らせておっては世話はないわ!」
「お、お母さんたち……ケンカはやめましょう?」

エリザベートとアーデルハイトの後ろに控え、援護していたミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)は、おろおろと二人の様子を見守っていた。


その時だった。

「エリザベートちゃぁぁぁん! ミーミルちゃぁぁぁん!」

叫び声と共に、明日香が蟻の群れから姿を現した。歴戦の飛翔術で空中に躍り出た彼女は、黒く蠢く蟻の大軍を文字通り「飛び越え」、エリザベート達の元に着地した。
そして次の瞬間、エリザベートとミーミルに二人に抱き着き、ものすごい勢いで頬ずりを始めた。

「エリザベートちゃん、ミーミルちゃん、大丈夫でしたか? 怪我とかはないですか? ああ、何だか甘い匂いのするべたべたした液体がいっぱい体についてるじゃないですかぁ」

ハンカチで明日香に顔を拭かれながら、エリザベートが応えた。

「助けに来てくれたんですの? さすが明日香は頼りになるですぅ」
「明日香さん、ありがとうございます」

大好きな二人から礼を言われ、明日香は得意げに胸を張って言った。

「あったりまえです! エリザベートちゃんとミーミルちゃんの為ならたとえ火の中水の中、巨大蟻の群れの中ですよ?」

「こっ、これお前! 明日香や! 誰か大事な人間をもう一人忘れてはおらんかの!?」

完全に自分のことは眼中にない三人の様子に、アーデルハイトは憤慨する。

「あら、おばあさまもいたんですか」
「何じゃその言い草は!」
「怒っちゃダメです。ちょっとしたジョークです。心に余裕がないと参ってしまいますので。本当ですよ? まあ…楽しんでないと言えば嘘になりますけど」
「くー! 年寄りをおもちゃにしおってからに、わしを労わってくれる心優しい奴はおらんのかのう…」

アーデルハイトがそう言って嘆いた時だった。


「アーデルさぁーん!」

疾風のように目にも止まらぬ速さで蟻たちの間をすり抜けながら、今度は一人の青年がアーデルハイトの元に駆け付けてきた。ザカコである。

「アーデルさん! 大丈夫ですか! 虫に食べられたりしていませんか!」
「おお、ザカコか。おまえは良い子じゃのう。見てみい! こいつらの冷たい態度! 年寄りを労わるという気持ちが毛ほどもないわ。ひどいのうひどいのう」
ヨヨヨとしなを作ってザカコに泣きつくアーデルハイト。
「おのれ、アーデルさんを泣かす奴はこのザカコ・グーメルが許しません! 蟻など自分が成敗してくれましょう!」

「………たぶん会話が食い違ってるよね」
「っていうか今そんなのんきなやり取りしてる場合じゃないよ。早く逃げないと!」

アーデルハイト達に同時にツッコミを入れたのは、終夏とリアトリスだった。
終夏が風術で手近な葉っぱを蟻にかぶせて動きを封じさせ、リアトリスがスイートピースライサーで蟻たちを攻撃するという連携プレーで、明日香達に遅れながらも蟻の波をかき分け進んできたのだ。

二人の声に、アーデルハイトもようやく我に返った。

「そうじゃのう。いつまでもこんな場所で蟻と戦ってもらちが明かんわ」
「しかし、こう取り囲まれてしまっては、元来たルートを引き返すのは難しいな…」

ザカコは悔しげに舌打ちをする。その時、あとから皆に追いついてきたエースが声を上げた。

「みんな、俺の言う方向に逃げてくれ! 花たちが、蟻が少ない場所を教えてくれるから!」
「ありがとう! ……さ、アーデルさん」

ザカコはエースの声に応えると、アーデルハイトの前に屈んで声を掛けた。

「自分の背に掴まってください。お疲れでしょう。ここからは自分がアーデルさんの足になります」
「頼もしいのう。よろしくたのむぞ、ザカコ」
「うおおおおお! 自分とアーデルさんの行く手を阻む者は、何人たりとも容赦はせんぞ!」

アーデルハイトを背中におぶったザカコは、声も勇ましく進路を遮る蟻の群れに向かって突進したのだった。