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狩るのは果物? モンスター?

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狩るのは果物? モンスター?

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   ☆★☆★☆★


「〜♪ 〜〜〜♪〜」
 白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)は幸せの歌を口ずさみながら収穫の手伝いをしている。
「とっても良い香りなのです……この林檎でお菓子を作ったら、きっととても美味しいのです……(ぽわぽわ」
 牡丹は手にした林檎の香りを目を閉じて一杯に吸い込んだ。
「お手伝いが終わったら、沢山買わせて頂いて、色々作りましょうね。……八雲さん、これもお願いします」
 牡丹へ微笑んだ白雪 椿(しらゆき・つばき)は、その微笑みのまま、手にした林檎を八雲 虎臣(やくも・とらおみ)へと手渡した。
「お任せ下さい」
 そんな2人を見守りながら、八雲は林檎を受け取り、村人から預かった籠へ優しく入れた。

「それにしても……」

 椿は言いながら次の林檎を手に取った。
「泥棒もモンスターも、事が済んだとは言っていましたが、皆さん無事なのでしょうか……」
 心配そうに呟く。
「皆さんお強いですもの……。きっと大丈夫なのです……」
 そう答えた牡丹の長い黒髪を、風がふわり、と、撫でた。

「もしここに泥棒やモンスターが現れても、私と八雲が居ります。どうぞ椿様と牡丹様は林檎狩りをお楽しみ下さい」

 周囲の警戒を怠る事無く、ヴィクトリア・ウルフ(う゛ぃくとりあ・うるふ)は言った。
「いえ、林檎狩りと言うか……収穫のお手伝いなのですが……。ふふ……でも、はい……頼もしいです」


「どの辺りだい!?」


 椿がヴィクトリアに言葉を返し終わると同時に、村人が数人、慌しく駆けて行く。


「あっちだ、この奥の……!」


「な……何でしょうか……」
 突然のことに驚いてしまった牡丹は、林檎を抱えたまま、固まってしまった。
「様子を見てきます」
 そんな牡丹を安心させる様に八雲は言い、皆が村人の行った方向へ視線を集める中、歩き出した。
 ――と、

「何だ、お前は」

 村人とは異なる気配を感じ取ったヴィクトリアは、素早く椿と牡丹、その人物との間に入った。
「アルクラントさん」
 椿が人物の、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)の、名を呼んだ。
「僕も居るよー」
 その後ろからは猫耳のついたフードを目深に被っている完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)が現れた。
「ヴィクトリアさん、友人のアルクラントさんとペトラさんです」
 椿が2人を紹介する。
「ご友人の……。大変失礼致しました。無礼をお許し下さい」
 ヴィクトリアは深々と頭を下げた。
「椿殿と牡丹殿がいつもお世話になっております」
 八雲は進めた歩みを戻し、アルクラントとペトラへ挨拶をする。
「ヴィクトリアと、八雲の2人かな?」
「僕はペトラだよ。よろしくね!」
 アルクラントとペトラは言った。
「ところで今……村の人達が走って行かれたのですが、何かご存じですか?」
 椿が尋ねる。
「ああ、何でも 特別な林檎 が見付かったらしい」
「特別な林檎……ですか?」
 アルクラントの答えに、牡丹が口を開いた。

「何ですか……それ」

「100年に1度、実るか実らないか、と言う林檎の事でね――」
 それは昼間は判らない程に、うっすらと輝きを放ち、非常に高値で取引される。だが、枝から離すタイミングを間違えてしまうと、その瞬間に普通の林檎になってしまう。と、言う物だ。
 本来は戦闘を好まないコボルドが殺気立っていたのは、泥棒に子供を攫われ、その特別な実を、誰も近付ける事無く見張っていろと脅されたからなのだ。
 アルクラントは説明をした。

「そんな特別な物がすぐそこにあるとは、素敵じゃないか」

 普通の林檎も一緒に見張らせていたのは、この果樹園の果物そのものが、それなりの値段になるので、ついでに、と言う事らしい。
 少し遠くから、大勢の人の歓声が聞こえた。特別な実が無事に収穫出来た様だ。

「ねえねえマスター、後で見せてもらおうよ!」

 ペトラは興味津々に言った。
「そうだな、落ち着いた頃に行ってみよう。それまでは林檎狩りだ」
「やったー! マスター、肩車してよー!」
 せがまれて、アルクラントはペトラを軽々と肩に乗せた。
「へへ、高いなー。たくさん取るよー! よいしょっしょー」
「林檎は私が持ちますよ」
 早速林檎を手にしたペトラへ、八雲か言った。
「では、私も収穫を手伝おう」
 村人が果樹園内に入って居るのだから、もう安心だろう、と、ヴィクトリアも林檎へ手を伸ばした。
「皆さんお疲れでしょうから……やはり、甘い物が良いですね……」
「私も……手伝うのです……」
 椿と牡丹は何を作るか、メニューを考え、
「甘い物か、ならば私は林檎を使ったポークソテーでも作ろうかな」
 アルクラントもまた、林檎料理を考えていた。