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リアクション
【3】氷壁遺跡の影
氷壁遺跡の内部へと突入した一団は、影人間との攻防戦を始めていた。
次々と氷の地面から姿をあらわす影人間に、シャンバラ軍も動揺を隠せない。
しかし、一度始まってしまえばそれは間違いなく敵であると分かる。
こちらに牙を剥けてくる意思なき排除者たちへ向かって、清泉 北都(いずみ・ほくと)とクナイ・アヤシ(くない・あやし)は真っ向から立ちむかった。
「ホワイトアウト!」
北都が手のひらを差し向けて唱えると、猛吹雪が影人間を襲った。
『ホワイトアウト』による視覚の攪乱。それから――
「はぁっ!」
『氷術』による足止めである。
放たれた氷の術は影人間たちの足下を凍らせ、その身動きを一瞬だけストップさせた。
その隙に、北都は『百裂拳』を叩きこむ。
「でやあああぁぁぁぁっ!」
ズダダダダダッ――! と、強烈な拳が連続して影人間をふき飛ばした。
どうっと倒れた影人間の前で、着地する北都。
ちょうどその時、敵の攻撃をカウンターで弾き返したクナイも隣に着地した。
「……どうやら相手は、物言わぬ敵のようですね」
クナイが言った。
戦闘中、クナイは影人間に「何が目的か」と問いただしたが、まったく返事はなかった。
ただ無言のまま、こちらに襲いかかってくるだけだ。
「一種のセキュリティシステムみたいなものかもね」
北都がつぶやいた。
実際、影人間たちは侵入者を見つけてからあらわれているように思える。
こちらを敵と見なした以上、やられるまで攻撃を仕掛けてくるのだった。
「さて、どうしたものでしょうか――」
クナイは言葉をこぼすようにつぶやく。
そのとき、瑞江 響(みずえ・ひびき)とアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)の戦いの様子も垣間見えた。
「いくぜ、響!」
「ああっ――!」
響はアイザックに『パワーブレス』の技をかけてもらうと、そのまま『疾風迅雷』を発動させ、猛スピードで影人間どもの裏を取った。背後に回られた影人間は、そのスピードについていけない。敵がふり返るその前に、響は『チェインスマイト』を叩きこんだ。
「うおおおおぉぉぉっ!」
栄光の刀が放つ二連続の斬撃。
影人間たちの動きを止めることに成功する。
と、次いで――
「食らいなッ! 炎と氷の魔法、どちらともお見舞いしてやるぜ!」
アイザックが『ファイアストーム』と『ブリザード』の両方を叩きこんだ。
灼熱の火炎の渦が影人間たちに襲いかかり、その上から氷吹雪が重ねて迫る。
ゴウッ――と、一瞬にして消し炭と氷漬けになった影人間たちは、その場にぐしゃあっと崩れおちた。
「まったく、次から次に湧いて出るな……」
響は呆れたようにぼやく。
「ああ。けどまあ、全部ぶっ潰せば済むこった」
アイザックはにやりとして言った。
しかし、アイザックの言う通りに全てが全てを倒して回るのは体力にも限界がある。
マユミ・フジワラ(まゆみ・ふじわら)とユウト・ツカハラ(ゆうと・つかはら)は、影人間たちの動きをよく観察した。
(あれは無作為に侵入者を排除しようとしている……。私たちだけでなく、グランツ教徒たちも……)
マユミが思ったように、影人間たちはなにも契約者たちだけに襲いかかってきていたわけではなかった。
先に侵入していたグランツ教徒たちも、影人間たちと交戦している。すでにいくつかは、死体や、傷ついた教徒も転がっていて、戦いの苛酷さが見て取れた。
「マユミ……私は、死んでるのを見るのは嫌だ」
ユウトが言った。もちろん、マユミも同じ気持ちだった。
二人でなくとも、目の前の状況からは目を逸らしたくなる。誰だって、誰かが傷ついているのを見るのは嫌だ。心が痛くなる。
しかし――
「仕方がないですよ、ユウト……」
マユミが言った。
「それでも前を向かないといけないんです、私たちは――」
その気迫さえ感じられる言葉に、ユウトはゆっくりうなずいた。
そう。前を向くしかないのである。目を逸らすだけではなく、立ちむかわねばならない。
ユウトとマユミは影人間たちに有効な攻撃を見定めると、それを仲間たちに伝えた。
直接的な物理攻撃よりかは、スキルや技に頼った魔法攻撃のほうが有効的である。次々と魔法を放って、道を切り開いた契約者たちは、傷ついたグランツ教徒たちに構わず先を目指そうとする。
が――
「リカインっ!?」
仲間が驚いてふり返った。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)とウェイン・エヴァーアージェ(うぇいん・えう゛ぁーあーじぇ)が、傷ついたグランツ教徒たちを介抱しようとしていた。
「そんなことしてる場合じゃ……」
「でも――放ってはおけないもの!」
リカインは叫ぶ。
彼女はグランツ教徒の腕を肩に回して背負い、なんとかその場から退避させようとした。
「たとえグランツ教の人間だったとしても、だからって見過ごしてられない。助けられるなら、助けてあげないと……!」
リカインはそう言って契約者たちに呼びかける。
最初は皆、渋っていた。抵抗があったのだろう。敵である人間を助けることに。だがやがて――少しずつ、一人、二人と、リカインのようにグランツ教徒を介抱しに動きだした。
「犠牲を出すことに心が痛まないというのなら、それはニルヴァーナを落とそうとしてることと変わらないからな」
ウェインが言いながら、グランツ教徒を運んだ。
その通りだという思いが誰しもにある。守るためにアルティメットクイーンを追おうとしているのなら、見捨てることなんて出来なかった。
「グランツ教徒のみんな……!」
堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)が生き残っているグランツ教徒たちに呼びかけた。
影人間と交戦していたグランツ教徒たちが険しい目で一寿を見つめた。
「このまま僕たちが争っていたって、どうにもならない……。共同戦線を張れないとは思わないか?」
一寿の言葉に、グランツ教徒たちが戸惑いで揺れる瞳を見合わせた。
「影人間は……共通の敵……。少しでも……被害は少ない方がいい」
ランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)が一寿に続くように言う。
それはグランツ教徒たちも同じ思いだった。確かに、このままお互いがそれぞれに影人間と戦っていたとしても、被害は大きくなるばかりだ。もちろん、契約者たちをアルティメットクイーンのもとへは行かせてやりたくない。
だが――それよりも、仲間を守りたいとグランツ教徒たちも思っていた。
うなずくグランツ教徒たち。一寿の提案を受け入れたようだった。
「情報は共有し……効率的に、影人間を……叩く……」
ビアンコが言う。一寿もうなずいた。
「うん。せめて今だけは……ね……」
そうして一寿たちは、一部の部隊を先へ進ませ、グランツ教徒たちと共に影人間へ反撃を始めた。
(それにしても、今回のアルティメットクイーンの行動は――)
リカインの頭の中にふと考えが過ぎる。
(まるでニルヴァーナを動かせることを確信しているみたい。ファーストクイーンと何か……)
関係があるのかもしれない……。
そんな疑念が湧く。だがいまは、とにかく影人間を倒すのが先決だった。
嫌な予感を感じながらも、シャンバラ軍とグランツ教徒は共に戦い続けた。
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