空京

校長室

選択の絆 第三回

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選択の絆 第三回
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戦闘狂、業魔 3

「そうはさせん!」
 業魔の凶暴極まる一撃を、正子の堅牢な拳が迎え撃つ。小さな衝撃があたりに走り、その衝突したときの強さを物語る。
「一校の長として、一武芸者として、負けるわけにはいかぬ! くらえいっ!」
 正子の屈強な利き腕から繰り出される拳が、業魔の鳩尾へ打ち込まれる。
「ぬおっ! ……やるじゃねぇか! こうでなくっちゃな!」
 今度は業魔の拳打が正子の鳩尾へと打ち込まれる。
「うぬぅ!?」
 正子が一歩後ずさる。だが攻める意志を途切れさせず、今一度一歩踏み込み業魔と打ち合う。
「こんにちは! また来ましたよっと!」
 と、挨拶をしつつ祝福の短剣を投擲するアンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)
 最早業魔に蛇刀はない、しかし、それでもなお業魔は強い。その証拠に――――。
「ほぉ、おまへは!! はんへいふるへ!」
 投げられた短剣をいとも簡単に止めたのだ。……口で。
「わお! アンちゃん、射止める気で投げたのに、さすがね!」
 アンドロマリウスが感嘆の声を上げる中、一太刀を必ず当てると誓いを立てたスウェル・アルト(すうぇる・あると)が、業魔へと駆ける。
「厄介な刀は、ない。なら当てられない道理も、ない」
 業魔だけに意識を集中させる。業魔に一太刀いれることだけを考える。全神経を集中させて、全てを感じとる。
「……斬るっ」
 アルトが跳躍し、業魔へ向う。
「その刃、俺に届くか!」
「むうぅ……!?」
 それまで打ち合っていた正子を力で退け、正面からきたアルトを見据えて笑う業魔。
「はあっ!」
 アルトが放つ一撃、風を切る姿さえ幻視する見事な捌き。だが、その一撃すら業魔に止められる。またも歯を使われて。
「はんねんはったな」
「……もう一振り」
 受けきった、と油断した業魔を見て愛刀を手放し、今度は持っていた和傘で業魔を叩きつけようとするアルト。
 しかし、それすらも業魔の両腕の前にガードされてしまう。
「残念だったな! ……はっは! 日に二度、連続で残念だったと言うとは思わなかったぜ!」
「……三度目はない」
「なに?」
 アルトは和傘を手放して、地面へと着地する。同時に手に取った。……業魔の口から零れ落ちた、自分の刀、海神の刀を。
「……もう一歩、今度は届かせる!」
 がら空きとなった業魔の懐で刀を構え、疾風の如き速さで業魔の右わき腹へと差し込まれ、そのまま引き抜く。
「うお!? ……して、やられたか」
 アルトの一太刀が業魔の身に届いたのを見て、ハイナも負けじと妖刀を振るう。
「負けていられないでありんすな! 葦原明倫館総奉行として!」
「そんなくだらねぇ肩書きはいらねぇ! 戦えりゃそれでいいぜ! はーっはっは、はーっはっはっはっは!」
「……これだけ強いと、戦闘狂も迷惑じゃ済まなくなってるな」
 ホークアイを使って業魔の動きをよく観察し、何か弱点はないかと探る麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)。傍らでは弓を構えた瀬田 沙耶(せた・さや)の姿もある。
「脇、膝裏、脹脛、太腿、間接部……どこに射ようとも意にも介さず動き続けると、弱点はないんですの?」
「そうだな……さっき、馬場校長が放った鳩尾への一撃、少しは効いてたみたいだから……恐らく人体の急所にある程度攻撃が通りやすいと見える。あとは、あれだな」
 由紀也一度切り、呆れたように言葉を続ける。
「試してみたい、っと思ったら躊躇なくその攻撃を喰らいにいってることがある……戦闘狂にもほどがあるよ、まったく」
「……隙がないのか隙だらけなのか、よくわかりませんわ」
 観察すればするほど、業魔の特異さが際立ち、有用な弱点を見つけることができないでいた。
「……そろそろ使わせてもらう」
 セリスが星辰刀の力を使い、業魔の動きを止める。
「ぐお!? ぐ、ぐぐ……やっぱ、そいつだきゃ、む、りだな」
「その隙、頂きでありんす! わっちの力をありったけ吸って、全部たたきつけるでありんすよ! 刃那!」
 刃那と名づけられた妖刀がハイナの力を吸い、業魔へと炸裂させる。
「あ、ぐお!? つ、使い、こなしてるじゃねぇか」
 ハイナに続き、契約者たちの攻撃が一斉に業魔へと注がれる。――だが。
「時間切れ、だな? それに今回は頭数が少ねぇ……正直、前のほうがやり応えがあったぜ! だがこれで終わるわきゃないよな! なぁ! なああああ!!」
 そう言う業魔。その言葉通り、今回は抜身も使ってはいない。
 疲弊していく契約者たちに対し、業魔はなおも戦いたくてうずうずしている。本当に、戦うことで疲労を取り払っているようにすら見えた。
「この拳、まだ届かぬか。しかし膝を折るわけにはいかん」
「妖刀も頂いた、ならばこやつがわっちの全てを吸い尽くすまでに全力出し切らねば礼儀に反する! いざ!」

「「推して参る!!」」

 その後、正子、ハイナ、契約者たちは業魔に対して善戦する。
 しかし業魔を倒す事は叶わず、時間もなくなり、撤退を余儀なくされる。
 その撤退際に業魔はこう言って、笑い続けた。
「今日もまあまあ楽しかったぜ! 次会うときはもっと派手にどんちゃんやろうや!
 それと、俺たち側につく話、考えが変わったら言えよ? 歓迎するからな、はーっはっはっは!
 と――――。