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空賊を倒せ!

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空賊を倒せ!

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第5章 戦闘が激化して以降に起きたこと

 しかし、右舷の戦況はというと、芳しいものではなかった。
 大きな飛行船であるため、左舷の奮戦が右舷にまで影響を与えるとは限らないのである。

 最初に甲板へ空賊が降り立ったのは、戦いが始まって15分ほどが経過した頃であった。
 右舷の広い甲板の中央付近に、ひとり、またひとりと降りてくる空賊。ここは、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)ら獅子小隊が守備を受け持つ場所であった。
「ついにここまで来たか……。我ら獅子小隊のド真ん中へ降下してくるとは、恐れを知らぬようだな!」
 イリーナは吼える。
 彼女のなかには、使命感があった。隊長のレオンがいなければなにもでない――誰にもそう言わせないだけの戦いを、今この場で演じなければいけないのである。
「まずはこれからお見舞いだ! レーゼマン! 月島ッ!」
 イリーナ、それにレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)月島 悠(つきしま・ゆう)の3人は、スプレーショットにて、着陸したばかりの空賊へ集中砲火を浴びせかける。
「シャンバラの獅子の力、とくと見るがいい!」
「邪魔者は……排除する」
 さすがに3人から同時攻撃を受ければ、歴戦の空賊とて無事では済まない。彼らは慌てて、自分たちの飛空挺の陰に身を潜め、そこから射撃で反抗を開始する。
「ちょこまかと隠れおって! ……だが、その程度の防御――シャンバラの獅子の牙の前では無効――ッ」
 レーゼマンの咆吼と同時に、改造飛行艇のうちの1機がスプレーショットの連射によって破壊され、炎上する。その向こうに隠れていた空賊も、無事ではない。
 だが、敵とて、やられてばかりではなかった。彼らは、この3人のうちの最も弱い部分を的確に見極めていた。
 そう、シャンバラの獅子の称号を持たない者、悠である――。
 空賊のひとりが、スプレーショットの弾幕をかいくぐり、悠へ向かって突進してくる。
「月島ッ!」
 イリーナが声をかける。しかし、銃器の扱いに慣れているとはいえ、実戦経験の浅い悠は敵の行動に対応しきれない。
「――う、うわぁッ」
 空賊のタックルに、悠は勢いよく吹き飛んだ。それに気をとられたイリーナ、レーゼマンも、弾幕を維持することができない。ほかの空賊たちも態勢を立て直し、彼女らの方へ迫ってくる。
「後衛は下がれっ! 前衛、頼むぞ!」
「よし! イリーナ、よく頑張った! 後は任せろっ!」
 イリーナたちと入れ替わるように、レイディス・アルフェインを筆頭に、藍澤 黎(あいざわ・れい)ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)らの3人が前線へ躍り出る。
 後方からは、セシリア・ファフレータとセシル・ライハード(せしる・らいはーど)がスペルで支援を始めた。
「貴殿に譲れぬものがあるように、我にも譲れぬものがあるんでな!」
 白い学ランを改造した制服に身を包んだ黎は、ひとり突出してランスを振るう。
 3人のなかでは彼が最も経験を積んでいる。そんな黎を中心に据え、レイディスとファルチェはフォローにあたった。
「戦いの基本は各個撃破じゃ! まずはその、右翼の敵から――ッ」
 セシリアは惜しみなくスペルを飛ばし、セシルもそれに合わせる。また、黎たちも同様のターゲットに攻撃を絞っていく。
「セシリア様、リチャージです!」
 そして、セシリアやセシルの魔力が切れそうになれば、そのタイミングを見越して、すぐさまファルチェのフォローが入る。
 戦いながらもセシリアたちへの気配りを怠らない彼女の集中力は相当なものであろう。
「たいした怪我やないぞ、しゃきっとしぃ!」
 乱戦のなか、負傷した隊員に対しては、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)がヒールをかける。
 回復手段があるということは、心強い。
 当初は均衡していた戦況も、こうした支援を背景に持つ獅子小隊が徐々に押し始めていた。
 パワーバランスが崩れたところで、もう彼らの戦いは勝敗が見えたと言っても過言ではないだろう。

「うう――」
 空賊に吹っ飛ばされた悠が身体を起こそうとする。
「大丈夫ですぅ〜?」
 そんな彼を心配そうに見つめるのは、シャーロット・マウザーだ。
「ああ、なんとか……」
 悠はどうにか身体を起こすと、かぶりを振る。多少めまいがし身体も痛むが、たいしたダメージではない。
「念のため、ボクが回復魔法かけるね――」
 彼のパートナー麻上 翼(まがみ・つばさ)は、悠にヒールを施す。すると、彼の身体の痛みがすーっとひいていった。
「ありがとう」
 悠は素直に礼を言う。
「……どういたしまして」
 翼は少し照れたような表情を浮かべると、その深紅の瞳をふっと逸らした。
「シャンバラの獅子を名乗るには、まだ実戦経験が足りないか――」
 悠の視線の先には、空賊と戦う仲間たちの姿があった。
 戦線に復帰したイリーナによって、ちょうど、最後の空賊が倒される。あれがシャンバラの獅子の戦いなのだと、悠は思うのであった。


 右舷中央の戦いは、獅子小隊の活躍により収束しつつあったが、最大の激戦区となっている右舷後方はまさに混迷の域へと突入していた。

「これは少々厳しい……ですね」
「ああ、まったくだ」
 九条 風天(くじょう・ふうてん)と九条瀬良。同じ苗字を持つふたりは、お互いにお互いの背中を預け合っていた。
 右舷後方甲板、奮戦はしているものの、断続的に何人かの空賊の着陸を許してしまっている。
 彼らを船内へ向かわせないため、なんとしてもここで足止めしなければならないのだ。
「おっと。敵さん、来るようだぜ」

 ――ッ!
 瀬良の言葉通り、カルスノウトを構えた空賊ふたりが無言のまま、距離を詰めてくる。
「そちらは瀬良さん、お願いします。こちらはボクに任せてください!」
 そう言うと風天は日本刀の形状をした光条兵器を構え、向かってくる空賊に正面から対峙する。そして――。
「愚かな――」
 一閃。空賊のカルスノウトがくるくると弧を描きながら宙へ吹っ飛ぶ。
 敵の武器を狙った攻撃が見事に決まったのだ。
 一方の瀬良もまた、自慢のリターニングダガーで敵の無力化に成功していた。
「ガキだからって舐めてっと、痛い目みるぜ!」
「降伏する気はありますか? ……その様子を見る限りでは、ないようですね――」
 風天は普段の優しいそれとは異なる氷のような眼差しで敵を一瞥すると、今度は反撃に転じるのであった。


 大型の球体関節人形のような外見の機晶姫ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)もまた、甲板に降りてきた空賊ふたりと対峙していた。
「少々、分が悪いですわ――」
「百合園の癒し……ヒールもそろそろ在庫切れよ」
 パートナーの高潮 津波(たかしお・つなみ)も、自身の魔力の残量を気にし始める。ふたりはそこまで追いつめられていたのだ。
 空賊ふたりに、セイバーひとりの戦闘員で挑むのはやはり厳しいか――。
 ナトレアが、船内への一時待避も考えた、そのときだった。
 空から、チェインスマイトや火術による援護が入る。小型飛空挺に乗った菅野葉月と、ミーナ・コーミアのコンビだ。
 それによって敵の態勢が崩れたことを、ナトレアは見逃さなかった。
「もらいましたわ!」
 カルスノウトを振り上げ、空賊の一体へと向かっていく。
「こちらは私にお任せください!」
 更に空からの援軍が現れたようである。もう一方の空賊へ小型飛空艇が突進していく。
 百鬼那由多のパートナー、ヴァルキリーのアティナ・テイワズ(あてぃな・ていわず)だ。
 ナトレア、アティナ、共にカルスノウトで空賊へ会心の一撃を与える。
「一時はピンチでしたが、どうにかなりましたわ」
「……どうしましょう。これでは撃墜数で那由多に勝ってしまいますわ」
 勝負が決した、瞬間だった。


 那由多たちのすぐ近くでは、鎖帷子に学生服、バンダナという出で立ちの黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が船のへりに腕組みをして立っていた。そして、その側には、パートナーである剣の花嫁リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)の姿もある。
 命綱をつけているとはいえ、慣れない甲板での戦闘。落下すれば無事では済まない。
「彼は、あそこで何をやっているんですか。まるで標的にしてくれと言っているようなものです……」
 にゃん丸の姿を認めたガートルード・ハーレックが毒づく。しかし、リリィは気に留めた様子ももない。恐らく、パートナーとして、にゃん丸を信頼しているのであろう。
 無防備なにゃん丸に気が付いた空賊が何人かいたようである。ガートルードの言葉通り、にゃん丸に向かって幾多の銃弾が発せられていく。
 刹那、にゃん丸はのけ反るように空中に弧を描きながら飛び上がった。音のない、白黒の世界がスローモーションのように流れる。
「この感覚……これこそ俺である証!」
 間髪を入れずにリターニングダガーを敵の急所めがけて投げつける。それらは空賊に見事ヒットする。
 普段は一般学生としておどけているが、これこそ現代忍者、忍丸の本来の姿なのであった。


「邪魔をするから痛い思いをするんです!」
 ドラゴンニュートのパルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)は、炎術と雷術を、その威力をコントロールしながら、ターゲットの空賊たちに向かって撃ち出していた。
 その攻撃は的確で、確実に彼らの機動力を奪っていく。
「バルマローザ、ナイス雷術! 僕も負けてられないな!」
 そうやって足止めを食らった空賊の一団へ飛び込んだ、ポニーテールの活発な少女リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)がカルスノウトを振るって大立ち回りを演じている。

 銀髪のナイトユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)とヴァルキリーのルミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー)のコンビもまた、リアトリスの援護に駆けつける。
「賊など言語道断! 成敗してくれるッ!」
「天に月が昇る前に、貴方たちを一掃させていただきます!」
 やや突出し、手当たり次第に敵へ攻撃を加えるルミナ。ユウはそれをサポートするように、ランスのリーチで防御的なテリトリーを構築している。

「援護します! 敵の足止めをお願いします!」
 百合園女学院の制服を身にまとったフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は、そんな乱戦のなかへ、パララ、パララ、と、アサルトカービンの弾を撃ち込んでいく。
 それらは、激しい動きの混戦のなかでも、味方を避け、的確に空賊たちに打撃を与えていった。
「フィル、さすがだな」
 狙撃を担うパートナーを守るように、近くで剣を構えるセイバー、セラ・スアレスは、改めてフィルの腕に感心する。
「……このくらい、当然です」
 その言葉と共に、また、パララ、パララ、と、アサルトカービンが火を噴くのであった。

「はんっ! 君ら隙だらけなんだよ。こいつはいただくぜ――」
 乱戦の甲板。国頭 武尊(くにがみ・たける)は、このときを狙っていた。
 空賊たちが降りた後の、小型飛空挺。これを分捕り、己が戦力にしてしまおうという腹であった。
 ――しかし、である。
「……なんだ、これ。ちくしょう、鍵がかかってやがる!」
 そうなのであった。空賊たちは、武尊のような行動を起こすものが現れると考え、飛空挺を降りる際に、すべてキーを抜いてから甲板へと散っていったのであった。
「ちくしょう、動け! 鍵だとかなんだとか、こまけぇこたぁいいんだよ!」
 だがしかし、ピクリとも動かない小型飛空挺。
「ちっ、仕方ねぇ! 動かないなら、せめて脱出できないように、ぶっ壊しちまうまでだ!」
 武尊はアサルトカービンを構え、甲板に放置された飛空挺に対し、攻撃を開始した。

 こうした奮戦はあったものの、右舷後方甲板は、最も多くの空賊が攻撃を仕掛けてきた場所である。
 やがて、空賊の何人かは、甲板を突破し、船内へとなだれ込む。
「ええいさがれ、賊ども! お前たちが幾ら命を張ったとて、たかが美術品だぞ!? 数ヶ月の遊興に一生を懸けるなど馬鹿げている! これ以上の戦闘は無意味だ!」
 走り抜けていく彼らの背中に対して、昴コウジは吼えるが、それもむなしく、戦線は、船の中へと拡大されるのであった。


「私はロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)! 賊の好きなようにはさせません!」
 船倉へと向かう通路。まず最初に空賊に立ちはだかったのは、ウェーブのかかったオーシャンブルーヘアが美しい、ロザリンドだった。
 そして、その横にはパートナーのテレサ・エーメンスも控えている。
「ここから先は、通しません――」
 ロザリンドはそう言うや、獲物のランスを構える。……が、しかし。
「……しまった! 狭い通路じゃランスを上手く振るえません――」
 そうなのである。一度に多数と戦わないで済むと考え、陣取った通路。
 確かにその発想は正解であったが、ロザリンドの武器ランスとの相性はあまりよくなかったのだ。
「だけど! 敵を突き刺す分には、振り回す必要なしッ!」
 戦い方を変更し、ランスを構え突撃するロザリンド。通路での戦いが始まった。後方からはテレサの援護魔法も飛び始める。


 ロザリンドたちが奮戦している頃、別ルートで侵入した空賊のひとりが、船倉へと続く最後の通路へと躍り出る。
「うわぁ! ついにここまで来たっ!」
 驚きの声をあげたのは薔薇の学舎の学生皆川 陽(みなかわ・よう)であった。
 元来臆病な性格の彼は、ほかのみんなが活躍してくれるおかげで、敵がここまでたどり着くことはないだろうと思い、この最後の通路に隠れていたのである。
 しかし、現実は違った。たったひとりではあるが、この場所にたどり着いてしまう空賊がいたのである。
「……ったく、仕方ねぇな。この俺が超ウルトラスーパーやっつけてやるよ!」
「うわぁ〜ん、テディっ!」
 絶体絶命のピンチに現れたのは陽のパートナーテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)であった。
 この飛行船に乗ってからは忙しそうにあちこちを行ったり来たりしていたようだが、最終的には、陽のいる場所まで戻ってきてくれたのである。
「さあ、かかってこいですぅー! 騎士は逃げも隠れもしないんですぅー! 正々堂々正面から勝負するんですぅー! むきーっ」
 空賊を眼前に、長髪の言葉を並べ立てるテディ。
それに触発されたのか、相手の空賊は、廊下の床板を蹴ると、一気にふたりへと間合いを詰めてくる。
「ひぃっ!」
「うわぁっ!」
 陽のみならず、挑発を行った本人のテディまで、悲鳴をあげる。まさか本当に来るとは思わなかったのである。
 騎士のテディは慌ててランスを構え戦闘態勢を整えようとするが、その必要はなかった。
 次の瞬間、空賊は思い切り床に足を取られ転倒すると、そのまま、ツ――ッと、廊下を滑り陽たちを追い越して、船倉へと続くドアへ激突してしまう。
「あ……れ?」
 そうなのであった。ここは、小鳥遊美羽が仕掛けた、透明ワックストラップの廊下なのであった。

 ドアに激突した空賊はそのままそれをぶち破り、転げるようにして、ダミー木箱のひとつに激突する。
 衝撃を受けた木箱は、バァン! と大きな音を発する。そして、粉コショウ、粉わさび、すりおろしたタマネギ、生クリーム、納豆――それらすべてがまぜこぜになった固形物が、箱の中から噴出され、空賊に襲いかかる。
 これにはさすがの空賊もたまらない。
 目、鼻、口を押さえ、ゲホゲホやりながら、船倉内を転げ回る。
 しかし、これも所詮は目くらましに過ぎない。致命的打撃を与えなければ、倒したことにはならないのだ。
 苦しむ空賊。それを見下ろすように現れた少女がひとり。
 百合園女学院所属のプリースト、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)であった。
「え、ええーっと、空賊さん……ですよね。どうしましょう――」
 今回、初めての実戦となるレロシャンは、いざ敵を目の前にして、どうすればいいかわからなかった。
 ……しかし、こんなときにとれる行動なんてものは、限られている。
 ゆえに、レロシャンは素人でありながらも、正解の動作を行うことができたのである。
「と、とりあえず……えい!」
 ドス! という重い音と共に振り下ろされるホーリーメイス。最後の空賊は、あっけなく真っ暗な世界へ落ちていくのであった。