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リアクション
イルミンスールの森で、守護天使のマリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)が、
偶然「ダイエット草」を発見し、たちどころにスリムになった。
そのことを聞いた蒼空学園校長の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、いつものように、生徒達に命令する。
「ダイエットの秘薬を手に入れて、特許をとれば、大変な収入が見込めるわ。
さらに、セレブである私が使ってみせれば、宣伝効果が高くなるし、一石二鳥ね。
なんとしても、ダイエット草を手に入れるのよ!」
そして、蒼空学園では、マリエルのパートナーの小谷 愛美(こたに・まなみ)とマリエルを中心に、イルミンスールの森のダイエット草捜索隊が結成された。
「ダイエット草さえあればスイーツ食べ放題だよぉ! ボンキュッボンな体にもなれるかもー!」
「いいなー! マナミンもダイエットしたい! がんばってダイエット草をみつけようね!」
一方、イルミンスール魔法学校校長のエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は激怒していた。
「ダイエットに興味はないけど、蒼空学園なんかにイルミンスールの森で好き勝手させませぇん!
イルミンスールの森にあるものを、草木いっぽん、蒼空学園に渡してはなりませぇん!
薬草は絶対にイルミンスールの生徒が確保してみせなさぁい!」
「そ、そうじゃ。……これはイルミンスールの威信をかけた問題じゃからな。
絶対に、ダイエット草を取ってくるのじゃ!」
日々、体型維持の努力をしているという噂の、エリザベートのパートナーの魔女、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)も檄を飛ばす。
「よし、俺たちイルミンスール生が蒼空の奴らなんかに負けられるかよ!
この戦い、イルミンスール生が勝ってみせるぜ! ファイヤー!」
イルミンスールの熱血男子生徒、ジャック・サンマーも、拳を振り上げて叫んだ。
かくして、イルミンスールの森で、蒼空学園とイルミンスール魔法学校の、学園の意地をかけた「ダイエット草争奪戦」が始まったのだった。
第1章 出発する蒼空メンバー達のこと
イルミンスールの森の入り口で、ガーデァ・チョコチップ(がーでぁ・ちょこちっぷ)は、蒼空学園の生徒達に、ダイエット草捜索のしおり「乙女の威信」を配布していた。
「図鑑からコピーしたダイエット草の写真が載ってるので参考にしてくださいね! 手書きの解説も入ってますから!」
しおりの内容は、
「イルミンスールの森の説明」
「注意箇所&危険な生物の情報」
「ダイエット草の写真と解説&情報」
「よく似た間違いやすいであろう草の写真と解説&情報」
「蒼空学園の近くの美味しいスイーツ関係のお店情報」
「ダイエットに失敗するオチの四コマ」
「困ったときのQ&A」
「あとがき」
と、多岐にわたっており、写真以外はすべて手書きという気合の入ったものであった。
愛美の護衛をするつもりで集まっていた、朝野 未沙(あさの・みさ)とパートナーの機晶姫朝野 未羅(あさの・みら)、風森 望(かぜもり・のぞみ)に、ガーデァは笑顔で「乙女の威信」を手渡す。
「ダイエット草なんかなくても、お姉ちゃんは今でも十分可愛いのにね〜」
「ありがとう。でも、Q&Aに『Q:イルミンスール魔法学校の生徒に追い詰められたらどうしたらいいですか?』『A:泣いて謝りましょう。敵も鬼ではありません。君がもし女の子なら、さらに効果抜群です!』って書いてあるんだけど……。これはなんなの?」
望の素朴な疑問に、ガーデァはかわいく首をかしげてみせた。
きれいなピンク色のウェーブがかった髪がほわん、と揺れる。
「書いてあるとおりですよ〜」
ガーデァは、実はダイエット草の効果をそれほど信じているわけではなかった。副作用があるに決まっていると思っているし、「おっぱいも痩せるんじゃないかなー」とか思っているのだが、皆が燃えているので、あえて言わないのだ。
ガーデァの返答に、未沙は笑みを浮かべながら言う。
「あたしは気にしないよ! このスイーツのお店情報、活用させてもらうね。愛美さん、ダイエット草が手に入ったら一緒に行こうね!」
「うん、ダイエット草が手に入れば、ケーキバイキングも行き放題よね!」
「うんうん、ケーキバイキングは乙女の夢だよぉ」
未沙は愛美と腕を組んで、はしゃいでいた。マリエルも、横でこくこくうなずいている。
その様子を眺めながら、未羅はひとり、首をかしげていた。
「お姉ちゃんダイエットする必要ないのに、なんでダイエット草なんて欲しがるの? お姉ちゃんはダイエット草が無くても十分細いの……。でもお姉ちゃんが必要とするなら、私も全力でお手伝いするの!」
よくわからなかったが、大好きな未沙のために、未羅は全力で戦う決意をする。
そこへ、イルミンスールの制服を着た優しそうな外見の美少年があらわれた。
當間 零(とうま・れい)であった。
「こんにちは、蒼空学園の皆さん。これから、僕がこの森のガイドをさせていただきます。遭難者がでないようにしっかり案内させていただきますので、よろしくお願いしますね」
「どうもありがとう! 協力してくれるのは大歓迎だよ!」
愛美は素直に喜び、零はすんなり蒼空学園の捜索隊に参加することができた。
「よし、うまくいったみたいだね」
離れた場所にいた零のパートナーの剣の花嫁、ミント・フリージア(みんと・ふりーじあ)は、携帯から流れてくる音声を聞いてつぶやいた。
表向きは、「イルミンスール側の好意的配慮」であったが、実際には、「愛美たちの動向の監視・報告と、場合によっては危険回避のためと称し行動の抑制をすること」が零の目的であった。
携帯は常時通話状態になっており、零とミントは常に連絡をとることができる。
「小谷さん、ずいぶん大きなリュックを持ってますね。ここまで運んでくるのも大変だったでしょう。重い荷物は全部僕が持ちますから、貸してください」
しかし、実際には零にはさらに裏の目的があった。
愛美と個人的に親密になるということである。
「え、悪いよ、ほんとにいいの? 零君は優しいのね!」
「いえいえ、小谷さんのような美しい人に、重い荷物を持たせるわけにはいきませんから」
零はさわやかに笑ってみせる。
携帯から聞こえてくる零と愛美のやりとりに、あわてたのはミントである。
「ちょ、ちょっと、零! 真面目にやってよ! 役割を忘れたの!」
携帯からの怒りの連絡に、零はこっそり返事をする。
「しーっ、小谷さんたちに聞こえてしまいますよ。これも作戦の一環です。蒼空学園捜索隊のリーダーである小谷さんと仲良くなれれば、僕たちの目的も果たしやすくなるでしょう?」
「ホントに? ホントにそれだけが理由!?」
「ええ、本当ですとも。さあ、あんまり長く話しているとばれてしまいます。報告はまた後で」
「うーっ!!」
ミントは両手を握りしめてわなわな震えたが、零は一方的に会話を打ち切ってしまう。
「どうしたの?」
「いえいえ。なんでもありませんよ」
きょとんとしている愛美に、零は微笑んでみせるのであった。
そこに、空飛ぶ箒に乗ったイルミンスール生がやってきた。
峰谷 恵(みねたに・けい)であった。
大きな胸を揺らして地上に降り立つと、「乙女の威信」に載っている写真を指さして、恵は言う。
「これはダイエット草モドキという毒草で、うっかり触るとかぶれる上に、脂肪燃焼を阻害する成分が多分に含まれて痩せ難い体になっちゃうんです! 他所にはあまり知られてないし、毒性といってもかぶれて痒いだけだから、大抵の図鑑で扱いが小さかったり載ってなかったりするせいでイルミンスール生でも間違えちゃう人がいるんだよ。これが、本当のダイエット草だよ」
恵は、写真を取り出して蒼空学園の生徒達に見せた。
「うーん、どっちもほうれん草にしか見えないわね……」
望が首をかしげる。
「本当ですか? ボクは図鑑からコピーしたんですけど」
ガーデァも不思議そうに写真を見比べる。
「外見だけでダイエット草と見分けをつけるのが難しいんだ。秋深まった頃なら冬篭りに向けて脂肪を蓄えるために動物たちがダイエット草モドキを食べるから見分けやすいのに。あ、モドキごとダイエット草集めるのはやめてね。モドキも動物たちにとっては冬篭りに欠かせない薬草なんだから、取られると森が荒れてダイエット草も絶滅するかも」
恵はさらに畳み掛け、菓子折りと魔法瓶に入ったお茶を差し出した。
「この森で気をつけなきゃいけないことをお話しますね。あ、これどうぞ」
「これはこれはご丁寧に……ってその胸?」
スイーツ大好きなマリエルは菓子折りを受け取りつつ、恵の胸を凝視した。
「あ、あの……」
恵はもじもじと両腕で胸を隠す仕草をする。恵の胸はNカップはあるのではないかと思われるほどの超巨乳なのだ。
「その話は嘘でしょぉ。むしろ、ダイエット草を食べれば、そういうおっきな胸になれるんじゃないの〜? イルミンの子達だけでダイエット草を独占するなんてずるーい!」
「え、ボクの胸は、か、関係ないよ!?」
話を信じるどころか、マリエルは妄想を始める。
「まあ、ダイエット草モドキの話はちょっと信じがたいわね。妨害工作の一環でしょう」
望が冷静に指摘する。
「あはははは……はあ」
恵は笑ってごまかすとため息をつく。
穏便に蒼空の生徒達を妨害し、ダイエット草がとりつくされて自分の大きすぎる胸の減量が大変になるのを防ぐつもりだったのだ。
そこへ、ふらふらと箒を飛ばしながら、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)と、パートナーの白熊のゆる族雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がやってきた。
「あうー、やっとたどりつきましたっ」
「方向音痴すぎだぜ、ご主人……」
やれやれと地面に降り立ったソアに、ベアがため息をつく。
「皆さん、聞いてください! ダイエット草なんて存在は怪しいですよ! そもそも、食べたら即座に痩せるなんて、いくらなんでも都合が良すぎると思います。何か副作用があったら、お腹を壊すくらいじゃ済まないかもしれませんよっ!」
ソアは蒼空学園とイルミンスールの生徒が激突したら大変と、なんとか説得しようとする。
「それに、そんな怪しい草に頼らないでダイエットすることにも、価値があるんじゃないでしょうか!? あの5000年の時を生きる大魔女のアーデルハイトさんだって、簡単に痩せれる魔法があったらとっくに使っているのに、そんな都合の良い魔法が無いから、体型維持のためにいつも大変な努力をしているんですよ!」
「え、アーデルハイトちゃんが?」
ガーデァがきょとんとして訊ねると、ソアはあわてて両手をぶんぶん振った。
「……あ、いえ、あくまで噂です、噂。ア、アーデルハイトさんには秘密にしておいてください……」
「アーデルハイトさんの公然の秘密のことはともかく、スイーツ好きの女の子だったら誰だってダイエットはしたいよぉ! 実際に、あたしはちゃんとやせられただけで、副作用なんてなかったもん!」
マリエルがソアに反論する。
それを聞いて、ベアが驚きの声を上げてみせる。
「え? おまえ、あの草をもう食っちまったのか? そいつぁーやべぇぜ! はやくツァンダに帰って、病院で見てもらわないと、手遅れになるぜ!」
「え、どういうこと?」
きょとんとするマリエルに、ベアが続ける。
「みんな、聞いてくれ。実はだな……みんな勘違いしているようだが、アレはダイエット草なんかじゃあ、ない。アレはゆる族の間じゃ「ダイ・エンド草」と呼ばれていてな。文字通り食べたらDIE(死んで)・END(終わり)だ。一度口にすれば最後、段階的に体が痩せ細っていき、最後にはフライドチキンの食べ残しみたいになっちまうって話だ……」
「ええっ、た、大変じゃないですかっ!!」
恐ろしげに言うベアに、ソアが慌てる。
「そ、そんな、あ、あたし、死んじゃうの!?」
マリエルが、がくがく震えながら言う。
実際に急激にやせているのだから、不安になっても無理はなかった。
「い、いやー! マリエル、死なないでー!」
「わーん、マナー! あたしだって死にたくないよぉ!!」
愛美はマリエルを抱きしめ、2人はパニックに陥って泣きじゃくりはじめる。
「マリエルさん! すぐに病院に行きましょう! まだまにあいますよ!」
ソアは本気で心配していたが、ベアはその光景を見守りながらこっそりにやりと笑った。
(こんなにうまくいくと思わなかったぜ! まさか、ご主人も俺様のホラ話に引っかかるとはな……。でも、これで、蒼空学園の奴らをまとめて追い払えるぜ!)
そんな中、ガーデァが冷静に指摘する。
「さすがにそれは嘘ですよね。そんな猛毒があるんだったら、図鑑に載ってるでしょ?」
「そうよ、マリエルさんは一回やせてから、さらにやせてはいないのよね? だから大丈夫よ。愛美さん、泣かないで」
未沙が、愛美の頭をなでながらやさしく言う。
「そうです。僕も、そんな話は聞いたことがありませんよ」
零も、愛美に優しく声をかける。
「たしかに、それもそうよね……」
泣きやんだ愛美は、ベアのほうをじっと見つめる。
全員の視線がベアに集中した。
「あ、やべえ……」
「ベーアー……!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ、と効果音を背負ったようなソアが、ベアをにらみつける。
「ダメじゃないですか! そんな大嘘ついたりしたら! 私は自分の見聞きして考えた限りの本当のことしか言いませんでしたよ!」
「じゃあ、ご主人、アーデルハイトのダイエットの話も本当だって認めるんだな?」
「はうっ!? そ、それは……」
ソアは口ごもり、ベアはなんとかパートナーの怒りを免れた。
「な、なんだか、森に入る前から疲れちゃったけど、はりきって、ダイエット草を探しましょう!」
「おおー!!」
望の言葉に、蒼空メンバーは気を取り直し、恵やソアたちの話は無視して捜索することを決意するのであった。
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