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リアクション
「集まったな、おい」
「あぁ。パラ実以外の所カラも結構来たヨウだカラな。物珍しいのダロ、ドラゴニュートの脱皮が」
と、あきれたような声を出しているのはパラ実生徒、王 大鋸(わん・だーじゅ)と相方シー・イー(しー・いー)。カメラを構えたり即席の垣根を作ったりと急がしそうに立ち回る彼らを眺めていた。
彼等がこの森に陣を敷き、人を集めて二日。皆既日食ばりに貴重なこの事態に集まっていたのだった。
「なんか、ダンボールと妙な雰囲気の女が仕切ってるみてぇだな」
「あァ。ヴォルチェと筐子というらしイ」
と、二人が眺めるのはヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)と、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)である。ヴォルチェは相方のティータ・アルグレッサ(てぃーた・あるぐれっさ)等と共にブービートラップを仕掛け、筐子はなにやら策を柵を作り、それを基に土壁を作り上げていっていた。
「戻りました」
「あら、おかえりなさ〜い♪」
と、ヴォルチェの元に、少女が一人戻ってくる。一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)、シャンバラ教導団の生徒である。
「一応言われたとおりの位置にブービートラップを仕掛けてきました。結構簡単なつくりでしたけど、本当にアレでいいのですか?」
「い〜の、い〜の。最初に見えたものを回避した時にできる油断って馬鹿に出来ないんだから」
などといっている二人の下に、レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)の相棒、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)が、トテトテと近づいてくる。
「すいません、先ほど私達が頼んだ件はどうなってるでしょうか……?」
と、かなり引け腰でアリシアが二人へ話しかける。
「あ、はい。確かにさっきもらったタライは仕掛けてきましたけど……。あんなものどうするんです?」
「すいません、本人に聞いてもらわないと、ちょっと分からないです……」
申し訳ない、といった感じに萎縮したアリシアの視線が捕らえるのは、筐子が気づき上げた土壁の一つに寝転がっているレベッカだった。薄手の生地からのぞくその豊かな肢体は非常に官能的であるのだが、よだれを垂らしている時点でアウトである。
「ふんのぉぉぉぉぉぉ!!」
「すごいです、華野! 夢を追いかけて戦い続けれそうな感じです!!」
どっから調達してきたかは分からないが、塀を作るため、また土壁の基礎に使うための木材を、辺りの木々から片っ端から切り落とす筐子。それに対してやんややんやと褒める相方アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)。さながらトチ狂ったベーゴマのように辺りの木々を切る、斬る、kill。ついでに人も、
「っぶねぇ!!?」
kill’eない。
「てめぇ! いきなりなにしやがんだッ!!?」
「あ、ごめん、見えてなかった!」
後頭部の髪の毛をいくらか持っていかれ、水橋 エリス(みずばし・えりす)の相方リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)が悲鳴じみた叫びを上げる。が、筐子は片手を上げて堂々と謝るのみである。というか、ダンボールかぶった人間の表情を探れ、というのもどだい無茶な気もするが。
「あやうく脳味噌だけあっちへ逝っちまうとこだっただろうが!」
「やったね、新次元! 未知への可能性へ挑戦……」
「できるかぁぁぁぁぁぁ!?」
「ちょっと、リッシュうるさいですよ。おにぎりが食べられないじゃないですか」
「食べようと思ったらフル稼働の重機の横でだって食えるわぁ!?」
ギャーベールーベーボクノフネ。突貫作業を行っているゆえか、素か。少々のぶつかり合いがところどころで起きていたが、基本的にはどこかまったりとした空気が流れていた。
「すみません、うちのパートナーが」
「いえいえ、気にしませんよ。あ、それよりおにぎりもう一つどうです?」
「たらこなら」
「え、えぇ〜? タラコあったかな〜?!」
「ふふ、冗談ですよ」
などと率先して給仕をやり始めた者達がいるからなのだが。エリスにおにぎりをすすめている彼女はアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)といった。
「中華は火力ですよ〜」
「だからって爆炎波を使うってどういうことなんだぜ」
と、どっから出したか中華鍋を使ってチャーハン炒めているメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)の足元で、剣から火を出しているのはベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)。
「火がないとおいしい料理ができないでしょ? あったかい料理は人を元気にしてくれんのよ〜」
「だよね! やっぱりあったかいご飯が一番だよね♪」
と、どこか鼻歌交じりで料理をしているのは互いの相棒マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)とセシリア・ライト(せしりあ・らいと)。中々手際のよい動きで料理を作っていく。というか、たった四人で50人を超える人数の食事をまかなっているのはなんとも驚くばかりである。
「ぬぅ、それでも納得がいかないぜ……」
と、文句を言おうとするベアの口に、おもむろにマナが野菜炒めを突っ込む。
「まずい?」
「いや、うまい……」
「でしょ? 料理は……」
「あ、愛情なんですね……!」
と、顔を真っ赤にしたアリア。
「あ〜んって、あ〜んってしましたよね、みましたよね!?」
「みちゃったね〜、僕もみちゃったね〜。いんや〜、お暑うございますな〜、中華」
「って、違うわよ! ただ味見してもらっただけで……!」
「そうか、これが愛の味か……!」
「ちがう!」
ごわん。
と、熱されたフライパンが頭頂部に激突する鈍い音が響いた。
「あっつうぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!???」
「わ〜!? ベアごめん!?」
「はっは、中々騒がしくていいな。自分の不安がとてもちっぽけな事の様に思える」
と、のんたんうんたん騒いでいるみんなを見て言うのはヨウ・ジェア。即席の椅子に腰掛け、ひどく安らいでいるように見える。
「俺はとてもそうは思えません。こいつ等は本当に叔父上のことを考えているのでしょうか!?」
と、若さに任せて苛立ちを口にするのはその甥、ビー・フー。
「ふふ、考えてなければそもそもこないのではないかね?自然淘汰に任せて私のことなど放っておけばよいのだ」
「叔父上!?」
「なぜだかな。こう、今の時点でとても満足なのだな、私は。たとえ死んだとしても……」
「縁起でもないことを言わんでください! 集まった彼等の存在が嬉しいというのなら、彼等のためにも叔父上は絶対に脱皮を成功させるべきです! 失礼!!」
言いたいことを言い切ると同時に、ビー・フーはシー・イーやヴォルチェの元へ布陣の見直しをするために小走りで向かう。
「ふふ、まさか甥に諭されるとはな」
と、微笑むヨウ。そんな彼の元に、仲間を引き連れ、一人の男が歩いてくる。セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)である。
「失礼いたします。迷惑かとも思いましたが、一言お祝い申し上げたく参上いたしました」
「あぁ、ありがとう。ご足労痛み入る」
丁寧に礼をするセオボルトにヨウは軽く手を上げて応える。そろそろ体を動かすのも億劫になっているのかもしれない。
「差し出がましいようですが、護衛以外に我々にできることなどはありますか? もし、少しでも力になれることがあるのなら、私たちはそれを手伝いたいと思っています」
彼の言葉に従うように、彼のパートナーイクレス・バイルシュミット(いくれす・ばいるしゅみっと)そして妹のエルミル・フィッツジェラルド(えるみる・ふぃっつじぇらるど)エルミルの相方シルト・キルヒナー(しると・きるひなー)がそれぞれ頷く。
「いや、特にはないよ……。ビー・フーは若さが走っているが、私は死ぬならそれもやむなしと考えている」
「そ、そんな!? 死んだっていいっていうんですか!?」
エルミルが驚いたような声を漏らす。これから新しい自分へと向かうポジティブな状況だというのに、そんなネガティブな事を言われるとは思わなかったのだろう。
「何も死にたいと言っている訳ではないよ。ただ、先に脱皮をした諸兄も死と戦ったのだ。一人だけそこからとんずらというわけにもいくまいよ」
淡々と語るヨウの目には、悲観というものが見えなかった。ただ単純に自己の死を受け入れているのだろう。年を食ったゆえの達観である。
「なんでさ! 生きれるのなら、生きれる限り生きればいいじゃないの!」
「別に死にたいとも思ってはいないさ。ただ死から目を背ける真似はしたくないと言っているのさ」
「むぅ、よくわかんないよ。そんなの……」
叫んだシルトであったが、穏やかに諭されどうにも言葉を吐けなくなる。
「まぁ、強いて言うのなら彼等と騒いでくれ。若者が若さのまま笑いあっている姿は心が和む」
というヨウの目は、孫達を眺めるように穏やかな瞳だった。
「ふふ、そうかもしれませんね。じゃ、向こうで料理の手伝いでもしましょう、シルト」
「むぅ、なんかはぐらかされた気がする」
「ほら、今すぐ行ったら兄さんがエプロンつけて手伝ってくれますよ?」
「ひゃっほい、今日のあたしは料理長だぜ!」
「と、言うわけでお待ちしてますね〜兄さん♪」
「おい」
つっこむセオの声もむなしくエルミルとシルトはさっさと料理を作っているグループへと混じってゆく。
「ふむ。まぁ、それもいいが、一つ聞きたいことがあります」
とは、イクレス。
「ふむ?」
「脱皮前、というのはどういう感じなのです? 後学のためにもぜひ聞いておきたいのですが」
「無駄に感情が暴走する感じかね……。急に鬱になったり、怒りやすくなったりと。まぁ、個人差もあるかもしれんから、あまりあてにはしないほうがいいとは思うがね」
「そうですか……。ありがとうございます」
一人、同じドラゴニュートとしてなんぞ考えこむ点があったのか、腕を組んだまま、フラリとどこぞへ歩いてゆくイクレス。
「あ、イクレス! すみません、これで自分達は失礼いたします」
「よいよ。集まってもらったのはこちらなのだから。好きにしていてくれ」
「ありがとうございます。では……」
去っていったセオボルト達がどこか微笑ましかったのか、口元に薄く笑みを浮かべていると、彼を囲う土壁の中に何人か撮影器具を持って入ってくる。
「よーし、撮影準備はじめるぞ〜。あぁ、イレブン。カメラはもう一つこっちにまわしてくれたまえ。観察も手がけているのでな、せめて三点から撮影をしたい」
「了解した。では、前線撮影は二機で行うので?」
「あぁ。十分だと思うが?」
「了解」
とは、林田 樹(はやしだ・いつき)とイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)。何人かと集まってヨウに向かって撮影機材を固定している。肩には波羅蜜多活劇制作所と描かれた帯をくっつけている。
「君達は……?」
と、さすがに疑問に思ったのか、ヨウが声をかけるが、
「はい、こんにちわぁ!」
「おぉ!?」
突撃するかのようにマイクを突きつける少女が。アルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)である。
「ごきげんいかがだろうか、ヨウ・ジェア殿?」
「心拍数が少々上がり気味だね、レディ」
「私ども、波羅蜜多活劇制作所のものでして、ドラゴニュートからドラゴンへの脱皮というそうそう見れるものではない、オスの三毛猫並みに貴重な瞬間の主役として現在どんなお気持ちなのかと質問をしたく」
「そんなにも貴重な存在になった覚えはないのだが。生きていればそのうち我々は脱皮をするよ」
「ふむ……。男の頭がいつか剥げるようなものなのか……」
「そういうたとえもどうかと」
と、がちゃこんがちゃこん作業をしていると、ふいにイレブンの動きが止まる。
「? どうしたのでございますか?」
録画準備をしていた聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が、どこか遠くを見ているイレブンに話しかける。
「敵がくる」
「そんなこといって〜、まだ全然脱皮する気配もないのに敵なんて」
というところまでキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が言ったところで、
ガランガランガラン……。
「敵襲ー!!」
「わお」
「どうやら大当たりのようですなぁ……」
敵が来た。
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