薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

生贄の遺跡を攻略せよ!

リアクション公開中!

生贄の遺跡を攻略せよ!

リアクション



7・決断

 視界は急に開ける。
 それまで狭い回廊を歩いていたものにとって、別世界の趣がそこにはあった。
 かつては多くの人が集ったのだろう、この場所は周囲に装飾が施されている。それぞれがもつヘッドライトやランタンを当てなくても広間の中を見ることが出来る。
 広間の壁には、部屋の光を集める特殊な石が埋め込まれている。青白く光る石がこの広間が神聖なものだと皆に知らしめているようだ。

 それぞれの場所から滑り落ちたものたちも、広間に集まっている。
 怪我したものはヒールで回復している。
「トラップは本当に望んだものだけをここに連れてくる道案内も兼ねているんだ」
 先に来ていたライが推測する。
 多くのグループや集団は、落とし穴でここに連れてこられた。

 前方に固く閉ざされた大きな扉がある。
「この先に女王器があるはずです。」
 シリウスが扉に近づく。
 扉の前には、見事な朱雀が掘り込まれた石椅子がある。
 扉の前に13、左扉の前に13。
 対峙しておかれている。
 椅子の間、つまり、扉前の床には古代文字が書かれている。

 リリが古代文字を読む。
「大切な人を石椅子に座らせろと書いてある。差し出したものは、この石碑の前に立つ」
 椅子に座ることで、扉が開くらしい。
 先にどんな謎があるのかは分からない。
 ヒメナが見つけた古文書にも、生贄の詳細はなかった。


「よし、俺は生贄になる!」
 最初に動いたのは、ラルク・クローディスだ。200センチの巨体が腰掛けると、石椅子が小さく見える。
「すまん、アイ…親父。何ていっていいか分からんが親父に育てられた10年間楽しかったぜ」
 にっこりと笑うラルク。パートナーのアイン・ディスガイスに向かって、
「まぁ、死ぬかどうか分かんないしな。だが、もし何かあったら…」
 アインが歩み寄ってくる。
「お前馬鹿か!?そんな事を言うのはな…50年早いんだよ!ったくお前は仕方ない奴だ」
 そのまま石椅子に座るアイン。
「分かった。その代わりオレも生贄になる。ひとりとは誰も言ってないしな」
 ドラゴニュートのアインもでかい。
「って、ああ!?何でお前も生贄になるんだよ!それじゃあ意味ねぇだろ!。誰が中に入るんだよ」

 赤月 速人とカミュ・フローライトが慌ててやってくる。
「ラルクさんは、俺達にとってはバンド【RIVe】のメンバー。僕たちがラルクさんを助けます」
「私にとっても大切なメンバーはラルクさんだよ」
「私にとっても大切なメンバーはラルクさん。何かあったら…」
 カミュは既に泣いている。

 2席がうまる。


 おおまたで歩いてきた国頭 武尊は、反対側の一番前の椅子に腰掛ける。
「ここは俺の席だ。俺の大切な人は、勿論、俺だ」
 パートナーのシーリルに向かって叫ぶ。
「俺を信じろ!必ず戻る!」
 頷くシーリル、
「武尊さんは、やれば出来る人。だから、私は信じています。」
 3席目が。

 黒崎 天音もさっさと椅子に腰掛けた。
「同じ考えだよ。大切な人は自分だ」
 ブルーズ・アッシュワースは、荒野での会話を思い出し、ただ見守っている。
 4席目。

 儚げで繊細な印象のアルゲオ・メルムは天才と称されるイーオン・アルカヌムの言葉には絶対に逆らわない。
「イオ、あなたを信じています」
 自ら生贄になるため椅子に座る。
 5席目。

 イビー・ニューロも自ら椅子に座る。古に製作された機晶姫でかなり重い。
「わかった!」
 五条 武は送り出す。
 もし災いが起るなら、アリの改造人間「パラミアント」に変身して助けるだけだ。
 6席目。

「ひとがたは役に立たなかったな」
 ライ・アインロッドは、表に自分の名前裏に髪を貼り付けてある紙を胸のポケットに持っていた。
「ヨツハ・・」
 周囲をきょろきょろ見回していたヨツハ・イーリゥは、そのキラキラ光る瞳をライに向ける。
「ねえ、綺麗な部屋だよね。きっと女王器もとっても綺麗なんだろうなぁ。でいいから絶対見てみたいよね」
 頷くライ。
「ヨツハ、あなたは本当の妹のような大切な存在です。あなたに私はどう見えるのでしょうか?」「うーん、優しいお兄ちゃんって感じかなぁ。大事な家族だよっ!」
「そうですか」
 笑ってヨツハの頭をくしゃっとなでるライ、そのまま椅子まで歩いていく。
「えっ?」
 ライが生贄になると知らなかったヨツハは、ただただびっくりしている。
「大丈夫です。私は必ず戻ります」
 7席目。

 マナとの見えない絆を信じるベア・ヘルロットは笑顔でマナ・ファクトリを送り出す。
「生け贄と生煮え似てると思わないか?(笑)」
「馬鹿!ベアは何言ってるんだか・・・でも似てるかも♪」
「・・よしっいつも道りでいくか!」
 ベアの言葉にマナが笑顔で答える。
「ええっいつも道りにっ」
 マナはためらうことなく椅子に座った。
 8席目。


 ミリア・イオテールは言い放つ。
「あなたは大切な……労働力です。頑張って調査してください」
 ロイ・エルテクスに携帯電話を渡す。
「危険なことがあったら逃げてくるからな」
「携帯で連絡を下さい。助けにいきます」
 ロイはミリアから渡された特製の身代わり人形や護符などを持って石椅子に座った。
 9席目。

「いってらっしゃい」
 各務 竜花は笑顔で 神山を送り出す。
「おう、必ず戻ってくるからな。各務、お前をひとりには絶対しねえぞぉ!」
 斗羽も椅子に座る。
 10席目。

 水無月 睡蓮は迷っている。
「ど、どうしよう・・・この場合だと、その、九頭切丸がそういうことになっちゃうのかな・・・?
・・・けど、私、九頭切丸がいないと何にも出来ないし・・・そんなのやだよ・・・。」
 気の弱い睡蓮には決断できない。
「・・・・・・」
 鉄 九頭切丸は、睡蓮の頭をそっと撫ぜる。まるで騎士かガードメカのような外見の九頭切丸に睡蓮が抱きつく。
 そっと睡蓮を抱きかかえ、ルミーナの元に運ぶ九頭切丸。
「・・・・・・」
 九頭切丸は無言だ。
 ルミーナはゆっくり頷く。
「わかりましたわ、必ず護ります」
 九頭切丸も石椅子に座った。
 11席目。

「やれやれ、どうなってるんだか」
 葛葉 翔はアリア・フォンブラウンに自分が生贄になると告げてある。だが、
「どうして、こんな数の生贄が必要なんだぁ。なんか嫌な予感がするぜ」
 次々と石椅子が埋まっていくが、まだ幾つも空席が残っている。
「仕方ないか、俺がやるっていったしな。」
「うん、生贄って椅子に座るだけなのかなぁ?でも、ワタシ、翔君のためにもお宝は手に入れてみせる!」
 アリアの言葉で決心する翔、石椅子に向かう。
12席目。

 クリストファー・モーガンとクリスティー・モーガンは目配せをした。
 二人同時に石椅子に座る。
「俺にとってクリスティーは大切な存在だ、しかし生贄に差し出すことはクリスティーを大切にしていない行為だ。だから自分も差し出す。クリスティーを1人犠牲には出来ない」
「ボクも同じ考えなんだ」
「じゃ、わたくしがあなた方をお守りしますわ」
 崩城 亜璃珠が満面の笑みで近づいてくる。
(・・・ふふ、うまい事捨て駒になってくれたわ。女王器って言うならやっぱり女王様のものよ。私が頂くわ)
 心の中は端正な容姿に似合わず、あくどい。
「だけど、人数があわないわ。扉の前にも石椅子と同じだけの台があるもの」
「・・・」
 誰もこない。
 13・14席目。

 ネア・メヴァクトは迷いなく椅子に向かった。朱 黎明は考えている。ネアが自分にとって本当に「大切な人」なのか「それとも単なる利用しやすい道具」なのか。
 この儀式で、分かるかもしれない。
 15席。

 桐生 円も石椅子に座る。
「虎児にはいらずんはなんとやら、だからね。ボク、どうしても女王器みたいし」
 言葉と裏腹に、表情は不安げだ。
「円がしっかりやれば問題ないわぁ」
 オリヴィア・レベンクロンは軽く流すが、実はかなり心配なのだ。
 16席。

 リリ・スノーウォーカーは頼んであった。
「ユリ・・・、生贄役を引き受けてもらえないだろうか」
「えっ、ワタシがですか?」
「いや良いのだ。無理には・・・ただ、魔道書を手に入れるためには大切な人を差し出す必要があるのだ」
「やるです。やりますですよ。だって・・・(頬を上気させて)ワタシってリリさんの大切な人ですからっ!」
 最初は戸惑っていたユリだが、リリに「大切な人」と言われたことが嬉しかった。
 17席。

 ウィング・ヴォルフリートも自ら椅子に座る。パートナーのファティ・クラーヴィスにはファティには女王器による封印が掛っている。封印をとくためには女王器に触れなくてはならない。
「私が生贄になるよ、だってウィングだけ危険なことさせたくないもん」
 ファティが引き止める。
「大丈夫です」
 赤い人型(ひとがた)を手にするウィング、
「何かあったら身代わり人形を使います」
18席。

「……悪ぃ。これしか手段が無ぇなら、ちょい行ってくるぜ。
 ”大丈夫”だって! 絶対何とかなるからよ?」
 レイディス・アルフェインは急に椅子に向かって駆け出した。
「レイディスーッ!」
 普段はマイペースのゆる族ルーセスカ・フォスネリアだが、
 思わず叫んでしまう。
「大丈夫だって!」
 石椅子に座ったレイディスが手を振っている。
 19席。

 「待て、私も行くのじゃ。一番に行くつもりじゃったのに。宮殿の素晴らしさに遅れてしまったわ」
 広間の装飾に目を奪われていたセシリア・ファフレータも石椅子に向かう。
「我が身はセシリア様の剣にして盾・・・何があってもお守りします」
 ファルチェ・レクレラージュは、セシリアに声をかける。
「わかってるのじゃ。では行ってくるのじゃ」
 20席。

 ルカルカ・ルーとダリル・ガイザックは、どちらが生贄になるのか、決めかねている。
「私が行く。命が惜しくないわけじゃない、死ぬって決まってないもの。」
 ダリルが制する。
「待て、行くのは私だ。ルカは残って女王器を手に入れるんだ。パワーブレスを授けておこう。じゃ」
 そのまま椅子に向かうダリル。
 21席。

 藤原 優梨子と亡霊 亡霊は争っていた。
「亡霊さん、尊い犠牲になって頂きたいのですが…」
「私は優梨子の自己犠牲精神に期待している」
「いやですかっ」
「いやだ」
 普段はほとんど話さない亡霊だが、今回は雄弁だ。ぼさぼさの頭を振り回している。
「ふぅむ…では仕方ありません。私の手でサクリファイスします」
 席増えず。

 樹月 刀真は最深部への侵入は諦めていた。次々と名乗りをあげる仲間を見ていたとき、
 漆髪 月夜が呟く。
「女王器か・・・行ってみますか」
「月夜?」
「刀真、私のこと大事?」
「当たり前だろっ」
 ドンッという音がして、刀真が崩れる。
 その隙に、石椅子に向かう月夜。
 22席。

 メイベル・ポーターは考えていた。
「まだ椅子が残ってる。私が生贄になりますぅ」
「だめだよ、ボクがなるよ。だってボクの方が・・・」
 セシリア・ライトは反対するが、メイベルの意思は固い。
「絶対助けるからねっ!待っててっ!」
 メイベルは椅子に向かう。
 23席。

 ヘルゲイト・ダストライフは、自らを生贄に差し出すように桜井 雪華に頼んでいる。
「あほなこと、いわんといて」
 容赦なく突っ込む雪華のハリセン。
「うちらの仕事はちゃいまっせ!」
 大きな袋を取り出す。
 席増えず。


 まだ椅子は空いている。
「困っている者を助ける事が生きる道だと思ってます。言ってきますよ」
 途中で合流したドラゴニュートのジゼル・フォスターが城定 英希に、
「必ず戻ってきますよ」
「えっ!・・君を巻き込みたくないから1人で参加したのに!・・・必ず助けるよ。」
 24席。
 

 亡霊はエンシャントワンドを手に、優梨子は「ティータイム」で出した血液パックやブダンノワールを口に放って体力を増長、どちらが生贄になるかで、血みどろの戦いが始まった。
 結局、優梨子が逃げ切り意識の失った亡霊を無理やり椅子に座らせる。
 25席

 あと1席。
 突然、華奢というより痩せすぎの美少女、エリス・カイパーベルトが座った。
 「パートナーなども大事だが、一番大切な人は自分じゃ。わしは1人で行くぞ」
 シリウスが来る。
「本当にもうしわないけど、私を連れて行ってください。あなたは私の大切な人ではありません。もしかしたら災いがあるかもしれません。しかし・・・」
「かまわんぞ」
 26席。



 全ての椅子が埋まったとき、クルード・フォルスマイヤーが、儀式を阻止するために乱入してきた。
「・・・生贄だと?・・・大切な者を捧げるだと?・・・そんな事はさせない・・・絶対に!」
 パートナーのユニ・ウェスペルタティアが続ける。
「皆さん!クルードさんの言う通りです!生贄なんて止めてください!自分にとって大切な者はどんなものなのか・・・もう一度考えてください!もう二度と会えないかもしれないんですよ!?あなた達にとって、大切な人はそんなに簡単に捨てられるものなんですか」
 クルードは剣を抜く。
「自ら大切な者を捧げる・・・こんなに愚かな事は無い・・・もう一度大切な者を見てよく考えろ!引き返せ!」
 椅子に座ったものたちで立つものはいない。
「力ずくでも止める!俺は大切な者を奪われた!だから、それを自ら無くす者は許さない!」
 クルードは爆炎波を放つ!
 しかし、炎は石椅子の手前で吸収されてしまった。
 ルミーナが近寄ってくる。
「クルードさん、あなたの気持ちはわかりますわ。でも、それぞれに決意したものたちなのです。それに・・・もう儀式は始まっています。後戻りはできません」