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闇世界の廃校舎(第1回/全3回)

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闇世界の廃校舎(第1回/全3回)

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第5章 獣が鳴き終わる間に

-PM16:40-

「もうすぐ5時になる頃であろうか・・・携帯電話の時間が4時で止まりっぱなしだから分からないが・・・」
 ヴィンセントは単独で家庭科室へと向かう。
「そこに誰かいますか・・・?」
 2階に上がる階段の前まで辿り着くと、若い少女の声が聞こえてきた。
「あぁ・・・今2階へ行くところなのだよ」
「わ・・・私もご一緒してよろしいでしょうか」
 階段の後ろから六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が顔を覗かせて声をける。
「そんなところにいたのか」
「はい・・・のっぺらぼうたちが怖くて隠れていました・・・」
「今・・・人の声が聞こえよったどすなぁ・・・そこにいてはるんどすか?」
「どうやらのっぺらぼうではないみたいだな」
 優希たちの姿を確認し、茜と一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)が廊下を歩いてやってきた。
「私たちはこれからピアノが置いてある家庭科室へ行くのだが、君たちも一緒に行かないか?」
「そうですね・・・大人数の方が安全そうですし」
「ほないきまひょか。うちらさっきからゴーストたちと戦ってたから、えろー疲れたどすぇ・・・」
「(よかった・・・これで怖さも少しなくなりますよね)」
 ほっと安堵したのも束の間、優希は何者かに足首を掴まれる。
 恐る恐る振り返ると、床を這う顔のない化け物が彼女の足を掴んでいた。
「ひ・・・きゃぁああ!」
「どないしはったん!?」
 優希の悲鳴に燕たちがいっせいに、彼女の方を向いた。
「ここにいるみんなは・・・必ずこの私が守ってみせる!!」
 彼女の足を掴むゴーストの腕を、茜がカルスノウトの刃で斬り落とす。
「このっ化け物め!なにしはるんどすかっ」
 燕はゴーストの身体を蹴り飛ばし、カルスノウトの両手を握り締め背骨へ振り下ろした。
 起き上がろうとするゴーストが凶器を持ってい腕へ、ヴィンセントがアサルトカービンのトリガーを引き、衝撃で包丁は床へ滑り落ちる。
 細かく刻まれていく様子に、優希は思わず両手で顔を覆い隠した。
「顔がほしいのであろう?ならば・・・これならどうかね」
 のっぺらぼうの顔をヴィンセントは油性ベンでラクガキしていく。
 へのへのもへじより難解な、大失敗した福笑いのような顔を描いた。
 それを見た茜と燕は、思わず笑いを堪えた。
 怯えていた優希はいきなりゴーストの顔へ、ザクッとランスを突き下ろす。
「ごっごめんなさい、また動き出したら怖かったのでつい・・・。せっかくの芸術的作品を台無しにしてしまいました・・・」
「(あれが芸術なんどすか?)」
「(芸術は爆発だという以上のような感じが・・・)」
「気にするな、また描けばいいことであろう」
「そうどすな(・・・ああゆう絵をまた描く気なんどすか)」
 燕たちは階段を上り、家庭科室へと向かった。



「のっぺらぼう見つけたで!」
 ゴーストを捕まえて売り払おうとしている青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)は、標的へ鉄パイフを思い切り叩きつけた。
「これを売れば金儲けが出来るんやろうな!」
 目をGに変えて殴りまくり、お化けには塩という考えで塩をまく。
 トンネルの外でもどこでもまったく売れそうにない代物を持ち帰る気だった。
 もちろん塩の効き目は一切ない。
 他の人にゴーストを捕まえているところを知られないように、それに油性マジックで顔を描いてカモフラージュした。

-PM17:00-

「ちょと散歩のつもりで遠出したら、とんでもない所に迷い込んでしまいましたね。何やら不気味な獣のような声が聞こえますし・・・」
 薄暗い町中を宮坂 尤(みやさか・ゆう)は、1人で彷徨い歩く。
「出口がなくなってる・・・壁になってしまっています。どういうことでしょうか」
 外に出ようとトンネルの奥に行くが、そこはすでにコンクリートで塗り固めたような壁になっていた。
「噂には聞いていましたけど、ここがそうなんですね。どうしたらトンネルの外に出られるのでしょう・・・。あっ!こんな所に学校が・・・誰かいるのでしょうか」
 誰かいるかもしれないと思い、尤は廃校舎へ向かって走っていった。



「ゴーストたちと戦ってたら、時間オーバーしちゃったぞー大変だぁあ。あーどうしよー、どうしようー」
 1階の廊下で東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、わざとらしく棒読みのセリフを吐く。
「そんな風に言っても、ぼうよみで態度バレバレですよカガチ」
 教室に篭城するためにロープなどを探していた柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が、カガチを見上げて言う。
「ちょっと・・・これ、手伝ってよ!」
 頭と両腕を切断したのっぺらぼうを、椎名 真(しいな・まこと)は素手でズルズルと引きずる。
 足をばたつかせながら、化け物が暴れだす。
「うわっ、まだ動くよコレ!」
「そうだね、頑張って」
 カガチは声援だけ送り、手伝う気はまったくなかった。
「はぁ・・・まったくしょうがないな・・・」
「だって俺、それの頭持ってるんだからしょうがないじゃないか」
 のっぺらぼうの髪を掴み、持ち上げて見せた。
「聖水も持ってるんだけど・・・」
「教室に立て篭もって朝まで耐久だねぇ」
 真の抗議の声を、まったく聞き入れようとしない。
「ゴーストの研究・・・楽しみですね」
 腕の断面を島村 幸(しまむら・さち)が人差し指でつっつく。
「ンフフ・・・早く色々と中を開いてどうなってるのか見てたいです」
「上の階もまったく明かりが無いようですね・・・」
 先に階段を上ったガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は、薄暗い廊下を見て呟く。
「おっ、来よったな」
 教室の中から陣が顔を出す。
「俺たちは隣の教室いってるから」
 カガチは陣に向かって片手を振り、隣の教室へ入る。
「はぁー・・・重かった」
 教室の床へのっぺらぼうを置き、真は机の上に座り疲れた顔をして項垂れる。
 数分間だけ休憩したあと、視界を確保するために教室内のカーテンを外した。



「さて、そろそろ手頃なのを確保しようや」
 ゴーストを1体確保しようと、陣は2階の教室内を覗いて探す。
「陣くん見つけた?」
 リーズが左隣の教室から大きな声で呼ぶ。
「いや、おらんかったな」
「こういうのって、見つけたい時に見つからないよね」
 ふぅっと一息つきリーズは疲れた様子で壁に寄りかかると、廊下の方からギシッギシッと床を踏む足音が聞こえた。
「歌菜ねーちゃん・・・?」
「なぁに、どうしたのリーズちゃん?」
 リーズがいる同じ教室内のロッカーを開けて中を調べていた歌菜は、彼女の方へ顔を向ける。
「―・・・あれ・・・?陣くんはそっちにいるし・・・」
 足音がだんだんとリーズたちの方へ近づいてくる。
 もう一度声が聞こえた方を向くと、眼の前に鋭利な刃物で顔を斬り取られたような化け物が立っていた。
「お前の顔を・・・よこぇせえ!」
「―・・・セット!包み込め・・・炎よ!」
 リーズの顔へ包丁を突きつけようとするゴーストの背を目掛けて、駆けつけた陣が火術で燃やす。
 一瞬の隙をついて歌菜はゴーストからリーズを引き離した。
 ゴーストが振り下ろした刃物は、ダンッと音を立てて床にめり込み、動きを封じようと陣が標的の背を踏みつけた。
「これで沈めるっ、唸れ、私のランス!いっけぇーっ!」
 歌菜は手にしているランスを振り下ろし、ゴーストの頭部を斬り落とす。
 チェインスマイトの能力で続け様に、動けなくしてやろうと両腕を切断した。
「よしっ止め!」
 起き上がれないように両足を斬りつける。
 制服のマントを使い、歌菜たちは切断したゴーストを包んだ。